圧倒的女性社会で提督業   作:針葉樹

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眠いっす。


元帥って……

目の前には倒れた3人の少女。

意識はなく、顔を見ると目は白目を向き、口からは泡を吹いている。

そして、そんな状態の少女たちの傍に一人の男。

 

うん。どう考えてもその男が犯人にしか見えないね。

まぁ、その男こそが僕なのだけれど。

さて、どうするか。

僕一人では運べても精々二人。三人など不可能だ。

それに僕は着任したばかりで、艦娘たちからしたら見知らぬ人だ。

そんな不審者が女の子を担いでいようものなら、犯罪者にしか見えないだろう。

かといってこのまま放っておけば、彼女たちは今日着任する予定の僕が怪しいと考え、気絶している彼女らも目覚めたら僕がやったと証言するに違いない。

運ぶもダメ、放置もダメ、完全に手詰まりだな……。

 

 こちらに向かってくる存在を感知しました。

 おそらく、先ほどの声を聴いたものかと

 

え、マジで!?

ど、どどどどうしよ!見つかったら着任早々僕の評判ガタ落ちじゃん!

犯罪者扱いされて左遷とか最悪だぞ……

 

 その数4……いえ5。

 

五対一とか無理ゲー……。

アメリカ軍では確か防御側は攻撃側の三分の一以下になるなって教わるらしいし、勝ち目なさすぎるだろ。

某映画の筋肉モリモリマッチョマンならいけるのかもしれないが……。

 

 大淀を担いで、執務室に隠れることを推奨します。

 

え!それで何とかなるの?

普通何かあった場合、近くに隠れていないか探すから、執務室の中とか袋のネズミでしかなくない!?

それに白露と曙を放置したら面倒なことにならない!?

 

 大丈夫。なぜなら大丈夫だから。

 

理論がまったくもって存在しえない!!!

 

「ここか!?」「いや、もう一つ上じゃないか?」

 

まずいまずいまずい!もうすぐそこまで来てるッ!

こうなったら一か八か!やってやる!

失敗したら恨むぞ!

 

僕は大淀をお米様抱っこ……は見栄えが良くなさそうなので、お姫様抱っこの体制で運び、すぐさま執務室に入る。

外では白露と曙が見つかり、騒ぎになっているようだ。

執務室の中には窓際に机が一つ、その左右に戸棚。

端にはソファーが置かれている。おそらく、仮眠用だろう。

そしてそれらを埋め尽くすように置かれた書類の山があった。

掃除は定期的に行われているようで、埃っぽくはない。

 

 しばらく執務室内にて待機することを推奨します。

 

まぁ、でしょうね。今見つかったら絶対やばい。

ちなみに聞くけど、なぜ大淀だけを?

 

 大淀はあなたに鎮守府を案内する役目を担っていました。

 

え、そうなの?それにしては一切合わなかったような

 

 あなたが予定より早く着いたためです。

 まぁそんなわけで案内役のはずの大淀が廊下で倒れているとなった場合。

 

疑われるのは近くにいたであろう僕というわけか。

なるほど。納得した。

 

 着任の挨拶も、顔合わせもしていない現状では、あなたは不審者です。

 大淀が目覚めるまでは執務室から出ない方がいいでしょう。

 

やっぱ僕、不審者なんだね……。

まぁ、それならしばらくは中にいるとしよう。

大淀が目覚めるまでの間は……この仕事でも片していようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カリカリとペンを走らせる音だけが聞こえる。

その音は心地よく、眠ってしまいそうなほどだ。

いや、そんなことはいい。

ここはどこだろうか。

私は確か……提督に………

 

だめだ、思い出せない。

とりあえず、状況を確認するためにも目を開く。

目の前に映る天井。

見たことがある。

それに私が寝ていたこのソファーは確か、執務室の物……

ということは、ここは執務室だろうか?

 

周りを見渡すと戸棚の周りにあった書類の山はある程度片付けられており、その代わりに執務机が書類の山で埋まっていた。

ペンを走らせる音はその山の中から聞こえてくる。

ソファーから降り、書類の山の上から、そこにいる人物をのぞき込む。

 

「……っ!」

 

お、男の人!?なんで!?

ていうか初めて見た!

かっこいい……じゃなくて!なんでこんなところに!?

い、いや、落ち着け。落ち着くのよ大淀。

 

「すぅー…はぁー…」

 

服装は海軍将校の物。

しっかりと手入れしているのか、真っ白な服にはシミやシワはなく、新品同様。

帯刀しており、髪は短めに切りそろえられ、髭の剃り残しもない。

体格もやせ型で、まるでテレビに出てくるアイドルのような体格。

 

「ん?あぁ、起きたのか」

 

彼を見ていると、気づかれたようでそう声を掛けられた。

しかし私は驚きのあまり声をうまく出せなくなる。

 

「大丈夫か?」

 

何も言わない私を心配し、彼が私に迫ってくる。

自分の心拍数が過去類を見ないほどに早くなっているのが分かる。

 

待って待って待って近づかないで!

ま、まずい、このままだと!爆発しそうッ!

 

「大淀?」

 

ッ!私の名前を、しかも呼び捨てで!?

う、うれ、嬉しひっ!嬉しい!

こ、幸福度が爆上がりするッ!

も、もう無理!無理だからぁ!

 

私は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「困ったな」

 

イフの手助けの元、効率的に仕事を進め、溜まっていた量の三分の一程を片付けたぐらいの頃、ふと顔を上げると、大淀が居たため、ようやく動ける……と思ったら、なぜかまた気絶してしまった。

仕方ないので再度大淀をソファーに寝かせ、毛布をかぶせる。

正直このまま仕事を進めていってもいいのだが、さすがに資源帳簿などに関しては実在庫を精査しなければならない。

なんせここは汚職のテーマパーク状態だしな。

そういうわけでイフ、なんかいい方法ない?

 

 情報を精査………横須賀鎮守府の裏帳簿及び汚職に関わった人物リストを取得。

 執務室のPCにダウンロードします。

 

お、これは助かる。

どれどれ………え、これマジですか?

中抜きで平均7割持ってかれてるとか終わり散らかしてない?

例えば帳簿上だと15,000あるはずのボーキサイトが、裏帳簿上だと3,000とか書いてあるんだけど!?

それに汚職に関わった人数もやばいね。

なんか偉そうな肩書のやつもいるし。

とりあえずやらなきゃいけないのは、これ以降の汚職を防ぐことと、元締めをつぶすことか。

元締めは……こいつか。

 

 元帥に対し、密告するのが最も手っ取り早いと考えます。

 また、鎮守府の全権委任を求めるのもよいかと。

 

え?僕横須賀鎮守府の提督なのに鎮守府の全権持ってないの?

あと元帥に対して直接連絡なんて取れなくない?

 

 提督の有する権利はあくまでも鎮守府内の艦娘に関わる権利のみです。

 その為、本部との通信、本部からの援助等の本部絡み、または他鎮守府との連絡絡みはすべて権利外となり、そこをつぶさない限り汚職の根絶は困難でしょう。

 

なるほど……って、本部がらみ掌握されてるの?

その話だと元帥に密告ってもっと無理じゃない?

 

 ……卒業の際、校長から封筒を渡されませんでしたか?

 

あ、そういえばなんか貰ってたわ。

『何か困ったことがあったら使って』とかいって。

 

 中身くらい確認しろ。この愚図が。

 

急に口が悪い!

確かに確認しなかった僕が悪いけどさ、そこまでいうほどかなぁ。

まぁいいや。それよりも中身は……

 

 

『モシモ〜シ✆❗キミチャン(^^)/もし何か困ったコト(。◕ˇдˇ◕。)/があったら、いつでもココに電話☎️してネ〜ッ(^_-)-✨ おばさん(#^.^#)程度のチカラしかナイけど…(*´Д`)できる限り‼️協力するって、約束しちゃうヨ〜〜〜ッ(^^♪✨

 

1人で抱え込んじゃダメ(;´・ω・)だゾッ❗❗ ナンチャッテ(^^)(ちょっとカッコつけすぎたカナ❓笑)』

 

………そうか、この世界ではこういった文体が通常なのk「違います。校長の悪ふざけです。」

さいですか。おじさん構文もこの世界ではおばさん構文になってしまうのか。

というか手書きの手紙で絵文字書くとか、めっちゃ気合入ってんな。

 

校長……あんなに凛々しく、かっこいいシゴデキ完璧上司オーラバリバリ出してたのに……

まさかこんな文章を書くような人だったとは。

まぁ、割りき……れないけどいったん置いといて、この電話番号を使えば、本部を介さず直接元帥に意見具申できるのか。

 

 そういう事です。

 

なら早速掛けるとしよう。

面倒ごとは早く片した方が楽だし。

 

そういうわけで、執務机の上に置かれていた黒電話を取る。

なぜ現代に黒電話なんて旧時代的なものを使っているのか非常に理解に苦しむ。

前の世界では僕が生まれる時にはすでにプッシュボタン式の電話機が存在していたし、普及していた。

そのため、黒電話は生まれてこのかた見たことがなかった。

ちな、この世界でも35年には廃止されるらしい。

また、なぜ黒電話なのか聞いたところ、イフ曰く『前提督の個人的趣味によるもの』らしい。

絶対あとで変えてやる。

 

ギィー、ギィーというダイヤルを回す音を鳴らし、電話をかける。

これで、受話器を取ればかかるのか?

 

「はいはーい、天野だよ~」

 

僕が受話器を取り、耳に当てるといつものようにかけているときのプルルル……という音が流れる間もなく、声が聞こえてきた。

まるでRTAをしているんじゃないかと思うほどに早く、社会人レベルがカンストするとこうなるのかとすら感じた。

しかし返事の内容は社会人というより、友人などへの受け答えに近い感じだった。

声も以前あった時のように張っておらず、とてもリラックスしたものだ。

………これ、本当に元帥?嘘の電話番号を伝えられたのでは?

 

「お世話になっております。雨晴です。元帥でお間違えないでしょうか」

 

「そうだよぉ~。私元帥元帥~。それでぇ~?なにかよぉ~?もしかしてもうトラブル起きたとか?」

 

心配になり、確認を取る。

だが本人は自分が元帥だという。

口調は砕け、言葉尻はふわふわとしていた。

 

すごい、まるで威厳がない。

声もこんなゆるふわ系的な声じゃなく、低温イケボだったのに。

僕の中の元帥威厳メーターが10を下回りつつある……

ちなみに封筒開ける前までが86封筒開けた後が30、今が12だ。

10を下回ると僕に心の中で軽蔑され、露骨によそよそしくなる。

 

正直言ってこれが元帥とは信じたくはないが、イフの情報が嘘とは考えにくいし、現状この電話番号に頼るしかないのも事実。

頼るのがこんなにもちゃらんぽらんな人だとは思わなかったが、覚悟するしかないだろう。

 

「実は元帥にお願いしたいことが二つほどありまして」

 

「ほほぅ!早速私をたよってくれるんだねぇ。それでぇ?内容はぁ?できる限りのことはしてみせようじゃぁないか」

 

「鎮守府の全権委任と、松井順平大将に対する処罰をお願いしたく」

 

「ッ!君、どこで彼を?」

 

僕が松井大将の名を出したことに驚いたのか、元帥の態度が先ほどまでと急に変わった。

口調も依然あった時と遜色なく、威厳のある喋り方で、声もマジトーンのものに。

先ほどまでの教室で授業中に居眠りしてそうな女子ランキング2位の人みたいな喋り方とは大違いだ。

僕の中での元帥威厳メーターが37まで回復した。

ちなみに37は表面上は上司として接するけど、心の中では距離を置きたいと思ってるぐらい。

要するに苦手な上司って立ち位置だ。

 

「横須賀鎮守府での大規模な汚職を確認しました。情報を精査したところ、関与人数300人余、そしてその元締めが松井大将であることが判明しました。名前はその時に」

 

「……なるほど、少し待っていてほしい」

 

僕の話を少し聞くと、それだけ言って元帥は黙った。

おそらく、今彼女の脳内では僕から聞いた情報からいろいろ考えてくれているのだろう。

もしくはすでにそういった兆候は掴んでいて、それと僕の話がかみ合うかを考えているとかか?

なんにせよ、すぐに結論や推論を出さず、しっかりと考えてくれるというのは信用に値するかもしれない。

僕の中の元帥威厳メーターが60まで回復した。

ちなみに60は一緒に居酒屋言ってもいいかなくらい。

まぁ僕まだ19だから行ったことはあっても飲んだことはないけどね!

 

「ふぅ……すまない、待たせたね。

とりあえず君の言っていた全権委任は問題ない。すぐに実行しよう。

だが、もう一つの松井大将への処罰はひとまず先送りだ。

まことに残念ながら、軍部も一枚岩ではないのでね」

 

松井大将への処罰に時間がかかるというのは当然だろう。

元締めを捕まえる場合、ただ証拠を突き付けるのではだめだ。

ただの証拠ではトカゲのしっぽ切りで逃げられる可能性があるからだ。

故に、慎重に行動する必要がある。

だが、今気になるのはもう一つのほう、全権委任のことだ。

 

普通、鎮守府の全権委任など、数か月は掛かるはずなのだ。

先ほど元帥が言った通り、軍隊は一枚岩ではない。

上が権力を乱用すればするほど、下との関係に摩擦を生み、暴力革命の要因たり得る。

それに、この世界では軍隊が残っている。つまり日本は第二次世界大戦にて、完全な敗北を喫していない。

 

前の世界では日本は敗北し、憲法により軍を国からも政治からも排除し、その後にできた警察予備隊(自衛隊)もあくまで防衛力でしかなかった。

その為統率も取れていたし、革命の恐れもない。

 

だがこの世界では長引く深海棲艦との戦争に、低迷する経済、増える軍事費、悪化する戦況etc……と、革命の材料には事欠かない。

だからこそ、今回即決で全権委任をするというのは、それを起こしかねないことだ。

というか、異世界から来た僕を半年すら立たず横須賀にの提督にし、そのうえ横須賀の全権委任をするとか、どう考えても摩擦を生む。

 

故に早くても数か月は必要なのだ。

だというのに、今すぐ行うと元帥は言い切った。

これは僕に対し期待しているという圧なのだろう。

僕に、雨晴に、横須賀を改善できると、戦局を打開出来ると信用しているのだろう。

 

「期待しすぎですよ……」

 

元帥からしたら、僕との直接会話はこれで三度目だ。

それに僕はこの世界に転移してきた人物。

出自も経歴も不明。

そんな人物になぜそこまでするんだ?

普通なら初日に汚職の情報をつかんできて、その上元締めも調べ上げてくる。

そんな奴がいたらその情報疑うし、信用しなくね?て、俺が言えたことじゃないか。

 

「そんなことはないよ。

だって君は、ーーーーー超絶イケメンだからね!」

 

「は?」

 

理解できなかった。こいつは何を言っているんだと。

なぜ、超絶イケメン=信用に足るなのかと。

そんな困惑の渦中にいる僕をよそに、元帥は話を続ける。

 

「イケメンで、その上性格は真面目。女子に対してもフランクに接してくれるし、何より天然の僕っ子!!!

そんな子のために頑張るのは普通のことじゃないか。

そ・れ・と~、もしよかったら、ソッチのほうも私が手つだxt「ガチャン」

 

受話器を置いた。

これ以上聞いても、何も得られないと思ったためか、

はたまた聞く価値がないと思ったからか、

それかもう聞くに堪えなかったのか。

わからないが、結果として僕は受話器を置き、電話を切った。

 

「はぁ………」

 

外を見ると、太陽はまだ沈んでおらず、見た感じ14時というところだろうか。

まだ半日程度だというのに、非常に疲れた感覚がある。

この半日で、どれほどのことがあったか。

 

だが、それは些細な問題だ。

今一番の問題は、いまだ僕が着任式すら行えていないことだ。




ちな、最後の時点で元帥威厳メーターは3です。
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