最近寄り道ばっかりしてすみません笑
本編に戻りますね。提督は佐世保の艦娘にも手を伸ばすのでしょうか!?
大湊鎮守府にある会議室。そこに艦娘が勢揃いしていた。大湊所属の艦娘。そして佐世保から来た遊軍艦隊。
僕は先日受けた傷も完治しないまま、作戦を練っていた。もちろん、敵である深海棲姫を沈めるための。
ともに大湊へ戻ってきた北方棲姫の心配はかなりのもので、片時も僕から離れようとしない。今も僕の膝の上に載って、舟を漕いでいる。
会議は長く続いた。窓から外を見ると、いつのまにか大雨が降っていた。
「吹雪と、陽炎を……、許すことはできないわ。彼女たちはもう、人類の敵よ。早く、終わりにしてあげましょう。」
窓ガラスに雨粒が叩きつける中、霞が絞り出すように言った。僕は彼女の表情を見ることができなかった。
「提督、私たちに気を遣わないでいいわ。大湊の私たちを出撃させて頂戴。」
気丈に振る舞う姿が、皆の同情を誘う。僕がなかなか切り出せなかったことを霞自ら提案してくれた。
五月雨も、その隣で静かに出撃の決意を固めているようだ。
「うぐ、えぐ……。そんなの悲しすぎるよ、あんまりだよ……!」
二人の様子を見ていた島風が耐えきれずに泣き出した。両腕で抱えた連装砲ちゃんも同様の表情である。
「アタシたちもせっかく大湊まで来たんだ。アンタたちの代わりに……、あの二人を楽にしてやってもいい。」
島風の背中をさすりながら、見かねた摩耶が言う。支倉提督の話では、彼女たちは深海棲姫を沈めたことがあるらしい。
「……そうね。客観的に見ても、私たちの練度はそう高くない。あなたたちに任せるのが模範解答なのだと思う。」
「じゃあ……!」
島風が充血した目を擦りながら言う。
「でも……、」
「私これでも、頭に来ていてよ。」
そう言って加賀さんは僕のところに歩いてきて、突然抱きしめた。僕を。
「のわあっ、いきなり何!?」 「おっ!?」
唐突な行動に、艦娘たちが皆驚きの目で見ている。島風も声をあげた。視線を集めて恥ずかしい。
「この人を護れなかったこと、心の底から後悔しているの。」
「大破して動けなくなって……。」
「あの子たちがあなたのところに向かうのを止められなかった。」
「もう誰も、失うわけにはいかなかったのに……。」
僕の耳元でぼそぼそと喋る。加賀らしくなく弱気だった。
「……いい加減、自分を責めるのは辞めなよ一航戦。」
瑞鶴が口を挟む。
「あんた、空母一隻で姫級2隻を中破させたんでしょ?しかも夜戦で。」
「な!」
初耳らしい摩耶が驚愕の声を挙げた。
「一航戦の栄光は伊達じゃない、そういうことですね。勲章に値する武勲だと思います。」
加賀のかつての戦友でもある榛名もフォローに回る。
「いや、どんだけ練度が高ければそんな領域まで……。空母棲鬼くらいの戦力じゃねーか。」
強気な摩耶が慄いている。加賀さんならやりかねないと思っていたが、実際おかしい。
「……佐世保の皆、ありがとう。」
少し冷静になったのか、加賀は僕の胸から離れた。
「久々の桃色空気じゃん!」
鈴谷がにやにやと茶々を入れる。
「赤城さんを喪った時は、世話になったわね。」
二航戦に向き直る加賀。
「瑞鶴、あの時は私を助けてありがとう。これでも感謝しているわ。」
そう言って頭を下げた。普段の気高い様子からはなかなか想像しにくい行動だった。
それはツインテールの空母にとっても同様だったのか、少し驚いた後、言葉を返した。
「いや、あんなあんたを見てられなかっただけよ……。」
「あの時は世界の終わりみたいな顔してたもの……。」
「……そう。でも、あなたは私の罪を庇ってくれた。」
今でこそ加賀さんは柔らかい雰囲気だが、僕と士官学校で出会ったときは少しもの悲しい雰囲気だったかもしれない。
「公的な軍の記録では、瑞鶴の判断ミスで赤城さんが被弾を許したことになっているわ。」
「あなたが手を回してくれたんでしょう。それであなたは呉から”狂人提督”のいる佐世保に左遷された。」
「……どうだか。そんな昔のこと、覚えてない。」
「……でも、今のアンタは悪くないわ。」
「この提督さんのお蔭かしらね。」
「いや、僕は何も……。」
彼女の大きな目が僕をじっと見た。
「ふぅ~ん。」
「ま、あんたを取ったら怖いお姉さんがミッドウェーの果てまで追いかけて来そうだし。」
「一航戦。貸し一つよ。」
「ええ。一航戦の名に懸けて、心得ました。」
瑞鶴はうなずいた。
「それはともかく、本題。私たち佐世保艦隊は、砲撃支援に徹することとする。」
「良いわね?」
「ええ、彼女たちに気を使ってくれてありがとう。」
「北方AL海域は敵の脅威度の割に重量級の編成が難しい……。連合艦隊が組めないから、佐世保の方々にはそれが妥当だと思います。」
海図とにらめっこを続けていた大井が見解を述べる。
「私、がんばる!連装砲ちゃんと一緒に!」
島風が無邪気な姿を見せ、会議室に和やかな雰囲気が戻った。
* * *
艦隊これくしょん キス魔が行く艦これ
暁の水平線に、勝利を刻みなさい。
……赤城さん、見ていてくれますか。
* * *
「あの~……。少し思ったことがあるんですけど……。」
明石が申し訳なさそうに口を開く。空気を壊したくなかったのだろう。
「明石、何かな?」
「艦娘って、たまに陸に漂着することがあるじゃないですか。山城さんみたいに。」
「うん。」
「あと、戦闘後に発見することもありますよね。」
「たまにあるらしいね。うちでは見つけたことはないけど……。」
「だから……その〜〜。」
「そういう艦娘って、どこから来たんだろう?って考えることがありまして……。」
「もしかしたら、深海棲艦が浄化されたんじゃないかなって前々から思っていたんです。」
「まったくもって根拠のない、希望的観測なんですけど……。 吹雪や、陽炎も、そうなったりしないかな、って」
「あ、いや、技術者として恥ずかしいですね!こんな話!忘れてください!」
明石はわたわたと手を振っている。
「そうなったらいいだろうけど〜〜、期待しちゃうと辛いんじゃないかしら〜。」
案の定、龍田が明石の話に釘を刺した。
「実は、僕も、というか支倉提督もその可能性を考えていたんだ。」
「そうなの~?」
「昨日、支倉提督とその話になってね。」
「軍の研究所で艦娘にストレス溜まった結果、深海棲姫化したっていう事件があって……、それだけでも惨い話なんだけど。」
この話をしてくれた大淀は硬い表情をしている。
「軍としても当然、彼女たちを元に戻せないか研究を試みていたらしい。」
この新しい話は支倉提督から別に聞いたものだ。
「深海棲艦の艤装を破壊し、艦娘の体との接続を切れば外見上はもとに戻る……、研究の結果そこまではなんとかこぎつけたらしい。」
「だけど、残念ながら深い眠りについたまま、その艦娘が起きることはなかったみたいだ。」
「研究者たちは、深海に汚染された精神を浄化させることができれば、元の艦娘に戻る、そう仮説を立てていたらしいけど肝心の方法が……。」
「……どのように浄化すればよいかわからない、ということですね。なるほど。」
聡明な明石が頭を巡らせ始める。
「曙ちゃん、浄化って何!?」
よくわからなかったらしい島風が質問を投げかけた。
「浄化っていうのは……身や心を清めるおまじない、かしら。いえ、もっとちゃんと儀式めいてるものかも。」
「儀式、かあ……。連装砲ちゃん、わかる?」
彼?は砲塔を左右に振り、わからないよ、と返答する。どうしてコミュニケーションが取れているか、皆目わからない。
「よくやるのは塩をまいたり、神社で祈祷してもらう、とかでしょうか……?」
榛名が思いついたことを口にする。
「彼らも一般的なことは試してみたらしいけど……、残念ながら効果はなかったそうだ。」
「浄化……、浄化……。」
「あ。」
ブツブツとつぶやく鈴谷は、自らの胸に手を当てて、何かに気が付いた。
「あるよ、艦娘に効く儀式が。」
「え?ほんと!」
島風が可愛らしく声をあげると、それまで黙っていた大淀が過敏に反応した。
「本当ですか!?」
「鈴谷さん、教えてください!なんでもいいから!」
ぼろぼろと涙をこぼしながら、すがるように彼女は尋ねた。
「お、大淀さん大丈夫?」
「落ち着けよ、大淀。」
鈴谷が驚き、摩耶もたしなめる。
「すみ、ません。わたし、わたし、あのとき彼女たちになにもできなくて……。」
「深海棲艦になるのを止めることができなかった、それを今までずっと後悔していて……、だからこそ、知りたかったんです。」
見るからに真面目そうな大淀。ずっと自分を追い詰めていたらしい。
「あー、大淀さんには申し訳ないけど……、そんな大層なものじゃないから。」
「でも、効くと思います。」
意外なことに山城が賛同した。
「どういうことだよ?アタシたちにもわかるように話してくれ。」
摩耶にせっつかれるので、僕から端的に説明する。
「ええと……、要するに白雪姫と同じというか……。」
「白雪姫?あのおとぎ話の?」
曙が困惑した声を上げる。
「眠れる白雪姫をどうやって起こすか……。要するに僕に王子様役になって起こせ、そういうことでしょ?」
「それって……。」
曙の顔がみるみる紅潮していく。
「ちょっと素敵じゃんか……。」
摩耶が小声で言った。口調は強いが、意外と乙女なのだろうか?
「この鎮守府では、提督からの抱擁や接吻を含むコミュニケーションが日常的に行われているのです。」
身もふたもない言い方で説明する不知火。
「な!? こ、このクソ提督!!どうなってんのよこの鎮守府は!見損なったわ!!」
曙が、至極真っ当な反応を示す。
「あ、あはは……、曙、そんなに否定しないでよ。」
鈴谷が宥めながら続ける。
「キス、が必要かどうかはおいておいて、提督の存在が私たちにとって救いになるのは確かなんだからさ。」
「試してみようよ。少なくとも、艤装を破壊すれば見た目は元に戻るんでしょ?」
彼女の言葉に、反論はなかった。
「お願いします!沈んだ艦娘たちが一人でも救われるなら……、私はなんでも協力します!」
必死な大淀の声に、所属の垣根を越えて気合が入る一同であった。
* * *
「作戦を説明します。」
「目標は北方AL海域に潜む深海棲姫、2隻の無力化。沈没ではありません。」
「大湊艦隊は敵深部まで侵攻、交戦の上、吹雪と陽炎を保護してください。彼女たちの武装を破壊したうえ、強化鋼線で拘束し、鎮守府まで曳航すること。」
「「「了解!」」」
「佐世保の艦隊は指定の座標に向かい、連絡があるまで待機。大湊側が砲撃座標を指定しますので、そこに向けて支援砲撃を行ってください。」
連合艦隊旗艦であった大淀が堂に入ったブリーフィングを行う。今回は彼女が艦隊側の指揮を執る段取りである。
「佐世保も了解しました。榛名、頑張ります!」
支援艦隊旗艦が力強く答えた。
「さあ、連装砲ちゃんもいくよ!みんな、置いて行っちゃうんだから!」
「♪」
砲塔の動きが激しくなり、彼にも気合が入っている様子がうかがえる。
「皆、今回の作戦は、”眠れる海の美女作戦”と命名した。」
最後に僕が話をする。
「姫級2隻を相手にする、かつてない高難度の作戦だと予想されるが、いかんなく力を発揮してほしい。」
「いいかい、危険だと思ったらすぐ撤退するんだ。チャンスは必ずある。」
「それで、作戦が成功したら提督は、二人にちゅっちゅするんでしょ?」
鈴谷が飽きもせずくだらないことを言う。
「最低!」
曙はすかさず突っ込みをいれる。
「それありきじゃないってば!」
笑いの起こる雰囲気の中、艦娘たちは出撃するのだった。
* * *
第13話 眠れる海の美女 了