~キス魔が行く艦これ~ 寂しさを埋めるもの   作:波切涼

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週刊ペースで更新はなかなかきついですね!!
今週末は佐世保イベにも行きますが、合間で何とか書き進めます!


……やっぱり霞ママは最高ですね。


第12話 少女の腕の中で

 

「……いとく!」

 

「……提督!」

 

眠りから目を覚ますと、白い天井が見える。鎮守府の医務室である。

 

「……うっ。」

 

額に鈍い痛みが走り、うめき声をあげた。

 

「ていとくぅうう……。よかった、よかったぁぁぁ!」

 

誰かに抱き着かれている。銀髪のサイドテールに華奢な体躯。鼻腔をくすぐる花のような匂い。

 

「霞……か?」

 

「そうよ、このクズ!!」

 

「たくさん、たくさん心配したんだから!」

悪態をつきながらも彼女の眼には涙が浮かび、僕の腕にしがみついていた。

 

「ごめんよ……、霞。」

彼女は何も言わず、抱き締める力を強くすることで返した。僕は銀髪の頭を優しく撫でて、少しでも不安を取り除こうと励んだ。

 

しばらくそうしていると緊張の糸が切れたのか、霞はすやすやと寝入ってしまった。

 

このままベッドに持たれかかっていては風邪を引くだろう。

 

思った以上に軽い体を持ち上げ、ベッドに寝かせる。

 

よし、これで良い。

 

他の艦娘たちに様子を聞きに行かないと。僕はおそらく姫級の攻撃を受けたはずだ。

 

執務室に向かおうと、ベッドを出ようとする。

 

……霞が僕の腕を強力に掴んでいて、動けない。

 

 なんとか起こさないように腕を抜こうとあがく。

 

「提督……行かないで……、霞を一人にしないで……。」

 寝言を言いながら涙を零している。

 

 なんだこのかわいい生き物は。

 

 それでも僕は提督である。心を鬼にし、部屋を後にしようと悪戦苦闘する。

 

 すると、背後から声をかけられた。

 

「フフフ……、随分と仲が良いようだな。」

つい先日聞いた、低い女性のハスキーボイス。

 

振り返ると、長い黒髪の海軍軍人が立っている。女優のような凛々しい顔立ちである。

「天龍かと思ったら支倉提督ですか!」

 

「ハハハ、また会ったな。」

 

「どうしてわざわざ大湊まで。」

 

「君のことが忘れらなくて……、と言ったら?」

 

「あなたはそんなナイーブな性格じゃないでしょうに……。」

 

「なんだ、意外とつれないな。」

 

「何人もの艦娘をたぶらかしている男だから、誰でもいいのかと。」

 

「あなたねえ……。」

 

「女神のキスで夢から覚めたら、今後の話だ。」

 

「ここではなんだ。行くぞ。」

支倉提督は霞をちらと見て、僕をドアへと促す。

 

「とは言っても、霞が……。」

そう言うと、軍服の女は優しく霞に近寄り、僕の腕にしがみついた手を外す。

さきほどと違い、なぜか容易くほどける。

 

「狸寝入りもほどほどにな。」

 

「ぴゃ!」

そこいらの女学生のような可愛い悲鳴。

 

「えっ。」

寝ていたと思っていたのに。どうやら起きていたらしい。

 

顔を赤くした霞は、もぞもぞと布団に潜り込んでしまった。

 

「ふんだ!もう行きなさいよ!」

 

「……霞、心配かけてごめんな。」

 

「貸し一つだからね!必ず返しなさいよ!」

布団からくぐもった声が聞こえる。

 

「うん。必ず。」

 

そう言って僕たちは部屋を出た。

 

 

* * *

 

第12話 少女の腕の中で

 

 

 

執務室は大勢の艦娘で溢れかえっていた。

 

「提督、無事だったんだね。」

 送り出してくれた時と同じように、涙を浮かべた時雨。隣にはうなずく五月雨もいる。

 

「ポ!」 「提督さんぽい!」

左胸には北方棲姫、右胸には夕立が飛び込んできた。

彼女たちなりに心配してくれたらしい。

 

「その様子ではひどくなかったようですね。安心しました。」

 いつもの鉄面皮の不知火。

 

「提督……。私の力がが至らぬばかりに傷つけてしまって。すみません。」

 目を伏せて謝罪を口にする加賀。艦娘たち全員もどこかしおらしい様子だ。

 

「誰一人欠けていないんだよね?」

 

「ええ~。佐世保の援軍が姫級を撃退してくれたわ~。」

間延びしたような、しかし芯のある声で龍田が答えた。

 

「それならよし。」

皆の顔色からなんとなく察していたが、言葉で聞いて安心する。

 

「支倉提督、援軍感謝します。」

僕は向き直って最敬礼をする。

 

「例には及ばんよ。君たち、挨拶を。」

大本営では狂人などと称される支倉女史も、こうしてみると意外とまともに提督業をやっているのだなと思う。

 

わざわざ佐世保から来た応援艦隊が僕の前に勢ぞろいする。

 

「佐世保応援艦隊旗艦、榛名です。お世話になります。」

おしとやかな巫女風の衣装を纏いつつ、戦艦らしい重厚な艤装を装備している。

 

「瑞鶴よ。一航戦が……世話になっているようね。」

加賀の方を一瞬見て僕に目線を合わせる。

ニ航戦は加賀たち一航戦と因縁があったというが、険のある様子ではなかった。

 

「対空番長摩耶様だ!もっともっと敵を殴らせてくれよな!」

 

「島風です!速さではだれにも負けないんだから!」

 

「曙よ。じろじろ見ないでよ、このク……、いえ、なんでもないわ。」

次々に挨拶していく。この娘、今僕を罵倒しかけなかったか?なんとなく霞を思い起こさせるな……。

 

「軽巡大淀です。よろしくお願いします。」

6隻の中で、表情が硬い大淀の様子が気になった。

 

「佐世保の諸君。君たちのお蔭で私たち大湊は九死に一生を得たようだ。改めて、最大限の感謝を表明させてほしい。」

そう言って僕は頭を下げた。

 

提督がへりくだったような態度をとるのは意外だったようだ。しかし、皆まんざらでもない笑みを浮かべていた。

 

 

* * *

 

支倉提督は込み入った話があるということで、人払いをした。

今この執務室には僕と二人だけである。

 

「浅野、話というのはな……、」

長髪の女提督は、窓の外を見つめたまま語り始める。

 

「私が佐世保に集めた艦娘たちは、みな姉妹艦や、親しい艦を喪っているのだ。」

彼女の表情は見えなかったが、深い悲しみを抱えているように思えた。

 

「……今応援に来てくれている娘たちもですか?」

 

「大体な。スピード狂の榛名と島風は違うが……。」

 

あのおっとりした榛名がスピード狂……?聞き間違いだということにしておこう。

 

「なるほど。大湊鎮守府との関連で言うと、吹雪と陽炎が以前沈んでいますが……。」

 

「まさにそれだ。その様子だとまだ彼女たちから聞いていないようだな。」

 

「……と、言いますと?」

 

「お前を狙い、傷を付けた姫級……、大湊にいたその2隻のようだぞ。」

 

「え!?」

 

「吹雪と、陽炎が、深海棲艦になって……?」

 

「ああ。霞や加賀が一応は会話して素性を確認したらしい。」

 

「なんだって……、そんな惨い現実が存在していいのか……。」

 

「かつての友が死してなお敵となり、自分たちに立ち向かってくるなんて……。」

だから先ほど、加賀があんな態度をとっていたのか。そして霞も同じく責任を感じていたのだろう、いやに僕に優しかった。

 

「そういう事例、今まで聞いたことがあるか?」

 

「……いえ、海軍学校でも聞いたことがありませんでした。」

 

「ふ。それは表向きの話だ。」

 

「大淀、いるんだろう。入ってこい。」

 

「……っ!は、はい……。」

部屋の外で息を呑む音がして、一人の艦娘が入ってきた。

 

「何度もつらい話をさせて恐縮だが……、大淀、この男にお前の知る”真実”を話してやってくれ。」

 

「……、はい。」

意図を察した大淀が、張り詰めた表情で両手の拳を握る。

 

しばらく深呼吸した後、重い口を開いた。

「……私は、少し前まで大本営にいました。」

 

「大本営には、海軍技術本部という機関があり、深海棲艦と戦うための兵器の研究をしていました。」

 

「その中には、当然、艦娘も含まれていました。むしろ、艦娘の戦闘力を強化することや、艦娘が何なのか、という根源的な探求もテーマでした。」

 

「私は秘書艦として、大本営にいる艦娘たちの取りまとめをしていました。」

 

「艦娘には、改造、という概念があります。」

 

「軍の研究員たちは集められた様々な艦種の艦娘たちに対し、どういう手法で戦力を強化できるのか日夜研究していました。」

 

「ある時、とある生物学系の研究員が歴史的な発見をしました。」

 

「DNAを解読したところ、私たち艦娘が深海棲艦とほぼ同じ構造を持つ、というのです。」

 

「それはつまり、艦娘と深海棲艦は、生物学上同じ生き物である、ということを意味します。」

 

「なっっ!?」

 

「深海棲艦が人類を襲うのと同時期に現れた私たち艦娘は、鏡を返したような存在なのです。」

 

「そんな……。」

 

「軍はその事実を知り、私たちの力を畏れました。」

 

「今は協力的だが、いつ深海棲艦のように攻撃してくるのかわからない、と。」

 

「警戒が強化され、研究用の艦娘たちも次々に営倉に入れられていきました。」

 

「全国の鎮守府にも、監視を強化し、さらに出撃回数を増やして常に疲労させるよう命令を出しました。」

 

「恒常的に疲労していれば、反抗する気も起きないだろう、と。」

 

「なるほど、だからブラック鎮守府と言われるくらい待遇が悪かったのか……。」

 

「はい。しかし、その方針が却って仇となります。」

 

「死んだ仲間の命日でも、墓前すら行けない。そんな待遇に大本営の艦娘の不満を募らせていきました。」

 

「私が宥めた甲斐もなく、事件は起こりました。」

 

「営倉の看守である軍人は、日ごろから私たちを見下す発言ばかりしていました。」

 

「そのとき、彼は私たちにこう言い放ったのです。」

 

「貴様らの死は、まさに犬死である。戦線は我々の奮闘むなしく深海棲艦に押されている。すでに死んだ貴様らの仲間は、戦術上、戦略上何の意味もなかった、と。」

 

「姉妹を戦いで失った艦娘の一人はその発言に激高し、その上官を殴り飛ばしたのです。」

 

「艦娘の膂力ですから、人間などひとたまりもありません。」

 

「彼は即死しました。」

 

「彼女は泣き崩れて、自らの処刑を懇願しました。」

 

「あってないような軍法会議の後、彼女は命を絶ちました。」

 

「……ここまでは、戦争ではよくある話かもしれません。」

大淀は奥歯を噛みしめる。

 

「しかしその後、処刑された艦娘が姫級となって、深海棲艦になって現れたのです。」

 

「……鉄底海峡に沈んだはずの姉妹艦とともに。」

 

「……。」

あまりの凄惨な事実に、僕は言葉もなかった。

 

「無念、だったんだろうな。」

支倉提督がぽつりとつぶやいた。

 

「……う、うう……、こんなの、あんまりです……。」

我慢しきれなくなった大淀が涙を零した。

 

「私たちが仕留めたんだ。その2隻は。」

感極まった大淀に変わり、支倉提督が話を続ける。

 

「私がなぜ、”深海棲艦と融和しよう”などと言っているか。」

 

「それは、つまり……!」

 

「深海棲艦となった艦娘を救うため……!」

支倉提督はにやりと笑った。それが答えだった。

 

「北方棲姫と仲の良い、気の狂った提督がいると聞いてな。」

 

「前々から唾を付けていたのだよ。くっくっく。」

 

* * *

 

『もしかしたら、お前なら彼女たちを正気に戻すことができるかもしれない。』

『そんな少女のような淡い期待を持って、お前のところに来たんだ。』

支倉提督は去り際にそう言った。

 

『……例の姫を倒すまで艦隊は置いていく。好きに使え。』

本当に忙しいのだろう、弾丸で帰っていく。

 

誰もいない部屋で、物思いに耽る。先ほど告げられた衝撃的な事実を、すぐには咀嚼できない。

 

だが、現実問題吹雪と陽炎が僕を襲っている。

 

受け入れがたい現実を空想していると、バタン、とノックもなしにドアが開かれた。

 

「……。提督。」

 

「霞じゃないか。どうしたの?」

 

「な、なにって……アンタのことが心配で……。」

 

「……霞。」

 

「さっき、支倉提督から聞いたよ。」

 

「吹雪と陽炎だったんだってな。」

 

「そ、それは!何かの間違いよきっと!」

 

「あの子たちが、あんたを傷つけるわけなんか!」

 

「霞……。」

現実を受け入れられないのは、艦娘の方だって……。

 

「そ、そうだ!お茶でも飲む?」

 

「佐世保の子たちがかすてらってのをお土産にくれたのよ!」

 

「急いで来たっていうのに、用意周到なことね!」

僕は、やけに世話を焼いてくれる霞の言葉に甘えることにした。

 

「ねえ、霞。」

いそいそと支度する背中に声をかける。

 

「僕のこと、抱きしめてくれない?」

 

「ぎゅって。」

 

「な!!!」

口をぱくぱくとさせている。

まずったか。

「ごめん、嫌なら……、」

 

「バカ!嫌とは言ってないでしょ!!!」

 

彼女は少し緊張した面持ちで、椅子に座った僕の膝に乗った。

 

よく手入れされたサイドテールがくすぐったい。

 

「……これでいいかしら。」

これがとても人を殺す腕とは思えない。母のような、慈愛に満ちた温かさを持っていた。

それを確認できただけで、僕は満足だった。

 

「霞。」

 

「辛かったね。」

彼女が僕を抱きしめていたはずなのに、いつしかそれは逆転していた。

 

「う、う……、うわぁぁあん。」

 

二人の世界に言葉は不要だった。ただ強く、抱き締めあっていた。

 

 

 

 

 

 

第12話 少女の腕の中で 了

 

 

 

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