ドシュトフロムンド戦記~少年と精霊と大地の果て 作:nocomimi
雷龍の死を知った機械亜人たちは大挙して広場に集まってきた。
それぞれが手ぶり身振りでジェスチャーしながら、その嘆きを言い表し、互いに慰め合い、また雷龍の遺骸の前に手向けの品を置いた。機械亜人は涙を流すことができないらしく、またそれが故に彼らの嘆きのポーズは人間よりはるかに表現に富んでいた。ある者は地面に倒れ伏し、別の者はクルクルと回転しながら泣き叫んでいた。
「雷龍さまって....すごく慕われていたんですね」
フロウが亜人たちの様子に圧倒されて言った。
「フィローネ、オルディン、ラネールの三つの地方を見守るため水龍、火龍、雷龍がハイリアから任ぜられていると聞いたことがある。だが私も実物を見るまで信じられなかった」
アルギレウスは腕を組むと沈痛な表情で言った。
「だ...だども...その雷龍さまが死ぬなんて...ただごとじゃねえっぺ」
ギルモが震え声で言った。リゴールも呟いた。
「魔瘴気の濃度が限界を振り切れちまってる..ってことか」
「だがこの事態を打開するため唯一残された手段がある。それがトライフォースだ」
アルギレウスが顔を上げた。フロウは尋ねた。
「トライフォース...って何ですか?」
「フロル、ディン、ネールの三女神が残したと言われる神器だ。触れた者の願いを何であれ叶えると」
アルギレウスが答える。
「何でもって...文字通り何でもですか?」
「そうだ」
それを聞いたギルモが目を見開いた。
「じゃあ...雷龍さまを蘇らせることもできるっぺ」
「それだけではない」
アルギレウスが微笑んだ。
「魔瘴気を封じる。汚された地を浄める。そうすれば地は裁きを免れる。亜人たちも生き延びる」
「なあ...アルギレウス」
リゴールが言った。
「その肝心のトライフォースって奴がどこにあるのか、いや...そもそも実在しているかどうか....確証はあるのか?」
「エレンディル王家が地に置かれたとき、トライフォースを守護するようハイリアから命じられたと伝わっている。というのも....」
アルギレウスは目の前を見据えたまま続けた。
「トライフォースは神には使うことができない。人間にのみ使うことのできる神器だと。だからそれは敢えて人間に託された。良きことのために使うように、と」
「嫌な予感しかしねえな...人間って奴ぁそういうシロモノを正しく使った試しがねえ」
リゴールが呟く。しかしアルギレウスは続けた。
「トライフォースは王家の金庫にもなく、父王もまたその在処を知らなかった。だがその伝承が真実ならばトライフォースが王都のどこかにあるのは確かだと私は思う。その絶大な力が理由で秘せられたまま放置されてきたのだ。私の推測ではそれが隠されているのが『螺旋塔』だ」
「『螺旋塔?』」
フロウが尋ねた。
「フィローネ、オルディンそしてラネールの三地方の風土の特徴をそれぞれ人工的に再現した実験施設だ。だが百年以上前に閉鎖され、以来人の手が入らなかった。危険過ぎるという理由でな」
そう説明するとアルギレウスは言葉を継いだ。
「皆に私と来てほしい。王都に行けば武器や食料の補給もできるはずだ。久しぶりの見張りなしの休息もな、フロウ」
「僕はもう慣れたから大丈夫ですよ」
フロウは胸を張って答えた。だがギルモがフロウの肩を軽く叩いた。
「おめはまだ子どもだっぺよ。ちゃんと寝ないと背が伸びねえっぺよ」
「でも....!」
フロウは言い返えそうとしたが、やめにした。背が伸びないのは困ると思い直したからだ。
一行は踵を返すと、ここに来るときに通ってきた洞窟の手前の右手にある崖沿いの道に入った。
アルギレウスの先導で進んでいくと、やがて斜面の足元に設えられた広場に出た。そこには枯れた木がポツンと立っていて、機械亜人がその周囲に水を撒いていた。
「お悔やみ客の方ですね。わざわざ遠方からありがとうございます」
機械亜人は顔を上げるとアルギレウスに挨拶した。アルギレウスは頭を下げた。
「この生命の木を育てて実がなればきっと雷龍さまはよくなると信じて世話をしてきたんですが...このラネールの乾いた風土では育ちませんでした」
機械亜人は再び水やりに戻った。水を注ぎ終わると、彼は再び一行に向き直って言った。
「私がこうしているのも、長い間の習慣と、雷龍さまを諦め切れない思いのゆえなのです。雷龍さまは本当に慈悲深いお方でしたから」
アルギレウスは機械亜人の肩に手を置くと言った。
「諦めないでくれ。蘇らせる方法があるかも知れない」
すると機械亜人は顔を上げた。
「蘇らせる?そんなこと可能なんですか?」
「まだ確証はない...だが.....」
アルギレウスは言葉を探しながら答えた。
「王都に行って神器を探す。戻ってきたら成否を話す」
機械亜人はしばらく動かなかった。その金属の瞳に光が宿ったように見えた。
「……雷龍さまが……蘇る……」
その声は震えていた。機械であるはずなのに、まるで胸の奥から絞り出すような響きだった。
「本当に……そんな奇跡が……?」
アルギレウスは頷いた。
「奇跡ではない。女神が残した力だ。もしそれが手に入れば……雷龍さまだけでなく、この地も救える」
機械亜人は両手を胸の前で組み、深く頭を下げた。
「……どうか……どうかお願いします。雷龍さまは……我々のすべてでした」
四人は機械亜人に会釈してその場を後にした。やがて道はすぐに険しい登山道に入り、さらにしばらく行くと絶壁に行き当たった。
だがフロウはもはや驚かなかった。先導するアルギレウスの動きを模倣し、岩の出っ張りを掴み、足をかけ、絶壁を登っていく。頂上に辿り着くと、今度は滑りやすい岩の斜面を横に移動していった。
だが山をしばらく移動すると、きわめて眺めのいい地点に出た。フロウが思わず身体を伸ばして景色を見ていると、アルギレウスは休憩を告げた。
「見ろ、あれがラネール平原だ」
剣士は指さした。はるか遠くに、端も見えないほど広大な平原が広がっている。
「あれはかつては大海原だったときく。巨大な港や造船所が今でも残っているそうだ。だが水量が減って今では沼地混じりの平地になっているんだ」
「いわゆる地の果てってやつさ」
リゴールが横から口を出した。ギルモは片手を目の上に平らにしてかざすと感嘆の声を上げた。
「たまけたっぺ...ワシは生きているうちにこんな遠くまで来るなんて思わなかったっぺ」
「アルギレウスさん...あの場所の先には何があるんですか?」
フロウが尋ねると剣士は首を振った。
「私も知らない。だが伝承によれば『終焉の者』を封じた地の割れ目があるとか....」
「まぁた『伝承』だの『預言』だの...あんたもつくづく好きだよなぁアルギレウス」
リゴールが苦笑いして剣士の肩をつついた。
「リゴール....君にはわからないかも知れないが....」
アルギレウスが真顔で言うのを見て、狩人は振り向いた。
「王として生きる者には指針が必要なんだ。それは時代とともに変わる物であってはならない。私が聖典を読み諳んじてきたのはそのためだ」
「へえ...勉強熱心だった理由はそれなんだな」
狩人は微笑んで肩をすくめた。一行はまた歩を進めた。数時間歩いた後食事休憩をとり、再び歩を進める。
やがて四人は切り立った岩壁に挟まれた谷間に出た。わずかながら水も流れている。水分を補給すると、四人はひたすら歩いた。両側の岸壁のせいで太陽の光はすぐ射し込まなくなった。
暗く、気温も下がっている。一行は焚き木を集めて早めに宿営を張った。
夕食が終わるとリゴールは古くなった矢を修理している。ギルモは明日のためのパンを焼いていた。アルギレウスは前を見つめじっと考え事をしていた。
フロウは焚火を見ながら思った。救いたい。リナハを。みんなを。そのために力が必要だ。それはアルギレウスも同じなんだ。
だけど、その『力』はどんな種類の力なんだろう。それを手に入れたとき自分は自分のままでいられるのだろうか。フロウの心にはそんなあてもない想像と思念が浮かんでは消えたが、やがて彼は眠りに落ちていった。
* * * * * * * * * * * * * * * *
「いやあ..待たせたね。ごめんごめん。続きが気になってただろ?」
その若い美しい男はそう詫びながら優雅なしぐさで椅子に座った。フロウは曖昧に頷いた。だが実のところ別に待ってもいなかったし、続きを聞きたいとも思っていなかったが。
「それで、どこまで話したかな。そうそう、僕の主人に会ってほしいって話だったね。そうすれば君は『力』を得られる。君の愛する人を守ることもできるし、それ以外に人生でやりたいことをかなえることもできる。しかも.....」
若い美しい男は身を乗り出した。いかにも高そうな香水の匂いがフロウの鼻をくすぐった。
「彼はそれを見返りなしで授けてくれるんだ。君がすべきことはたった一つ。彼の名をその額に刻むことさ」
それを聞いたフロウが顔をしかめているのを見て、若い美しい男は慌てて両手を振って打ち消して。
「いやいやいや、ちょっと言い方が悪かったな。名を額に刻むといっても、文字通りナイフかなんかで刻むわけじゃないぜ。そんな野蛮なことは僕たちはやらないさ。そうではなくって、僕が彼を尊敬し、愛し、手本にし、従っているように、君もそうしてくれればいいのさ。それが『名を額に刻む』という言葉の意味さ」
若い美しい男はフロウの理解を確かめるように少し間を置くと、再び口を開いた。彼は身をかがめると、前髪を掻き分けてフロウに自分の額を見せた。
「ほら。僕の額を見てごらん。どこにもナイフの傷なんかないだろ?......心配させちゃってごめん。これからもっと詳しく話すよ。そうすれば何も怖いことや痛いことなんてないってわかるはずだからさ」
だがフロウには聞きたいという気が少しも起きなかった。話の内容そのものではない。この男の態度が、自分がともに旅をしてきて慣れ親しんだアルギレウスやリゴールやギルモの態度と全く違うことに違和感を感じたのだ。あの三人は、それぞれタイプは違うが、共通していることがある。子供の機嫌を取ろうとしない。相手の反応を見て言うことを変えることもしない。ただ現実を言うだけだ。それでいてフロウには身に染みて理解できていた。彼らは絶対に信頼できる。
だが、この男はどうなのだろうか?
「じゃあ、僕の主人についてもう少し説明しようか」
男は言った。
「彼は偉大な力を持った人だよ。だが前も言ったように、やや不遇なところがあってね。彼はいつも妬まれている。その力ゆえにね。だがそれでも屈せず、よい働きを続けているんだ」
「あの....」
フロウは疑問を口にした。
「不遇ってつまり....ついてない、とか。運が悪い、とか...そういう意味ですよね」
「そうさ。よく知ってるじゃないか、偉いよ。フロウ」
若い美しい男は微笑んだ。
「だが彼はそんな境遇でも必ず立ち上がる人なんだ。何度でもね。僕には見える。彼がいつかこの地上の支配者になるところが」
フロウは強烈な違和感を感じた。ファイと名乗ったあの少女は、地がいつかさばかれるとハッキリ教えてくれた。それなのに、この男の主人はその地の支配者になるという。どう考えてもおかしい。
「あの...僕思うんですけど....言っていいですか?」
「なんだい少年?言いたまえ。遠慮はいらない」
若い男は頷いた。
「その人って...ハイリアと仲が悪いみたいに聞こえるんですけど」
フロウの言葉に、若い美しい男は一瞬だけだが苛立ちの色を目に浮かべた。
「いや、それは誤解だよ。まったくそんなことはない。ただ、認識が違うだけだよ、なんて説明したらいいか....」
「すいません。僕はまだ子どもなので、わかりやすい言葉で言っていただかないとわからないです」
フロウは言った。そして続けた。
「僕が精霊から聞いたことは、地がさばかれるってことです。それがハイリアのこころだって。だから僕にはその人がいまハイリアとケンカしてるっていうふうにしか聞こえないです」
「いや...違う違う。君は何もわかっちゃいない」
若い美しい男は再び余裕を取り戻して笑みを浮かべると脚を組み直した。
「ハイリアが地をさばくとしたら、間違いなく僕の主人を用いて、ということなんだ。彼は強い力を持っているから。そしてハイリアの心にかなわない者を、彼の手を使って滅ぼす。そして良い世界を建設する。それで納得できるだろ?」
だがフロウは口を挟んだ。
「僕はハイリアに救い出されるチャンスがあったのに、リナハのために地上に残りたいって言ったんです。そうしたら精霊は僕に言いました。もしかするとあなたも裁かれるかも知れないって。てことは僕はその人に裁かれるんですか?」
フロウの言ったことに、若い美しい男はまた慌て始めた。
「ちょっと待ってくれ。話が混線しちゃってるよ...そういうことじゃなくて」
「ファイは言いました。地の上にあるものは例外なく裁かれるって。でも、あなたの言っているのは、僕がその人に従えばこの地上で力も人生も得られるんですよね。じゃあハイリアのこころが変わったんでしょうか?」
若い男は憎々し気な顔でフロウを見た。だが一瞬にして彼は笑顔になった。
「細かいことはいいじゃないか。君は頭がいい。だが頭がいいゆえに気にしすぎるところがあるんだね。君のような子に必要なのはむしろ...そうだな..素直さだよ」
その男は手を広げて言った。
「君は...察するに...今までいろいろ辛い目に遭ってきたんじゃないか?だから人の好意を素直に受け取れないところがある。だが、僕の主人に会って、僕がしているようにその人を主と認めさえすれば、与えてあげようと言っているんだ。ただ受け取ればいい。僕が何かとても辛い苦行をしているように見えるかい?見えないだろ?だから素直に....」
「いりません」
フロウは答えた。
「待てよ、そんな冷たい言い方しなくたっていいじゃないか。せっかく人が好意で...」
「いりません!いりませんから!」
* * * * * * * * * * *
「おい、寝言か?.....ッたく目が覚めちまったじゃねえか」
リゴールが寝返りを打ちながら言った。ギルモは寝息を立てている。アルギレウスは剣を横に置いて焚火の脇に座っていた。
「どうした?」
アルギレウスに問われてフロウは頭を掻いた。
「す...すいません。ヘンな夢を見て.....」
「そういうことがあっても当然だ...十三歳の君には大きな負担だろう。この旅と冒険は」
剣士が心配そうな顔で言った。だがフロウは答えた。
「そんなことないですよ。僕はとても楽しいし、自信もついて....」
「おい、人が寝てるときにデケえ声でしゃべんな!眠れねえじゃねえか」
リゴールが言う。アルギレウスもフロウも苦笑いして口を閉ざした。フロウはまた横になると、浅い眠りを何度か繰り返した後でギルモに起こされ、そして夜明けまで見張りをした。気温が低いので何度も焚火に柴を足した。そして谷間の陰の中、空が明るくなったのを見図らって皆を起こした。
宿営を畳んだ一行は足場の悪い谷間を進んだ。やがて岩場は終わり緩やかな斜面になった。植生も豊かになっている。だが道は全く整備されていない。灌木や下草を踏みしだき、隠された木の根や石に躓きながらも進んでいく。アルギレウスもリゴールも慣れているのか全くペースを落とさない。森に慣れているギルモでさえ時折躓いていた。
だが、昼休憩を取り数時間歩くと視界が開けた。
はるか遠くに巨大な建造物の群れが立ち並んでいる。背の高い尖塔、円形の闘技場、屋根に煙突が突き出した集合住宅などだ。
フロウは一瞬心がときめいた。だがそれを見ているとすぐに気づいた。これらの建造物群は、どこか空虚で寂し気に見えるのだ。
「あれがエレディアスだ」
足を止めたアルギレウスが言った。
「かつて交易の中心であり、芸術と学問の都でもあった」
再び歩き始めたアルギレウスが続ける。リゴールも従って歩き始めた。
「俺にとってはあんまりお気に入りの場所じゃあねえな。獲物がいねえ」
「アルギレウスさん、王都には動物がいないってのはわかるけど....魔物もいないんですか?」
「ああ」
フロウの質問にアルギレウスは答えた。
「被害どころか目撃例もない。高い防壁に守られているからな。だが.....」
アルギレウスの歯切れの悪い答えを不思議に思ってフロウは顔を上げた。
「だが...魔瘴気の影響は明らかに受けていると私は見ている。都の住人はもはや生きる力を失っている」
「力を失っている....って?」
フロウがアルギレウスの背中に問いかけるとリゴールが代りに答えた。
「なんでも恋も結婚も子をつくることもしなくなったって話だ。喧嘩さえもしねえってな。....それなのに時々人殺しの話は聞くからさっぱりわからねえ」
「あの...旦那....」
ギルモが口を開いた。
「なんだギルモ?」
「旦那....あのとき精霊さまが...ハイリアさまの心にかなった者は救い出されると...それで神殿の前の村が丸ごと消えてたのは覚えておいでで?」
「ああ」
アルギレウスは前を向いたまま答えた。
「都がああやって手つかずのままってことは...旦那.....」
「言っている意味はわかる、ギルモ」
アルギレウスは言うと言葉を継いだ。
「王都はハイリアにさえ見捨てられたのかも知れない...だが私は性急な判断は下したくない。それに希望を捨てることも」
一行は数時間歩いたがまだ王都までは相当距離があった。森の中で宿営を張り、翌朝早く出る。そうしてさらに一昼夜歩いてようやく距離が近づいてきた。
人の通らない森林を抜け、野原に入る。そして広い河に渡された橋を渡ると、いよいよ建造物群が目の前に迫ってきた。
埃っぽい街道を進むと、荷車を引いた農夫や行商人たちとすれ違うようになった。やがて高い壁の中央にある門にたどり着くと、アルギレウスの顔を見た警備兵が直立不動になった。だがその一方でリゴールとギルモとフロウを怪しい者を見るような視線で眺めまわしている。
大通りに入ると思わずフロウは目を見張った。想像したこともない広さだ。しかも両側にはびっしりと商店が並んでいる。だがこれほどの都なのに、人通りが少ないのが不自然だった。
アルギレウスは一行を先導して街の中央部分に向かった。それだけでも一時間以上はかかった。そして背の高い倉庫のような建物の扉を開け、三人を招き入れた。
扉の向こうには机があり、兵士が座っていたが、アルギレウスの姿を見ると慌てて直立し敬礼した。
「ご苦労」
アルギレウスはそのまま奥にある廊下に進もうとしたが、兵士が慌てて声をかけて来た。
「王子殿下....この方たちは?」
どうやらフロウたち三人が気になるようだ。
「私が信頼する....冒険の専門家たちだ」
アルギレウスはそれぞれの顔を見回しながら答えた。フロウは思わずニンマリしてしまった。
「い...いや...しかし部外者は........」
「彼らは部外者ではない。私の直属だ」
兵士が制止しようとするのを無視してアルギレウスは奥に進んでいった。そして大きな鉄の扉を開け、三人に入るよう合図した。
「う....うっわ....」
フロウは思わず目を丸くした。武器がずらりと並んでいる。壁一面に槍、剣、弓、盾。
磨き上げられた刃が、薄暗い室内の灯りを反射して鈍く光っている。フロウは、弓に台尻をつけたような装置が台に立てかけてあるのが目に入り、思わず近づいて手にとった。
「クロスボウさ」
リゴールが言う。
「凄い。狙いがつけやすそうですね」
フロウが言うと狩人は肩をすくめた。
「俺はこういう雑な武器は好かねぇ。矢が真っすぐにしか飛ばねえじゃねぇか」
「矢っつうもんは真っすぐ飛ばすもんじゃねえのけ?」
ギルモが不思議そうな顔で尋ねる。だがリゴールは苦笑いして言った。
「ったくこれだから素人は.....」
「あ.......リゴールさん。火吹き山の神殿で曲がった飛ばし方してましたよね?」
フロウは言った。
「おう、さすがおめえは見どころあるな。木こりと違って」
リゴールの返事にギルモは笑いながら狩人の肩をどやした。
「坊やが賢いのはワシもそう思うが、最後だけ余計だっぺよ」
「ギルモ、来てくれ」
アルギレウスが声をかけてきたのでギルモは奥の方に行った。その間リゴールは矢をありったけ補充し、さらに矢筒をもう一つ肩にかけた。
「ほれ、どうじゃ」
ギルモが得意そうな顔で戻ってくる。兜を被り、鎖帷子に身を固め、柄まで鉄製の戦斧を持っていた。
「へえ。馬子にも衣装ってやつだな」
リゴールが気のなさそうな返事をする。ギルモが言った。
「狩人、それは中身がない相手をけなすときの言い方だっぺよ」
「ああ。知ってるぜ。そのつもりで言った」
アルギレウスが今度はフロウに手招きした。口論するリゴールとギルモを後にしてついていくと、アルギレウスは剣が立て掛けられたラックのある一画にフロウを導いた。
「今の君ならこれを扱えるはずだ」
アルギレウスは短めの剣を選ぶとフロウに渡した。
「あ‥‥‥ありがとうございます!」
フロウは胸が踊った。アルギレウスの顔を見ると、静かに頷いている。フロウは恐る恐る剣を鞘から抜き放った。刀身の輝き、鉄の重み。本物だ。
アルギレウスは剣を吊るす丈夫なベルトに加え軽い皮鎧をフロウに与えて着させた。戻ってきたフロウを見たギルモは立派だと褒めそやした。だがリゴールは退屈そうだった。
「大量生産の武器ってもんはな、いつか卒業するもんだ。フロウ、覚えておきな」
アルギレウスが外に出るよう合図すると、リゴールが扉を開けながら言った。
「だいたい狩人、そういうおめはどうなんだっぺ?狩り以外のことは何一つ知らんくせに」
ギルモは未だに納得いかないらしく、ぶつくさ言っている。だが、一行は廊下を抜け建物の扉を開いて外に出た瞬間に立ち止まった。
目の前には武装した警備兵たちがズラリと並んでいる。フロウは驚きに目をしばたかせた。
「ご苦労。だが見送りは結構だ。君らも職務があるだろう」
アルギレウスが手を上げた。だが中央に立っていた隊長らしき男が前に出てきて言った。
「王子アルギレウス殿下。あなたを逮捕します」