超越少女は路を示すが旅をするのは俺達だ   作:小沼高希

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トラヴェリング・セールスマン 10

地下室にやってきた中根さんによって広げられた紙の図面。場所は国立情報通信総合研究所の食堂。休日にたまたま総務相がやってくるので周囲の警戒とかなんやかんやがあるらしい。奇遇なこともあるものですね。

 

「……これは、どちらが先にタイミングを決めたんですか?」

 

俺は地図をなぞりながら言う。この場所なら全力で稼働したBIFRONSと繋ぐこともできるだろう。ちょっとぐらい変な電波を飛ばしても気がつかれないだろうし、回線も太い。先工研も休日はあまり人がいないので通信帯域を必要であれば多めに分けてもらうとかできるはずだ。というかC4棟のシステムはBIFRONSが結構掌握しているのでどうにでもなりそうな気配がする。スマート制御システムというやつだ。

 

「先方の指定です」

 

「……大臣のスケジュールは同盟国に開示を?」

 

「それなりに前から決まっていたものです。近年のテロ攻撃を受けて警備強化の話もあり、その中での対応ですのでこちらにも負担が少ない形を選んだのだと思われます」

 

「親切なことですね」

 

中根さんたちが動かせる人員は限られている。特に警備とか護衛とか防諜とかとなると、ちょっとやそっとの訓練では対応できない。たぶん。そういえば中根さんってそういうことしているのかな。動きは機敏なので多分常人よりは鍛えてはいるのだろうが、それでも服の上から筋肉がわかるというほどではない。BIFRONSとかなら目の動きとかそういうところからもっと詳しく分析出るのだろうが、そもそも他人をそうやって評価するのはあまり良くないことであった。

 

「本来であれば、私はあなたがたをこの場所につれていくことには反対です」

 

「妥当だと思いますよ、でも須藤さんが許可を出したのでしょう?」

 

「私に見えないものが彼に見えているなら、それを共有してほしいものです」

 

「それについては共有されたら困る前提とかがあるんでしょうね」

 

というかある。四辻さんという歩く記録素子にして演算資源の存在はこちらの切り札だ。とはいえそれももうかなり陳腐化していて、あとは道に従って金を突っ込んで実用化していくフェーズに入っている。もし俺と四辻さんと須藤さんが同時に殺されたりなんかしても、それなりにこの計画は動くようになっているはずだ。それを止めたければ核戦争でも起こすんだな。

 

「……狙撃は困難となっています。周囲については警備体制を強化、一部の記者と職員以外の立ち入りは制限します」

 

「つまりいつもの警備体制を?」

 

「そうなります」

 

俺は息を吐く。この手の施設に入り込むのは方法を知った上で内通者がいれば不可能ではない。例えば首から下げるカードのデザインとケースの形、ストラップの色。そういったものを揃えておけば、守衛さんに挨拶して通ることは難しくはない。

 

カードキーみたいなものも大抵は前の人の後ろについていけば対応できる。俺達がいるC4棟の地下にある一度に一人しか通れない通路とかみたいなものはないのだ。強いて言うなら守衛さんのいる門とかだが、それでも数秒以上かけて確認するのは難しい。

 

もちろん、彼らも長らくその仕事をやってきた専門家だ。結構不審者を見つけるのは得意だとは聞いている。そうでなければそれなりのコストを掛けて雇うことはないだろう。最低時給というものがある以上コストには下限があるわけだし、家族を養って肉体を鍛えるだけの出費を差し引いてもなお買収されない程度には給料を出さないとまずいだろう。まあそこで払っていないから問題が起こるみたいな笑い話にならない話はよく聞くが。

 

「俺が座るのはここ、四辻さんはここ」

 

改めての確認に指を伸ばすと、中根さんは頷いた。周囲にいるのはサクラというかわかっている関係者。基本的には水城さんとミス・ルイとの対話であって、俺は呼ばれたらちょっと顔を出す程度だ。まあミス・ルイが俺の顔を知らないなんてことはありえないだろうからな。大学時代の写真は知られているだろうし、当時から俺の雰囲気はあまり変わっていないと思う。

 

「相手側は一人で来るようです」

 

「つまり俺達は一人を集団で囲んで圧をかける側、だと?」

 

「そうなります」

 

「たぶん映画化されたら俺達は悪役ですね、ついに日本もハリウッドで中国に奪われた座を取り戻すときが来ましたか」

 

そう言いながら、四辻さんが日本に来たのは奇遇だったなとは思う。もしアメリカ合衆国ならすぐさま国家がちゃんとバックアップをできただろう。中国なら、まあそれはそれで有効活用しただろう。欧州の方はあまり明確なステレオタイプがないからあまり言えないが、それでも悪いことにはならないはずだ。

 

それらと比較して、日本はまあ使いこなせるかどうか微妙なラインの国である。もし須藤さんとの繋がりが構築できなかったら俺と四辻さんが会うことはなかったし、どこかで記憶喪失の少女として過ごしていたのかもしれない。彼女の頭脳があればまあまあの生活を送ることは可能だったとは思うけれど。

 

でも、この国では彼女は主役にはなれない。そこにあるのか官僚が縦割りの隙間を縫って考証したり、予算を微妙に付け替えたり、正当な手続きを不当な手段でやるような工作だ。大統領とか党が持っている強権が我が国にはそこまでないので、大体のものは惰性で動く。大抵の官僚組織はそうだけど、日本は特にそういう傾向があるんじゃないかな。ちゃんとした統計に基づかない偏見ではある。

 

「……事前のすり合わせは?」

 

「水城さんとは綿密に進めています。私としては彼女との情報共有を優先したい立場ですが」

 

「……本当にすみません、色々と」

 

水城さんも俺や四辻さんに話を通せと中根さんに言ったのだろう。それが俺や四辻さんの真の価値を暴くヒントになりかねないと理解しながら。あるいはわざとかもしれないな。でも普通の真っ当な人が四辻さんの正体を見抜くのは無理だと思いますよ、須藤さんですらちょっと戸惑っていましたし。

 

とはいえそれを事情の知らない人にやらせるというのは変だと思う。思いますが言えないことが多いんですよ。それぐらい察してくれと言いたいところではあるが、たぶん中根さんは許可が出るまで察さないことができるタイプなんだろうな。基礎能力はあるので須藤さんは早めに真実の開示をするようにしてあげてほしい。

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