~キス魔が行く艦これ~ 寂しさを埋めるもの   作:波切涼

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投稿まで大変間が空いてしまいすみません!

年度末の忙しさでぶっ倒れておりまして……。

息抜きで書いていた夕立回が非常に筆が乗ったので投稿再開します!!


閑話其の二 ぽいぬを拾って世話する話

 

 

 

 

 

 

いつものように仕事をしていると、時雨が執務室にやってきた。

「ね、ねえ提督。お願いがあるんだけど。」

 

時雨は少し言いにくそうに話を切り出した。

 

「何かな?時雨が頼み事なんて珍しいね。」

 

「えっとさ、犬、飼ってもいいかな。」

驚いた。本当に珍しい申し出だ。

 

「犬か、物資に余裕もでたきたし……。でも散歩とかしないとだよね。」

当たり前だが、軍隊で犬は珍しくない。だがそれは陸軍の軍用犬として、である。

海軍では猫を船で飼う、というのは珍しくなかったようだが。

 

「もし吠える犬だったら、作戦の邪魔になったりしないかな?」

 

「良い子だから大丈夫だよ!」

 

「なんだ、もういるんだ。」

 

「う、うん。鎮守府で拾ったんだ。」

 

「こっちにいるから、提督も実際に”会い”に来てよ。」

そう言われて、僕は休憩がてら時雨についていくことにした。

 

犬に”会い”に行くって、日本語が変じゃない?

 

でも、本好きな時雨が言うんだから、間違ってないのだろう、たぶん。

 

 

* * *

艦娘寮の前、そこに段ボールの箱が置いてあり、その中に犬が収まっていた。

 

否、犬のような何かだった。

……否、明らかに艦娘だった。

 

「時雨、これ、さあ。っていうかこの”娘”さあ。」

絹糸のような金色のロングヘアに、緑色の大きな瞳。

髪が跳ねており、確かに犬の耳に見えないこともない。

 

「な、何かな提督。”娘”じゃなくて、明らかに犬だよ提督。」

 

「そうそう、毛もきれいな金色だし、たぶん、ゴールデンレトリバーなんじゃないかな。」

狼狽しながらも、嘘をつき通す時雨。

 

段ボールには紙が貼ってあり、

『ぽいぬを拾ってくださいっぽい』

と手書きで記してある。

 

「艦娘じゃん。っていうか、夕立じゃん。」

 

「ちがうっぽい~~!!」

段ボールの娘が叫んだ。

 

「夕立は犬、ぽい!!」

 

「ほら、夕立もそう言ってるじゃないか。」

 

「いや、しゃべってるじゃん。」

勢いにたじろぎながらも、僕はツッコミ続けた。

 

「最近の犬はしゃべることくらい、造作もないさ。」

 

「ほうら、よしよし。」

そう言いながら、時雨は夕立を撫でた。

 

「気持ちいいっぽい~♪」

その様子は本当に毛づくろいされた犬のようだ。

 

「じゃあ、話はついたね。これからは艦娘寮でお世話するから。」

 

「ああ、わかったわかった……。」

何か事情があってこんなことをしているんだろう。僕は無駄な抵抗をあきらめることにした。

時雨の姉妹艦だから、今後彼女の寂しさも薄れてゆくだろう。

 

「じゃあ、これ。」

大型犬に付けるような赤い首輪を、時雨は僕に手渡す。

 

「首輪をつけてあげてよ。提督の手で。」

「ええ!?」

白くて細い首にこんなものを……、なんだかいかがわしい。

 

「かわいい女の子に付けるのはちょっと抵抗があるけど……。」

 

「何言ってるのさ。夕立は犬だよ。はやく、はやく。」

 

「首輪しないと、暴れるっぽい!」

そういいつつ、がおーっと狼のようなポーズをとってみせる。

どこからみても、可憐な女の子だった。

 

「それも、困る……。」

とりあえず話を合わせる、しか、ないか……。

 

「んっ。」

首輪を首筋にあてると、夕立は革の冷たさに少し身じろぎする。

 

「これくらいの締め付けでいい?」

少し彼女の目がとろんとしているように見える。大丈夫だろうか?

 

「大丈夫!夕立、良い子にするっぽい!」

嬉しそうな金髪の彼女の様子に、僕は何でもよくなってしまった。

 

「撫でて撫でて~?」

 

「はいはい。」

 

「提督のおそばにずっといるっぽい!」

 

なんだか本当に、小動物に好かれた気分がした。

 

 

 

 

 

 

 

ぽいぬを拾って世話する話

 

 

* * *

後で時雨に事情を聞くと、どうも夕立は他の鎮守府から逃げてきたようだった。

 

彼女は時雨を頼って遥々青森まで来たらしい。

 

脱走というのは軍では重罪であり、軍人であれば銃殺、艦娘であれば解体処分となる。

 

時雨をはじめとした艦娘たちは、”あくまで犬を拾った”という建前で、夕立を救おうとしたのだった。

 

僕もその事情を汲んで、話に乗ることにした。

 

ここには北方棲姫という姫級もいるのだから今更の話である。

 

それはそれとして……。

 

「提督さん、拾ってくれてありがとっぽい!!!」

夕立は暇さえあれば執務室にいて、僕にべたべたとじゃれてくるのが日課となっていた。

 

「夕立、提督が嫌がっていますが?」

不知火の険のある小言にも夕立は全く動じない。

 

「夕立は犬っぽい!だから仕方ないっぽい~!」

そう言いながら、彼女は僕の頬にすり寄る。甘い香りが鼻腔をくすぐった。

 

「不知火、夕立は前の鎮守府でひどい目にあったみたいだから、優しくしてあげてほしいな。」

 

「夕立、柱島で死にかけたっぽい。もう怖いのは嫌っぽい!」

地獄とも評される柱島泊地は、相当なトラウマなのだろう、膝の上で子犬のようにぷるぷると震えていた。

 

「よしよし、もう怖くないよ。」

昔実家で犬を飼っていたころを思い出しながらなだめる。

 

「夕立、提督は1日1時間までにしてください。じゃないと不公平です。」

不知火は食い下がるが、

「し~らな~い~っぽい~!」

けんもほろろである。

 

* * *

……僕の執務室に家ができた。

意味がわからないでしょう。ごめんなさい、僕もです。

 

『夕立のおうち』

執務室の一角に木の表札が貼ってあり、ちょうど大型犬が寝られるようなクッションが置いてある。夕立は一日をそこで寝て、起きて、遊んで、過ごすようになっていた。着替えなんかも平気でしようとするので、そのときは慌てて私室に引きこもる羽目になっていた。駆逐艦寮に部屋もあるのだが、一人は寂しくて嫌らしい。

 

夕立は自分が犬であるという建前を逆手に取り、割かし自由に暮らしていた。

だがその自由さも、度が過ぎているというか……、最初はほほえましく見ていた艦娘たちも最近では空気が変わってきた。

というか皆の行動がおかしい。

 

夕立に「お散歩してほしいっぽい」と言われ、リードをひいて鎮守府の中を歩いているときのこと。

 

たまたま会った山城がすごい目で僕を見ていた。

「提督、ついにいたいけな駆逐艦にまで魔の手を……。」

 

「お姉さま、彼はここで雷撃処分したほうがいいですよね!?」

山城はご丁寧に、姉の扶桑のいる呉鎮守府の方角(南西)を向いて叫ぶ。

 

「何か誤解しているけど、これ、お願いされてるだけだからね!?」

艤装を展開し出す山城をなんとか制止する。しかもあなた、魚雷発射管ないでしょう……。

 

「金剛型みたいに、山城改二”丙”になって雷撃すればいいんでしょう!?」

 

「山城、何を言ってるの、落ち着いて。」

 

「私はあなたのペットになるのは御免ですからね!」

 

「……うん。」

 

「でも、駆逐艦を無理やり手籠めにするよりは……、」

 

「ここは戦艦の私が身代わりに!」

 

「……ん?」

 

「あのーー、やましろさん??」

 

「早く、これを私に!!」

いつの間に用意していたのか、山城が黒い首輪を差し出す。鉄でできているのか、頑丈な作りでずっしりと重い。

 

「ふうん、自分を身代わりに、という体で欲望を表現する、そういう手もあるのですね……。勉強になります。」

草むらからいきなり出てきた不知火が、口を挟む。

 

「な!!!違いますから!!」

 

* * *

 

食堂で「ご飯を食べさせてほしいっぽい!」と言われ、スプーンでカレーを掬って口元へ持っていく。

 

「おいしいっぽい!!次はプリンがいいっぽい~~。」

 

「あはは、ほほえましいね~。”表面上は”。」

棒読みの鈴谷。

「提督、もうちょっとだけ~周りを見たほうがいいかも?ほらほら、怖いよ?」

 

ふてくされている音がしそうなほど、口をとがらせているのは大井であった。

 

「ど、どうしたのかな。」

 

「どうもこうも!しませんけど!」

見るからにぶちぎれている。まずい。

 

「……。」

助けを求めて鈴谷先生の方を見ると、アイコンタクトでプリンを示している。

その後口を突き出して、大井にキスしろとジェスチャーしている。

冗談はやめてほしい。人前でそんなことをしたら30門の酸素魚雷を叩きこまれてしまう。

 

「ね、ねえ大井。プリン、食べる?」

 

「……食べます。」

ふてくされたまま答える。

 

とっておいた自分の分のプリンの器を、ずいと大井に渡す。

 

「……。」

大井の眉間にしわが寄る。

 

「……違うと思うっぽい。」

さしもの夕立も真顔で答える。

 

諦めてプリンを匙で掬って、大井の口元に持っていく。

 

「はむ。」

 

「おいしいよね、これ。」

 

「……。」

大井は黙った。

 

「……どうぞ。」

匙を突き出す。

 

「はむ。」

何度か繰り返すと、器が空になる。

 

「満足したっぽい?」

 

「……はい。」

 

……よかった。大井の扱い、難しいんだよね。そこがいいんだけど。

 

 

* * *

 

執務室で仕事をしていると、重いノックの音がして艦娘が入ってくる。

 

時雨だ。

 

「僕も犬みたいに、扱ってほしいな……。」

……真打が登場した。

 

「最近の夕立を見ていたら、変な気分になっちゃって……。」

 

「これ、首輪もあるから……。」

鉄でできた、重厚な作りである。夕立がつけているものとは違う。

 

「しっかり、”しつけ”してほしいんだ。」

言葉遣いが不穏である。

 

「時雨、時雨。正気に戻ろう。夕立のと、意味合いが違ってないかい?」

 

「僕は、大丈夫さ。」

 

「多少痛くても、平気だよ。」

 

「あっ話通じてない。」

 

少しうるんだ彼女の瞳に吸い込まれそうだった。

 

どう対峙するか考えを巡らせる。

 

「提督、僕は大丈夫だから……。」

こちらが黙っていると、時雨は例の首輪を持ちながらじりじりと近づいてくる。

何が大丈夫なのかわからないが、この妙な雰囲気が鎮守府全体に波及するのはよくないと思った。

 

……仕方がない、腹をくくろう。

 

「ほら、時雨。」

そう言って僕は時雨に手を伸ばす。

 

「提督……。」

少し恐怖があるのか、両手で首輪を差し出しながらも彼女は目をつむった。

 

そうして……、

 

僕は時雨の頭をわしわしと撫でた。それこそ、大型犬を扱うかのように。

 

「そ、そういうことじゃないんだけど……。」

口では拒否しているが気持ちよさそうだ。

 

毎日の戦いのストレスが彼女をおかしな方向に走らせているに違いない。

僕が彼女たちにできることは、少しでもリラックスしてもらうことだ。

海軍仕込みのマッサージ術を披露してあげよう。

 

「あ、そ、そこは!」

まず肩に触れると、かなりの肩こりがあることがわかる。こいつは強敵だ。

 

背中を向かせ、肩甲骨が可動するように入念にほぐしていく。

 

凝りというものは、患部をほぐしても直接的な解決にならないことが多い。

 

筋肉が引っ張られて固い場合は、このように付け根をほぐしてやると……、

「ああっ!痛いけど……、でも、大丈夫。」

少し痛みもあるが、かなり効く。

 

……よし、肩はだいぶましになった。

 

次は背中かな……、

 

「提督、そんなのだめっぽい!!」

 

「え?」

声の方向を見ると、夕立がドアを開けた勢いで床に倒れこんでいる。

 

「……夕立、盗み聞きしていたのかい?」

ソファに寝そべった時雨は、首だけで夕立を見ている。

 

「た、たまたまっぽい……。」

 

「部屋に入ろうとしたら、時雨と提督、変な雰囲気に見えて……。」

 

「痛いことさせてるかもって……。」

 

「もし、もし、提督が時雨をいじめるようなら、わたし、止めようと思って……。」

 

「……浅野提督はそんな人じゃないさ。」

 

「これは、僕が提督にお願いしようとして……、」

 

「少し、夕立がうらやましくて。」

 

「そうだったんだ……。」

 

「でも、もういいんだ。」

 

「提督が、優しい人だってわかったから。」

ソファに座りなおした時雨は、僕を見つめた。先ほどの怪しげな瞳ではなくなっていた。

 

「僕は、僕のやり方で行く。」

 

「よくわからないけど、それがいいっぽい!」

 

「だから、提督。」

時雨は両手で僕の顔を挟み、顔を近づける。

 

 「……覚悟しててね?」

 あっさりと口づけをして、部屋を出て行った。

 

「っぽい!?」

夕立は顔を真っ赤にさせながら、驚きのあまり口をぱくぱくさせている。

 

「時雨はまったく……。この鎮守府特有のスキンシップみたいなものだから、あまり深く考えないでほしい。」

 

「……そういうことにしとくっぽい。」

 

夕立は怪訝な目で一瞥し、この部屋にある”夕立のおうち”に戻っていった。

 

クッションの上に女の子座りしている。

よく見ると、それは僕の私室のものだったが……。 

 

「わたし、提督さんと出会ったばかりだけど……。」

 

「なんだか、好きになれそうな気がするっぽい。」

 

「柱島と違って、みんな楽しそう。」

 

「これからもよろしくお願いっぽい!!」

 

「うん。こちらこそよろしくね。」

 

「……キスは、すこし待ってね?」

 

「そんなの真似しなくていいって!」

 

”ぽいぬ”を拾ったことにより、賑やかさが増した鎮守府であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ぽいぬを拾って世話する話 了

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