~キス魔が行く艦これ~ 寂しさを埋めるもの   作:波切涼

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着々と艦娘を毒牙にかけていく提督。彼の行動はどこまでエスカレートしていくんでしょうか!?


第4話 西日の中で。

加賀が僕にキスをしたその日から、大井は僕の布団に来なくなった。

なにかあったのか、と聞いても赤い顔で、何でもありません、と言うばかりだった。

 

怒っている訳ではなさそうだった。

 

加賀のことを気にして、遠慮しているのかもしれない。

 

ただ、僕から行動するのは墓穴を掘る気がして、そのままにすることにした。

 

閑話休題。

これまでなおざりにしてきた鎮守府の運営の話をしよう。

この鎮守府は、僕が着任してから数週間、平和そのものだった。

敵の深海棲艦は南方戦線に戦力を集中させており、

それを帝国海軍のエリート艦隊が打撃するという戦況となっていた。

 

よって遠征主体で資源を稼ぎ、訓練主体で艦娘たちの練度を向上させるという方針だった。

 

そんなある日、大本営から電文が届いた。

 

* * *

極秘 取扱ニハ最大限ノ注意ヲ払ウベシ

 

昨今ノ敵ノ攻勢激シク、南方ノ姫級艦隊ヲ中心トスル敵戦力ニ我ラ帝国海軍ハ劣勢ニタタセリ。

シカシ、栄光ナル横須賀ノ精鋭艦隊ガ之ヲ撃退。

サレドモ横須賀ノ戦力ハ損傷激シク、本土防衛難航セリ。

然レバ、貴大湊警備府ノ総力ヲ持ッテ北方ノ警戒ニ当タルベシ。

ソノ為ニ艦娘建造、兵器開発ニ邁進スルベシ。

資材・人材ハ、追ッテ配送スル。

* * *

 

なるほど……。南方の情勢がきな臭くなってきたらしい。

本当に横須賀が姫級を撃破していれば安心だが、そうでなかった場合はまずい。

深海棲艦は死に際に最大の攻撃力を発揮するのだ。

万が一横須賀が抜かれると関東沿岸の守りが脆弱になってしまう。

つまり、われら青森の大湊警備府も、はるばる首都防衛に駆り出されるであろう、というわけだ。

 

その可能性を見据えて、大本営はこれまで送ってこなかった資材を使ってでも、今から建造をしろと言っているのだ。

人材までくれるというのはありがたいが……。

 

これが戦争だ。仕方がない。

 

この内容を執務をしている加賀と大井に伝え、皆を招集した。

龍田、霞、時雨、五月雨、朝潮。

これまで、軍からの扱いが悪かったにしては、彼女たちは文句も言わず働いていた。

 

加賀と大井が従順な姿勢でいるのが大きいのかもしれない。

 

「諸君。南方戦線の雲行きが怪しいようだ。」

 

「僕ら大湊でも、戦力の増備に励め、との命令が下った。」

 

「建造と開発に力を入れつつ、北方海域の哨戒にあたろうと思う。」

 

「出撃の機会も増えるであろうが、訓練と仲間を信じて、無事帰るように。以上。」

 

主な反応は、怯えであった。

 

ただ、龍田、霞は反抗的な目で僕を見ている。

 

「霞、何か言いたいことはあるか?」

あまり話したことのない霞に振ってみる。

 

「……。私たちは艦娘よ。戦うことが本分だわ。」

霞は、目をつむって答えた。

 

「だから出撃することに異論はないの。」

 

「でもね、私はあんたが信用できない。」

 

「海軍が信用できない。」

 

「吹雪、陽炎、あの子たちは、あんたたちの命令を信じて沈んでいった……。」

 

「命令なら従うけどね。」

 

「覚えておきなさい。私は、私たちは、そのことを一生忘れることはないわ。」

 

「……わかった。肝に銘じておく。」

この場の艦娘たちから、静かな圧を感じる。

仲間を軽く扱ったら許しはしないと。

 

「それでは解散。」

僕は帽子を目深にかぶり、決意を新たにした。

 

 

 

* * *

鎮守府の戦力増強について頭を巡らせていると、来客があった。

「どうも!大本営から派遣されました工作艦、明石です!」

桃色のおさげの髪にセーラー服。そしてクレーンが特徴的な艤装。

「明石、君だったのか!融通してくれる人材というのは……。」

 

「えへへ、明石がんばります!加賀さん、大井さんも、これからよろしくお願いしますね。」

 

「いやあ、助かるな。僕たちのような小さな警備府には、これまで工作が得意なものがいなくてね。」

 

加賀と大井もうれしそうだ。やはり、少しでもいい装備が欲しいよね。

 

「今のところ私は出向扱いのようですが、戦果を挙げれば大湊に配転もできるそうですよ!」

 

「大本営も太っ腹だなあ。がんばらないと。」

僕は微笑みながら言葉を返す。

 

「あら、新しい艦載機が欲しかったところなのよ。久々に私も本気を出そうかしら。」

 

「一航戦、出撃します。」

やおら、加賀が艤装を展開し始める。

 

「加賀、待て待て。」

空母は艦載機の性能が大きく戦力に影響する。加賀も燃えているようだ。

 

「私も横須賀の北上さんに名声が届くように頑張らないと……!!」

彼女の敬愛する軽巡、北上はエリート艦隊に配属されているようだ。

 

「提督、大井は試製六連装酸素魚雷を三基、要求します!」

大井は机を叩いて立ち上がり、明石に向かって身を乗り出す。

 

「提督、ここは譲れません。」

それに呼応するように、加賀も立ち上がった。

「震電改を5スロット分要求します。」

 

「あ、あはは、て、提督がなんとかしてくれる、かな??」

二人の勢いに、明石もたじたじであった。

 

「半ば伝説の装備は無理だって……。」

僕は苦笑いするほかない。

 

「明石、長旅で疲れたろう、少しゆっくりするといい。」

 

「ただ、落ち着いたら工廠まで来てくれるか?建造がしたいんだ。」

 

「わかりました!建造ですか、張り切りますね~!!」

そう言って明石は艦娘寮に向かっていった。

 

「これからは少しにぎやかになりそうだね。」

 

「ええ。日本一の大艦隊を作りあげましょう。」

やたら張り切る加賀に、少し笑ってしまった。

 

* * *

僕は明石を待つ間、工廠で設備のチェックをすることにした。

 

ほとんど使っていなかったようで、埃をかぶっているが掃除すればこのまま使えそうだ。

無心に機材を磨き上げる。

 

こういう時間も僕は好きだった。

 

ふと気が付くと、工廠には西日が差していた。

 

窓からは鎮守府の夕焼けが見える。

 

遠くには遠征から帰ってきたのであろう、駆逐艦たちの影があった。

 

大井が資材を受け取り、皆を休ませようとしている。

 

思わず、僕は顔を綻ばせた。

 

そんな日常を見ていると、ノックとともに艦娘が姿を現した。

 

「おお明石、来たんだね。」

 

「ハイ、提督!建造、建造しましょう!!」

 

「あはは。さすが、この手のことには目がないんだね」

建造の準備をしながら話を続ける。

 

「そりゃあ私、工作艦ですから!」

えへんと胸を張る明石。

 

「明石はどうしてそんなに仕事が好きなの?」

そう無造作に聞くと、途端に彼女の明るさが鳴りを潜めた。

 

「だって……、」

 

「もう、仲間が沈むのを見たくないんです。」

彼女はうつむいた。まずいことに触れてしまったかもしれない。

 

「かの大戦でも、私がもっとうまく修理できていれば……、」

 

「もっといい装備を開発できていれば……。」

 

「こうして艦娘になった今でも、そういうことばかり考えてしまうんです。」

 

「それに雰囲気が暗いとみんな不安になっちゃうから、せめて明るくしていようって。」

 

「でも、本当の私はこんななんです。」

 

「暗くて、ネガティブで……。」

彼女は頭を振った。

 

「ううん、いけない!仕事して忘れないと!」

無理やり笑みを浮かべながら、彼女は背を向けた。先ほどきれいにした建造ドッグに資源を投入していく。

 

「だ、れが、でるかな~~?」

彼女は、少し泣いているよう見えた。

涙を浮かべていないかもしれないが、それは関係ない。僕には明石の背中がそう見えた。

過去の自分へのやるせなさ。無力感。そんな見えない敵と向き合っているようだった。

 

工廠の外で、カラスがカアと鳴いた。

部屋に差し込む夕日に照らされる明石の姿は、もの悲しさに拍車をかけた。

 

「明石。」

声をかけながら、僕の体は勝手に動いていた。

 

明石が振り返ると、その顔を両手で優しく包む。

 

そして……。

「んんっ。」

僕は彼女の唇を奪った。

 

「え、てってっていとく!?」

 

「い、いま、いま!き、き、きっss……。」

明石は相当に慌てていた。

 

「”コレ”、ここの鎮守府の流行りでね。」

 

「え、、えええ???」

 

「大井が”コレ”を始めたから、責めるなら彼女を責めてくれ。」

 

「あの大井さんが!? えええええ!!」

彼女の理解は追いついていない。

 

「艦娘は艦の記憶を持っているからか、気持ちが落ち込みやすいというのが僕の考えなんだ。」

 

「最初は僕も驚いたけど、”コレ”には、艦娘たちが前向きになれる力があるらしい。」

 

「た、確かにネガティブな子は多いですが、そ、そんな荒療治があるなんて……。」

多少は効果がある自覚があったのか、明石は目をぱちくりさせている。

 

「提督、たまにでいいから、またお願いしますね……。」

彼女の表情は、柔らかいものに変わっていた。

 

 

そんな時。

「鈴谷だよ!にぎやかな艦隊だね!よろしくね!」

 

「え、何この桃色空気。」

 

 

建造が完了した鈴谷が、困惑しながら立っていた。

 

 

 

 

 

第4話 西日の中で。 了

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