ドシュトフロムンド戦記~少年と精霊と大地の果て   作:nocomimi

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希望なき救済者

ギルモに走り寄って助け起こしたフロウは、子供のような声がした気がして檻の中を見た瞬間、驚きに凍り付いてしまった。

 

その『子供』は全身が機械でできていたのだ。

 

「ッたく鬼のクセして洒ぁ落た武器使ってやがるぜ」

 

リゴールは壁から降りてくると、倒れたボコブリンの傍らに落ちていた得物を拾い上げた。

 

「棒が触れただけなのに...雷に打たれたかと思ったっぺ」

 

ギルモがようやくのことで立ち上がった。

 

「スタンバトンさ」

 

リゴールはその武器を軽く振り回したあと放り捨てた。

 

「だが俺は好かねぇな。電源がなけりゃただの棒だ」

 

だがフロウは二人の会話を聞いていなかった。アルギレウスが檻を開けて中にいた『子供』を助け出している間、ずっと彼らから目が離せなかった。

 

「助けて頂いてありがとうございます」

 

その『子供』は甲高い声で言った。アルギレウスは彼を座らせると身体を屈めて尋ねた。

 

「君は練石場の技術者なのか?」

 

「いえ、私は採掘担当です。ですがボコブリンに捕まってしまって....」

 

フロウは覚えずその『子供』に歩み寄ってつくづくその姿を眺めてしまった。背の高さは五歳児ほどしかない。のっぺりとした顔に大きな目玉と丸い鼻口がついていて、頭部の上には輪っかのようなものが乗っている。腕が短いのに手が異様に大きく、脚は短く丸い。

 

「助けていただけなかったら彼らにエネルギーを全て吸い取られてしまっていたでしょう。感謝します」

 

「いいんだ」

 

アルギレウスは微笑んだ。

 

「僕はフロウ。よろしくね」

 

フロウは彼に手を差し出した。その『子供』はフロウの手を握ると言った。

 

「私はRS-133208。探鉱と採掘が専門です」

 

フロウは怪訝に思った。外見は子供のようなのに、喋り方があまりに大人びている。

 

「フロウ、彼は立派な大人の労働者だよ」

 

アルギレウスは心を読んだかのようにフロウに言った。

 

「え....大人.....?」

 

「そうだ。それに力だって普通の大人と同じくらいはある。何よりどれだけ働いても彼は疲れることがないんだ」

 

「そ...そうなんですか...」

 

フロウは目を丸くした。そうか、これが『機械亜人』というものなのか。

 

「君に聞きたいことがある。最近はこの地域にも鬼がよく出現するのか?」

 

「ええ。本当に困っているんです」

 

アルギレウスの質問に機械亜人が答える。

 

「採掘を邪魔されるだけではありません。噂だと練石場内部にも魔物が出没してるとかで.....管理者たちも頭を抱えています」

 

「練石場内部に...か」

 

剣士は考え込むように顎に手を当てた。

 

「アルギレウスさん...もしかして魔瘴気が......」

 

フロウは心に浮かんだことを思い切って言ってみた。

 

「ちょうど私もそれを考えていたんだ」

 

アルギレウスは答えた。

 

「だが練石場はほぼ自動化されていると聞いた。魔瘴気が発生する要素があるとは思えないが....」

 

「おいアルギレウス。そろそろ行こうぜ。ギルモももう大丈夫みたいだしな」

 

リゴールが声を掛けてきた。だがアルギレウスは言った。

 

「いや..ちょっと待ってくれ」

 

剣士はもう一度機械亜人に向き直った。

 

「教えてくれ。どんな魔物が出ている?知っている範囲で構わない」

 

「魔物の種類ですか。私はあまり詳しくはないのですが」

 

機械亜人は腕を組み考え込むような仕草をした。すると、その仕草をしている間に笛の音のようなものが頭頂部から漏れ出てくる。トリルを奏でているようで、まるで「ケロケロケロ」と鳴っているように聞こえた。

 

「そうですね。聞いたことがあるのは、頭が複数ある蛇ですとか、あとは何と言っても大サソリですね」

 

機械亜人は顔を上げた。アルギレウスは目を細めた。リゴールとギルモも顔を見合わせる。

 

「多頭蛇と大蠍....か」

 

「楽しい連中が出てきたじゃねぇか。長旅した甲斐があったってもんだぜ」

 

リゴールが呟く。アルギレウスは再び尋ねた。

 

「それはどの辺りに?」

 

「蛇についてはわかりません。蠍については、あくまでも聞いた話ですが最終処分施設に居座っているということです」

 

「最終処分施設?」

 

剣士が聞くと機械亜人は答えた。

 

「練石場の最奥部にあります。『時空石』を取り出したあとの岩を砕いて粉末にしたものを貯蔵しているのです。セラミックの材料にするために」

 

「大規模な施設なんだな?」

 

「ええ。差し渡し百メートルはあります。ですがその粉末の中に大蠍がいて、職員が喰われてしまったと聞きました」

 

「機械亜人を喰うのか。大したグルメだな」

 

リゴールが口笛を吹く。フロウは思わず狩人を睨んだが何の反応もない。

 

「剣士さま....無理なお願いとは承知なのですが」

 

機械亜人は切り出した。

 

「もしできれば、あなたさまの力で練石場の魔物たちを駆除していただけないでしょうか?私たちは自分自身も時空石のエネルギーで作動しているものですから、時空石の採掘と練石が滞ってしまうと、活動停止に追いやられてしまう可能性があるのです」

 

「わかった。私に任せてくれ」

 

アルギレウスは即座に答えた。機械亜人は再び礼を言うと、西のほうに歩き去っていった。その歩き方がまた奇妙だった。ゆっくりとした速度ではあったが、脚がほんのわずかに地表から浮いているのだ。フロウはまた思わず彼の立ち去るさまをじっと見つめてしまった。

 

「おいおい王子さまよ。正義のヒーロー気取りはいいんだが本当に大丈夫なんだろうな?」

 

リゴールが唇を曲げながら言った。だがその口調はいかにも楽し気で、反対しているようには到底聞こえなかった。

 

その時斧を拾い上げながらギルモが言った。

 

「ワシは...彼らの平穏な暮らしが魔物に邪魔されているなら、力になってやりたいです。旦那が行かれるならワシも行くです」

 

「俺も別に行かないとは言ってねえよ」

 

リゴールが応じた。

 

「だがアルギレウス、あんたの動機が見ぇねえ。練石場なんざもう世界がこうなった以上クソの役にも立たねえ存在になるんだぜ?俺は狩りさえできりゃ何でもいい。だがあんたはいったい何がしてぇんだ?」

 

「私は....」

 

アルギレウスは前を向いたまま呟いた。

 

「私は...まだ世界に望みを捨てていない。もしも...もしもこの先魔瘴気を封じることができれば」

 

剣士は仲間たちの顔を見ながら続けた。

 

「あの工場も、機械亜人たちも存続する意味がある。だから私は.....」

 

「アルギレウスさん、僕も行きます」

 

フロウが声を上げた。リゴールがやや驚いた顔をした。

 

「おいフロウ、お前自分が何言ってっかわかってるよな?」

 

「はい」

 

フロウは狩人を見あげて微笑んだ。

 

「あの機械亜人の彼を助けてあげたいです。彼の仲間たちも。だって、亜人ではあっても、身体が機械なだけで人間と同じでしょう?」

 

「正確には...」

 

アルギレウスは言いかけたが、首を振って言葉を継いだ。

 

「いや、フロウの言う通りだ。彼らは人間と同じだ」

 

「了ぉ解。じゃ、正義のミカタご一行さまの出撃と行きますか」

 

リゴールが弓を担ぐと呟いた。ギルモは狩人に言った。

 

「狩人、おめも見返りを求めず良いことをしたあとの気分を味わってみっぺ。まるで心が...」

 

「はいはいはいはい。信心の話だったらお断りだぜ。大蠍相手にでもしてくれ」

 

一行は南に向けて歩き始めた。フロウは狩人と木こりの会話を聞いて笑いを堪えながらついていったが、ふと尋ねた。

 

「アルギレウスさん、時空石ってなんですか?」

 

「エネルギー源になる鉱石だ。ひとかけらで一つの町の一年分の灯火の燃料に相当すると言われている」

 

「それがこの地方で取れるんですね」

 

「ああ」

 

剣士は右手で前方を指し示した。フロウが顔を上げると、前方にある高さ三メートルほどの壁の向こうに平たい円筒形を重ねたような巨大な建築物が見える。

 

「あれが練石場だ。原石から鉱石を取り出し、精製する」

 

「それを自動って...いったいどうやってやるんですか?」

 

フロウは驚いて尋ねた。

 

「工場そのものも時空石のエネルギーで動いているんだ。そしてベルトに乗せた原石が運搬され、処理加工され、次のベルトに乗せられる」

 

「ま、中に入ればわかるぜ」

 

リゴールが横から言った。

 

壁に突き当たると、リゴールが身軽にその上に登り、上から手を伸ばしてアルギレウスを引き上げた。フロウはギルモに肩車してもらって手を伸ばし、壁の上に引き上げてもらった。最後にギルモが苦労して何度も何度も飛び上がり、剣士と狩人に両腕を掴んでもらって上に上がった。

 

壁は環状に練石場を囲んでいるとわかった。都合のよいことに、壁と壁の間にも練石場を中心とした放射状に壁がしつらえられている。しかも幅が二メートルほどもあるから、フロウたちには恰好の道だ。四人は壁の上を伝って練石場の入り口のある北側に向かった。

 

だが、壁の上を歩きながら練石場の北側に回り込むと一行は異変を発見した。入口の近くの壁の上に何かがいる。アルギレウスが合図して警戒を促した。

 

大柄な魔物だ。背の高さが二メートル以上の肥満体の鬼だ。肌が赤く、片手に巨大な木の盾、もう片方の手に粗い造りの槍を手にしている。

 

「見ろ!」

 

アルギレウスが剣を抜くと叫んだ。魔物の足元に誰かが倒れている。機械亜人だ。

 

四人はほぼ同時にダッシュした。壁の上を伝って鬼に走り寄る。相手はこちらに気づくと唸り声を上げながら振り向いた。その足元で倒れている機械亜人はかすかに動いていた。

 

「ワシがいく!」

 

怒り狂ったギルモが斧を振り上げて相手に殺到した。鬼は左手の盾を掲げた。斧が一閃し、盾が真っ二つに割れた。さらに木こりが一撃を加えると、木の盾はバラバラに砕けた。

 

だが相手も怯んではいなかった。長い槍を引くと思い切り突き出してきた。ギルモはそれを斧の柄で跳ね除けると、敵の槍の柄の上に刃の重い一撃を叩きつけた。槍がポッキリと折れた。

 

それでも鬼は全く戦意を失っていないようだった。両腕を伸ばすと木こりの首をむんずと掴んできた。巨人のような大きな手でだ。

 

「おい木こり!大丈夫か?」

 

少し離れて見ていたリゴールが叫んだ。

 

「ワシは大丈夫だ!加勢はいらん!」

 

ギルモは顔を真っ赤にしながらこらえ、斧の頭で相手の顎を激しく突き上げた。数度目で流石の相手も痛みを感じたのか木こりから手を離して数歩下がった。

 

木こりは雄たけびを上げて斧を相手の頭に振り下ろした。凄まじい一撃で鬼の頭が割れた。だがそれでも死なない。鬼が拳を振るってギルモの顔を殴った。木こりは一瞬ふらついたがこらえ、もう一撃を横に振り抜いた。鬼の首が切断寸前になって皮一枚でその肩からぶら下がった。黒い血が噴水のように噴き出す。

 

巨大鬼がようやく膝をついて崩れ落ちた。ギルモは肩で息をしながら斧を放り出し、倒れていた機械亜人のそばにひざまずいた。

 

「おい……しっかりするっぺ……!」

 

三人の仲間たちも近くに駆け寄った。機械亜人は薄っすらと目を開けた。だがその身体はもはや動いていない。

 

「こいつぁひでえ」

 

リゴールが呟いた。見ると胸の真ん中に大穴が開いている。槍で突かれたようだ。

 

ギルモは動かない機械亜人に何度も呼びかけた。リゴールは木こりの手から機械亜人を受け取るとその背中に耳を当てた。だがやがて狩人は言った。

 

「駄目だ。動力モータが止まってるぜ」

 

「し...死んだってことですか....?」

 

「ああ。死んだ」

 

フロウの問いにリゴールは平静な口調で答えた。アルギレウスは舌打ちして剣を納めると忌々しそうな目つきで鬼の死骸を眺めた。

 

「モリブリンか。珍しい奴が出たもんだな」

 

狩人が言う。だが剣士は返事をしなかった。珍しく怒りを露わにし、足元に落ちていた鬼の盾の把手を蹴り飛ばした。

 

リゴールはまだ薄っすらと開いている機械亜人の瞼を閉じさせていた。その間、アルギレウスは気を落ち着けるように深呼吸していたが、やがて口を開いた。

 

「魔瘴気だけとは思えん。さっきの二匹のボコブリンの装備といい、組織的なものを感じないか、リゴール?」

 

「組織的だと?」

 

狩人は聞き返した。アルギレウスが答えた。

 

「ああ。他の地方の魔物どもと違う。指導者がいるとしか思えん」

 

「その『終焉の者』ってやつか?」

 

リゴールは立ち上がると肩をすくめた。

 

「ま、あんたがどんな当て推量をしようと俺は口を挟む気はない。だがいるかいないかわからんような奴のことで気をもんで体力を消耗するのは俺には賢いとは思えんがな」

 

「だが王の首を取ればその時点で戦さは終わる。これは古今東西変わらん」

 

アルギレウスが言った。だがリゴールは気のなさそうな声で返事をした。

 

「王がいれば....な」

 

狩人はそう言うと、やおらしゃがみこんで機械亜人の死骸を引っ繰り返し始めた。手裏剣を取り出すと、機械亜人の身体を構成する合板の間にその刃先をこじ入れて剥がし始めた。

 

「な...何をするんですかリゴールさん?」

 

フロウは驚いて尋ねた。狩人は作業を続けたまま答えた。

 

「もしかするとゴムが手に入るかも知れねえ」

 

リゴールは突然顔を上げた。

 

「おいフロウ。お前、木を探して二股になっている枝を取ってこい。手に握るのにちょうど良くて細すぎず丈夫な奴だ」

 

「枝...ですか?」

 

「そうだ。早く行ってこい」

 

リゴールが急かす。アルギレウスもギルモも怪訝な顔をしたが、フロウは言われたとおり壁から飛び降りてそこらを探し始めた。

 

ラネールの気候では木は育ちにくいのかなかなか見つからない。フロウはふと思い立って、仲間にもう一度壁に引っ張り上げてもらって高いところから周囲を探した。東のほうにポツンと立った木が見える。フロウは壁の上を伝って走っていくと、木の近くで飛び降りた。短剣で木の枝を切り取り、壁の崩れたところからよじ登って仲間たちのところに戻った。

 

「おう、取ってきたか?」

 

リゴールが言う。フロウは枝を差し出した。リゴールはその枝の形を自分の短剣で整えると、二股になった部分の先に紐のようなものを結び付け固定した。

 

「できたぜ。お前にこれをやろう」

 

狩人が差し出したものを見てフロウは驚きに目を見張った。

 

「パチンコ...ですか?」

 

「おうよ。こいつであの種を飛ばせばよく飛ぶぜ」

 

リゴールは得意そうに眉を上げた。

 

「お前はまずこれを練習しろ。大人になったら弓を教えてやる。だがまず基本からだ」

 

フロウはそれを聞いた瞬間自分の耳を疑った。あの意地悪だったリゴールが?

 

「本当ですか?」

 

「ああ。本当だ」

 

「じゃ...じゃあ、約束ですよ?」

 

「ああ。約束だ」

 

フロウは思わずしつこく確認した。だがリゴールは頷いた。何の留保もせずに。

 

だが、ふと視線を下げたフロウは喜びが急に冷えていくのを感じた。三人の足元にはバラバラになった機械亜人の死骸がある。リゴールはこの中から材料を手に入れて、自分のためにこの武器を拵えたのだ。

 

「よし...そろそろ行こう。いいな?」

 

「ああ」

 

「ワシも大丈夫です」

 

アルギレウスに、リゴールとギルモが答える。フロウも頷いた。一行は壁から降りると、練石場の入り口から降りてきている階段を登った。

 

階段を登り入り口をくぐると、今度は下り階段になっている。長い。石なのか漆喰なのかわからないような不思議な素材でできている床材を踏みしめながら降りていく。

 

フロウは思った。いま、新たな使命を見出した気がした。魔物に苦しめられている機械亜人たちを助けるんだ。それが、いまこの手にある武器の材料を提供してくれたあの亜人のためのはなむけだ。

 

緊張感と決意に武者震いしながらフロウは階段を下っていった。

 

* * * * * * * * * * * * * * * * * * 

 

階段を下り切った一行はやがて奥行の長い長方形の部屋に出た。薄暗く埃臭い。人が出入りした気配がないところを見ると、自動で動くという話は本当のようだ。

 

一行が用心深く進んでいくと、足元に動くものがあった。大きめの虫のようだ。

 

リゴールはいきなり足を上げるとそれを踏み潰した。ギュッと悲鳴がして、その人の手のひらほどもある虫がピクピク震え動かなくなった。

 

「おいアルギレウス、見ろよ」

 

リゴールが先頭にいた剣士に声をかける。フロウも狩人に近寄ってその足元に目を凝らした。

 

だが少年は踏み潰されたその虫を見て息を呑んだ。蠍だ。しかも普通の蠍ではない。頭の正面に巨大な目玉がついているのだ。

 

その死んだ蠍の異様な姿を確認したアルギレウスは顔を上げた。狩人がニヤリと笑う。

 

「千年甲殻蟲モルドガット....こいつの成虫を狩ったらその自慢話だけで十年分の酒のアテになりそうだな」

 

だがアルギレウスは真顔のままだった。フロウが尋ねた。

 

「モルドガットって...魔物の名前ですか?」

 

「ああそうだ」

 

アルギレウスは身体を起こすと言った。

 

「この幼生が千年たつと成熟するんだ。その大きさは家一軒ぶんほどもあるらしい」

 

それを聞いたフロウは言葉を失った。そんな大きさの蠍がいたら見ただけで気絶してしまうかもしれない。フロウは思わず聞いた。

 

「リゴールさん...怖くないんですか?」

 

「怖い?バカ言うな。俺は狩人だぞ。獲物が怖くて務まるか」

 

リゴールは続けた。

 

「俺は狩りが生き甲斐だ。矢をつがえ、放つ。それが獣どもの急所に当たる。そいつが断末魔の悲鳴を上げてやがて倒れる。その瞬間は最高だぜぇ、フロウ?」

 

「坊やにあまり悪いことを教えるんでねえぞ、狩人」

 

「悪いことだと?」

 

ギルモに言われてリゴールは気を悪くしたようだった。

 

「こいつが自分の力で生きていけるように教えるのが何が悪いんだ?それともてめえみたいなコミュ障の世捨て人に育ったほうがいいってのか?」

 

「行こう」

 

アルギレウスの合図で一行は再び前進した。足元には砕けた岩片と、ところどころに散らばる金属片。部屋の突き当りに向けては床から少し持ちあがった通路になっている。その通路の終端に扉がある。

 

扉を引き上げてその先に進む。同じくらいの広さの部屋だったが、出たところから通路が突き当りまで伸び、部屋の真ん中から左右に伸びる通路と交差している以外は底の見えないほどの奈落だった。

 

剣士と狩人が先行し、木こりとフロウが後に従う。だが左右に走る通路との交差点まで近づいたところでアルギレウスが剣を抜いて警告の声を上げた。

 

「スタルヘッドだ。気を付けろ」

 

全員が武器を構えた。左から来る通路から、頭が三つある蛇のような生き物が這い出てくる。頭には真ん中に光る一つ目がついており、鎌首をもたげた体高が人間ほどもある。だがフロウがふと後ろを見ると、右の通路からも同じような奴が迫ってきていた。

 

「こっちにもいます!」

 

ギルモはフロウを庇うように右から来る敵に向き直った。左側では既にアルギレウスが魔物と戦い始めている。気合いの声と剣が肉を切り裂く音が聞こえてきた。ギルモは唸り声を上げると、斧を振り回して大蛇の頭を二つほど一気に切り落とした。

 

だが、一つ頭が残っている。ギルモが呼吸を整え再び斧を振り上げようとした瞬間、信じられないことが起こった。斬り落とされたはずの魔物の頭が突然生えてきたのだ。蛇の目が赤く光った。魔物は威嚇音を立てながら三つの頭で一気に攻撃してきた。

 

咄嗟に斧を横に構え攻撃を受け止めたギルモだったが、勢いを止め切れず後ろに吹き飛ばされた。斧は手放さなかったが、木こりは後ろにドウと倒されてしまい、慌てて立ち上がった。

 

「どうしたどうした、まだ終わんねぇのか?」

 

リゴールが頭の後ろで手を組みながら言う。アルギレウスが片付けたのか、その足元に蛇の死骸が転がっていた。

 

「うるさい!」

 

ギルモは再び斧を構え進み出た。再び相手の目が赤くなった。木こりは脚を止めて咄嗟に身体を逸らした。数センチの差だった。木こりの顔の前で魔物の両顎がガチンと鳴る。その瞬間ギルモは斧を横に振り抜いた。刃が三つの頭にぶち当たり、魔物は身体をくねらせながら崩れ落ちた。

 

一行は再び通路を前進した。奥の突き当りには登り階段があり、やや高い位置にある出口扉に至るようになっている。

 

フロウが三人の後に続いて階段を登りながらふと横に目をやると、雑然と積まれた木箱の間にさきほどの蠍の幼生が群がっているのが見えた。

 

「あれ....」

 

フロウが指さすとリゴールが立ち止まって目をやったが、すぐまた歩き始めた。

 

「俺は小物には興味ねえ。気になるんならあとでお前がやれ」

 

「わ...わかりました。じゃあ帰りに...」

 

「成熟に千年かかるからな。まずは大物からだ。最奥部に行くぞ」

 

アルギレウスが振り向いて言った。突き当りの扉を引き上げ、四人で通り抜ける。

 

抜けた先は格段に大きな空間だった。扉の前のフロアから前方に奈落を渡る通路が伸びていて、二十メートルほど先にある高い柵で囲われたフロアに続いている。柵には扉がついているが今は閉じられていた。

 

一行が柵に突き当たるところまで進むと、リゴールが身軽に柵を乗り越えた。

 

「開けられそうか?」

 

「面倒だがやれそうだ。ちょっと待ってろ」

 

アルギレウスに尋ねられリゴールが答える。狩人は向こう側で扉の上の部分に登って何か作業をしていたが、やがて機械が回転する音が聞こえて、扉が徐々に開き始めた。扉が開くとリゴールは降りてきながら文句を言った。

 

「お前らも柵越えくらい自分でやってほしいもんだがな」

 

「そう言うな。全員が君のようになれるわけじゃあない」

 

アルギレウスが言った。柵の中のフロアは中心にトロッコが置いてある。荷台には鉱石が山と積まれていた。だが使用されていないのか、車輪は錆びついておりレールもボロボロだ。

 

「トロッコに乗って楽に進もうってわけには行かねえみてえだな」

 

「あっちはどうでしょうか?」

 

リゴールが呟いたところにフロウが声を上げた。今いるフロアから右手に通路が伸びていて、その通路が繋がっている壁際のフロアに同じようなトロッコが置いてある。

 

「坊や、冒険に慣れてきたっぺな」

 

ギルモが目を細める。フロウは照れ笑いした。四人は通路を通ってそのフロアに辿り着き、トロッコを調べてみた。傷んでおらず動作しそうだ。

 

「動きそうだ。これを使おう」

 

アルギレウスは言った。四人はトロッコに乗り込んだ。トロッコは重量感知型なのか勝手に動き始めた。

 

広大な部屋の奥に向かっていく。足元のレールの周囲には幅二メートルほどの板が渡してある。だが強度が未知数なので、四人はトロッコから降りなかった。

 

「アルギレウス、どうすんだ?」

 

リゴールがやおら口を開いた。剣士が聞き返す。

 

「何のことだ?」

 

「ラネールの魔瘴気の発生源がわかったら、その先どうする?」

 

リゴールに重ねて問われ、アルギレウスは少し考えたあと口を開いた。

 

「悪を封じる方法を探す」

 

「あてもなく、か?」

 

「いや....ないわけじゃあない」

 

剣士が答えたその瞬間だった。トロッコの線路の右の壁側にある足場の上で何かが動いた。足場の上に高さ三メートルほどの小さな塔のようなものが立っている。それが突然回転し、その頂上にある目玉のようなものが光りを発し始めた。

 

「おい.........ヤバいぞ!」

 

リゴールが叫んだ。

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