~キス魔が行く艦これ~ 寂しさを埋めるもの   作:波切涼

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今この文章を佐世保コラボ中に書いていますが、テンションがあがって夜更かししてまで書いてしまいますね!

艦娘遊撃隊の皆さんとか、街に置かれたスタンディとか、ライブとか……!

ネタ回のはずが、想定外の内容になってしまいました。
でも、個人的にはかなり好きな話です。


山城、いいよね……。
私は加賀嫁提督なんですが、浅野と同じで他の艦娘に浮気しかしていません。いつか愛想を尽かされる……涙


閑話其の三 山城の不幸な一日

「不幸だわ……。」

私は呟きながら鎮守府内を歩き、目当ての部屋の戸を叩く。

 

「あ、山城さんじゃないですか。今日はどうしたんです?」

扉を開けると、桃色髪の快活な女の子がなにやら機械いじりをしている。この子はネイルにも興味がないらしく、指先を整備油で真っ黒にしながら妖精と技術的な話をしていた。私はそんな技術一筋の彼女の姿勢に好感を持っていた。

 

「明石、急に押しかけてごめんなさいね。主砲の調子が悪くて……。あと、少しだけ話を聞いてもらいたいの。」

 

「私でよければお安い御用ですよ!もちろん装備も見ますね!」

 

「明石、あなたは本当にいい女の子ね……。お姉さまの次くらいに。」

姉さまの良さは常に布教していかねばならない。嗚呼、早く会いたい……。

「あ、あはは……。ありがとうございます。戦えない私にはこれくらいしかできませんから。」

 

「それで、どうしたんですか?」

 

私はここ最近、立て続けに起こっている不幸な出来事について話を始めた。

 

「私は不幸体質なのは知っていると思うけど……、最近特にひどくて。」

 

「うんうん。」

 

「例えば、出撃が終わってベッドに横になったら、いきなりベッドの脚が折れて、使えなくなって……。」

 

「そういう類いの不幸なの。」

 

「ああ、嫌ですねえ……。」

 

「夜遅かったし、へとへとに疲れていたから、その日は提督のベッドを無理矢理借りたの。」

 

「……ん?」

 

「そしたら、提督がソファで寝る!って言い出すのよ。そんなの、私たちの上司がやることじゃないわよね?」

 

「言うことを聞かない提督をなんとかベッドに入れさせたり。」

 

「最後には羽交い締めにして抱きついたら大人しくなったわ、まったく。」

 

「……んん?」

怪訝な表情をする明石。

 

「次の日の朝一番も敵襲があって出撃したら、敵艦載機の爆弾が運悪く顔に直撃して……、即大破。」

 

「主砲一発も撃たずに撤退なんて、屈辱の極みだったわ。」

 

 「うわあ……、想像するだけで痛そう……。」

 

「仕方がないからドックで入渠していたら、提督が間違えて入ってきて。」

 

「びっくりして叫んだら、逆に提督の方が驚いて転んで気絶しちゃって……。」

 

「身体を見られた私の方が介抱することになったわ……。」

 

「んんん?」

 

「ほかにも……、」

 

「まだあるんですか!」

 

「洗濯物を干していたら風で飛んでしまってね。追いかけて行ったら……、」

 

「……提督ですか?」

 

「ええ。私の服や下着が提督に巻き付いていたわ。」

 

「……。」

 

「何してるんですか!って言ったら平謝りされたけど。」

 

なんだか急に明石が興味をなくしたように見える。

 

「山城さん、そういうのが嫌ならちゃんと提督に言った方が……。」

 

「いや、その……。」

なんとなく言いづらくて、目線をそらす。

 

……少しの沈黙が、工具だらけの部屋を支配した。

 

「……私、提督にきつい態度を取ってしまうことが嫌なの。」

 

「え?山城さんはそんな印象ないけどなあ……。」

 

「むしろ龍田さんとか、大井さんの方が厳しいかも?」

 

「……そうね。」

 確かにそうだ。というか、大井に至っては提督を殺しかけた、と聞いている。

 

 「私、自分の気持ちすらわからなくなってるんだわ。」

 

「なるほどなるほど……。」

彼女は探偵のような口調でこめかみを押さえる。

 

「山城さん、ズバリ聞きますが……、」

 

「提督のこと、好きですか。」

 

「……。」

 

そんなこと、考えてもみなかった。

 

「私を含め、ここの艦娘は提督のことが好きだと思います。」

明石の眼が少し恥ずかしそうに泳ぐ。

 

私たちの浅野提督。 

着任したての新人で、気持ちばかり先行して。経験不足をカバーするために、ずっと私たちのために深夜まで仕事をしていて。

でも当然失敗も多くて。北方棲姫のことで軍に連行されたりみんな心配して。戦艦時代の私に乗艦していた、選りすぐりのエリートたちとは全然違った。

どこかほおっておけない人だった。だから、からかうつもりだったで私からキスしたことがあった。

 

「まんざらでもない気がするけど……でもどっちかというと私、嫌われたくないのかも。」

 

「好きかどうかはわからないの。」

 

「でも、嫌われたくないの。」

  

「先の大戦ではろくに活躍できないまま沈んで。」

  

「だから、大湊鎮守府に拾われてからは頑張ろうと思って。」

 

「でも人の身体では、なかなか思うように戦えなくて。」

 

「私も長門型や金剛型みたいになりたいと思ったけど、大違い。」

 

「鈍重だし艤装の重心バランスは悪いし……。欠陥戦艦だって、あの人に知られたくなかった!」

艦娘に転生してからは忘れていた。自分の心のなかにはこんな気持ちがあったことを思い出した。

 

「山城さんには山城さんのよさがある、と言いたいところですが、私が言っても心に届かないと思います。」

 

「私の眼からは、提督の思う山城さんと、山城さんの思う提督のイメージが、すれ違っているように見えるんです。」

 

「だから、戦艦らしく向き合ったらどうですか。提督と。」

 できれば単縦陣がいいですね、と冗談を言う。

 

「……あなた、意外と豪快なところがあるわね。」

 

「でも、一理あるかも。」

 

明石のこういうところが皆に好かれるのだ。はっきり物を言って、後腐れがない海の女。

提督も、こういう子の方が好きなのかしら……?

 

 

* * *

 

キス魔が行く艦これ。

 

 

暁の水平線に、勝利を刻みなさい!

……勿論、扶桑姉様と一緒にね。

 

 

* * *

 

執務室の前に立つ。なんだか、先頭より緊張してしまう。

少し深呼吸して、先程明石が言った言葉を思い出す。

 

 『山城さん、引き寄せの法則ですよ!』

 『不幸って言ってると、ほんとにそうなっちゃいますからね。』

 『もやもやした気持ちは浄化した方がいいですよ、提督を使って。』

 

 でも、私は明石が思うより面倒くさい女なの。あれこれ余計な心配をして、このドアを開けることも出来ない。

 

 ……もうやめよう。扶桑姉様に手紙で愚痴を言おう。

 

「あ、山城じゃないか。」

 

不意に扉が開き、問題の男が姿を現した。

 

「きゃあ!なんですか!提督!」

 

「なんでって……、ちょうど山城に用があったから呼ぼうとしてたんだよ。」

 

「わ、私なんかに用ですか?」

 

「うん。大本営から”コレ”が来てさ。」

 

「一体なんですか……?」

 

 『艦娘ノ改造二係ル大本営付属技術研究所 研究報告』

 

「改造?」

 

「うん。一定の練度に達した艦娘たちは艤装を改造することにより、より性能を向上させることができるらしいんだ。」

 

「あそこはなんだかマッドなイメージがありますが……、人柱じゃないですよね?」

 

「いやいや!他の鎮守府で先行試験していた結果が出て、特に問題なかったようだよ。若干燃費が悪くなるけど、火力も装甲も強化されるって。」

 

「ん……。ただでさえ悪い戦艦の燃費が更に……、でもリターンも大きい……。」

 私はブツブツと改造の是非について検討を始めた。

 

「更に改二、改三という改造段階も示唆されているけどね、それには練度に加えて艦娘との深い結び付きが必要らしいんだ。」

 

「現状の海軍の艦娘に対する悪辣な待遇では、極めて難しいだろう、と書いてある。ははは、上層部への悪口だねこりゃ。」

 

「改二、改三……ですか。」

 

「どうしたの、イ級が豆鉄砲食らったような顔して。」

 

「改造したら、強くなれますか。提督。」

 

「そりゃあ努力相応の見返りはあるだろうけど……。」 

 

「改二以降は相当高い練度が要求されるらしい。かなりの鍛練が必要になるはずだ。」

それだ。

目の前の人に醜い心をさらけ出すよりも、もっと自分が傷つかない逃げ道があった。

たとえ、それが茨の道であったとしても。

 

「私、がんばります。」

 

「戦艦の意地があるんです。」

 

「うん……?山城、なんかいつもより張り切ってるね。」

 

「逆に心配だな。」

やめて。

 

「あんまり無理すると辛いと思う。」 

私に優しくしないで。

 

「山城はうちの主力なんだから、ゆっくり成長していけばいい。」

かりそめの温もりは要らない。私は唯の船なんだから。

 

「だから……、」

 

「嫌!!」

私は提督を突き飛ばし、部屋を後にしようとする。

 

「山城!」

 

ドアノブに手をかけたところで、提督の腕が私の身体を包んだ。

 

「いや、いや……!」

意外と力が強かった。振りほどこうとしても、力が入らなくなった。

 

「嫌われるのは、嫌……。」

 私は床にへたり込んだ。 

 

「ごめん。」

 

「そうだよね。艦娘なんだから強くなりたいよね。」

 

「演習、練度の高い艦隊で優先的に組んでもらおうか。」

 

「それなら実入りも大きいはず。」

 

「……。」

 

「違う、違うの……。」

 涙が一人でに溢れ出す。あろうことか、泣き出してしまった。

 

「や、やましろさん!?」

 おろおろする提督と、大人げない女が一人。

 

「よ、よしよし……。」

彼は動揺しながらも、慣れた手付きで背中をさすってくれる。

 

「大丈夫だよ、もう怖くない。」

落ち着く声色を聞きながら深呼吸していると、本当に冷静になってきた。

 

「妹の凛にね、よくこうしてあげてたんだ。」

 

「凛は泣き虫でね。なにかすぐお兄ちゃんって言って慰めてたっけな。」

 

「確かに、提督には妹いそうです……。」

鼻をすすりながら返答する。

 

「ふふ。山城も妹だもんね。重ねちゃうのかも。」

 

「私なんか、妹さんからクレームついちゃいますよ。」

 

「それはないさ。」

 

「え?」

 

「もういないから。」

 

「それは……。」

 

「僕が海軍士官学校に入るちょっと前にね。」

 

「地元の港町で、浜に来てた深海棲艦にやられた。」

 

「そ、そうだったんですね……。ごめんなさい!無遠慮なことを言ってしまって……!」

 

「いや、本当に妹に似てるなって思っただけだよ。」

 

「敬語で、つんつんしてるんだ。そんな雰囲気がね、少し似てた。」

 

「だから、過保護になっちゃうのかな。うまく、君に向き合えないんだ。」

 

「でもこれは僕の問題だから、山城には関係ない。こんなこといきなり言われてやりづらいだろうに、上官として謝罪する。」

そう言って提督は頭を下げた。

 

「いえ!謝るのはこっちですから!」 

そんなこと言って、ずるいです。

 

もう、あなたの弱さを見せないでください。

 

「この話はやめにしよう。」

もう、寂しげに遠くを見ないでください。

 

「早く改二にしようね。皆にも、艦隊強化の機運が高まって対外的に演習を開始する、と言っておくから。」

もう、私たちのことばかり、考えないでください。

 

あなたの心に空いた穴は、誰が埋めるんですか。

加賀さんですか。時雨ですか。大井ですか。

 

みんな、知っているんですか。

 

「それじゃあ、仕事に戻るから。」

だめです。

 

「無理してるのは提督の方じゃないですか。」

 

「……平気。自分はもう、慣れっこだから。」

 

「……うそつき。」

本当は、すっごく辛いんじゃないですか。

 

「参ったな……。やけに鋭い所まで似るとは……。」

女の洞察力を舐めないでください。

 

「……山城。」

 

「頼みがあるんだけど。」

 

「胸を貸して、くれないかな。」

 彼が言いきる前に、私は頭を抱き止めました。

 

「凛、ごめん……、ほんとうにごめん……。」

 彼はすすり泣いていました。無力感か後悔か、胸中はわかりません。  

 

こうしていると、もう私はだめかもしれません。

 

あなたのことが、好きで好きで堪らなくなってしまいます。

 

 私、重いですよ。この両手は決して手放しませんよ。

 

 なんてったって、超弩級戦艦ですから。

 

 

 

閑話其の三 山城の不幸な一日 了

 

 

* * *

 

 

 

 

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