TS少女のヒーローアカデミア 作:ネコ023
「敵ハッケンッ!! シニサラセーッ!!」
「――いらっしゃいませッ!」
向かってきた三ポイントヴィランのミサイル攻撃をスライディングして回避。
メインカメラらしき頭部に触れて『爆破』で破壊。からの背後に回り込んで手袋に『引力』を発動。明後日の方向へ飛んで行ったミサイルを強制的に反転させてヴィランにお返ししてやる。
「ふぅ……これで30ポイントくらいか?」
試験開始から八分が経過し演習も大詰め。
数え間違いが無ければ、ヴィランポイントはそのくらいのはず。
なるだけ周りに気を配り、ヴィランに襲われてる他の受験者のフォローにも積極的に回ったから、レスキューポイントもそれなりに稼げてる……と思う。
原作での演習二位の切島の成績がヴィラン、レスキュー、共に30ポイント台だったから、合格ラインも超えてるだろうし。あとは演習終了の知らせを待つだけか。
などと思っていると、轟音を立てながら”奴”が姿を現した。
「出てくると思ったよ。お邪魔虫ッ!」
ビルを倒壊させつつ出現したのは0ポイントヴィラン。
リアルで見るとマジでデカいな。まるで怪獣じゃん。
原作同様の流れが緑谷の所で起きているのなら、今頃緑谷はお茶子ちゃんを助けるためにコイツに立ち向かってる頃だろうか?
格好いいんだろうな、緑谷。
直接見たいけど、今この会場から出たら即試験失格だし。我慢する他ない。
仕方ない。緑谷の勇姿は、あとで直接本人から聞き出そう。
「デカすぎだろっ!」
「に、逃げるんだっ! 戦うメリットが何もねぇ!」
なんてオレが考えてるうちにも、他の受験者たちは尻尾を巻いて逃げ出してる。
振り上げ振り下ろした巨大な腕からなる攻撃は、いとも容易くビルを破壊し、地面を抉り、凄まじい衝撃波を生む。
あんなの直撃したら怪我じゃ済まないのでは?
雄英高校は受難と評して受験生の息の根を止めたいのだろうか?
漫画読んでても思ったけど、演習ですることじゃないと思う。
「オレも逃げるかな」
緑谷みたく立ち向かえたら格好いいんだろうけど。
オレにはアレに立ち向かうだけの戦闘力は備わってない。やれたところで、爆破による嫌がらせ程度。
であるなら、他の受験生に倣って逃走するべきだ。
大丈夫。雄英体育祭の時には嫌でも相手してやるから。
周りを走る受験者に倣って、一目散に逃げようかと思ったその瞬間、オレの二つの眼に映る一人の少女の姿。全身ピンクの肌に、頭から生えた可愛らしい角。
アレ、原作キャラの芦戸三奈ちゃんでは?
「…………っ!!!」
どうやらお邪魔虫が倒壊させたビルの瓦礫に足を挟まれ、身動きが取れなくなってるようだ。苦悶の表情を浮かべて、挟まった足を抑えてる。
おいおい、ヤベェよ。あのままじゃ、お怪我じゃ済まないって!!
『酸』は!? 君の個性は『酸』だろうっ!?
早く使って脱出しなよッ!
「――~~っっ!!」
焦りか恐怖か。もしくは、個性を使いすぎたのか。
彼女が個性を使用して逃げ出す様子は見られない。
「――クソっ!」
気づいたらオレは走り出していた。
「おいっ! 貴様っ! 何をやっているっ!? そっちは危険だぞっ!!」
「逃げ遅れた人がいたんだっ!」
なんか聞き覚えのある声に短く言って、返事も待たずに走り出す。
目の前で原作キャラが危険に瀕してるんだ。ここで助けに入らなきゃ男が廃るってもんだろ!? ……あっ、今のオレって女の子だっけ。
とにかくだ。原作もまだ始まったばかりだってのに、原作登場キャラが活躍もせずに物語からフェイドアウトなんて許されない。
絶対に助ける! 絶対にだっ!
「……大丈夫かっ!?」
「だい、じょうぶ……! この、くらい……!」
そう答える彼女の足を挟む瓦礫はそれなりにデカい。
まいったな。オレ一人じゃこれは持ち上げられない。
爆破で瓦礫を吹き飛ばす……は、論外だ。
助けるつもりが傷つけてしまう。
じゃあ、引力で……、いや、多分、これも力不足だな。
加重――。なんも出来ないじゃん。
クソッ! こんなことなら何処かで誰かの個性をコピーしておくんだった。今のオレのストックには、この状況を打破できるような個性が存在しない!
「私の、ことは……いいから、貴女は……逃げて……!」
「断るっ! オレの大好きなヒーローだったら、ここで君を見捨てたりしないっ! 何が何でも助けるぞ、オレはっ!」
言うや否や、オレは三奈ちゃんの脚と瓦礫の間に手を差し入れて、力の限り持ち上げようと奮闘する。
「クソっ! 上がれ~~っ!!」
しかし、瓦礫はビクともしない。
やはりオレみたいな貧弱なロリには無茶が過ぎたということか……。
だからと言って、諦めるつもりは毛頭ないけどなっ!
などと頑張ってる間にも、0ポイントヴィランはすぐ前にまで迫って来てる。
『目標ハッケン……。ブチコロス――ッ!!!!』
どうやらこちらを捕捉したらしい。
無慈悲な攻撃が今まさに振り下ろされようとしていた。
これ演習だし、直前で停止してくれないかな?
あっ、でもあの勢いは絶対にダメなタイプだ。こちらを真っ赤な煎餅にせんと全力で振り下ろしてきてますわ。
死を覚悟して目を瞑った瞬間、聞こえてきた耳を劈くような轟音と、身体に感じる不思議な浮遊感。恐る恐る目を開いてみると、そこには巨大な影がいた。
「まったく。無茶にも程がある……。人の忠告を無視するから、このようなことになるのだ……」
呆れたような物言いでそう口にするのは、鴉のような頭が特徴的な少年『常闇踏影』君だった。彼の個性『
忠告ってことは、さっきの声は常闇君のだったのか。
どうりで聞き覚えがあったはずだ。
「俺がいなければ、二人揃って闇へと誘われていたぞ?」
「あり、がと……」
「礼を言うなら、この女児に言うがいい。そもそも、彼女がいなければ俺はお前に気付きもしていなかっただろうからな」
「う、うん……。貴女も、ありがとね……」
「えっと、どういたしまして」
三奈ちゃんの言葉に笑みでもって答える。
結局オレがやったことなんて瓦礫を退けようと奮闘した程度だ。
お礼を言われるようなことなんて出来てないので、少々複雑な気分である。
――それはともかく、常闇君よ。
君までオレを女児呼ばわりか?
確かにオレはこんな見た目だが、一応君と同い年なんだぞ?
「……む? 何だ?」
「いや別に……。助けてくれて、ありがとう……」
ギロリとこちらを見返してくる常闇君から視線を逸らしつつ、助けてくれたことに対してお礼を口にする。
女児呼ばわりを訂正させたいところだが、こちらは命を救われた身である。
仕方が無いからここは黙って運ばれていよう。
それにしても、『
文字通り影のような個性だから、感触は煙のようなものだと思ってたんだけど。実際触ってみるとちゃんと実体はある。
触れた感想はアレだ……。冷たい鳥かな?
【クスグッテェ……】
「すまないが、あまり触ってやらないでくれ」
「あぁ、ごめん」
思わずサワサワと摩ってたら拒否られた。
……何やってんだコイツ、みたいな目で見るのはやめろ。
仕方ないだろ、気になったんだから……。
『試験ッ!! 終了~~っ!!』
おっ、どうやら試験が終わったらしい。
プレゼントマイクの声が聞こえると同時に響き渡るサイレン音が、演習の終了を告げる。背後で暴れていた0ポイントヴィランも機能停止したようだった。
「どうやら、試練の時も終わりのようだな」
「みたいだな」
「――わぷっ!?」
と、同時に隣の三奈ちゃんが抱き着いてきた。
「あ、ありがと~っ!! 私、張り切って個性使いすぎちゃってさぁっ!」
「う、うんっ、どういたしまして……」
力いっぱい抱きしめられ、かつ顔が彼女の二つの豊満なおっぱいに挟まれて少し苦しい。柔らかい、温かい、そしていい香りがする。
だというのに――。
何故だろう、普通に嬉しいシチュエーションのはずなのに。
全然嬉しくない。むしろ、アレだ、なんか虚しくなってきた。
こうさ、持つ者と持たざる者の差を感じるというかね。
何で、オレのボディはこう育たなかったのかと……。
「はぁぁぁぁぁ~~……」
「えっ、えっ!? どしたのっ!?」
「いや、気にしないで……ホント、マジで……」
「何か、死にそうな顔してるよっ!?」
大慌てする三奈ちゃんの腕の中からのそのそ這い出す。
それから、気を取り直して常闇君を見据えた。
「改めて、助けてくれてありがとうな」
「フッ。構わん。助けを求める者を救う、それこそがヒーローだ」
「ははっ、カッケェ」
流石はヒロアカでも屈指のイケメンである。
そんな彼に対してオレは手を伸ばした。
「オレは複世巫与。お互い無事に雄英に合格したらよろしくな!」
「あぁ。俺は常闇踏陰。よろしく頼む」
「私もっ! 私もっ! 芦戸三奈っ! よろしくねっ!」
元気を取り戻した三奈ちゃんも交えて三人で固い握手を交わす。
こうしてオレの雄英入試試験は幕を下ろすのだった。