~キス魔が行く艦これ~ 寂しさを埋めるもの   作:波切涼

6 / 19
第5話 涙を浮かべた不知火と。

「え、二人って、付き合ってるとかじゃないって、コト……?」

鈴谷は、僕と明石がキスをしていた瞬間を目撃していたようだ。

 

だから僕たちが恋仲なのかと勘違いしていた。

 

「う、うん。」

今はその”誤解”をなんとか解こうとしている最中である。

 

明石は恥ずかしさのあまり、消え入りそうになっている。

 

鈴谷が両腕を組みながら、ジト目でこちらを見た。

完全に疑っている様子だ。

 

「提督う~、明石さんをたらし込もうとしてたんでしょお~?」

鈴谷は緑色のロングヘアをたなびかせながら、追及を続けた。

 

「ち、違うって! 僕はただ、元気づけようとしただけで……。」

 

「鈴谷、じ~~~。」

彼女の眼は、僕をとらえて離さない。

 

これは、凌ぐのは無理か……、そう思った時。

 

「鈴谷、あたし提督とそんなんじゃないからさ。」

うつむいていた明石が顔を上げ、助け舟を出してくれた。

 

「最近あたし元気なくって。提督に話を聞いてもらってたんだ。」

 

「でもなんか、この鎮守府で、その……。”口づけ”が流行ってるみたいで。」

 

そのセリフを聞いて、鈴谷の眉間にしわが入った。

 

「でもあたし、これまで兵器としてしか見られてなかったから、別に嫌じゃなかったというか……。」

 

「確かに元気になったというか……。」

もじもじと指先をいじりながら、明石は小さな声で言った。

 

「ああもう、分かった!!」

鈴谷は一旦諦めることにしたらしい。

 

「明石さんに免じて、今回は見なかったことにしとくけど~。」

 

「艦娘泣かせたら怒るからね!」

びしっと僕に指差しながら、鈴谷は言う。

 

「完全に僕は悪者だなあ。」

僕は苦笑いした。

 

* * *

「みんな~!重巡の鈴谷だよ!」

 

「今日からよろしくね!乾杯!」

大湊に所属する艦娘の皆を食堂に集め、小さな歓迎会をしていた。

むろん、今日から出向してきた明石も含めてだ。

 

料理は歓迎する艦娘たち全員で協力して作ったようだ。

ここにいるのは、大井、時雨、霞、五月雨、朝潮、不知火、加賀。

 

初めての重巡洋艦と工作艦、ということで皆素直に喜んでいた。

 

ここの艦娘たちは、海軍に冷や飯を食わされた期間が長かったのだ。

 

「鈴谷さん、明石さん。ここは小さいところだけど、みんな絆が強いの。」

龍田の言葉に、皆がうなずいていた。

 

「昔はいろいろあったけど……、そこの提督さんのお陰か、今は落ち着いているし。」

 

「はは、僕は皆の命を預かる立場だからね。ちゃんと運営していく所存だよ。」

一番僕を信頼しなさそうだった龍田がそう言ってくれるなんて。

 

僕は歓喜の涙を流しそうだった。

 

「なるほどねえ~。私たちいい所に来たかも!。」

納得顔の鈴谷が言った。

 

「ところで、一つだけしっつも~ん!」

続けて彼女が右手を挙げた。

 

「……ここの鎮守府でね? その、”キス”が流行ってるって、……聞いたんだけど。」

 

「それ、ホント?」

 

「うげっ。」

いきなりの鈴谷の発言に、うっかり変な声を出してしまった。

 

「鈴谷、そ、その話はあとでしようか……。」

まずい。艦娘たちの注目が僕に集まっている。

 

僕に反抗的な霞などは怒ったような顔でこちらを見ている。

 

僕がキスをしたことのある、大井と明石は気まずさに顔を背けていたが、

加賀は素知らぬ顔で大盛のカレーを食べていた。

 

「提督?私その話、知らないんですけど?」

いつの間にか龍田が僕の左に座っていた。同時に肩を組まれている。がっちり抑え込まれ動けない。

 

「ねえ、提督?」

 

駆逐艦たちも話が気になる様子だったが、龍田の圧力に押され別の机へと避難していった。

 

「提督、ここの艦娘とキスをしたって本当ですか?」

顔は笑っているが、目が全くそうではないと言っている。

ま、まじで怖い……。

 

「ほ、本当だよ……。」

 

「ただ、元気づけたかっただけだ。君たちと寄り添いたかっただけだ。」

 

「提督、私たちは兵器なんですよ?」

 

「一体何をしてるんですか?」

 

「その点に関しては、見解の相違がある……。」

めちゃくちゃ怖いが、しかし譲れないところもある。

 

「海軍の認識としてはそうだが、僕個人としては艦娘は人間に近いと思っている。」

 

「だから人間のように接した方が、成果を出しやすいのではないか。というのが僕の思想だ。」

 

「だから、”口づけ”により君たちのストレス、不安が解消されるのではないかと思った……。」

 

「だからってぇ……。」

 

「それって私たちの体が目当てってことなんじゃないの~?」

龍田が僕の肩を掴む力がぎりぎりと強くなる。

 

「提督の言っていることは本当よ。」

カレーを食べ終えた加賀が言った。

 

「なぜなら私がそうだから。」

龍田が加賀をじっと見た。

 

「私は艦の記憶が強く残っている。もしかしたらほかの子よりも。」

 

「さらに、以前赤城さんを戦いで喪失したことも、私のストレスに拍車をかけたの。」

 

「その日から、我を忘れるように我武者羅に戦ったわ。でも、戦いだけでは私の傷は癒えなかった。」

 

「私はあるとき、呉の海をぼうっと眺めていた。」

 

「海を見ながら思ったの。私を救えるのは提督しかいないんじゃないかって。」

 

「でも、知っての通り今の海軍は艦娘を兵器としか見ない人たちばかり。」

 

「そんな人たちにとって、私はただの損耗した”艦船”に過ぎなかった。」

 

「武器として使えなくなったらスクラップにすればいい。彼らにとってはその程度の存在なの。」

 

「私には一航戦の誇りがあるわ。いつか絶対に戦場で活躍してみせる。」

 

「そのためには、私が背中を預けてもよいと思える支えが必要だったの。」

 

「かつての赤城さんのようにね。」

 

「だから、私は士官学校の教導艦になって、そんな有望な人を探すことにしたのよ。」

 

「誰か艦娘を人として向き合って、支えてくれる人はいないか。」

 

「そんな提督。」

いつの間にか、食堂はしんと静まっていた。皆が話に聞き入っていた。

 

「それで出会ったのが、この、浅野提督、だったんだ。」

それまで黙っていた鈴谷が思わず口をはさんでいた。

 

加賀は静かにうなずいた。

 

「もっと能力が優れた人はたくさんいたわ。」

 

「華の海軍士官学校ですもの。ほとんどの学生が彼より優秀だった。」

 

「でも、どこか私たちを侮蔑の眼で見ていた。」

 

「顎で使って当然。沈んでも仕方がない。戦争に消耗は付き物である、と。」

 

「でもね、この人は違ったの。」

 

「優しく、強い目をしていた。」

自然と、艦娘たちが僕を見た。

 

その様子は僕が赴任した時のような、とげとげしいものではなくなっていた。

 

「そこから少し興味を持って、彼の様子を観察することにしたの。」

 

「その日からは楽しかったわ。」

加賀には珍しく、微笑みを浮かべていた。

 

「例えば、彼が訓練で立案する作戦は、どれも艦娘のことを考えていた。」

 

「私たちがいかに消耗せずに、時間をかけてでも確実に勝つ方法。いや、”負けない”やり方ね。」

 

「授業では時間制限があったから、負けという判定にはなっていたけど。」

 

「たとえD判定ても、艦娘の傷が浅ければ、ましてや死ななければまた挑戦できる、ってよく言ってたわ。」

 

「教官はその姿勢に対し、のろまに提督が勤まるか!と批判していたけど。私は全くそう思わなかった。」

 

「何年も教導艦を務めたけど、長期に渡る戦争をどう生き抜くか、そこまで考えていた学生は一人もいなかった。」

 

「大井さんから見てもそうでしょう?」

名指しされた大井は少し間を空けて、うなずいた。

本来の海軍士官学校の教導艦は大井なのである。

加賀はその交代を願い出ていたのだった。

 

「それは戦闘演習だったけれど、兵站、建造、装備開発……、彼はどれをとっても艦娘のことを一番に考えていた。」

 

「消極的な姿勢を教官に嫌われたから、成績も凡庸だったかもしれないけど……。」

 

「何を言われても、必死に艦娘を守りながら戦う、そんな姿勢を崩さなかったの。」

 

「この人のそんな3年間を見ていて、私は、この人のためなら残りの人生を捧げてもいいとまで思ったわ。」

 

「それくらい良い提督になる、と思ったの。」

 

「だから大本営に無理を言って、彼を提督にしてもらったのよ。」

 

「配属が大湊だとは、私も知らなかったのだけどね。」

 

「……失礼、話が長くなったわ。」

加賀にそこまで思われているなんて、僕はむずがゆくなった。

 

当時は、ただ必死だったのだ。

 

艦娘を沈ませないでどうやって勝つか。

 

日々、それだけを考えていた。

 

「鈴谷さんと明石さんの歓迎会なのに、関係ない話をしてごめんなさいね。」

加賀はぺこりと二人に頭を下げた。

 

「加賀さん、そんなことしなくていいからっ!」

恐縮する鈴谷と、

「あたしも一航戦に頭を下げられるほどの艦娘じゃないって!」

明石だった。

 

「……龍田さん、なんで提督はキスをしたのか、だったわね。」

こほん、と咳ばらいを一つ。

 

「これは私の仮説なんだけど、」

 

「最も艦娘の疲労回復、メンタルケアに効率がいいのは、”提督からのキス”、なんじゃないかと思っているの。」

艦娘たちの眼が点になった。ちなみに僕も。

 

「え~~、それマジ~~??」

鈴谷が茶化すように口を挟む。

 

「加賀さん、それは本気で言ってるの~?」

対して龍田の声は疑わし気だ。

 

「いえ、あくまで仮説にすぎないわ。」

 

「だから、個人的に調査を進めているの。」

 

「個人的にって、加賀さん、まさか……。」

静かに話を聞いていた霞が、まるで信じられないものを見るかのように言った。

 

「ええ、そのまさかよ。」

 

「私がこの人に実際に”キス”をして、その効果を確かめているの。」

さすがの加賀も、少し恥ずかしそうにしていた。

その様子が却って、話の信憑性を増していた。

 

「嘘、しんじらんない……。こんな男と、なんて……。」

「ボクもびっくりだよ……。」

霞と時雨が驚いた風に言った。ほかの駆逐艦も口には出さないが同じ様子だった。

 

「これに関しても説明させてほしいわ。」

 

「皆知っての通り、艦娘は艦の記憶を持ってこの世に顕現する。でも、改めて考えると、それはとても不安定なことだと思うの。」

 

「不安定……。ボクも、そう…なの、かな。」

不安そうに首を傾げる時雨。

 

「不知火はそうは思いません。」

一方で言い切る不知火。

 

「いろんな考えがあるでしょうけれど、事実だけ言うわ。私たちは戦争の中で轟沈した、死の記憶を持っていながら、この世界でまた戦いに繰り出していく。」

 

「仲間が沈んだり、昼夜を問わず戦ったり、ストレスも極めて大きい。ゆえに、思考がネガティブになりすぎてしまう子が多いわ。」

大井が、小さくうなずいていた。

 

「最悪の場合、深海棲艦側に精神が引きずり込まれる。皆は、なんとなく感覚がわかるわよね。」

僕も士官学校の教科書に乗せられない話、ということで教官から聞いたことがあった。

 

艦娘が極度の疲労を抱えて、かつ抑うつ状態の場合、深海棲艦化する、という趣旨の。同期の間では、都市伝説扱いではあったが。

 

ここにいる艦娘たちは身に覚えがあるのか、神妙な顔で頷いていた。

 

「そのマイナスの気持ちを打破するのが、陽、すなわち”ハレ”の存在。」

 

「つまり、”提督”よ。」

 

「ただ彼と話すだけでも気を取り込めるけど、もっとプラス状態になりたかったらスキンシップが必要ね。」

加賀は持論をつらつらと語る。

 

「この辺からは研究中だけど……、まずはボディタッチ、そして……。」

 

「き、す……。」

鈴谷が、緊張した面持ちで言葉を繋ぐ。

 

「そういうことよ。」

 

「要するに、自分のコンディションを手っとりばやくプラス側、いわゆる”キラ状態”ね。そこに持っていきたいときは、提督とキスをすればいい、ってこと。」

 

「私はそういう仮説を立て……、今検証中、といったところね。」

 

「”キラ付け”ならぬ、”口付け”…?」

不知火が小声で何かを言っている。

 

「なんかこう、言い方とかムードっていうものがなにか……。」

要するに加賀は、キスをすれば艦娘としての能力が上がる、と主張しているのだ。

僕は苦笑しながら首を振った。

 

「艦娘はそんな単純なものなのかしらねえ~?加賀さんだけの話じゃないの~?」

龍田も疑いが晴れないようだ。

 

「あら。私だけじゃないわ。」

 

「大井さん、明石さんでも確認しているわ。」

名前を呼ばれた二人に視線が集中する。

 

「いつかみんなにばらされると思ってたわ……。」

大井は机に突っ伏していた。

「でも実体験として、加賀さんの言う通りよ。」

赤い顔を上げて言う。

明石も頷いていた。

「確かに、さっきあたしもキラ状態になっていました!戦闘に出ないから関係ないけど……。」

たはは、と笑う明石。

 

「龍田さん、あなたも試せばいいのよ。減るものじゃないだろうし。」

 

「……加賀さんの想いはわかったけど、私は遠慮しておくわあ~。」

 

「キラ付けしなきゃいけない海域にもいかないだろうし~。」

 

「鈴谷も、ちょっと無理かな、なんて! ほ、ほんとはよゆーだけどね!!」

 

「……不知火、やります。」

不知火が右手をぴんと挙げた。

 

「提督と”口付け”、します。」

なぜ今、キスする流れになっているんだろうか。

僕は頭が痛くなった。

 

「え、マジ? ぬいぬい大丈夫?」

鈴谷はいつの間にか仲良くなったのか、不知火をかわいらしいあだ名で呼んでいた。

 

「強くなれる可能性が少しでもあるのなら、試してみたいのです。」

皆不知火の言葉に驚いていたが、意思は固そうだった。

 

「し、不知火、本気なの…?加賀の話なら、スキンシップでもいいんでしょ?」

さしもの僕も及び腰だった。駆逐艦とキスがしたい変態などではない、……断じて。

 

「不知火は本気です。」

彼女は真顔で言う。

 

「強くなるためなら、この身を差し出しても後悔はありません。」

 

「こんな若い子が体を許すようなことを言うなんて……。」

普通じゃない、と言いかけて一つの事実に思い至った。

 

「……もしかして、陽炎のことを後悔してたり、するのかな。」

 

「……。はい。」

一瞬ためらってから、彼女は答えた。

彼女の姉である陽炎は、前提督時代に轟沈していたのだ。

 

「不知火が、不知火がもっと強ければ、陽炎姉を守れたのではないかと、……。」

彼女は言う。

 

「毎晩、毎晩、あの日の事が不知火の頭から離れないのです……!」

彼女の声は、慟哭に近かった。声は小さいが、心の深い底からの叫びだった。

仲間にも自分の辛さを、なかなか言えなかったのだろう。

 

彼女の鉄面皮に、涙が溢れる。

「そうだったったのか……。」

小柄な彼女が、ひどく不憫に思え僕は不知火を抱きしめた。

 

「不知火、寂しくさせてごめん。」

 

「海軍が馬鹿でごめん。」

 

「着任するのが遅くてごめん。」

 

「これまで、辛い思いをさせてごめん。」

不知火は、僕の胸に顔をうずめて泣いていた。

歓迎会どころではなくなってしまったが、艦娘たちも泣いているようだった。

 

「提督、不知火からお願いがあります……。」

 

「口付け、してください……。」

 

「……。僕で、よければ。」

 

「不知火は、提督がいいです……。」

みなが見ている前で恥ずかしかったが、彼女のためには苦ではなかった。

 

「ん……。」

そうして、軽く唇同士が触れ合った。

 

皆が見ているから恥ずかしい。

 

「加賀の話では、気持ちが薄れるみたいだけど、どう?」

 

「……よくわかりません。」

 

「もっと、強い方がいいのかもしれません。」

え、何を言い出して……、

「はむ……ん……。」

あろうことか、舌を入れてきた!

 

「んむむむ!」

逃げようとしても不知火にがっちりと抱きしめられていて、動くことができない。

自然、キスを続けることになる。

 

「「わ、わわわわ!!」」

鈴谷も、五月雨も、二人揃って珍妙な声を出している。

外野から見ると相当な姿なのだろう。

 

同じ駆逐艦である霞は、再度、空いた口がふさがらないほど驚いている。

 

「ぷは……。」

そうして、不知火は数分間キスを続けた。

 

長い、長いって……。

 

「不知火、ど、どう……?」

これは仕事だ、とそう自分に言い聞かせる。

 

「……まだ、わかりませんでした。」

不知火はいつもの仏頂面だが、先ほどよりも顔が赤くなっている。

 

「だから、またお願いします。」

 

「私が、ちゃんとわかるまで、ずっと。」

 

「毎日でも、いいです。」

 

「むしろ毎日が、いいです……。」

 

「え、ぬいぬい、それって……。」

鈴谷が口を挟むが……、

 

「んっ……」

隙あり、とばかりに不知火は唇を重ねてくる。

 

彼女が僕から離れる気配はない。

 

「ま、また桃色空気出してる~!!」

と、鈴谷。

 

「なんか、ボクたち先を越されてない?」

どこか不満げな時雨。

 

「やっぱり、キスで元気になったんじゃないかしら?」

自説をさらに信じるようになる加賀。

 

不知火の涙が乾くころには、皆いつもの調子を取り戻していた。

 

 

 

第5話 涙を浮かべた不知火と。  了

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。