艦娘遊撃隊の皆さんとか、街に置かれたスタンディとか、ライブとか……!
ネタ回のはずが、想定外の内容になってしまいました。
でも、個人的にはかなり好きな話です。
山城、いいよね……。
私は加賀嫁提督なんですが、浅野と同じで他の艦娘に浮気しかしていません。いつか愛想を尽かされる……涙
「不幸だわ……。」
私は呟きながら鎮守府内を歩き、目当ての部屋の戸を叩く。
「あ、山城さんじゃないですか。今日はどうしたんです?」
扉を開けると、桃色髪の快活な女の子がなにやら機械いじりをしている。この子はネイルにも興味がないらしく、指先を整備油で真っ黒にしながら妖精と技術的な話をしていた。私はそんな技術一筋の彼女の姿勢に好感を持っていた。
「明石、急に押しかけてごめんなさいね。主砲の調子が悪くて……。あと、少しだけ話を聞いてもらいたいの。」
「私でよければお安い御用ですよ!もちろん装備も見ますね!」
「明石、あなたは本当にいい女の子ね……。お姉さまの次くらいに。」
姉さまの良さは常に布教していかねばならない。嗚呼、早く会いたい……。
「あ、あはは……。ありがとうございます。戦えない私にはこれくらいしかできませんから。」
「それで、どうしたんですか?」
私はここ最近、立て続けに起こっている不幸な出来事について話を始めた。
「私は不幸体質なのは知っていると思うけど……、最近特にひどくて。」
「うんうん。」
「例えば、出撃が終わってベッドに横になったら、いきなりベッドの脚が折れて、使えなくなって……。」
「そういう類いの不幸なの。」
「ああ、嫌ですねえ……。」
「夜遅かったし、へとへとに疲れていたから、その日は提督のベッドを無理矢理借りたの。」
「……ん?」
「そしたら、提督がソファで寝る!って言い出すのよ。そんなの、私たちの上司がやることじゃないわよね?」
「言うことを聞かない提督をなんとかベッドに入れさせたり。」
「最後には羽交い締めにして抱きついたら大人しくなったわ、まったく。」
「……んん?」
怪訝な表情をする明石。
「次の日の朝一番も敵襲があって出撃したら、敵艦載機の爆弾が運悪く顔に直撃して……、即大破。」
「主砲一発も撃たずに撤退なんて、屈辱の極みだったわ。」
「うわあ……、想像するだけで痛そう……。」
「仕方がないからドックで入渠していたら、提督が間違えて入ってきて。」
「びっくりして叫んだら、逆に提督の方が驚いて転んで気絶しちゃって……。」
「身体を見られた私の方が介抱することになったわ……。」
「んんん?」
「ほかにも……、」
「まだあるんですか!」
「洗濯物を干していたら風で飛んでしまってね。追いかけて行ったら……、」
「……提督ですか?」
「ええ。私の服や下着が提督に巻き付いていたわ。」
「……。」
「何してるんですか!って言ったら平謝りされたけど。」
なんだか急に明石が興味をなくしたように見える。
「山城さん、そういうのが嫌ならちゃんと提督に言った方が……。」
「いや、その……。」
なんとなく言いづらくて、目線をそらす。
……少しの沈黙が、工具だらけの部屋を支配した。
「……私、提督にきつい態度を取ってしまうことが嫌なの。」
「え?山城さんはそんな印象ないけどなあ……。」
「むしろ龍田さんとか、大井さんの方が厳しいかも?」
「……そうね。」
確かにそうだ。というか、大井に至っては提督を殺しかけた、と聞いている。
「私、自分の気持ちすらわからなくなってるんだわ。」
「なるほどなるほど……。」
彼女は探偵のような口調でこめかみを押さえる。
「山城さん、ズバリ聞きますが……、」
「提督のこと、好きですか。」
「……。」
そんなこと、考えてもみなかった。
「私を含め、ここの艦娘は提督のことが好きだと思います。」
明石の眼が少し恥ずかしそうに泳ぐ。
私たちの浅野提督。
着任したての新人で、気持ちばかり先行して。経験不足をカバーするために、ずっと私たちのために深夜まで仕事をしていて。
でも当然失敗も多くて。北方棲姫のことで軍に連行されたりみんな心配して。戦艦時代の私に乗艦していた、選りすぐりのエリートたちとは全然違った。
どこかほおっておけない人だった。だから、からかうつもりだったで私からキスしたことがあった。
「まんざらでもない気がするけど……でもどっちかというと私、嫌われたくないのかも。」
「好きかどうかはわからないの。」
「でも、嫌われたくないの。」
「先の大戦ではろくに活躍できないまま沈んで。」
「だから、大湊鎮守府に拾われてからは頑張ろうと思って。」
「でも人の身体では、なかなか思うように戦えなくて。」
「私も長門型や金剛型みたいになりたいと思ったけど、大違い。」
「鈍重だし艤装の重心バランスは悪いし……。欠陥戦艦だって、あの人に知られたくなかった!」
艦娘に転生してからは忘れていた。自分の心のなかにはこんな気持ちがあったことを思い出した。
「山城さんには山城さんのよさがある、と言いたいところですが、私が言っても心に届かないと思います。」
「私の眼からは、提督の思う山城さんと、山城さんの思う提督のイメージが、すれ違っているように見えるんです。」
「だから、戦艦らしく向き合ったらどうですか。提督と。」
できれば単縦陣がいいですね、と冗談を言う。
「……あなた、意外と豪快なところがあるわね。」
「でも、一理あるかも。」
明石のこういうところが皆に好かれるのだ。はっきり物を言って、後腐れがない海の女。
提督も、こういう子の方が好きなのかしら……?
* * *
キス魔が行く艦これ。
暁の水平線に、勝利を刻みなさい!
……勿論、扶桑姉様と一緒にね。
* * *
執務室の前に立つ。なんだか、先頭より緊張してしまう。
少し深呼吸して、先程明石が言った言葉を思い出す。
『山城さん、引き寄せの法則ですよ!』
『不幸って言ってると、ほんとにそうなっちゃいますからね。』
『もやもやした気持ちは浄化した方がいいですよ、提督を使って。』
でも、私は明石が思うより面倒くさい女なの。あれこれ余計な心配をして、このドアを開けることも出来ない。
……もうやめよう。扶桑姉様に手紙で愚痴を言おう。
「あ、山城じゃないか。」
不意に扉が開き、問題の男が姿を現した。
「きゃあ!なんですか!提督!」
「なんでって……、ちょうど山城に用があったから呼ぼうとしてたんだよ。」
「わ、私なんかに用ですか?」
「うん。大本営から”コレ”が来てさ。」
「一体なんですか……?」
『艦娘ノ改造二係ル大本営付属技術研究所 研究報告』
「改造?」
「うん。一定の練度に達した艦娘たちは艤装を改造することにより、より性能を向上させることができるらしいんだ。」
「あそこはなんだかマッドなイメージがありますが……、人柱じゃないですよね?」
「いやいや!他の鎮守府で先行試験していた結果が出て、特に問題なかったようだよ。若干燃費が悪くなるけど、火力も装甲も強化されるって。」
「ん……。ただでさえ悪い戦艦の燃費が更に……、でもリターンも大きい……。」
私はブツブツと改造の是非について検討を始めた。
「更に改二、改三という改造段階も示唆されているけどね、それには練度に加えて艦娘との深い結び付きが必要らしいんだ。」
「現状の海軍の艦娘に対する悪辣な待遇では、極めて難しいだろう、と書いてある。ははは、上層部への悪口だねこりゃ。」
「改二、改三……ですか。」
「どうしたの、イ級が豆鉄砲食らったような顔して。」
「改造したら、強くなれますか。提督。」
「そりゃあ努力相応の見返りはあるだろうけど……。」
「改二以降は相当高い練度が要求されるらしい。かなりの鍛練が必要になるはずだ。」
それだ。
目の前の人に醜い心をさらけ出すよりも、もっと自分が傷つかない逃げ道があった。
たとえ、それが茨の道であったとしても。
「私、がんばります。」
「戦艦の意地があるんです。」
「うん……?山城、なんかいつもより張り切ってるね。」
「逆に心配だな。」
やめて。
「あんまり無理すると辛いと思う。」
私に優しくしないで。
「山城はうちの主力なんだから、ゆっくり成長していけばいい。」
かりそめの温もりは要らない。私は唯の船なんだから。
「だから……、」
「嫌!!」
私は提督を突き飛ばし、部屋を後にしようとする。
「山城!」
ドアノブに手をかけたところで、提督の腕が私の身体を包んだ。
「いや、いや……!」
意外と力が強かった。振りほどこうとしても、力が入らなくなった。
「嫌われるのは、嫌……。」
私は床にへたり込んだ。
「ごめん。」
「そうだよね。艦娘なんだから強くなりたいよね。」
「演習、練度の高い艦隊で優先的に組んでもらおうか。」
「それなら実入りも大きいはず。」
「……。」
「違う、違うの……。」
涙が一人でに溢れ出す。あろうことか、泣き出してしまった。
「や、やましろさん!?」
おろおろする提督と、大人げない女が一人。
「よ、よしよし……。」
彼は動揺しながらも、慣れた手付きで背中をさすってくれる。
「大丈夫だよ、もう怖くない。」
落ち着く声色を聞きながら深呼吸していると、本当に冷静になってきた。
「妹の凛にね、よくこうしてあげてたんだ。」
「凛は泣き虫でね。なにかすぐお兄ちゃんって言って慰めてたっけな。」
「確かに、提督には妹いそうです……。」
鼻をすすりながら返答する。
「ふふ。山城も妹だもんね。重ねちゃうのかも。」
「私なんか、妹さんからクレームついちゃいますよ。」
「それはないさ。」
「え?」
「もういないから。」
「それは……。」
「僕が海軍士官学校に入るちょっと前にね。」
「地元の港町で、浜に来てた深海棲艦にやられた。」
「そ、そうだったんですね……。ごめんなさい!無遠慮なことを言ってしまって……!」
「いや、本当に妹に似てるなって思っただけだよ。」
「敬語で、つんつんしてるんだ。そんな雰囲気がね、少し似てた。」
「だから、過保護になっちゃうのかな。うまく、君に向き合えないんだ。」
「でもこれは僕の問題だから、山城には関係ない。こんなこといきなり言われてやりづらいだろうに、上官として謝罪する。」
そう言って提督は頭を下げた。
「いえ!謝るのはこっちですから!」
そんなこと言って、ずるいです。
もう、あなたの弱さを見せないでください。
「この話はやめにしよう。」
もう、寂しげに遠くを見ないでください。
「早く改二にしようね。皆にも、艦隊強化の機運が高まって対外的に演習を開始する、と言っておくから。」
もう、私たちのことばかり、考えないでください。
あなたの心に空いた穴は、誰が埋めるんですか。
加賀さんですか。時雨ですか。大井ですか。
みんな、知っているんですか。
「それじゃあ、仕事に戻るから。」
だめです。
「無理してるのは提督の方じゃないですか。」
「……平気。自分はもう、慣れっこだから。」
「……うそつき。」
本当は、すっごく辛いんじゃないですか。
「参ったな……。やけに鋭い所まで似るとは……。」
女の洞察力を舐めないでください。
「……山城。」
「頼みがあるんだけど。」
「胸を貸して、くれないかな。」
彼が言いきる前に、私は頭を抱き止めました。
「凛、ごめん……、ほんとうにごめん……。」
彼はすすり泣いていました。無力感か後悔か、胸中はわかりません。
こうしていると、もう私はだめかもしれません。
あなたのことが、好きで好きで堪らなくなってしまいます。
私、重いですよ。この両手は決して手放しませんよ。
なんてったって、超弩級戦艦ですから。
閑話其の三 山城の不幸な一日 了
* * *