綾小路がBクラスに配属された世界線   作:来世

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53話:真冬の夜に

 

 

 

『──────ええ。ですから、冬季休暇明けの特別試験では、南雲が勝負を仕掛けていくと思いますよ』

 

『そうか。情報提供感謝する』

 

『いえ、気にしないでください。そういう約束ですから』

 

 

 

──────冬季休暇もあと数日で終わる今日この頃。

 

オレは契約相手である三年Aクラスの堀北学に連絡をしていた。

 

実は昨日の夜に、桐山から冬季休暇明けに行われる新たな特別試験『混合合宿』についてのルール変更があったと知らされた。

 

まず混合合宿では、一年生から三年生までの三学年が一定数でグループを作り、そのグループで試験に臨むものだ。

 

いくつかの種目で他グループと競い合い、順位を確保するありがちなルール。

 

しかし、細かい説明は省くが下位で更に学校側の指定するボーダーラインを割ったグループの責任者は退学しなければならない。

 

そして、その責任者はグループの足を引っ張ったと思う者を道ずれに出来るのだ。

 

──────学年関係なく、な。

 

桐山の見立てでは、ここで堀北学に仕掛ける可能性が高いらしい。

 

だからこそ、オレを介して伝えるそうだ。 

 

彼は裏であっても繋がりがバレればまずいからな。

 

 

『…………そういえば、お前の方は順調なのか』

 

『それは、どういった観点での話ですかね』

 

『クラス運営の話だ。現在はAと僅差でBだと聞いているが』

 

『事実ですね。あと少しで、Aクラスにも届き得る。そう確信しています。今のメンバーを見ればね』

 

 

オレは、クラスメイトの顔を思い浮かべる。

 

二学期最初は、Aに上がるには心もとないと少し感じていた。

 

だが、一之瀬が過去を打ち明けたことでクラスは更に結束し、神崎の思考力も上がってきている。

 

今なら、正面からでもAクラスと十分戦えるだろう。

 

 

『一度聞いてみたかった。お前なら、一人で今のクラスをAクラスに上げることは可能か?』

 

『ええ、可能ですね。と言っても、あなたなら言わずとも答えを分かっていそうですが』

 

 

堀北学は聡い男だ。

 

一度体育祭でも、オレに本気を出させた男。

 

更に三年間Aクラスをキープし続けているのを加味すれば、常人の中ではかなり異質な存在だと言えるだろう。

 

 

『──────お前なら、そういうと思っていた。あと一二か月の付き合いになるだろうが、残りも頼むぞ。これから、争いは激化するかもしれん』

 

『分かっています。最後まで、力になりますよ。その代わり、あの約束もお忘れなく』

 

『ああ、此方で不測の事態でも起こらない限り、力を貸すと誓おう』

 

『ならいいんです。そろそろ切りますね』

 

『ああ。またな』

 

 

オレは、学との電話を切断する。

 

室内は暖房が効いているため暖かいが、外では木が寂しく揺れ寒さを語っている。

 

少し眺めてから、オレはカーテンを閉めた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーっ、さっむ」

 

「そうだな。凍えそうだ」

 

「なんで食品揃えてないのよ…………」

 

「オレも外に出るのは憚るような気温だからな」

 

 

同日・夜。

 

オレはユキと共に、寮の近くにあるコンビニへと向かっていた。

 

今日はユキが一方的に夕飯を振舞われに来ると宣言していた日であり、オレが完全に忘れていた日でもある。

 

 

「あんた、ホントは忘れてたでしょ」

 

「…………」

 

「分かりやす」

 

「嘘は吐きたくないだけだ」

 

「ふっ、まぁいいけど。並んで歩くのも好きだし」

 

 

ユキはそう言って笑いながら白い息を吐く。

 

視界の右下に見える彼女の顔が、紅く染まっている。

 

 

 

「ねぇ、少し良い?」

 

「ん。なんだ?」

 

 

オレがそう返すと、ユキは耳を寄せるようにジェスチャーをする。

 

迷うことなく少し膝を掲げ、オレはユキと目を合わせた。

 

 

 

「好き」

 

 

 

寒い冬、凍えそうな夜。

 

北風に吹き飛ばされてしまいそうな小さな声は、しっかりとオレの耳に届いた。

 

 

「外で言うの、あの日以来な気がする」

 

「確かに、言われてみればそうかもな」

 

「もう少し、照れたりしなさいよ。私ばっかり馬鹿みたい」

 

 

ユキは頬を赤らめながら、そう呟く。

 

オレはそんな光景を眺めながら、記憶の一頁として脳に刻んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──────よう。お二人さん」

 

 

 

あと数十メートルでコンビニに着くといったタイミングで、聞き馴染みのない声が耳に届く。

 

だが、その話し方は少しだけ記憶にある。

 

 

 

 

「…………?」

 

 

オレは、思わず振り返る。

 

その先には──────金髪のチャラ男がいた。

 

名前は憶えていない。多分、覚える価値がないと過去のオレが判断したんだろう。

 

 

「あんた、確か…………」

 

 

ユキは覚えているらしい。

 

まぁ確かに、顔も見たことがあると言われればそう思えてこなくもない感じだ。

 

 

 

「…………あ、船上試験のときの。ほら、私たちと一之瀬さんが話してた時に乗り込んできた奴よ」

 

 

ユキが閃いたかのように言う。

 

だがその発言で、オレもしっかりと思い出した。

 

 

「あー…………坂柳との連絡を取り次いできた奴か。すまないな、忘れていた」

 

「存在感なかったししゃーねぇよ。んなことより、お前に重大ニュースがあるぜ」

 

 

橋本がオレを見る。

 

その眼は、どこか獰猛で野心に満ち溢れているように見えた。

 

 

「なんだ?」

 

「──────坂柳有栖が、自主退学した。お前、姫さんになんか絡まれてたろ?良かったじゃねぇか。俺からしたら、クラスのリーダーが消えて痛いけどな」

 

 

…………学校側はまだ公開していない筈。

 

となると、坂柳自身が関わりのあった者に事前に打ち明けた可能性が高そうだ。

 

 

 

 

「──────オレはいま、感動している。ここまでいとも簡単に嘘を吐ける人間がいるなんて」

 

「綾小路?」

 

「…………龍園にオレの弱点が姫野であるとバラしたのはお前だな。橋本」

 

「は? いきなり、なんの話だよ。龍園がどうしたって?」

 

 

オレの問いかけに、橋本は驚きつつも演技をしながら返してくる。

 

本当は知っているのにこの反応、オレまで騙されそうだ。

 

 

「本人の口から聞いているから問題ない。お前がどれだけ否定しようが、オレの中での事実は覆らない。これ以上不毛な会話を続ける気もない」

 

「どうしたんだよ、少し怖いぜ?」

 

「なぁ、橋本。オレは、これでも譲歩しているんだ。もしこれ以上オレとオレの周りの人間に適当なこと言ってみろ、坂柳と同じ結末を辿ることになる」

 

「…………じゃあやっぱ、あれはお前が」

 

「取るに足らない存在だった。オレからしてみれば、お前も坂柳も大した差はない。これ以上話すか?」

 

「いや、やめとくぜ。ただ、近いうちにお前とは話すことになるかも知んねぇ。それと、龍園の言うことなんざ、当てにしない方がいいぜ」

 

 

橋本はそう言い残すと、振り返らずに去っていった。

 

オレたちはそれから、コンビニに入り、今夜のご飯を用意する。

 

 

 

 

「結構、本気で怒ってた?」

 

「いや、坂柳にも橋本にも大した感情は沸かない。ただ、唯一抱いている感情があるとすれば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────感謝、だな。些細だが」

 

「へぇ? まじで?」

 

「ああ。元はと言えば、オレが‘‘怒り’’という感情を知れたのは坂柳のお蔭だからな」

 

 

 

棚に陳列されている正月料理やサラダチキンなどを眺めながら、オレは呟いた。

 

 

 

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