ボクのヒーローアカデミア くらっしゅ!!   作:ぺぺぺぺぺぺぺ

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間に合ったな(サム8構文)


『いかなる問題も、それを作りだした時と同じ考え方によって解決することはできない』

「……本当に大丈夫なんだろうな?」

 

「ああ。もちろん100%なんてことはないが、少なくとも俺は確信しているよ。組長はお前を許す……いや、お前が『反省』して『誠心誠意謝罪』すれば『許さざるを得ない』ってことをな。なぜなら組長は『侠客』だからだ」

 

 治崎廻にとっての聖域……組長の眠る部屋。そこに死柄木弔は入室を許されていた。別についてこなくても問題ないんだけど治崎が来て欲しがったので。自分一人で目覚めさせる勇気はないらしい。クソ雑魚ナメクジ……。

 

「おじいちゃん……」

 

 その言葉を聞いて治崎はイラッとしたが頑張って堪えた。怒るな俺。冷静になれ。そんなものはただの立場だ。

 

「エリはこの爺さんと接触させてないのか?」

 

「別に俺が何をするまでもなく、組長(オヤジ)はエリに関わろうとしなかったよ。おそらくカタギとして育てたいから俺に預けて──」

 

 言葉にすると色々と気づくことがある。治崎は自分のあまりの愚かさに目眩がした。

 

「……お前さ、本当に頭悪いんじゃないか? お前が余計なことをするまでもなく組長はエリを手放すつもりだったわけだろ。すでにやらかしてたから引っ込みがつかなくなったんだろうが、お前がすべきことは組長を眠らせることじゃなくてエリを大事に育てることだったわけだ。ま、今からでも遅くないだろ。研究の進捗にもよるだろうが、黒霧なら小学生レベルの教育なんて余裕だ。なんせ俺を育てたんだからな」

 

 治崎は「それって大丈夫なのか?」と思ったが壊理がどこかに行くならどうでもいいことなのでツッコまなかった。実際黒霧の教育はまぁまぁハイレベルだ。小学校の先生位は余裕でやれる。能力的にも、メンタル的にも。

 

「俺も黒霧に時々勉強を教えてもらってるぜ。学ぶって楽しいよな。学校も通ってみたかったなァ」

 

 キメラは大体小学校3年生くらいの学力である。もちろん単純に算出できるものではないというか、部分的には高度な知識──火の扱いに対する経験則とか──を持っているので愚かではないが、漢字の読み書きなんかが大体そのくらいのレベルだ。

 

「ヴィランアカデミアってか。目的達成後に金が余ったらどっかにメガフロートでも作って開校するのもいいな。現役犯罪者でも学べます、ってな感じで」

 

「!!! そ、そんな学校あったらいいよなァ! アオーン!! ナイン! 早くナインを見つけて教えてやりてぇよ! ナインと一緒に学校に通えたら……ああ、どんなに素晴らしいだろう!?」

 

 強者のための世界をつくるんじゃなかったのかい、キメラくん。まぁお前はあんまり乗り気じゃないもんな。ナインとスライスが納得してくれたらすぐにでも南の島に引っ込みたいわんこだし。

 

「犯罪なんて馬鹿がするもんだからな。俺も他人事じゃないし……まずは馬鹿をやって世の中を変えなきゃ絵に描いた餅だが……おい、まだか治崎。いつまでグダグダしてやがる」

 

「うるさい……集中させろ……」

 

「何が集中だよ。部屋の中をウロウロしてないでさっさと『オーバーホール』しろ」

 

「……本当に組長(オヤジ)は俺を許すのか……? ありえないだろ……? 決め事は破られて、孫娘を痛めつけられて、自分は寝たきりにさせられて、それなのにまだ何も成せてない……こんなの許されるわけがない……」

 

「いいや許すね。お前『侠客』ってなんだと思う?」

 

「なんだと言われても……創作にしか存在しない架空のヤクザだろ? まるでヒーローじみた行動で……だからこそ『ヒーロー』どもに居場所を奪われたんだろう」

 

「お前もうちょっと組長の芯に興味を持ったらどうなんだ? ……いや、違うか。目覚めさせて本人に直接聞くのが一番いいが……侠客にとって重要なのは『義侠心』だ。強きをくじき、弱きを助ける、ってやつだな」

 

 偉そうに言ってる死柄木だが情報ソースはゲーム……●が如くである。ただまぁゲーム知識であっても組長の行動に関する分析については治崎より圧倒的に解像度が高いと言えるだろう。なんせ組長はまさにそういう創作の存在のようになろうとして頑張ってる人なので。

 

「……そうだな。組長(オヤジ)はそういう人だった……行き場のない孤児だった俺を憐れみ、家族にしてくれた……」

 

「お前は組長の対応を自分を基準に考えてるだろ? そうじゃなくて『侠客』として考えろ。反省して自らを起こした義理の息子……そいつは罪悪感いっぱいに謝罪してくるわけだ。組長が、お前が散々自慢してきたような器の大きい侠客ならこう言うだろう。『そうか、分かってくれたんだな。それならいい』ってな。自分がされたことなんて組長は気にしない。反面絶対にお前を許さない部分もある。なんだか分かるか」

 

「…………ああ……エリのことだな…………くそっ……」

 

「違うぞカス。いや、含まれているという意味ではあっているだろうが……組長が許さないのはお前がこれからもクソみたいな行動を続けることだ。求めるのは成長、つまり真の反省だな。二度とこんな事を繰り返さない、という確信を得ることができれば、組長はお前を許し……お前の罪を一緒に背負うだろう。それが侠客としての責任……義理人情ってやつだ」

 

「なん……だと……」

 

 一緒に罪を背負う。それは治崎にとっては、そうなってほしくない未来だ。だって治崎は、全部自分が背負うつもりだったのだから。成果だけを組長(オヤジ)に残して、自分は消える。死ぬのか捕まるのかは分からないが、どちらでもいい。どうでもいい。自分のことなど。

 

「自分がどれだけ愚かなことをしていたか分かったか? ゴミカス。お前の行動、お前の与えた損害に被害、お前が他人に与えた苦痛や迷惑、それら全てを組長は背負うことになる。侠客だからだ」

 

「あ……あ……あああああああ!!!!」

 

「カッとなってやらかした自覚があったくせに行動を改めないからそうなる。過ちは誰でもおかすが、そこから反省しないことが本当の過ちってことだ。聞いたことくらいあるよな?」

 

「うぅぅううぁあああ……お、組長(オヤジ)……俺が……俺のせいで……?」

 

「やっちゃいけないことはなんでやっちゃいけないか分かるか? 責任が取れないからだ。組長の定めたルールはな……『責任』を背負うためのものだ。見なくても分かるぜ。組長は背中に入れ墨してるだろ」

 

 完全に龍が●くの文脈で現実のヤクザからはちょっとズレているのだが、だからこそ治崎は驚愕した。見たことなどないはずの入れ墨の位置を言い当てた……つまり組長に対する理解度の高さを思い知らされたからだ。まぁ実際に推測で当ててるけど、組員に聞けば分かることだぞバカガシラ。お前はコミュ障だからそんな事もわかんないだろうけど。

 

「組員の奴らに話を聞いたが、組長は俺の同志だ。同じ志を持つ仲間だ。お前には分かんないよな、世の中の端っこでコソコソするしかない弱者の気持ちなんてよ。お前が食い物にしてきている奴らをこそ、組長はすくい上げたいんだぜ? 親不孝ここに極まれりだな」

 

 絶望のうめき声をあげる治崎。精神崩壊してもおかしくない衝撃でもまだそうなっていないのはひとえに組長(オヤジ)を治療するためだ。少なくともそれだけは絶対に成し遂げなくてはならない。それは治崎に残された最後の人間性……あるいは愛情。どれほど冷酷だろうと、どれほど残忍だろうと、自らの内にある愛に抗えるものなどいないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんにちはー! 1位の人! 私と組みましょう!」

 

 雄英体育祭の騎馬戦のチーム組みのさなか、チームを組んだメスガキに明るく話しかけてきたのはメカニカルなゴーグルを付けたピンク色の髪をした女の子だった。

 

「ん? え、何?」

 

「誰~? 初対面でいきなり組みたいって何が目的~?」

 

 戸惑う響香とは対象的にメスガキは「やっぱり来たか~」みたいな顔をしながらつまらなそうに返答をした。

 

「サポート科の『発目 明』と申します! 組みたい理由ですか!? それはもうド派手な〝個性〟に1億P所持なんていう否応なしに目立つ立場を利用させてもらうためですよ!」

 

「正直者だね。リスクもデカいと思うけどその辺りはどう考えてるの?」

 

 雄英体育祭は興行でもあるが、生徒たちの宣伝(アピール)の場でもある。ずいぶんとあけすけだが、このハイリターンだがハイリスクな場に参加しようというだけのものを持っているのか。響香が聞きたいのはその覚悟だった。

 

「貴方の目立ちっぷり、利用させてください! この体育祭の台風の目は貴方です! 会場中の注目が集まる貴方と組めば私のドッ可愛いベイビーたちが大企業の目に留まるわけです!」

 

「ベイビー? 赤ちゃん運びはもう終わったけど……聞いてる?」

 

 響香の質問には一切反応せずメスガキにだけ話しかけ続ける発目。

 

「…………」

 

 つまらないを通り越して非常に冷たい雰囲気を纏うメスガキ。くすんでぼやけた灰色の瞳はその心情を雄弁に物語っていた。

 

「私と貴方が組めば無敵です! あらゆる〝個性〟に対応できるようベイビーたちをたっぷりと持ってきています! 例えばこのジェットパックで貴方の飛行についていくことも──」

 

「失せろ」

 

「り、リノ?」

 

 どんっ! と効果音でも出そうな覇気を感じる言葉だ。近海の主であっても尻尾を巻いて逃げ出すであろう迫力である。響香ちゃんもびっくりしてる。だってリノ……胸が!! (ブーメラン)

 

「だめですか!? ではこれなんてどうでしょう! このアタッチメントバーは一定速度以上で接近する物体を感知すると自動で──」

 

 身に付けたサポートアイテムの説明をしつつ、だばっと発目が広げた道具の数々を一瞥するとメスガキは冷たく言い放った。

 

「5秒後には全部動かなくなる。5。4。3──」

 

「……失礼しましたー! それでは!」

 

 発目はこれ以上食い下がっても無意味なことを悟り素早くアイテムをまとめるとスタコラサッサと立ち去り、次に注目を集められそうな2位……はすでに4人で組んでいたので3位の人物のもとへと急いだ。

 

 

 

 

 

 

「という感じでけんもほろろでしたね! なんだかとっても嫌われちゃいました! いやー、怖かったです!」

 

 サポート科の寮の地下エリア、開発室。発目は訪ねてきた先輩たち……通形ミリオと『絢爛崎(けんらんざき) 美々美(びびみ)』に向かって改めて経緯を説明した。簡単な説明は以前も行ったが、今回はもっと詳細に語っている。

 

「コエー! やっぱ親友の耳郎さんを無視されたのが腹立たしかったのかな! 俺も環をそんなふうに扱われたら組みたくないなって思うだろうし!」

 

 冗談めかして怖い等と言っているが実際に危険だった事を二人は知らない。この時期はまだ入学したてでそれほど雄英への愛着もないので『サポートアイテムの爆発による事故』なんてものが起こってもおかしくなかった。『機械が動作しない』『立ち去らなければそうすることを予告する』という穏便な対処まで危険度が下がったのは全部砂藤力道さんのおかげじゃないか! 挟んでおいたよ。『相手が悪いからってこちらも悪いことをしていいわけじゃない』という教えをね。まぁ『力で脅すと孤独になるぞ』という教えが拒絶のために逆用されちゃってるけど。

 

「そうですわね……それだけではなく、私が思うに『立場の利用』自体も良く思っていないのではないかと。ご両親のことや遺産のことで色々とあったようですし……」

 

 メスガキとそれなりにプライベートな話もしている絢爛崎はかつて聞いた『親の遺産目当てで知らない親戚が増えた』とかいうおぞましい話を思い出していた。

 

「あー! なるほどね! うちは一般家庭だからピンとこないけどお金持ちだったりすると大変そうだよね、そういうの!」

 

 メスガキママは一代でドチャクソ稼いだので色々あったんですね。パパはそんなママを献身的に支えたボディガードの人だったり。『警報(アラート)』っていう〝個性〟を持っていてこっちも高給取りだったので遺産はマジですごい。まぁ八百万とか青山とか絢爛崎とかの代々の金持ちとは格が違うけど。言ってみればそういうのの『初代』だから代々続くような家系には流石に及ばない。

 

「体育祭があった6月はまだ明はかなりのコミュニケーション不全でしたから無理もありませんね。最近は少しはマシになってきたのですが……」

 

「絢爛崎先輩のおかげです! いつもありがとうございます!」

 

 発目はピシッとした姿勢で立ち上がったかと思うときれいに45度頭を傾けてお辞儀した。以前絢爛崎に習った最敬礼の作法だ。言葉の通り心の底から尊敬し、感謝しているようだった。向けられた頭がくさかったので絢爛崎は「お風呂もちゃんと入って……」と内心で思ったが異性である通形がいるので口にはしなかった。明ちゃんだってお風呂入らなきゃとは思ってるんですよ。まとめて入ったほうが効率がいいと思ってるだけで。

 

「俺の名前はそろそろ覚えてくれたかな!」

 

 通形は「この子くっさ! お風呂入ってないんだろうか!」と思いながらそれをおくびにも出さず朗らかに話しかけた。

 

「通形先輩ですよね! 以前お伺いした貴方の髪を原材料にした繊維で抗菌・殺菌効果のある手袋を作ってますよ! 交換ではなく現在の手袋の上を更に覆ってくださいね! はい、どうぞ! これで『透過』を使って内蔵を直接叩けますね! おすすめは腎臓です!」

 

「まさか俺用のアイテムを作って名前を覚えるとは恐れ入ったんだよね!」

 

 残虐ファイトすぎて使う機会が来ないといいなぁ、と通形は思った。そもそも内蔵パンチは感染症以外にもミリオが自信を持って打てないという問題もある。個人差のある内臓の位置や皮膚の厚さなどを考慮しないといけないわけだが、戦闘中にそれらを把握するのは難しい。つまり実際に使用する機会が来てしまったらそれは『相手が死んでも構わない』という状況である。でも備えないのもね……。ちなみにこのアイテムは発目が勝手に作ったやつ。一応(勝手に取り寄せた)ミリオの髪を加工した繊維の使用許可は求められたが、それがついさっき。つまり実作業はほんの数十分ということだ。天才かよ。

 

「すみません! どうしても名前を覚えるのが苦手でして! サポートアイテムを作った人のことは忘れないので作らせていただきました!」

 

「明。ちゃんと届け出は提出していますか?」

 

「……書類は書いてます! パワーローダー先生のところへ行ってきまーす!」

 

 パワーローダー先生もきっと思うだろう。「発目、風呂に入れ」と。でも言えないんだ……セクハラになっちゃうから……。くっさ……。あと今提出した所で許可出るまで2~3日かかるんだけど。

 

「ああもう、全く。通形さん、申請が通るまでそのアイテムはこの部屋から持ち出さないようにお願いしますわ。……あの子はまさに天才なのですが、美点も欠点も特大ですわね」

 

 以前に聞いたときよりかなり客観的に話せていたことに後輩の成長を感じる絢爛崎。まぁそもそも揉め事になったのは冷徹に計算してメスガキだけターゲッティングしたわけではなく興味があるのがメスガキだけだったというコミュ障っぷりが原因なのでそこは日頃からお説教しているんだけど。発目は天才なのである程度はなんとかなるだろうが、将来トップ争いをする際にはこういうところで差がつく。天才なのは前提の世界、発目はそこに到れると絢爛崎は信じている。目下のライバルはデヴィット・シールドだからな。彼が特許を持つ圧縮技術はもはや今後の世界のスタンダードとなることが確定的だ。つまりすでにイノベーションは社会にもたらされ、今浸透しつつある過渡期である。

 

「絢爛崎さんも相当だと思うけどね! 自己管理の鬼! それにド派手にやるのはサポート科を始めとするみんなのためだろ? かっこいいよね!」

 

「そのようなつもりはございませんわ。勘違いでしてよ」

 

「しらばっくれるなら「何の話ですか?」とか言わないとね! 話が通じちゃってるのが分かってやってる証拠になっちゃうよね!」

 

 語るに落ちるというやつだ。普通科や経営科、サポート科にはそれなりの数の『ヒーロー科に入れなかった』人物が存在する。『経営』や『ものづくり』が大好きで仕方がない、という強いモチベーションを持って入ってくる人物は高校生ということを鑑みればかなり多くはあるが、併願してヒーロー科ではない方だけ受かった、という生徒もそこそこいるのだ。そんな生徒は「やっぱりな」と思いつつもやはり胸にモヤモヤを抱えているわけだが、絢爛崎はそんな人物に活を入れている。『背中を丸めて縮こまってんじゃねえ』と。

 

「……すでにプロのサイドキックとしても実績のある通形さん相手に腹芸は通用しませんでしたか……吹聴するのはご遠慮くださいます?」

 

 ヒーローより目立ちたいなら目立てばいい。やり方はこう。おわかりいただけましたかしら? オーホホホホ!!! さぁ、アナタがたも勇気を出して! 恥ずかしいことなんて、何一つありませんわー! そんな秘められた(?)想いが放つ熱に当てられて、彼女にはすでに校内にファンが多数いる。ミスコン2連覇は伊達ではない。単に派手さが面白がられているというだけではなく、内にある信念こそが彼女の行動に力を与えているのだ。

 

「レディの秘密を喋って回る趣味はないんだよね! 頑張ってる人を応援したいなって思っただけだからさ! ……あの子達もなんとかなるといいんだけど」

 

「黎乃さんは私にはゴージャスで可愛いところしか見せてくれないのでなかなか取っ掛かりが掴めませんわ……」

 

 寮生活が始まり、他寮とも交流できると聞いた絢爛崎はすぐに新斗黎乃に会いに行った。そのときは発目とメスガキが険悪なことは知らなかったので単に「後輩にきらびやかな女の子がいるから仲良くなりたい」というシンプルな動機だった。独自の世界観を持ちそれを表現する女性。表現者だった母をどこか思い出させてくれる、そんな絢爛崎にメスガキはすぐに懐き、話はとても盛り上がった。何度かのやり取りののち、絢爛崎は厚意で一番優秀なサポート科の後輩……発目明を紹介した。きっと同じ天才同士、話も合うだろうと予想して……。その結果、塩対応のメスガキと先輩の顔を立てようと色々と話しかけるが全て空振りする発目という地獄のような空間が発生した。

 

「絢爛崎さんが気にしてるって伝えたときは複雑そうな顔してたから話すだけでも響いていくと思うよ!」

 

「……そうだといいのですが……ふぅ……明にあまり改善の意思がないのもなんだか虚しくなりますわ……」

 

 発目本人は「へー。そうなんですか」くらいの問題意識で、改善の必要性を感じていないらしいのも解決を難しくしている。ちなみに発目の誕生日は4/18でつまり遅生まれアド持ちです。どっかのモンキーを思い出しますね。自分勝手なのもそっくり。

 

「俺は少し違う意見かな! 興味ないことはすぐに忘れちゃうあのこがあんなに詳細に説明できたってことは、強く印象に残ってるってことだろ?」

 

「……なるほど! 流石は雄英ビッグ3! 鋭い着眼点ですわ!」

 

 言われてみればその通りだ。発目は非常に賢いがその頭脳は発明・開発に全振りされていて以前した話を頻繁に忘れていたりする。そんな彼女が表情の変化なども細かく覚えていたのは何らかの思うところがあるのだろう。

 

「一足飛びに解決しようとすると足元がおぼつかなくなるんだよね! 堅実に行こう!」

 

 発目がメスガキに拒絶された理由はいくつもあるが、そのうちの一つに「くさい」というものがある。男女の体臭は結構明白に違うが、一般的には風呂キャン数日程度であれば男性のほうが臭い。これは男性の皮脂の分泌量が女性の数倍あるためだ。しかしメスガキのような優れた嗅覚を持つ存在にとっては女性の方がくさい。こう、男性は『面』の臭さで女性は『点』の臭さというか。犬とかがどういう反応をしてるか思い出したら分かると思います。これ以上詳しく知りたいへんたいふしんしゃは自分で調べてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん? こりゃあ……一体どういう状態だ……?」

 

 目が覚めた組長が周囲を見渡すとそこに居たのは白髪の青年。犬顔の大男。そして……。

 

「壊理……? なんだ、一体何が……? すまねぇ兄さん、ちっとばかし状況を説明してくんねぇか……ってうお……治崎てめぇ……何してやがる?」

 

 身体を起こしてみたが体調に問題はない……を通り越してなんかすごい体の調子が良い。だが組長はかつて兄貴(実の兄ではなく先輩組員)に聞いたことがあった。死の直前は信じられないほどの力を発揮できる……いわゆる火事場の馬鹿力、あるいはろうそくの最後の輝き。そういったものかもしれないので、絶好調な身体とは裏腹に心のなかには不安があった。ついでに……治崎が土下座していることも不可解だった。

 

「…………」

 

 黙ったまま床に頭を付け微動だにしない治崎。

 

「よう、組長。俺は死柄木弔、こっちはコンちゃんだ」

 

「アオーン! コンちゃんだぜ、組長! よろしくな! あ、治崎、お前はコンちゃんって呼ぶなよ」

 

 以前シュガーラッキーとかいうカワイイあだ名をつけられたことのお返しに可愛いあだ名をつけてやった死柄木だったが、キメラは大喜びだった。ちょっとした冗談だったが、こんなに喜ぶならこれからも時々言ってやろうかな、と少し笑顔になる死柄木。

 

「おじいちゃん……おはようございます……げんきはどうですか……?」

 

 ちょっと変な日本語だが組長はちゃんと言いたいことを汲み取ってあげた。

 

「おぉ……? よろしくなぁ? ああ壊理、体の調子はすこぶる良いぜ。……俺ぁどのくらい寝てた?」

 

 ぼんやりと思い出した最後の記憶は、治崎の手が自分に迫ってくるところだった。震えながら、ゆっくり、ゆっくりと……まさかそんなことはしやしねぇだろう、そう思っていたその手が自分に触れたときから、記憶が途切れている。

 

「あっ。聞くの忘れてたな。誰かに聞いときゃ良かった。エリ、分かるか?」

 

「……ごめんなさい……わかんないです……」

 

「そこのカスなら知ってるだろうが、こいつは口を開くことを自らに禁じている。あんたに許されるまでここから動かず、もし許されなければこのまま即身仏になる覚悟とか言ってた。本当にイカれてんな」

 

 頭を地面につけたまま微動だにしない治崎に、複雑な顔をする組長。

 

「……そうか。許す許さねぇは事情を知らねえとなんとも言えねえが……どちらにせよ俺ぁこの馬鹿にケジメつけさせなきゃあいけねえだろうな……おい治崎、てめェ俺をどのくらい寝かせてたんだ?」

 

 一瞬だけ治崎が震えたが、返事はなかった。

 

「おい治崎。喋れ」

 

 どかっと死柄木弔がキックを土手っ腹にぶち込む。軽いキックだが体勢を崩すためのものだったので治崎は勢いに負けゴロンと転がって死柄木をものすごい目で睨みつけた。しかし何も言わずそのまま再び土下座を再開した。

 

「……だめだなこれは。えーと、2年前にエリがここに来たらしい。今日は西暦2171年の9月20日、金曜日だ。これで分かったりするか? 組長」

 

「つーこたぁ寝てたのは1年ちょいか……その割には体調が……ってこりゃ『オーバーホール』か? 俺には出来ねぇとか言ってたのにずいぶん気軽に使うようになったな、えぇ?」

 

 かつての治崎は恐れていた。もしもとに戻らなかったらどうしよう、と。だから、組長(オヤジ)には使えなかった。なので、他人で練習した。血縁(エリ)で練習した。そうしてようやく自信を持てるようになった。

 

「…………」

 

「そこの愉快なオブジェは実質1年で『個性消失弾』のパチモンの販売までこぎつけたのか。なんて無駄な優秀さだ。逆効果なんだよバーカ」

 

「何が組長のためだよゴミやろー。土下座してるてめーにゃ分かんねえだろうが、組長がすげえ眼してるぜ?」

 

 びくりと震える治崎。なんとか耐えようとしているようだったがくぐもった嗚咽が漏れ始めたので死柄木とキメラはちょっと言い過ぎたかなと思った。まぁぶっちゃけわざとだ。こう言えば義侠心に厚い組長がどう反応するか、ということである。

 

「兄さんら、ちっと待ってくれ。事情も知らずにとやかく言いたかぁねえが、少なくとも俺と治崎のことについては俺達が話すことだ。なんにせよ詳しく話を聞かなきゃあならねえ……玄野、玄野ならこの馬鹿のやらかしを把握しているはずだよな? どこにいるんだ?」

 

「クロノなら下部組織の取りまとめでここには居ないぜ。『個性消失弾(未完成)』を回収できるだけ回収するとか夢みたいなこと言ってたな。往生際が悪い」

 

 まぁ死柄木にとっても成功すればメリットはあるので資金は出すから3倍で買い戻しとけとは言ってやっているが。

 

「あんたのシンパの組員をここに呼んで説明させてもいいが……それだとあんたが困るんじゃないかと思ってな」

 

 組長が治崎をどうしたいのか。それによってはここに『組員』が居るとよくないかもしれない。そう思って自分たちだけでここに来た。組長が本心を出せなくなるかもしれないし、人間の全身を『オーバーホール』するのはかなりショッキングなグロ画像なので組員が激昂してもおかしくないので。

 

「……それじゃあ聞かせてくれるか……兄さんらの話を……あんたらがナニモンでどうしてここに居るのかも合わせてな」

 

 組長がようやく死柄木たちを少しは信用するつもりになったようなので、死柄木は話し始めた。治崎の大体の所業と、ここに居る理由を。エリちゃんとキメラは土下崎(どげざき)に飴玉の包装を丸めたやつを投げつけて遊んでいた。その最中も治崎はずっと土下座したままだった。

 

「あとで組のモンにも話を聞かなきゃあならねェが……嘘はねえようだな」

 

「まぁそもそも俺達の持ってる情報自体が間違っていたみたいな事はあるかもしれないが、俺達にあんたを騙す理由もメリットもない事はわかるだろ」

 

「ああ……壊理……! すまねぇ……すまねぇ……!!」

 

 ベッドから起き上がった組長は壊理の前に跪き、これまた土下座を敢行した。親子っすねー。

 

「え……あの……」

 

「親としてのケジメってやつだな。エリ、どうするかお前が決めろ。俺はお前が本当の気持ちを言うことを、誰にも絶対に邪魔させない」

 

「…………おじいちゃん……わたし、けんきゅうしたいの……とむらさんたちといっしょにわたしの〝こせい〟をけんきゅうして……〝こせい〟でなやんでいるひとたちをたすけて……『のろい』をとくの」

 

 許すとか許さないとか、そういう話は出てこなかった。それは宣言だ。あるいは宣戦布告かもしれなかった。

 

「まだ俺をおじいちゃんと……そう呼んでくれるのか。何も出来なかったどころか、おまえを地獄に叩き込んだ張本人の俺を……」

 

 組長はどうしても思い出してしまう。妻を、そしてその妻によく似た娘を。壊理の強い意志を秘めた瞳は、彼女たちによく似ていた。捨てられて初めてここに来たときの全てに怯えた目はもう、そこになかった。

 

「おじいちゃんはおじいちゃんだよ……おかあさんは、そうじゃなくなっちゃったけど……」

 

 ぽろり。ほんの僅かに漏れた……壊理の持つ『呪い』。彼女は呪われているし、呪っている。この世の不条理を憎んでいる。〝個性〟なんてものが、『巻き戻し』なんてものがなければ。今もまだ、おとうさんがいて、おかあさんもいたはずなのに。だから彼女は手放さない。『両親』が教えてくれた優しさと思いやりに、しがみついている。母を恨んではいない。だって、当然だから。大好きなおとうさんを奪われたなら、壊理だってそれをした存在を許さない。だから彼女は、自分を許さない。そうした諸々の気持ちをはっきり言語化できているわけではないが、母に感謝すらしていた。『生かしておいてくれてありがとう』と。

 

「ここはじごくじゃなかった……てんごくでもないけど……それはじぶんたちでつくるものだって……めざすんだって、とむらさんが教えてくれたから」

 

 治崎が壊理にしたことなど、大したことではない。今となっては壊理はそう思っている。なにせ自分は生きている。『消えていない』。自分はいつか父と母に許されたいのだから、自分より『軽い』罪を断罪するわけにはいかない。壊理は世の中を変えたい。たどり着きたいのだ。もう誰も〝個性〟のせいで苦しんだりしない、天国へと。

 

「……ちっと見ねぇ間に……ああ、これが報いなのか……」

 

 成長するその瞬間を見ることが出来なかった。きっとそれは愛するものに触れることを恐れた罰なのだろう。いつかカタギに戻してあげたかった。治崎のように懐いてヤクザになってしまわないように、遠ざけた。『息子』ならそれを分かって、カタギに育ててくれると思った。『壊理がここに居ることを許さない』と、知っていたから。だがそれは……正しくもあり、間違っていた。組長は、間違えたのだ。親子揃って、間違いだらけだ。娘も、『息子』も。

 

「死柄木さん……どうか壊理を……俺の孫をどうか……よろしくお願いいたしやす……」

 

 組長は今度は死柄木弔に向かって土下座のような……しかしどこか威厳を感じる姿勢で頭を下げて孫娘のことを頼んだ。死柄木はそれをすぐに立ち上がらせると言葉は冷たく、しかし温かみを感じる態度で言った。

 

「エリは居たいだけ俺達といればいいし、いきたいところへ行けばいい。それを手助けするのは俺がそうしたいからで、あんたの頼みとは関係ないな」

 

 死柄木弔は組長に好感をもっている。孫のために頑張るおじいちゃんは、好きだ。もう会えない自身の祖父のことを思い出し、少し感傷にふける。おじいちゃんもあんな事にならなければ、いつかは……。その答えはもう、分からない。分からないのだから、勝手に決めつける。『きっとおじいちゃんは、ぼくをたすけてくれたはずだ』と。

 

「俺もやることがあっからよ、ずっとってわけには行かねーが、しばらくは見といてやるよ、組長」

 

 キメラもどんと胸を叩いて組長の誠意に答えた。組長は多少安心したらしく、わずかに笑顔を見せた。

 

「……かたじけねぇ……あんたらみてえな人が治崎の友人になってくれるなんてなぁ……」

 

「すまん。俺はエリの友達であって治崎はただの業務提携先だから友達じゃない。まぁあんたを起こしたほうが良いとアドバイスくらいはしてやったがな」

 

「俺ぁエリと組長の事は好きだがそっちの若頭のことはあんまり好きじゃねぇな。ああ、組長、ちっと気になったんだが……なんで『治崎』なんだ? 『廻』って呼んでやらねえのか?」

 

 悲報。治崎、人望ゼロ。まぁあるはずないよなこんなやつ。キメラは気まずかったので話をそらそうと気になったことを聞いてみた。

 

「そりゃあアンタ……『治崎』ってのはこいつと本当の両親を繋ぐ大切な名前だからよ……ずっとそれを残すために、養子縁組もしてねぇしな」

 

 ぐぅ、といううめき声が愉快なオブジェから発生した。その呼び方にあったのは距離ではなく、思いやりだった。

 

「ふーん。じゃあエリは『壊理』って呼ぶのはなんでだ? こいつも名字で呼んでやらないのか? エリが消しちまった父親との大事な繋がりだろ」

 

 死柄木は無神経に言った。流石にエリを捨てたという母親のことは言わない程度の気遣いはあったが。名字にこだわる仲間がいたので『治崎』の理由は分かったが、そうなると今度は『壊理』になった理由がわからない。エリちゃんは消してしまった父のことを思い出し、半泣きになってキメラにしがみついた。

 

「本人の前で話すのはちっとな……」

 

「要らない気遣いだ。俺の友達を侮るんじゃあない。理解できるかはともかく聞かせとけ」

 

 いや、半泣きなんだけど。かわいそう。

 

「……ここに来た当初名字で呼んだら泣き出しちまってな……父親の名前を叫んで取り乱してよ……見てらんなかったんだ……」

 

 現在はそれに比べたらだいぶマシな反応なようだ。死柄木弔はやっぱメスガキは強キャラだなと思いつつ治崎に目を向けた。

 

「そうかぁ。なんだ、義理の息子なのに孫娘と同じように想われてるじゃないか。なあ?」

 

 ぼすっと治崎に蹴りを入れる死柄木。痛みを与えるためのものではない。ゴロンと治崎は転がって、そのまま地面にだらりと横たわって微動だにしない。その表情にあったのは虚無。涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔から、あらゆる感情が抜け落ちたかのような、死人より死人じみた顔だった。

 

「こいつはヤクザじゃなくて相撲取りだったんだなぁ。ソロ相撲の世界チャンピオン……じゃなかった横綱か。本っ当にかっこわるいぜ『オーバーホール』。大事にされてんじゃないか。なあ?」

 

 再び蹴りを入れようとしたが今度は組長が割って入った。組長の背中を蹴り飛ばしてしまい気まずい沈黙が訪れる。でも死柄木は謝らない。

 

「死柄木!! お前ーッ!!!!」

 

 組長が蹴られたことで治崎は我に返ったらしく猛然と死柄木に飛びかかろうとしたが組長に足を掴まれてびたんと床に叩きつけられた。

 

「治崎!! てめェ見当違いな怒りをぶつけようとしてんじゃねえよ馬鹿が! 恩人に敬意を払えッ!!」

 

 組長にとって死柄木弔は恩人だ。息子を止めてくれた、孫を救けてくれた恩人である。治崎を蹴り飛ばしたことも当然の権利だと思っている。だがその痛み(というほどでもないが)は組長にとっては自分が受けるべきものだと思ったので間に入っただけだ。

 

「組長(オヤジ)!! こいつは組長(オヤジ)を蹴った! 許せない! 離してくれ!!! 殺してやるッ!!!」

 

「それがダメだって事がまだわかんねえのか!! このバカガキが!!」

 

 ドカッ! とすごい音がして治崎が吹っ飛んだ。組長の右ストレートだ。吹っ飛んだ先で治崎は信じられないといった表情をしている。掴みの解放からの鮮やかなパンチだ。乱破<治崎<組長。

 

「あ……え……? 組長(オヤジ)が俺を……ぶった……?」

 

「親父にも打たれたことないのに、ってか?」

 

「そうみてーだな。羨ましいやつだぜ」

 

「いたそう……」

 

 キメラには……っていうか死柄木以外だれもそのネタを知らなかったので鋭い分析だ……みたいな感心しかなくて死柄木は逆に気まずかった。こいつ本当にアホ。死柄木は父親に枝切り鋏でぶん殴られてるし、キメラは両親から犬みてぇに捨てられてるし、エリちゃんはヤクザより怖いママにビンタされてこの家の前に捨てられてるのでそもそも最悪に面白くないネタなんだよね。自虐ネタは仲間にもダメージが行くことを理解しような。

 

「俺の教育が間違ってた……治崎てめぇ、どんだけ俺に恥をかかせりゃあ気が済むんだ? あ? てめぇは俺に感謝してるって思ってたが、俺の勘違いだったのか? 本当は恨んでて俺を苦しめるのがお前のやりてぇことなのか?」

 

「そ、そんなことはない!! 俺は組長(オヤジ)のためならなんだって出来る! 最高の栄光をあんたに捧げて、この『組』を世界で一番幸せな場所に……! どうして分かってくれないんだ!!」

 

「バカヤロウが!!! 分かってねえのはてめェだろうが!! いつ誰がそんな事頼んだんだ? 栄光だぁ? 俺の流儀を愚弄して得るそれを俺が喜ぶって? とんでもねぇ思い違いだ!」

 

「な? 言っただろ。侠客がお前のやったような血なまぐさいVシネマのテンプレヤクザになって喜ぶわけないんだよ」

 

 組長は昔気質の侠客をやることに命をかけているので侠客の敵役みたいなスカした暗黒ヤクザポジションに押し込まれても不愉快にしかならない。簡単に言うと治崎が理系ヤクザで組長は文系ヤクザなので持っている感覚が違う。死柄木は『●が如く』ゼミでやったとこだ! という感じでどちらも分かるのですぐにこのアホくさいすれ違いの構造がわかったわけだ。

 

「死柄木さんの言うとおりだ治崎! てめぇは俺を喜ばせようとしてんじゃねえ! お前が思う理想のヤクザを俺に押しつけようとしてるだけだろうが!! 迷惑なんだよ、馬鹿野郎!! 俺には俺の理想があるんだボケが! 分かったか!!」

 

「あ……あ……?」

 

 はっきりと「迷惑」と言われたことで治崎は大ダメージだ。この期に及んでまだこいつは「良かれと思って」と思っていた。馬鹿か? 

 

「まぁ、俺は分かるぜ治崎。『お父さんは世界で一番だ』って思うよな? そうじゃない現実のほうがおかしい、ってな。でも世界はもっと広いんだぜ。ガキのまんま成長できてないお前には分からないんだろうけどな」

 

 ブーメランマスターか? お前だってたかがいち家庭の事情にムカついて世界を滅ぼそうとしてただろ! なにが「ヒーローになれるって言ってもらえなかった」だバーカ! 

 

「てめェのやったことは全部俺の責任だ、治崎。だから俺にしたことはいい。俺の自業自得だ。だが壊理をはじめ組員に世間の皆様に……どこまで迷惑をかけやがった!?」

 

「あ、あんたが寝てる間のことだ……! だから俺の責任だ……!」

 

「んなもん通じるかアホウが! 俺ぁよ、お前が俺のために色々してくれるのが嬉しかった。それは本当だ。だから俺は問題点だけを指摘して、そこだけ改めてくれりゃあいいと思ってた。だがお前はそう受け取らなかったんだな。結果さえ出しゃあ、俺が喜ぶって、そう思ったんだろう。違うか」

 

「!!」

 

「お前の行動全部、俺の責任なんだ。俺が嬉しいのはお前が俺を想ってくれたことだけだ。そこだけなんだ。カタギに暴力を振るったのも、シマをちっと荒らされたくれぇで過剰反応しやがったのも、クスリのシノギに手ェ出しやがったのも、もっとしっかり叱るべきだった。だからてめぇのやらかしは全部、俺のせいで起こったことなンだよ」

 

「ちが……お、れが、わるいんだ組長(オヤジ)……俺が勝手にやったことだから、俺が……」

 

 治崎の中ではそういうことになるはずだった。だからやらかせたのだ。親父を世界一幸せにしたあと、自分が死ねば、チャラだ。そうしたかった。

 

「馬鹿が……馬鹿がよ……『親』ってのはそれじゃ済まねぇんだよ……責任を取らせろ、馬鹿が……俺をお前の『親父』じゃなくするつもりなのかよ?」

 

「え……?」

 

「息子を放り出して「知らねぇよ、あんなやつ」って言うような生き方を俺にさせるつもりか、っつってんだよ。それとももう俺のことは親父だと思えねぇのか」

 

 組長にとっては娘だって出ていったあとも娘だし、知らない間に生まれていた孫だって孫だった。引き取った息子だって、そうだ。どこで何をしていようと、息子なのだ。

 

「そんなことはない!! ……でも親父(オヤジ)は……俺に出ていけって……お、俺は嫌だ……ずっとあんたの息子でいたいんだ……捨てないでくれ……捨てないでくれ……なんだってする……あんたになら殺されたっていい……でも、あんたの息子じゃなくなるのだけは、いやだ……」

 

 治崎の中に今も残る棘はそれだった。決定的に道を踏み外したのは、そうせざるを得なくなったのは……結局のところ組長の言葉が原因だというのは一面の真実である。

 

「……悪かったよ……「出てけ」なんて言ってよ……救いようのねぇバカヤロウは、俺さ……娘にも同じこと言って、出ていかれちまったってのによ……何も学んじゃいねぇ、馬鹿親のままだ……馬鹿なところ、俺に似ちまったな、治崎よぅ……」

 

 もういらねぇから出ていけ。治崎にはそう聞こえてしまった。不器用な男の信頼は、踏みにじられた。しかし治崎を組長の信頼を踏みにじるような他者を信じられない男に育てたのもまた、その不器用さなのだ。失敗を一度経験してなお、不器用なままだったツケを、他人に払わせてしまったこと。それこそ組長が最も恥じていることだ。

 

「……オメェが出ていくはずなんてないって知ってたから……そう言えば踏みとどまってくれるって思ったんだ……『脅し』が身に染み付いちまってやがる……ヤクザなんていいもんじゃねえぜ、治崎……」

 

 ヤクザなんていいもんじゃねえ。生き様がそれを物語ってしまった。それに加担してしまった。治崎は侠客たる組長の人生を決定的に穢した。組長の背中の入れ墨は不動明王。ヤクザとしてはポピュラーなものだが、一つだけ珍しい特徴があった。それは4本の腕を持つ威容であること……すなわち、四臂不動。幼き頃に治崎が親父(オヤジ)の背中を流したときに見た、救いの象徴。

 

「本当は俺ぁお前にカタギになってほしかった……俺ぁひとさまに誇れる生き方なんて、してねぇからよ……俺の背中なんて、追いかけんじゃねえよ、バカ息子が……」

 

 十二天曼荼羅の中央に座る一面四臂(いちめんしひ)の不動明王は、災いを退け悪を討つ全能の存在だ。治崎はそうなりたかった。親父(オヤジ)の背中を守れるような強い男に……。しかし幼き日のその誓いは、歪み、ねじれて、破綻した。また、言われたかったのに。「ありがとうよ」って、言ってほしかったのに。おぞましき呪いと病に満たされたこの世界の中でたった一人だけ自身を守ってくれた、力強き男の背中。それが今や見る影もなく、小さい。そうしたのは、治崎の行いだった。

 

「親父(オヤジ)……ごめん……ごめんなさい……」

 

 後悔先に立たず。大好きな父親(オヤジ)に迷惑ばかりかけた馬鹿息子は、ようやく心から自分の行いを後悔し、謝罪した。この世の全てに謝りたいと、感じていた。

 

「馬鹿野郎……その謝罪は俺じゃなくて壊理やテメェが迷惑をかけた全てに向けやがれ……俺も一緒に、謝るからよ……」

 




独自設定とか

・聖域:組員とかが勝手に医者とか呼んだら困るので立入禁止。
・おじいちゃん:原作で一度も接触してないからどう呼ぶかわかんねえ。闇。
・壊理を手放す:ヤクザハウスでいつまでも育てると治崎みたいになるし……。
・黒霧の教育:偏差値79で面倒見もいい上にコミュ障にも優しい。一体何雲の影響なんだ……。
・キメラの学力:エリちゃんにちょっと先輩ぶれるくらいあっていいかなって。
・アオーン!:キー!シャー!モー!とかもそのうち言うかもしれない。
・龍●如く:まぁヒロアカ世界でもきっと人気シリーズで続編出続けてるでしょ多分。
・発目ちゃん:ごめん……でもメスガキと上手くやれるシチュエーションじゃなかったから……。
・失せろ:シャンクスの必殺技。これ一本で20年くらいゲームに出てたとかマジ?
・全部動かなくなる:精密機械なんて中身ちょっといじれば終わるから……。
・サポ科のパイセン:美々美さんでした!びっくりした?
・『警報(アラート)』:未来予知に近い事ができる。危機感知の完全上位互換。
・くさい:公式設定だから。
・絢爛崎さん:あれが彼女のヒーロー活動ということです!
・くさ目明:8年後もくさい。
・目覚めし組長:体調はバッチリだけどちょっと痩せてる。
・コンちゃん:ワンッ!ワンッ!ワンッ!
・西暦2171年:海外のヒロアカ考察で見たやつ。虎の誕生日と年齢から候補年を11個まで絞れるらしい。2171(2172)年説は発光する赤子の誕生をヒロアカ連載開始の2014年に設定できるので本作ではこれを採用。
・組長オバホできない:バンバン他人に使い出したの組長を寝かせてからのはず。
・エリちゃんの闇:ママの個性が『鬼』だったりするんかなって。
・天国:パラダイスみてぇな場所を作りてぇ。
・オバホ:パラダイスみてぇな組を作りてぇ。
・組長の背中の入れ墨:まだまだ心眼が足らぬ。どう見えるかだ。
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