*本編とは関係ありません、あんまない、かも。
閑話 其の一 大井に看病される話
執務室の椅子に腰かけながら、僕は頭を押さえた。
体が重い。喉が痛い。……頭が痛い。
完全に風邪を引いてしまった。
それ、でも書類の山が……。正月は仕事を少しさぼったので、やるべきことが大量にたまっていた。海軍提督に休みはないのである。
しかし、久しぶりに体調を崩したな……。
……年始の正月特番、「新春艦これLIVE ~今年もToshi提督がやってくる~」を夜更かしして見てしまったからだろうか?
それとも、年末の鎮守府大掃除で外の片づけをやりすぎたからだろうか。
それとも…、、
考え事をしていると頭がぐるぐるしてきて、そのまま机に突っ伏してしまう。
ああ、意識まで……。
そうして僕は気絶だが寝落ちだかわからないまま、目の前が真っ暗になった。
* * *
艦娘の皆が寝静まったころ、大井は自分も床に就こうと部屋に向かっていた。
通り掛けに、ちらと執務室が目に入る。時刻は23時を過ぎているというのに、電灯が付いていた。
さすがの提督でも、正月早々この時間まで仕事はすまい。
消し忘れかしら?そう呟き、彼女は部屋に入る。
すると、机に頭を預けて動かない浅野がいた。血相を変えて近寄る。
「て、提督!!大丈夫ですか!」
「龍田、僕、変態じゃないって……」
この男は、むにゃと言いながら間抜けなことを口走る。
「なんだ、寝てるだけじゃないですか……。」
「あー、心配して損した、、って。」
胸を撫でおろしつつ、誰彼構わずキスしまくるこの男を起こそうとする。心なしか大井の手つきが乱暴であった。
……肩に触れたとき、はっと気がつく。
「すごい熱じゃないですか!」
「こんなところで寝るから、も~~!」
「今日は北上さんにお手紙書こうってと思ってたのに!」
やれやれ、といった風だが、大井が
部屋を出るそぶりは全く見せない。
「提督! 起きてください!」
「お・き・て!」
「て・い・と・く!」
「ん……。」
ぴくりとも動かなかった男が、もぞ、と動き出した。
「大井か……。」
眠そうな目で大井をぼんやりと見ている。
すると、やおら話し出した。
「この鎮守府で、大井と最初に会ったんだったよね。」
「いつも秘書官助かってる。ありがとう。」
「僕でよければ、ずっとそばにいてくれ……。」
そう一方的に言って、また眠りに落ちた。
「な、、」
息をするように口説くじゃないか、この男。
「あんたの本命は加賀さんじゃないんですか!」
頬を染めながら、三度起こしにかかるのだった。
* * *
……ふう、ふう。
おかゆ、作りましたよ。提督、熱くないですか?
はい、あーん。
ゆっくり食べてくださいね。
今日はお仕事お休みして、寝ててください。
あとは私たちの方で進めておきますから。
それじゃあ、お薬飲んで、おやすみなさい♡
……ありがとう、大井。
「はっ!」
目を覚ますと、私室の天井が見えた。
甲斐甲斐しく艦娘にお世話される、そんな幸せな夢だった。
相手はしかも大井だったような……。
普段の様子と違いすぎて思わず苦笑した。
そう思いながら起きようとすると、体が重い。熱もある。
ああ、風邪ひいていたんだった。
……そういえば、昨日は執務室で寝落ちしたはずでは?
服も軍服のままだ。
誰かが私室に寝かせてくれたのだろうか?
ありがたいことだ。
起き上がると少しふらふらするが、仕事が溜まっているため、早い所片づけなければならない。
執務室のドアを開けると、そこには大井がいた。
手にはおかゆが入った鍋を持っている。
「提督、ちょうど起こそうとしていたところです。体調はいかがですか。」
少し事務的に聞いてくるが、一応僕の体調を心配していたらしい。
「大井が、これを……?」
「なんですか。私じゃ悪いですか。」
「いや、そういうことじゃなくて……。少し、意外だなって。」
「はいはい、加賀さんじゃなくて悪かったですね。」
「主力の皆は出撃中ですから。」
少し機嫌が悪くなってしまったようだ。
「それで、熱は?」
「ちょっとあるみたいだけど、仕事しないといけないから……。」
大井はつかつかと目の前に歩いてきて、僕の額に手を当てた。
「結構あるじゃないですか。」
「馬鹿言ってないで、早くご飯食べて、寝ててください。」
「あなたに倒れられる方が迷惑です。」
口調は厳しく、どちらが上司か分かったものではない。
「それはそうだね……。今日はおとなしくすることにするよ。」
「それでいいんです。」
大井はうなずき、仕事に向かっていった。
僕は用意されたおかゆを食べる。
「出汁が利いててうまいよ。」
「良い嫁さんになるよ。」
「これは、いつか北上さんに食べさせようと思って!」
慌てたような声が飛んでくる。照れているのだろうか。
「ふふ、提督が実験台になってくれてよかったです。」
大井は大井だった。
「それでも、大井が布団まで寝かしてくれたんだよね?ありがとう。」
「あんなとこで寝てたら治りませんよ。」
そんな話をしていると、執務室に誰かが入室してきた。
「大井、おはよう~。」
「あら、龍田。おはよう。」
「寝坊助さんが来ないから、私から来ちゃった~。」
「今日は朝から工廠で装備の打ち合わせよね~。」
「あ。ご、ごめん龍田。今から行くから。」
「ていとく~?記憶力ないんですか?」
すかさず釘を刺す大井。
「……龍田、この通り風邪をひいてしまって。今日は休暇とすることにした。」
「へえ~。甲斐甲斐しく世話してもらっているのね?」
龍田はこの状況を面白がっているようだ。
「情が沸いたんですよ、情が。」
大井はそっぽを向きながら、つっけんどんに返す。
「大井ちゃん、本当かな~?」
からかうような口ぶりの龍田に、大井は即座に反応するのだった。
「本当よ!」
「夜のお世話もしてたりして~……。」
「龍田、何言ってるんですか!一緒に寝たぐらいで!」
「「え?」」
僕と龍田の声が重なった。
「提督が心配だったからそばにいただけ……、って今の無し!!」
「あらぁ~。お熱いことで。」
龍田はわざとらしく両手を頬にあてた。
「そ、そういう意味じゃないったら!」
「うふふ~。お邪魔しないように失礼するわあ~。」
「大井も遠慮しないで、もっと甘えてもいいと思うわよ?」
そう捨てセリフを残して、龍田は部屋を出ていった。
気まずい沈黙が部屋を支配する。
「……提督。」
「う、うん。」
「さっきのは……、忘れてください。いいですね?」
大井は何かオーラを放っている。
「わ、わかった……。今日は寝るよ。」
「その前に。久々に、あれ、してください。」
「!」
「う、うん。でも、風邪、うつるよ?」
「……艦娘は風邪をひきませんから。」
言いながら、彼女は僕に向かって背伸びをした。
「はむ。」
「……もっと、です。」
この後も、執務室に来た艦娘たちに、大井ともどもさんざんいじられ続けるのだった。
「……私、提督のこと、どう思ってるのしら。」
「誰彼構わず愛想を振りまいて、でも気持ちには気が付かないで。」
「彼はきっと加賀さんのことが……。」
「……はあ。」
「北上さんに相談、しよ。」
大井の呟きは、誰にも聞かれることはなかった。