ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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最強の脳無、今更登場!
皆様ご応募ありがとうございました!


『必要なのは知識でなく思いやりである。思いやりがなければ残るのは暴力だけである』

「おい黒霧、なんで脳無がここに居る」

 

 いつものバーに死柄木が徹夜明けみたいなヨタヨタ歩きでやって来た。やって来たっていうか部屋から出てきた。カウンターの横にぼけーっと突っ立ってる脳みそ丸出しの黒い男……『脳無』を見て不信感丸出しだ。

 

「ああ、この『黒』は護衛用だからですよ。なんでもあなたの活動に合わせて平和的な足止め“個性”を厳選していただいたようで」

 

 先生から『脳無』たちが先払いとして送られてきたのだ。他の5体の『中位個体(ミドルレンジ)』は近所の倉庫に保管されている。使うときになったら黒霧が『ワープゲート』で持ってくる手筈だ。

 

「はぁ? 先生がそんな気遣いするはずないだろ。……どんな“個性”を持っているんだ?」

 

「まず素晴らしいのは『あくび』ですね。なんとこの脳無があくびをすると一定範囲の眠気を誘発するそうです。昏睡等の過剰化もせず快眠だそうで、あなたが眠れない時にも使えます」

 

 脳をいじってあくびを連発できるようにしてあるのでかなりの速度で睡眠に持ち込める。マジやばくね。元の持ち主は自分も寝ていたが脳無は睡眠機能を撤去してある。睡眠は重要な機能なので撤去したことで劣化が起こるのだが、そこは『超再生』でゴリ押ししている。ヒゲドクターはめちゃくちゃすごい技術を持つというより『AFO』というチート“個性”の恩恵を受けているだけでしかないのでこういうゴリ押しをよくする。

 

「え……マジか。悪くないな……?」

 

 割と眠れない時があるので普通に便利そうだな、と死柄木は思った。なんなら既に捨て駒にするのが惜しくなっている。

 

「そうでしょうそうでしょう。お次は『思考停止』。目を合わせると意識に空白を作れるというかなりの強“個性”です。あくまで停止するのは『思考』なので戦闘関連の反射的な動作などはあまり防げませんが、逃走用としては破格ですよ」

 

 思考……意識とは実は受動的なもので、脳波を調べると『指を動かす準備を脳が始めたあとに「動かそう」という意識が発生している』事が判明している。つまり『意識は行動の決定権を持っていない』のだ。実際は潜在意識と言われる部分で行動が決定され、意識は理由をあとからこじつけている。「逃げる相手を追う」は潜在意識で可能だが、思考が停止し『意味付け』ができなくなると「自分は今なぜ走っているのか?」という目的を見失い、行動の継続性が断たれるので逃走には有利となる。

 

「ほう……これもいいな。先生は本当に俺と相性のいい“個性”を持たせた最新型をくれたのか?」

 

 例えば『思考停止』させた相手に対して死柄木が握手しようとしたら反射的に握手を返そうとするかも知れない。『攻撃』的な行動は回避されてしまうが『一見友好的に見えるが危険な行動』だと思考できなくなるからだ。

 

「だからそう言ってるじゃないですか。お次は『ロケット』という一瞬で加速する“個性”です。元々は個性事故で死んだこの素体本来のものらしいです。微調整は出来ず2段階の速度しか出ないそうですが、即座にマッハ超えの速度を出せる切り札です」

 

 3段階目もあるがそれは第二宇宙速度(マッハ30超)である。それを使って持ち主が死んだので、文字通り死ぬほど速い。これを使って体当りしたらさすがの脳無も木っ端微塵だし命中すればオールマイトであっても大ダメージである。いやそこは生き物として死んどけよ。

 

「マッハ超えってそれじゃ抱えさせて逃げるとかしたら空気の壁でミンチじゃないのか。脳無は大丈夫なんだろうが俺や仲間は死ぬだろ」

 

「ええ。なので『真空』という“個性”も持っています。そして人間を抱えて飛ぶために調整しているらしいのでこれを使って逃げるときは『もっと急げ』みたいな追加命令はしてはいけないとのことです」

 

『真空』は持続時間が短いが攻撃は言うに及ばず炎・冷気・電気・音波など様々な攻撃を防げる非常に強力な攻防一体の能力である。ただし範囲に必ず自分が含まれ、広範囲に広げたあと解除すると中心部、つまり発動者に向かって空気がものすごい勢いでぶつかってくるので人間にはまともな運用が難しい。脳無でなければ活用しにくい“個性”だ。

 

「なるほど。急がせると脳無も俺もばらばらになるってことだな。分かった」

 

「あとは『ロケット+真空』による逃走は『真空に身を晒す』という別のリスクがあるので基本は殿に遺したこの脳無の逃走用と考えて余程じゃないかぎりそれ以外の用途では使わないほうがいいと言っていました」

 

 いい“個性”を詰め合わせてある。いつもの雑に強そうな“個性”を持たせただけの廃品ではなくしっかりとした運用目的のある『作品』なのだと分かった。同様の例に『対オールマイト用脳無』があるが死柄木にとっては失敗作なので記憶に残っていない。

 

「妥当だな。余裕があるときはコンプレスの『圧縮』とコンボ出来そうだ。あとで試しておくか」

 

「おお、いい考えですね! 流石です死柄木弔。あと挑発用に『悪口』という“個性”も持っています。ものすごく口が悪いらしいので興味本位で自分たちに言わせてみるとかは辞めたほうがいいらしいです」

 

 この“個性”は口を増やせるので『あくび』も加速するというシナジーもある。梅干しおじさんはこのように自分の体ではやりたくないコンボを実現させてニヤニヤしている。脳無自体がそういう『お楽しみ要素』も兼ねているのだ。

 

「……なんだ、本当にいいものなんじゃないか? こういうのでいいんだよ、こういうので。トゥワイスが『二倍』で増やせるようにこまめに測らせとかないとな」

 

 トゥワイスの『二倍』による脳無の運用はそれなりに大変だ。『二倍』にするには対象の詳細なデータが必要なのだが、脳無は劣化と再生を釣り合わせて維持しているのでしばらくすると中身が変化して『測り直し』が必要になるためだ。通常の人間よりもそのスパンは短く、劣化の激しい中位などはそれこそ毎日測り直す必要があるため、余程でなければ増やすのは『人間の仲間』のほうがいいのだが、これは手間をかけてでも増やす価値がありそうだ。

 

「だから言ったでしょう? あの方だってちゃんとあなたのことを思い遣っているんですよ」

 

 黒霧は根本がアホでお人好しなのでいつもなにか理由があるはずだとか本当は思いやっているはずだとかいう辻褄合わせを勝手にやるのでAFOも便利に思って徹底的にこき使われている。

 

「まあ感謝はしてるけどな。……いや、店の中に脳みそ丸出し放置はだめだろ。危ない。馬鹿につられて俺まで馬鹿ムーブするところだった。客観視、客観視っと……義爛にマスクでも作らせるか」

 

 実際に作るのは義爛ではない。仲介料を取られるので割高になるがどうせ他人の金なので死柄木は気にしない。義爛にとって死柄木弔はとてもとても上客である。

 

「はぁ……またいつもみたいな失敗作を押し付けてきたら突っ返してやるつもりだったんだがな」

 

「死柄木弔。それでは」

 

「ああ。説得するからトゥワイスとトガをここにつれてこい。トゥワイスは頼めば聞いてくれるだろうが……」

 

 トガヒミコがどんな駄々をこねるか分かったものではない。自分の血をよこせというくらいなら聞いてやっても良いと思ってはいるが、無理難題を押し付けられたら困る。

 

「また血を用意すればやってくれるんじゃないですか? 一旦飲めばしばらく落ち着くみたいですし」

 

「だといいがな。……なんだ、さっさと行け。何ダラダラしてるんだ?」

 

「あの……『馬鹿につられて』って、さっき私のこと馬鹿って言いました? ひどい。こんなに尽くしているのに……」

 

 よよよ、とわざとらしく傷ついたふりをする黒霧にちょっとイラっとした死柄木弔は興味本位で命令してしまった。「おい脳無、ちょっと黒霧の『悪口』を言ってみろ」と。そのせいで黒霧がしばらくバグってしまって死柄木はものすごく後悔した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「寮ですか」

 

 学生が夏休みの間も教師たちは働いている。ヒーローとしての仕事も増えるし、授業がない今のうちに二学期の準備をしておかなければならないのでなかなかに忙しいのだが、根津校長の呼びかけでぬるっと会議が始まった。議題は寮の設立についてだ。

 

「そうさ! 昨今の治安悪化、そして今後しばらくその傾向は続くであろう事を鑑みて、とりあえず選択制にして様子を見ようかと考えているんだがどう思うかな? 忌憚のない意見を聞かせてほしいのさ!」

 

 最近巷ではオールマイトの引退の噂が広まってきており、それだけでじわっと犯罪が増えてきている。無責任な噂だけでこんな状態になる現状だとおっさんもそりゃ引退渋るわな。

 

「どうせなら全寮制にしたほうがいいんじゃありませんか? 他所のヒーロー科も全寮制が多いですよね」

 

 例えば士傑高校などは全寮制である。登下校の時間がも゛ったいだいっ!! 雄英高校が自由な校風なら士傑高校は規律を重んじる校風で、寮も消灯時間になると電気自体が使えなくなる系の高校生にはきつい感じのやつである。なので士傑出身のヒーローは規律を重んじ……るようなことにはならず大体卒業後にはっちゃける。代表例はファットガム。

 

「最初からならともかく途中からの全寮制への切り替えは難しいんじゃないか?」

 

「寮自体はあるに越したことはないと思います。相談というより決定事項の気がしますけど」

 

「全員集合するでもなくその場にいる者だけに相談ってもう答え出てるパターンよね」

 

 この校長は結構そういうところがある。『ハイスペック』なので大体は独断で決めることが出来るのだ。とはいえ本『人』は自分の感覚がホモ・サピエンスとズレていないか確認するために意見を募る事が必要だと思っている。

 

「まぁね……寮自体は前々から検討してたんだけどタイミングが今なのはぶっちゃけとある一人の生徒向けの施策なのさ。詳細は伏せるが大物敵に目をつけられてしまったらしいから、雄英で保護しようって感じだね」

 

「もう誰のことか分かりました。伏せる意味あるのかしら」

 

 根津が教師陣に伏せたかったのは『AFO』の方である。このようにハイスペックけだものは誤魔化しも上手だ。愚かな人間を騙すことなんて造作もないのさ、ハハッ! まぁ敵が誰だろうとメスガキが危ない! って話にはならない。危惧すべきはメンタル攻撃とかそういうのだ。『AFO』はその点の危険性は『ほどほど』と言ったところか。『魔王のプライド』とかいうデバフに常時かかってるのでなりふり構わず振る舞う場合と比べて危険度がだいぶ下がっている。

 

「新斗さんですか。お家で一人なんですよね? いくら強いと言っても無防備なタイミングもあるでしょうし、いい考えだと思います!」

 

 13号は単純に「寂しくなくなるでしょうしいい考えですね!」という感じでぽわぽわした意見をニャースみたいな声で表明した。(※彼女は僕っ娘28歳)

 

「……あいつは自宅から離れたがらないと思いますが」

 

 なんで今聞くのかという理由が「イレイザーヘッドとミッドナイトが居るから」だと分かったわかるわけないだろおじさんはため息を付きながらも真面目に意見を言った。

 

「やっぱりかい? 相澤くんか香山くんが同居しようって誘ったらこっちに住んでくれたりしないかな」

 

「……めちゃくちゃだ。教師の仕事ですか? それ」

 

 流石にそれはライン超えじゃないのかと今更ながらに危機感を抱き出した相澤くん(遅い)。卒業後は関わりも薄くなるだろうとかこの期に及んでまだ思っていた唐変木である。メスガキはたったの4か月でもう雄英高校のことが大好きになっていて「ヒーローを引退したら教師になるのもいいなあ」とか思い始めている。オールマイトの新任教師丸出しの恥ずべき痴態を見ているので二足の草鞋を履く気は今のところない。

 

「私は歓迎ですけど、あの子はご両親との思い出が詰まった自宅をとても大事にしていますから難しいんじゃないでしょうか」

 

 ミッナイの方は卒業後も関わる気まんまんなので「ええやん」の一言だった。問題点といえば相澤の言う通りメスガキのほうが望むかどうかだ。割とお高い超電導リニアを使って600kmを超える距離を登校している筋金入りの自宅大好きっ子である。

 

「だよねぇ……どうにかしてあの子を雄英で保護したいんだけどなにかいい考えはないかな?」

 

 校長としてはこの長距離移動も不憫に思ってたりする。それとなく尋ねたところ遺産自体はハチャメチャにあるようだが、自分のわがままで消費が増えていることを気にしている素振りを見せたからだ。

 

「校長が思いつかないようなことを考えるのは難しいです……」

 

 13号(身長180cmの僕っ娘28歳独身)がニャースみたいな声で弱音を吐いた。僕っ娘やめて一人称「ニャー」にして語尾にもつけようぜ。

 

「『仮免』を取ったあとなら“個性”を使った移動の許可をこっちで取ってあげれば説得出来るかも知れませんけど、今は難しいんじゃないでしょうか」

 

 メスガキの移動速度のアホみたいな速さは既に周知だ。最高速を調べようとしてとりあえず本人に聞き取りをしてみたら「マッハ6500は出ると思います!」と返答が来たので実際の検証は行われなかった。全盛期のオールマイトの650倍である。『いつでも帰れる』なら軸足を雄英高校にしてもらうのは不可能ではないだろう。

 

「家ごと持ってくるしかないんじゃないですか?」

 

 ちょっと投げやりなイレ先。雄英の技術と権力なら出来なくもないのが恐ろしい。なんなら別にメスガキは自宅に居てもいいだろと思っているが寮の設立自体は合理的でいいと思ってるので水を差すようなことは言わない。

 

「それは最終手段かなぁ。それに周りの風景が変わるのも嫌がるんじゃないかい?」

 

 このように実行を真面目に検討されてしまう始末。合理性おじさんもハイスペックおじいちゃんも一周回ってバカなんでしょうねきっと。そのうち空でも飛ぶんじゃねえのこの高校。飛ぶんだよなぁ。

 

「ふむ……林間合宿は楽しんでいたようですし、案外すっと納得してもらえるんじゃないかと思いますが。彼女は『家族』を大事にしていますが同様に『友人』や『思い出』も大事にしているのですから『学友たちと三年間雄英の寮で過ごすこと』も喜ぶんじゃないですかね?」

 

 ブラキンから見たらそういう印象のようだ。そもそもブラキンは相澤が「安全のために寮で暮らすべき」と懇懇と説教すればメスガキは涙目になって「はい……」と了承すると思っている。そしてそれは正しい。つまり相澤はそれをやりたくないのだ。

 

「なるほど! その提案の仕方は良さそうさ! となると他の生徒達もできるだけ寮に入りたくなるように、そして親御さんたちも寮に預けたくなるように施設や環境を充実させないとね!」

 

 根津校長が欲しかったのはそういう『それっぽい理屈』だ。メスガキは賢いので『ゴネると相澤が不本意なことを言わなければならなくなる』ことを察してすぐに納得するはずだと根津は予想している。なので移動させること自体の目処は既に立っていたのだが、ハイスペックが導き出す『最適解』が『正解』とは限らないのが人間の難しいところである。

 

「私最近家バレしちゃったから引っ越したかったんですよね。教員向けの棟も作ってください。資金も出しますよ? またポケットマネーでやる気でしょう」

 

 まぁ熱くなったファンが凸してくるくらいはミッドナイトも笑顔で応対できるが(ヴィラン)がぶっこんできたら近所迷惑なので……。有名ヒーローはセキュリティの問題もあって自宅兼事務所も多いのだが、ミッナイはプライベートときっちりわけたいタイプなので億ションを転々としてるのだ。

 

「教員棟か、いいね! 実際に警備とかをさせるわけじゃないけど、宣伝文句として使っちゃおうかな。『現役ヒーローも暮らしています』ってさ! それに相澤くんも仮眠室ばかり使ってないでちゃんとした家を持つべきだしね」

 

「……雄英の教師はそれなりに入れ替わりが激しい。死傷は言うに及ばず、セカンドライフだのFIREだので引退することも多い。人員の確保のためにも拠点を用意しておくのは合理的です」

 

 微妙に話をそらす相澤くん。トレーニングルームにベッドが置いてあるだけというクソみたいな自宅は持っているが教師になってからは殆ど帰っていない。立地が便利なので維持はしているが。この件は校長にたまにチクチクやられるのでうんざりしている。「Ms.ジョークとはどうなの? ミセスにしてあげてマイホーム持ちなよ」とかいうセクハラもクソだるい。根津校長には『同種』がいないのでそういう話をあんまり強く拒絶するのも気が引けて本当にしんどいのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リノちゃん、響香さん、本日は我が家のホームパーティーにようこそおいでくださいましたわ。気軽な立食形式ですのでごゆるりとお楽しみくださいませ」

 

 言葉とは裏腹に会場はくっそ豪華である。八百万家の邸宅は別館や講堂があるレベルなので当然パーティー用の建物もある。ここはそんな施設のうちの一つ。ホームパーティー用の気軽な空間、という事になっている。ヤオモモは夏休み中の予定はギチギチに詰まっており、なんとか会う機会を捻出したのが今回のご招待である。つまり二人以外の招待客も普通にいる。どこらへんがホームパーティーなんですか? 自宅でやるから? 

 

「お招き頂きありがとうございます……? いやー、本当にレベチだね……コミックの中に入ったみたい」

 

 氷でできた彫刻の周りになんだかよく分からないけど美味しそうなものが並んでいるのを見て響香は小学生みたいな感想を漏らした。よそ行きではあるものの、いつものパンクファッションなので浮いてしまってちょっと困っている。気軽なホームパーティーですのでいつもの服装で、と言われていたのだ。

 

「本日は格調高き八百万家にお招きあずかり、感謝に堪えませんっ! 末席を汚すこと、平にご容赦いただきたく存じますっ!」

 

 メスガキはいつもドレスみたいなゴスロリファッションなのでむしろガッツリ馴染んでいた。普段はちょっと浮いてるとも言える。仰々しい言葉に加えて完璧な角度のカーテシーまで披露してごきげんである。

 

「あの、そのように堅苦しくなさらずに。マナーや作法と言ったものはゲストの方をおもてなしするためにあるものです。お二人に楽しんで頂けなければ本末転倒ですから、緊張せずにリラックスなさってくださいまし。家人一同にもしっかりと言い含めてありますので」

 

「そ、そう? でもまぁホラ、そういうのもお楽しみの一つみたいなとこあるじゃん? ヤオモモこそそんなに気にしないでよ」

 

「そうだねーっ! ボクの完璧な作法をお見せするよ? ふふーん!」

 

「まぁ……うふふ、でしたら少しの間そのように振る舞ってみましょうか」

 

 そこからはちょっとしたお嬢様ごっこが始まった。ヤオモモだけではなくメスガキも作法やマナーは知っていたようで、響香ちゃんに教えたりメスガキがベラベラと解説をしたりで少しずついつも通りの空気になっていった。ヤオモモはこうした時間を大変楽しみにしている。価値観が違うながらも、それが心地よいという感覚。海外の上流階級のみが通うヒーロー学校ではなく、雄英高校を勧めてくれた両親には感謝しきりである。そのおかげで本当に素晴らしい友人たちと巡り会うことができたと感じている。

 

「このくらい覚えておけばひとまずはよろしいかと思いますわ。とはいえ作法の基本は気遣いですので、形式よりも真心が大切だということさえ覚えておけば問題にはなりませんのよ。むしろマナー違反だ、作法がなってない、という指摘こそがしてはならないことです。相手に合わせた饗応が出来ていない事を恥じるべきなのですから」

 

 つまり例えばメスガキが完璧に振る舞って響香がしょんぼりしたらゴミマナーということである。心地よい空間を作るための作法を相手に恥をかかせるために使うことは全くの心得違いであり、究極の逆効果だ。

 

「良くわかんなかったらとにかく自信たっぷりにしてればいーよっ! おどおどしてると何やっても様にならないからねっ」

 

「リノちゃんはいつも気高くしっかりと前を見据えていて、見ていて気持ちが良いですわ」

 

 ヤオモモは一時期メスガキと自分を比較して落ち込んでいたが、今はむしろ発奮している。これまでの人生において八百万百は常に同級生たちより優れていたが、だからといって他者が不要になっただろうか? いや、そうではなかった。それどころかむしろ立場が上になればなるほど他者の助けが必要になっていった。勝者と敗者、どちらも味わったことで能力が劣っていることは他人の助けになれないということとイコールではないと確信を持つことができたのだ。比較対象がバグみたいなチートなのにしっかりと糧にできてえらい。

 

「プロヒーローもいっぱい来てるね」

 

 落ち着いてくると周りも見えてくる。会場(ホームパーティーなのに)では響香も知っているような有名ヒーローが挨拶し合っていたり雑談しているのがちらほら見える。

 

「そうですわね。スポンサードしているヒーローの方などもいらっしゃいます」

 

 とはいえホームパーティ()なので八百万家の誰かと個人的に親しい関係性のあるヒーローばかりだ。にもかかわらずランキング2桁のヒーローがそれなりの数来ているのはマジやべえ。

 

「ヤオモモんちってどんな仕事してるの?」

 

「様々な事業を展開しておりますのでこれというのは難しいですわ。グループではなく我が家としてですと研究職でしょうか……?」

 

 八百万財閥の中核を為すヤオヨロズ・インダストリーはモモちゃんの両親の特許で動いていると言っても過言ではない。単に名門の一族に生まれたというだけではなく個人としても優秀なのは娘と同じである。ちなみにこの常識外れの金持ちぶりでありながらここは本流ではない。分家というわけでもないが、財閥全体の中核である次世代の跡取りはアメリカで既にバリバリ活躍している。余程のことがなければヤオモモ本人にお鉢が回ってくることはない。本人の夢とはいえ、一人娘に危険なヒーローをやることを許せるのはそういった事情があるからだ。ヤオモモパパがそういうポジションになりたくて頑張ったとも言う。

 

「あっ! 13号先生だーっ! モモちゃんちは先生のスポンサーもしてたの?」

 

「いえ、13号先生は業務提携という形ですわね。扱いの難しい廃棄物を『ブラックホール』で処理していただいておりますのよ」

 

 光も塵に出来るスーパーチート“個性”の『ブラックホール』。最悪メスガキもぶっ殺せるだろうという血も涙もない保険として扱われていた時期もあった悲しき女、『黒瀬(くろせ) 亜南(あなん)』。リスクヘッジって大事だからしょうがないね。そりゃあ無根拠に受け入れたりしないよ、他の生徒の安全も守らないといけないので。当然13号はそんな事知らない。もはや形骸化したこの対策は根津校長の胸にしまわれて、永遠に表に出ることはないだろう。

 

「ちょっとお話してくるねっ!」

 

 何も知らない、知る必要がないメスガキは「ツッテケテー」とにこにこ顔で13号のもとに向かうことを宣言する。

 

「失礼のないようにね」

 

 響香ちゃんはすすっと自分に寄ってきたメスガキの頭部をさらっと一撫でするともうすっかり定着してしまった保護者目線で見送った。

 

「いってらっしゃいませ。あ、そうですわ響香さん、もしよろしければこの後の余興で……」

 

 ヤオモモはそれをちょっとうらやましそうに見送ったあと、いたずらっぽく笑って響香に提案を持ちかける。いつか機会があったら、と言っていたお遊びの実行のチャンスだ。

 

「13号せんせーっ!」

 

「おや、新斗さん。君も来ていたんですね」

 

 パーティーなので13号も当然のごとくドレスである。夜空を切り取ったようなネイビーのミディ丈のカクテルドレスに星を散りばめたように輝くシルバーのショールを纏っている。身長が高いので靴は踵の低い銀色のパンプスだ。

 

「はいっ! モモちゃんに招待してもらって響香ちゃんと来ましたっ! 先生もモモちゃんの招待なんですか?」

 

「ええ、そうですよ。ちょっと美味しいものが食べたくなっちゃって甘えることにしました」

 

 見た目は深窓の令嬢みたいなのに出てきた言葉はぼへぇーとしていた。13号はまぁまぁ高給取りだが休日は家でのんびり溜まったドキュメンタリー番組を日がな一日中見るというインドアな生活をしている。博物館巡りも好きだが最近は忙しくてあまり遠出を出来るタイミングがない。なので割と近所で行われる八百万家のパーティーはちょっとしたお出かけにちょうどいいと思って参加した天然ガールだ。ガール? 

 

「夏休みは先生方と会う機会が減ってさびしーです~!」

 

「それならもっと学校へ来ても良いんですよ。雄英が生徒を拒むことはありません。訓練施設だって開放されていますし、夏休みは2~3年生が大体インターンしてますからかなり好きに使えますよ」

 

 普段は施設のレンタルはそれなりに混んでいる。長期休みはインターン先も人手が欲しいので歓迎してもらえるためアテがある生徒は大体がインターンに行っていて予約が空きやすいのだ。

 

「響香ちゃんやモモちゃんが使うときに一緒に行こうかなぁ? ありがとうございますっ!」

 

「……ところで新斗さん。君の“個性”についてですけど……」

 

 13号は良い機会だと思ってずっと気になっていたことを聞いてみることにした。『あの日』の出来事はやはり彼女がなにかしたのではないか、という考えはメスガキのことを知るにつれて強まっていった。

 

「や~ん♡先生ってばこんなところで大胆っ! あの場所での事ならご想像どおりかと思いますよぉ」

 

 メスガキは指を唇に当てながらポーズを決めて13号に向けてかわいこぶった。具体的な言葉はまだ出していないのに、その返答は13号の聞きたいことを的確に回答していた。

 

「やっぱり。ありがとう新斗さん。君が居なかったら僕はどうなっていたんでしょうね」

 

 少し緊張していたようだった13号はほっとした様子で、惑星のような瞳を煌めかせ笑顔でお礼を言った。メスガキが自身の“個性”の詳細を隠したがっていることは雄英高校の教師なら全員知っている。それでも良い、と思っている。必要になればメスガキの方から開示してくるだろうと考えているのだ。だから曖昧な言い方をされてもそれ以上の追求はしなかった。

 

「起こらなかった出来事のことはもういいじゃないですかぁ。13号先生の『ブラックホール』は人を傷つけない優しい“個性”ですっ!」

 

 メスガキは何の緊張もなく13号のサテンのオペラグローブに覆われた指先に触れた。13号の“個性”を知りながら『手』に触れることができるものは多くない。どれほど安全だと思っていても、だ。虚を突かれた13号は一瞬だけ固まった。

 

「君って子はほんとにもう。……「ダークマター」だって君の優しさこそが温かい力にしているんです。忘れないで。僕はそれがとっても偉いことだって知ってますからね」

 

 そこにあったのは教師としての信頼と愛情、そして黒瀬亜南としての共感だった。指先をふにふにとしてくるメスガキに合わせて指を動かしぷにぷにとつまみかえす。

 

「えへへ……ねぇねぇ13号せんせー! Shall we dance(一緒に踊りませんか)?」

 

 ゆったりとした生演奏の音楽が流れ始める。それを聴いてちょっと照れくさそうに離れたメスガキが往年の名作映画の言葉を茶目っ気たっぷりに放つと13号もくすくすと笑った。

 

Sure(はい), I'd love to(よろこんで)……って演奏してるの八百万さんと耳郎さんですか。ふふ、本当に仲良しですね、君たちは」

 

 メスガキと僕っ娘28歳は響香のギターとヤオモモのヴァイオリンが奏でるメロディーに合わせてチークダンスを踊った。なんとなくメロディーに合わせてゆらゆらと揺れるだけのそれ。メスガキのハイヒールを含めてすらあまりにも身長差があるのでめちゃくちゃ密着することになったが、メスガキは大変満足そうだった。

 




独自設定とか

・ご応募いただいた個性:ちょこちょこ調整してます。許して。
・意識について:分離脳実験とか受動意識仮説とか。怖いよぉ。
・メスガキ対策用脳無:皆様のお陰で弔くんはご機嫌です。かわいいね。
・二倍の運用:トラウマ解消のあと脳無増やせば勝ってたじゃん?に回答するための捏造。え、ギガントマキア?サイズ可変だから無理なんじゃね?
・バグ霧:チガう……そんなんジャナイ……オレは……。
・寮:前々から検討していたのは原作通り。タイミングが今なのはまぁうん。分かるでしょう?
・選択制:狙われてる生徒がバグみたいな個人だから……。
・士傑が全寮制:捏造。でも寮でしょ。
・魔王のプライド:なんか変な行動しても魔王のプライドのせい。
・ニャースみたいな声:おミャーの“個性”危険すぎじゃないかニャ?
・わかるわけないだろおじさん:わかるわけねーだろ。
・それ教師の仕事?:違いますね……。
・ミッドナイトの家:捏造。まぁでも億ション住んでそうじゃない?
・相澤の家:ヴィジランテでちらっと出たトレーニングルームみたいなやつを自宅と設定。
・校長のセクハラ:超高齢だから身内へのコンプラ意識がちょっと緩い。外向けは完璧にアプデできてる。
・スポンサード:捏造だけどこの世界の広告はヒーローがやるもんなのであると思います。
・八百万財閥:『ヤオヨロズ・インダストリー』を頂点とした一大コンツェルンであり、事業領域は多岐にわたるコングロマリット。
・メスガキぶっ殺し隊:総勢一名を勝手に任命!腹黒マウス!
・顔出し13号:別にこだわりがあって隠してるわけでもないぽいので。
・ガール:ガールだろ(威圧)。え、レディ?それならヨシ!
・Shall we dance?:みんなしってるね。見たことないって?俺も。
・はいよろこんで:リメイク版でそう返事したらしい。
・ギターとヴァイオリンの曲:パガニーニの『カンタービレ』。パブリックドメイン。
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原作のあらすじすら怪しいような転生オリ主の勘違いから始まる、僕と私のヒーローアカデミア。


総合評価:7150/評価:7.93/連載:16話/更新日時:2026年02月04日(水) 06:00 小説情報

個性『ウマ娘』でヒロアカ世界の最速を目指す 〜転生したらステータスが見えたので、限界突破してヒーローになります〜(作者:雪乃 宿海)(原作:僕のヒーローアカデミア)

超常が日常となった世界。 ヒーロー社会に転生した私の個性は、ただの「馬」……の異形型だと思っていた。▼しかしある日、前世の記憶が蘇ると共に気づいてしまう。▼視界に浮かぶステータス画面。習得するスキル。▼私の個性はただの馬じゃない。あのゲーム『ウマ娘』のシステムそのものだった!?▼「……はは、これ。……笑えないくらいのチートじゃん」▼主人公「駿河天馬」が、スピ…


総合評価:3689/評価:7.06/連載:21話/更新日時:2026年02月24日(火) 14:55 小説情報


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