「見えているものが、二人で違う」
登場人物は2人
大きな事件は起こさない(日常でOK)
読者は両者の考えが分かるようにする
お題2個目
「説明しないで、焦らせる」
主人公が「絶対に遅刻できない場所」へ向かっている。
ただし、本文中で「焦った」「急いだ」「不安だった」「間に合わない」など、主人公の感情を直接説明する言葉は禁止。
うねる様な湿気と暑さが肌を焼いてくる。
放課後の帰り道は地獄だ。太陽の熱でそのまま炙られ続けたコンクリートは靴の裏も溶かしてしまいそうだ。
けれど空は高く、遠くに見える入道雲は綺麗だった。
あれが次の日の雨になってコンクリートを少し冷ましてくれないかと思ったが、今週の天気予報はずっと晴れだ。叶わぬ望みだ。
「アイスクリーム食べてえ~」
一緒に帰ってる隣のやつがなんかぼやいてる。
「あ、鳥や」
「ホンマや」
「ほんと糞暑い中、鳥もよー飛べるわなー」
「なー」
「……鳥は自由やなー」
「……今日の晩飯は焼き鳥やな」
そういえばもうすぐ花火大会だ。たくさん出る出店の中に、やきとり屋はあるだろうか。つられてそんなことを思考してしまう。
「あ、ホームレスのおっさんがゴミ漁っとる」
「ホンマや」
「どんな人生過ごしたら、ああなるんやろな」
「興味なー。それより、今日の晩飯、タレか塩どっちがいいと思う?」
本当にどうでもよさそうだった。まだ焼き鳥のこと考えてる。
「それにしても、蝉うるさいな。じーじーじーじー、発情期かって」
何年も地中に引きこもって禁欲していると考えれば、土から飛び出た瞬間発情した猫のように鳴き声をあげるのは、まあ当然と言えば当然かもしれない。童貞を捨てれるかどうかの瀬戸際なのだ。たった一週間の間に繁殖相手を見つけなければいけないとは……。
「蝉ってエビの味するらしいけど、美味いのかねー」
「お前さっきから食べることばっかかい」
優雅な朝だった。
豊潤で豊かなコーヒーの香り。少し焦げ目がついたパンに塗ったバターが溶け、柔らかで食欲をそそる匂いを漂わせている。そしてサラダ。好物のトマトにレタス、そして軽いマヨネーズ。
贅沢な朝飯……これこそ、社会人にあるべき朝食の姿。
リビングの椅子に座り、テレビの電源を入れる。
朝のニュースキャスターが、今日のニュースを伝えている。
画面隅には、現在時刻が表示されている。
午前7時54分。
今日の朝の会議は8時半から。
「…………」
パンとサラダを一口で掻き込み、コーヒーで一気に胃袋に流し込んだ。
アツアツのコーヒーで口の中をやけどした。
急ぐのは愚行。立派な社会人たるもの、落ち着きを持って出社すべし。
さっきから心臓がばくんばくんと聞こえるし夏じゃないのに変な汗が尋常じゃないぐらい出ているが、気にしてはいけない。
まずはしっかり背広に袖を通し、そして持ち物チェック。
こんなこともあろうかと、カバンの中には前の晩にしっかり準備を――
……財布どこだ?
「チッッッッッ!!」
ああ、あった。そういえば昨日、自販機でコーヒー買いに行ったんだった。
よし、ポケットにイン。これで準備完了。
さあ、出社だ!
普段は健康の為に階段で1階まで下りるが、今日はエレベーターで行こう。
カチカチカチカチカチカチカチ
「早くしろよもうっ……殺すぞっ!」
「ひっ」
「あ、どうもーおはようございますー」
近所の奥様とご挨拶。同じマンションに住む者同士、挨拶はしっかりと礼儀正しく。
普段は健康の為に歩いて出社しているが、本日はマイカーで出社しよう。これなら普段より20分早く着くはずだ。
「……あれ。おかしいな、俺のマイカーはどこに……」
いつも停車している場所に俺の車がない。
……はて、どこに置いて――
「あっ」
昨日車検だったから車預けてきちゃったじゃん……。
びーくーる。クールになれ。
社会人たるもの、ダッシュで駅に向かうのはみっともない。
ここはややダッシュ寄りの競歩で進んでいく。
時刻は8時8分。あと2分後に電車が出るな。これに乗ればまだ超余裕で間に合うはずだ。
だから信号、赤になったら殺すぞ。
よし、合理的な判断として信号をシカトすることで無事に駅に到着した。
これならなんとか――
『えーただいまー人身事故が発生したため―、運転を見合わせておりますー誠申し訳ありませーん次の発車時刻に大幅な遅れが発生すると思われます―』
…………。
「あ、先輩、おはよーございまーす。今日朝の会議、随分ボロボロでしたけど、大丈夫でしたか?」
「問題ない。俺が本気を出せば駅伝も余裕だ」
「先輩マラソン部でしたもんねー。ていうか喫煙室で会うなんて珍しいっすね。タバコやめたんじゃなかったんですか?」
「健康なんて糞よ。はータバコうんめぇ……」