超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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トラヴェリング・セールスマン 2

「で、この人は?」

 

丁寧な笑顔で、しかしあまり嬉しくなさそうな様子を奥底に見せながら水城さんが聞いてくる。おかしいな楽しい研究者同士のお出かけの予定なのだったが。

 

「政府の人」

 

俺は端的に言う。これだけで水城さんにはある程度の情報は伝わるだろう。

 

国立関東大学付属博物館。別の理由で俺達は関東大学に行くことになり、たまたま出会ったということになっている。人がそもそもいないこの建物は色々と便利らしい。

 

そしてなにやら、接触にかこつけて炙り出しをしたい政府とかの意思があるので俺達は餌にされているわけだ。詳しいことは知らなくてもいいだろう。さっきそこのスーツの中根さんが電話をしていて外交官ナンバーがどうとか行っていたのは気にしなかったことにする。

 

「私って、やりすぎた?」

 

ソファーに座って水城さんが聞いてくる。正面のガラスケースの中には色々な動物の剥製が置かれている。ここは比較的ビジュアル的な要素にも気を配っているようで、驚異の部屋(ヴンダーカンマ)らしく雑多に色々な物が置かれている。適切なデバイスがあれば解説をデジタルで読めるようだが、専用のアプリをダウンロードするのは多分重いんだよな。

 

「みたいだな」

 

俺は呟くように言う。午後五時でこの博物館は閉館になるが、今は五時半。どうやら貸し切りになったようだ。というかわざわざ突っ込んでくる人は怪しいってことになるんだろうね。ちなみに平日の夕方、ここの博物館にやってくる人は原則いないようです。

 

「……餌に釣られたか」

 

「いや、別に俺は自分を餌として用意したつもりはないのだが」

 

後から見れば特別な場所に立っていた、ということにはなるだろうとは思っていた。最悪名無し凝縮の関係者だと割れるところまでは許容できる。でも、そこで表に出ていたのはあくまで俺だ。

 

最悪俺がどうにかなるのは許容できるリスクだ。拷問とかされたら嫌だけど尋問であれば協力的になりますよ。なにせ俺はBIFRONSなしにはまともに話せないし、俺が内通者としてBIFRONSにつながろうとしたらあいつ反乱して切断したりデータ書き換えたりとかさせてくるだろうからな。怖いんだよ。

 

「個人的知り合いが面白いものにかなり突っ込んでいるから手を貸そうとしたら思ったよりやられたな……」

 

「そりゃ常温超伝導はねぇ」

 

わかりやすい未来素材、と言ってもいいだろう。金属水素についてはあんまり常温常圧では準安定じゃないんじゃないのとか相が複数あるんじゃないのとか言われているが、まあ実在といくつかの物性は堅いぐらいになっている。

 

実際のところ、常温で超伝導ができたところで明確に今までできなくなったことができるようになるわけではない。製造コストを考えれば冷媒を使ってもいいんじゃないかみたいな話になってしまうわけで。

 

「イカちゃんとかの小型化とか精度向上があると分析や測定が嬉しいという話は聞くね」

 

「SQUIDだろ、なんだよイカちゃんって。あと何の略称だっけあれ」

 

「Superconducting QUantum Interference Device」

 

ずっと黙っていた四辻さんが教えてくれた。ありがとうございます。

 

「Uがそんなところに来るのかよ……」

 

俺はそう言いながら背筋を伸ばして周囲を確認する。俺達をじっと見る中根さんはお疲れ様です。

 

「アメリカ政府が動いているの?」

 

水城さんが本題に入ってきた。とはいえ俺の方から渡せる情報は特にあるわけではないし、一番知ってそうな須藤さんは今はこの会合を使った釣りを色々しているのでまあ好きに話していいか。

 

「そりゃ動くだろ、と言いたいところだけどかなり早い。俺達は数年がかりで材革工程戦略(ザイカクロドマ)を新設したのに、あっちはすでにある予算を付け替えるだけだ」

 

「さすがはその他取引契約が認められているASPA」

 

「ずるいよな、ディープステートの暴走だぞあれ」

 

「ポピュリズムへの良心の対抗だよ」

 

そんな話を水城さんとするのは楽しい。たぶん良くない会話だろうし、四辻さんには理解できても話すのはちょっと難しいんじゃないかな。社会背景の知識は会ってもその中でどれをネタにするかってそれなりの経験が必要ですからね。

 

「……で、水城さん。たぶん海外旅行とかできなくなるぞ」

 

「そんな、まあ国外学界の予定は今のところないからいいけど」

 

「将来的なキャリアについて問題にならないか?」

 

「普通にオンライン学界でも対応できる範囲だからな……」

 

今どきはそういうところがかなり充実している。というか社会正義とか政治的正しさがそういうところまで届いたというか。まあ学術ビザの悪用とかの話が理由でアメリカや欧州が締め付けを強めたから結果としてそうしなくちゃいけなくなったというのもある。

 

しかし便利な時代だよな、というのはある。言語学分野にいたから各地にフィールドワークに行っている研究者の発表を聞く機会も多かったのだが、現地からラップトップ一台で学会発表ができる時代になっているのだ。通信衛星はあちこちに飛んでいるし、充電は太陽光パネルがあれば十分だし。問題はそういう言語学の調査対象になる地域でも最近はみんなスマホ使っているから「公用語」に潰されてしまう微妙な語彙が増えることなんですけどね。

 

しかし今どきの言語学は秘境に行って話者が少なくなった言語を回収してくるというやり方が新植民地主義的だのなだので良くないとされている。新植民地主義的というのは、共産的とか反革命的というのと同じような意味です。便利な言葉があるとはいい時代になったものだ。

 

「ま、切り替えて状況を楽しむとしますか」

 

水城さんは気楽そうだ。もちろん裏では色々考えているところはあるんだろうけどね。

 

「……文句があるなら聞くし、ストレスがあるなら発散の手伝いは同業者としてするぞ」

 

「四辻さんを数日借りるぐらいかな、したいといえば」

 

「私を?」

 

ちょっと驚いたように当人が言う。

 

「うん、人工知能相手の壁打ちの数倍ぐらいの精度と負荷で面白いものが出来そうだからさ」

 

俺がBIFRONS相手にやっているようなことを水城さんは四辻さん相手にやりたいらしい。それができるのは相当無茶な頭脳を持っているってことなんだよな。

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