頑張って週1更新を目指します。応援のほどよろしく!!
銀色の髪の少女は机に顔を預けながら、退屈そうに色とりどりの小さな星屑を転がしていた。
無造作に投げ出された彼女の髪は天の川のように机を染める。
彼女はトゲのついたそれの触感に飽きると、指でつまみ、天井から吊るされた電灯にかざす。少女には小さな星が輝いているように見え、その美しさに思わず見とれた。
「霞ちゃん?ねえ、霞ちゃんったら。」
「どうしたのですか?それ、金平糖、ですよね。」
「五月雨、いたの。」
霞はばつが悪そうに、持っていた砂糖菓子を口に入れた。
「あんたにもあげるわ。」
「え!嬉しい!」
丁度五月雨の髪と同じ空色があり、それを掴んで無造作に渡す。
「おいしいし、綺麗だし。私、金平糖好きなんです。」
「うん。」
霞は友人の話を聞いているのかいないのか、生返事を返した。
「酒保に金平糖、あったかなあ。あ、もしかして……。」
五月雨は少し微笑み、話を続けた。
「なによ……。」
「霞ちゃん、この前提督さんと買い物行ってきたんですよね?その時に買ってもらったんですか?」
「ぐ……。駄菓子屋さんに寄ったのよ。提督がどうしても行きたいっていうから!」
この青髪の少女は天然そうに見えて鋭いところがあり、発言をむげにできないのだった。
「はいはい。そういうことにしておきますね。」
「それにしても提督、プレゼントも素敵だなあ。」
「あの霞ちゃんがぞっこんですもの。」
「ち、違うったら!」
いきなり何を言うんだ、という風に霞は否定する。
「私ね、霞ちゃんのこと、心配してたんです。」
そんな友人の様子を気にせずに五月雨は話を続ける。
「この前、山城さんたちと霞ちゃんが初めて戦いに出て……、それから霞ちゃん、上の空みたいに見えたから……。」
少しの沈黙を置いて、霞が答える。
「……そうね。」
「五月雨にだから言うけど……。」
「私、全然活躍できなくて。」
「緊張して動けなくて。ほとんど棒立ちだったわ。」
「皆の足を引っ張っちゃったのがすごく、すごく悔しくて……。」
「それであたし、ずっと悩んでたの。」
「うんうん。」
五月雨はいたわるように友達の少女の肩を撫でた。
「提督、きっとそれを見かねて誘ってくれたんですよね。」
「うん……。そこはまあ、評価してあげるわ。」
「でもあの人、買い物に行っても何にも言わなくて。」
「金平糖、きれいだなあ、とか寒くない?とか、そんなのばっかりよ。」
「ふふふ。提督なりに気を使ってるんですね。」
「なんだか間抜けで、気にしてる自分が馬鹿みたいに思えちゃったわ。」
「私なりに吹っ切れたってことなんでしょ。」
「よかった、よかった。」
「ね、霞ちゃん。提督は大丈夫ですよ。」
「なんてったって、私たちの提督なんですから。」
「軍に連れていかれたところで、すぐに戻ってきます!」
「……うん。」
霞が本当に落ち込んでいたのは、自分が戦えなかったからではなく、提督が海軍本省に連行されてしまったから、なのであった。
出撃以外の時間は、こうして自室でぼーっと時間を過ごす。五月雨は、そんな彼女を心配して、部屋まで見に来ていた。
……霞の持っているガラスの容器には、まだ金平糖が残っていた。
「あ、銀色のなんてあるんですね!」
「わあ、霞ちゃんの髪みたいで綺麗!」
五月雨が思ったことを言うと、霞の顔が真っ赤に染まった。
「……っ!」
「え、霞ちゃんどうしたの?」
「……。」
霞は沈黙したままうつむいている。
「もしかして、提督にも同じこと言われた?」
銀髪の少女はこくりとうなずき、サイドテールがふよんと揺れる。
「霞ちゃんのそういうところ、かわいい。」
五月雨は微笑みながら、友人の恋路を応援するのだった。
* * *
第11話 星屑の王子様
「みんな、集まったわね。」
加賀が招集をかけ、閑散としていた執務室に大人数が入る。
「理由はほかでもない。提督よ。」
「え!やっと戻ってくる!?」
定位置となっているソファでくつろいでいた鈴谷は立ち上がり、身を乗り出した。
「ええ。大本営で尋問され続けていたみたいだけど、無事なようよ。」
「今日東京を発ったらしいから、明日には戻ってくるわ。」
今は朝である。大湊までは特急でも1日かかる。
「よかったあ……。」
朗報に安堵し、座りなおす。皆安心した表情を浮かべている。
「私は昔、佐世保鎮守府にいたんだけど。そこの”支倉提督”が、うちの提督に便宜を図ってくれたみたい。」
「支倉提督は深海棲艦と融和すべきだ、という海軍でも異端な考えを持っていてね。もしかしたら提督と気が合うかもしれないと思って、助力をお願いしていたの。」
「さすが加賀さんです!」
キラキラした目で朝潮が見つめた。
「問題は、支倉提督は無類の男好きで知られる、というところね……。」
加賀は細長い指でこめかみを押さえながら言った。
「それ、どっかの誰かさんと同じじゃん。そんな二人が行き会ったら……。」
鈴谷は複雑そうな笑みを浮かべている。
「提督はどいつもこいつも似たようなのばっかりなのかしら……。」
霞はもはや、諦めの境地に至った様子で窓の外を眺めた。
安堵の中、どこか疲れたような顔で艦娘たちが会話していると、電報のベルがけたたましく鳴り響く。
「提督より緊急入電!」
急いで受話器を取った大井が叫んだ。
「伝達。」
『新タナ姫級ノ深海棲艦ガ侵略スル恐レアリ。』
『大湊ノ諸君ハ警戒ヲ厳ニサレタシ。』
「また姫級ですって!?冗談じゃないわ!」
霞が悲鳴をあげる。
『佐世保ノ艦隊ガ友軍艦隊ヲ派遣中。横須賀カラ出航シ、最大戦速デ明朝ニ到着。現有ノ戦力デ持チ応エルベシ。』
「友軍の質は保証するわ。近海を警戒しながら応援を待ちましょう。」
加賀が安心させるように言葉を繋ぐ。
「今の時刻を持って、交代で鎮守府近海に出撃!」
「「「了解!」」」
誇りある一航戦の号令に、この場に揃った艦娘たちが応えた。
* * *
その日は朝から雪が吹きかけており、視界はほとんどなかった。大湊の冬の日常であった。
湾内は住民との生活圏と近く、定期的に掃海していることもあり、幸いなことにほぼ深海棲艦は出ない。
「白く、白く、吹雪のような~♪」
「そう出会う前から、わかってた~♪」
青い髪の少女が口ずさむ。雪が頭に積もっているが気にした様子はない。
「五月雨、その歌……。」
霞が割って入る。
「あ……。この天気だと、どうしても思い出しちゃって……。加賀さん、作戦中にごめんなさい。」
加賀は静かに首を振る。
「謝ることないわ。私にも、忘れられない人がいるもの。」
「忘れられない、人、ですか……?」
「ええ。機関部を損傷した私をかばい……、彼女は沈んでしまったわ。」
「あ……。」
五月雨はばつが悪いとばかりにうつむいた。
「赤城さん。あの人が助けてくれたから、今の私があるの。」
「今度、歌を聞かせてあげるわ。」
「私も歌、好きなのよ。意外かしら?」
「え!意外です!」
「私は歌うのが苦手だから、少しうらやましいわね……。」
「霞ちゃんが歌ったらきっとかわいいです!アイドルの歌とか!」
「何バカ言ってるのよ!そんな姿提督にみせられないじゃない!」
「ふふふ~~。」
「な~にニヤニヤしてるのよ!」
「霞のためにも、頑張らないといけないわね。」
「加賀さんまで!もう!」
吹きかけていた雪はいつの間にか止み、凪いだ水面が娘たちを受け止めていた。
* * *
ーー夕暮れ時。
「妙に静かね……。」
偵察機を飛ばしていた加賀がつぶやく。
「確かに、いつもの海鳥さんたちがいません。」
普段であれば小魚の群を啄むウミネコがいない。魚もいない。
「言われてみれば妙ね……。」
霞もそれに応える。加賀によると、見通し距離の中に敵はいないようだ。
「念のため、応援を呼びましょうか。」
いつもと違う”妙な感じ”は、海に出る者にとって馬鹿にできない感覚である。
「大井、加賀よ。山城さんたちを……、」
応援のため出撃させて、と言いかけたところで、急激に天候が変わりはじめた。
晴れていた空に、たちまちぶ厚い積乱雲が立ち込めて薄暗くなってゆく。さらには猛吹雪が吹きかけてきた。
「いきなりなによっ!」
「来た……。」
霞の驚いた声に、加賀が返す。
改めて通信を行う。
「大井、天候が急変したわ。おそらく例の姫級だと思うから、山城、鈴谷、龍田を応援に呼んでくれるかしら。」
『了解、急いで送らせます!援軍が来るまで持ち応えて!』
「了解。私がいざとなれば二人を庇うわ。」
『加賀さん。加賀さんががいないと、提督はダメダメなんですから。』
『……必ず、無事に帰ってきてください。』
『提督も、もうすぐ到着するみたいですから。』
「……ありがとう。」
「もとより、犬死するつもりはないわ。”あれ”、があるもの。」
『……そうでしたね。それでは、ご武運を。』
無線を切ったその瞬間、付近で水柱が上がる。砲撃されている!
「2時の方角より敵襲!」
五月雨が機敏に反応するが、顔が強張っている。
「ひ、姫級です!」
「随伴は!?」
「随伴艦隊は1隻だけ、で、でも……、」
「姫級が、に、2隻居ます……。」
少女の声が震えている。
「えっ!」
「なんですって!?」
「駆逐棲姫が2隻、……。」
「私たちじゃとても太刀打ちできないわ……。」
霞は絶望した表情で立つ。しゃがみこんでいないだけ立派だった。
狂気を感じさせる微笑みを浮かべながら、駆逐棲姫が迫る。
「そう簡単に逃がしてはくれないでしょうね……。」
「二人とも最大戦速で逃げなさい。ここは私が盾になるわ。」
「加賀さん!仲間を置いていくなんて、私には……。」
五月雨は涙を浮かべながら、凛として立つ空母を見た。
「空母は夜戦じゃ戦えないじゃない……。」
霞もつぶやく。
「五月雨、霞。」
「私は栄光の一航戦よ。」
「赤城さんのためにも、大湊の皆のためにも、絶対に沈むつもりはないわ。」
「……だから、行って。」
「で、でもぉ……。う、う……。」
「……行くわよ、五月雨。」
霞は青髪の少女の肩を掴み、海を駆ける。
二人の眦には、涙が浮かんでいた。
* * *
辺りは漆黒に包まれ、遠くに町の光が見えるばかりとなった。
『アンタナンカニ……、キョウミナイノ……。』
『ハヤク、ソコヲドイテ……。』
『チンジュフ、コワス。テイトク、コロス……。』
『クウボノアナタハ、イイ”カモ”ネ……。』
深海棲艦は虚ろな目で加賀を見つめる。おさげ髪が1隻、黄色いリボンを付けた姫が1隻。
2隻とも魚雷発射管を構え、歪な笑みを浮かべている。
「……そうはさせない。私はただの空母ではないわ。」
夜闇の中、慣れた手つきで矢を番える。
「日本海軍の最新技術の粋を尽くした、正規空母の最終形態、”加賀改二戊”。」
「闇夜に紛れるあなたたちも……、最新鋭の電探で丸裸よ。」
「夜間航空攻撃!」
「九九式”夜間”艦爆、九七式”夜間”艦攻、発艦!」
「……赤城さんから譲り受けた装備が、今こそ輝くとき。」
”一航戦熟練”と呼ばれるずば抜けて高い技量を持つ妖精たちは、闇夜を物ともせず機銃を回避し、次々と魚雷と航空爆弾を直撃させていく。
特に赤い鉢巻を付けた妖精の機体は、果敢に攻撃を繰り返し、姫級2隻の砲塔や魚雷発射管を徹底的に破壊していた。
『グアアッ!ギョライガ!』
『クッ、ホウシンガ!』
艦載機の波状攻撃により、2隻を中破に追い込む。
「……赤城さん。水底にいてもまだ、私のことを守ってくれるのね。」
姫を相手取った会心の一撃に、いつもの鉄面皮にも微笑みが浮かんだ。
『コノママヤラレルモノカ!』
おさげ髪の姫級が叫び、突然加速を始める。加賀と差し違えるかのように突っ込んで来た。
壊れた砲身と魚雷発射管を槍のように持っており、白兵戦を仕掛けようという魂胆らしい。
(くっ、避けられない!なら、少しでも被害を小さく!)
航空機により長大な射程を持つ大型空母も、接近戦では分が悪い。相手から離れるように後退し、勢いを殺そうと試みる。
『サセルカ!』
リボンの姫が機銃で妨害してくる。敵ながら、よく息の合ったコンビネーションである。
(その即席の連携、一朝一夕で身に付くようなものじゃ……。髪型と言い、まさか……。)
とある疑念に気を取られた加賀は逃げきれず、至近距離に接近を許してしまう。
「ああっ。」
破損した武装をやみくもに振り回し、深海棲艦が加賀を攻撃する。
「飛行甲板に直撃、ここまでね……。」
高速空母も駆逐艦の機動にはかなわない。随伴艦がいないがための順当な結果であった。
『アッハッハッハ!』
『シズメ、シズメ!』
大破した加賀に興味をなくしたのか、2隻は陸の方に進んでいく。
『カイグン、ニクイ。ニホン、ニクイ。』
『ダカラ、ホロボス。』
『……アナタノ、テイトクモ。』
「あの人は悪くないわ!待ちなさい!」
機関部を損傷し動けなくなった加賀は、苦し気な眼で鎮守府の方角を見つめていた。
* * *
夜通し航行を続ける二人は、はぐれ深海棲艦に見つからないよう大きく迂回して鎮守府を目指していた。
「五月雨、ここまでくればもう少しで……!」
「……うん。」
心配そうな様子の少女は、しきりに背後を気にしている。
加賀を置いてきたことを気にしているのだろう。
「大井さんから入電だわ!」
『霞、五月雨!加賀さんは何とか無事よ!』
『大破した加賀さんを、山城さんたちが保護したわ。』
「よかった……。」
『加賀さんを曳航しながら、彼女たちはじき鎮守府近海に到着します。』
『下手に陸にいるより、主力戦隊といる方が安全よ。沿岸の補給地点の座標を伝えるから、彼女たちと合流することを最優先に行動して!』
『もうすぐ朝になるから、それまで頑張って!』
「霞、了解。」
「五月雨、急いで山城さんたちのところに向かうわよ!」
「う、うん。」
疲れた顔の五月雨にもぎこちない笑顔が浮かぶ。
重そうに体を動かし、航海に戻る。
目標海域は十数キロ先と、目前であった。
眠気と疲労で言葉もないが、警戒を続けながら海原を走る。
……空が薄明るくなってきた矢先、二人はよく見知った顔に出会った。彼女たちはこちらに手を振っている。
とても懐かしい顔。もう会えないと思っていた顔。
霞と五月雨は、驚愕の表情で立ち尽くした。
「ど、どういうこと……?」
「あんた……、あんたたち、何やってんのよ!こんなところで!」
「沈んだんでしょ!?」
「吹雪ちゃん……、陽炎ちゃん……。どうして……。」
最悪の形でそれは訪れた。
黒髪と茶髪だった髪は銀髪となり、どす黒く有機的な艤装を身にまとっている。日本国民ならだれもが知っているような、深海棲艦の姿であった。
道中で攻撃を受けたのか、武装は破壊されている。
「そんなになって、何やってんのよ!」
『ナニッテ……、アソビニイクンダ。チンジュフニ。』
『アタラシイテイトク、キタンデショ。』
『テイトクヲコロシタラ、タノシンダロウナ。』
髪型や顔こそ艦娘のままだが、思考は人類とは全く違う。
「吹雪ちゃん、もう、ほんとうに……。」
『サミダレチャンモイルジャナイ。ヒサシブリニアソビマショ♪』
籍を切ったかのように、2隻の姫が動き出した。
「私たちの名前を呼ぶなあああ!」
得も言われぬ悔しさに歯を食いしばりながら、虎の子の4連装酸素魚雷を発射する。
かつては日本海軍のみが運用していた酸素魚雷は、排気ガスが炭酸ガスと水蒸気のみであり、気泡が海上に浮かびにくい。
そのため、敵に魚雷の進行方向を悟られにくいというメリットがある。
連合国からはロングランスとも呼ばれたその高性能魚雷は、偏差をつけながら航走を始めた。
同時に主砲を撃ち、魚雷が進む方向に敵を誘導していく。
「いける!」
1本が吹雪に命中するかと思われた。しかし、その瞬間吹雪がしゃがみこみ、自身に向かってくる魚雷を素手で掴み上げた。
ご丁寧に魚雷の先端に備わっている雷管に衝撃を与えないよう側部を鷲掴みにしている。
「なっ!?」
『エヘヘ、サンソギョライ。ズット、ホシカッタ。』
魚雷の推進用スクリューが勢いよく回転しているのを気にも留めず、炸薬の詰まった金属を愛しそうにさする。
『ドウシヨウカナ~。』
『フブキ、アッチニテイトクイルヨ!』
『ホント!』
そう言われ近くの岸壁に目を向けると、提督がいつも乗っている車が見えた。
ようやく大湊に戻ってきたらしい。
『トドケ、トドケ、オモイヨ、トドケ!』
そんな提督に向けて、吹雪は魚雷を投擲した。やり投げの要領で放物線を描き、鈍い光が飛んでいく。
『アッハッハ。フブキ、ウマイコトイウジャナイ。』
陽炎がゲラゲラ笑いながら、様子を眺めている。
「だめええええ!」
硬直していた霞は叫び、提督を守るべく駆けだした。艤装の推進器が唸りをあげる。
「くそ、間に合わない!」
沿岸まではまだ500m以上ある。このままでは提督が乗る車両を守ることはできないだろう。
「五月雨!」
「うん!」
合図の後、12cm連装砲をそれぞれ構える。二人とも肩で息をしていた。安定しない砲口を無理やり押さえこみ、狙いを付ける。
「……てえええ!!」
* * *
……すんでのところで、投擲された魚雷を撃墜した。霞の砲撃だった。
だが、それでも……。
「……提督!!危ない!」
命中した砲弾が魚雷の軍用炸薬に引火し、爆風とともに破片が軍用車に襲い掛かる。窓ガラスは割れ、タイヤもパンクしたのか、ふらふらと走行している。
霞は決して届かない手を伸ばしていた。五月雨が顔を両手で覆っているのと対照的であった。
「提督っ!」
ようやく岸壁に到着し、艤装を投げ捨てながら提督のもとへ駆けだしていく。近づくと、ガソリンが揮発した匂いがする。車は街路樹に衝突したらしい。燃料タンクが損傷し、道路に油が流れているようだ。
「う、うう……。」
霞がドアを開けると、提督が運転席で突っ伏していた。
純白の軍服が血に染まっている。頭を割ったようだ。
「提督、しっかりして!」
「霞か……。ごめん、来るのが遅れた……。」
「もう大丈夫だから!」
遅れてきた五月雨と協力し救助を始める。通行している一般車両を止め、軍用病院に搬送する手筈を整える。
「ポ!」
同乗していた北方棲姫は無事だったようだ。心配そうに提督を見つめている。当然だが、深海棲艦が交通事故で傷を負うわけがない。
「この前は、金平糖なんかあげて申し訳ないな……。」
「次はもっとちゃんとした贈り物にするから……。」
「無理してしゃべらなくていいから!」
「アンタがただ生きてくれてたら、それでいいの!」
意識を失った提督を二人で担ぎながら、病院へ運び込むのだった。
* * *
第11話 星屑の王子様 了