元人間の現人魚、水没世界を放浪してみたw   作:ユルスラ

10 / 10
9話

「すまんがどうしてもメイさんの言葉を信じることはできん」

「そうですよねぇ・・・」

 

 そう上手くはいかないよね。なにかないかな、手っ取り早く筋力を示す方法。海上だと浮力もあるからバーベル何キロとかで比較もできないし、思ったより難題かも。くるくると弧を描いて泳ぎながら考えていると、仙道さんから意外な提案がされた。

 

「わしと綱引きでもしてみるか?」

「え・・・?綱引き?」

「漁師同士の力試しでよくやっていたんだ、ちょっと待ってろ」

 

 仙道さんは一度小屋の奥に消えた。暗くてよく見えないが、何かを探しているのが音でわかる。しばらくして両腕で私の腕ぐらいの太さの綱を抱えていた。

 

「戻ってきた。それは?」

「漁で使っていたものだ。ほれ」

 

 綱の一方が投げ渡されると、あわててキャッチする。右手と左手で肩幅くらい間をあけて握って引っ張ってみると、バツッと張り詰められる。強度を確かめ仙道に視線を向けると、

 

「準備ができたなら早速始めるぞ」

「えっもう!? よしこい!」

 

 その言葉を合図に綱がグっと引っ張られる。仙道は腰を地面すれすれまで落とし、腕だけでなく全身を使ってひっぱっている。いやいやいや、引きつよ! 気を抜くと一本釣りされちゃう!

 

「そんな力ではわしの船は動かせんぞ?」

 

 煽るような口調に温厚な私の闘争心にも火がついた。やってやらぁ! 綱を身体に回すと陸に背を向け思いっきり尾びれをふるう。最初は拮抗していたが徐々にこちらが優勢に。そして。

 

 サバーン。

 

「あ」

 

 やりすぎた!? つい夢中になって仙道さんを海まで引きずり込んじゃった!? あわてて助けに向かうとすぐさま水面から仙道が顔を出した。

 

「負けた負けた! やるなあメイさん!」

「え、いや、どうも・・・?」

「あれだけひっぱれるなら大丈夫だな」

 

 そう言って右手を私に伸ばす。えっと? ああ。握手求められてるのか。恐る恐る握るとニカッと笑みを浮かべる。

 

「っと、このままだと冷えるし急いで上がらせて貰うぞ」

「どうぞどうぞ、すみません」

「謝ることはない」

 

 それだけ答え素早く陸に上がる。この時期の水温はまだまだ低い筈だが、平気そうに見える。

 

「流石漁師さん。寒く無いんですか?」

「いや寒い」

「え」

「そう見えないように我慢してるだけだ」

 

 そう答えて豪快に笑ってみせる仙道さん。た、逞しいお爺ちゃんだ。そのタフさは見習いたいかも。

 

「着替えて来るからちょっと待っててくれ。そしたら次は船に綱をつけるとしよう」

「おお!」

 

 そう言うと、また船小屋の奥に消えていった。しばらくして着替え終わった仙道さんは工具を抱えて戻ってきた。

 

「早速やるか」

「手伝います!」

「気持ちはありがたいが、海から上がれないだろう・・・?」

「うん! じゃあ応援してます!」

「それで頼む」

 

 仙道さんは黙々と作業を始めた。声援を送ったりは邪魔になりそうなので、頑張れーって念を込めてガッツポーズを取り続けて見守る。そして小一時間程立って仙道さんは額を拭うとこちらを振り向いた。

 

「終わったぞ」

「お疲れ様です! じゃあ早速・・・」

「いや、明日にしよう。夜に船を出すのは危険だ」

「明日の楽しみにしますね!」

「そうしてもらえると助かる」

 

 一応夜目もきくけど仙道さんの判断に任せたほうがいいだろう。今日のところは昨日と同じところで夜を明かすことにする。

 

 そして次の日の朝。小屋にやってくると仙道さんが船のそばでしゃがんで何やら作業をしていた。

 

「おはようございます、早いですね!」

「おはようメイさん。この歳になるとすぐに目が覚めてしまってな。せっかくだし船のメンテナンスをしていたんだ」

「なるほど~問題なさそうですか?」

「見たところはな」

「それじゃあ早速始めましょうか」

「お願いするよ」

 

 そう言うと仙道は船を動かし始めた。え、ちょっと待って。普通に1人で動かしてるんだが? 昨日の綱引きで力持ちなのはわかってるけど。もちろん、柔らかい地面を引きずっているが500キロぞ? 仙道さんすげえ。

 

 しばらく眺めていると、船の先端から海に到達した。仙道さんは腰をさらに落とし海に向かって押し込んでいる。

 

「船の先端少し支えてもらえるか?」

「はーい!」

 

 呼吸をあわせて船をゆっくり引っ張る。押す力に合わせて調整するのはなかなか難しいが、昨日綱引きしたおかげでいい感じにタイミングを合わせられている。

 

「あと少しだ。任せる」

「おっす!」

 

 仙道がギリギリまで押しそこからはバトンタッチして私がゆっくりと引っ張ると、ようやく船全体を着水させることに成功する。

 

 私は船から手を放しいったん離れると、船がガクっと揺れる。仙道さんが乗り込んだのだろう。かすかに足音が聞こえる。

 

「メイさんこれを合図を出したら少しずつ引っ張ってみてほしい」

 

 渡されたのは昨日綱引きで使った綱だ。船の側面から伸びる2本の綱が船首あたりにある輪っかで結ばれており、そこから伸びる綱を引っ張って強度を確認する。よしよし、大丈夫そう。腰に縄を巻き合図を待っていると、引っ張ってくれっと船の奥から声が聞こえたので、船に背を向けゆっくりと引き始めた。

 

 いやさすがに重い。500キロは伊達ではなかった。箸より重いものだっていくらでも持ってきたけど、その中でもダンチで重たい。ただ予想通り引っ張ることはできそうだ。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫です!」

「じゃあぐるっと回って小屋の前まで戻ってきてもらっていいか?」

「はーい!」

 

 それから大きなゆっくりと一周してみる。途中速度を上げようとすると、なぜか気づかれてしまい注意されるので、仕方なく10キロ前後にとどめておく。4分の3に差し掛かったあたりのところで、

 

「そろそろ速度緩めてくれ!」

「わかりましたー」

 

 言われた通り引く力を緩めていくが船の速度はなかなか落ちなかった。心配になって受け止めるか考え始めたところで急に減速を始め、岸の目前で停止した。わお、プロだ。

 

「メイさん巻き込まれなかったか?」

「平気です! ところで急に減速してましたけどどうやったんですか?」

「船尾まできてもらえるか?」

「はーい」

 

 いわれて来てみると、海中に何か浮かんでいるのが見えた。なるほど。そこにあったのは大きな木製のタライだった。

 

「見えたか」

「ばっちりです。それにしても思ったより原始的というか」

「確かにな。ただ今も廃れてないということはそういうことだ」

「勉強になります」

「そう言ってもらえてうれしいよ。とりあえず船を小屋に運ぼうか」

「手伝います」

 

 協力して船を上げ小屋に上げ終わる頃には昼前になっていた。お昼ご飯を用意してくれるとのことだったので、ご相伴に預かった。

 

「おいしい~」

 

 朝釣ってきたらしい魚を塩焼きにしてもらった。焼き加減が絶妙で皮はパリパリ身はホクホク。あっという間に食べ終えごちそうさまをする。

 

「いい食いっぷりだった」

「えへへ~。火打石? って初めて見ました!」

「これも爺さんにやり方を教わったんだ」

「そうなんですか! どうやってやるんですか?」

 

 同じ船に乗ったわけではないが、仙道さんとは意気投合し話が盛り上がる。ちなみに私が火打石を使っても全然つかなかった。敗因は手がぬれていた。

 話し込んでいるといつの間にか日が頂点を過ぎていた。

 

「仙道さん! そろそろ行かなきゃいけないからまたね!」

「なんだ、あわただしいな。メイさん、こっちもいい思い出になったよ」

「今度はもっと速度出すからね」

「ああ」

 

 私は両手を大きく振ってその場を去る。今日はヒマちゃんにいっぱい話したいことができてウキウキといつもの場所目指して泳ぎ始めた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

TS転生アンドロイドはありふれた日常を送りたい(作者:異音)(オリジナル現代/冒険・バトル)

▼ 気づけば国とか一機で滅ぼせる少女型アンドロイドになってたけど、そんなことするよりもぼろっちい木造アパートで草むしりとかしながら過ごしたい。▼ 本人としてはそんなつもりでしかないんだけど、なんか周りの人は勝手に勘違いしてるっぽい。なんでさ。


総合評価:546/評価:7.52/連載:4話/更新日時:2026年05月27日(水) 20:16 小説情報

ポストアポカリプス世界でTS少女になりました〜廃墟の聖女と呼ばれるまで〜(作者:Naito)(オリジナルSF/冒険・バトル)

崩壊した東京で目覚めたアラフォー男は、八歳ほどの銀髪少女になっていた。▼大人用の装備を引きずり、「おむすびが食べたい」と泣きながら、彼女は廃墟を歩く。▼その小さな手には、傷と穢れを癒やす【浄化】の力があった。▼砦、夢の国、壊れた共同体。▼居場所を得るたび、彼女は「守られる子供」から「求められる聖女」へ変わっていく。▼ポストアポカリプス×TS少女×おねロリ×聖…


総合評価:986/評価:8.06/連載:29話/更新日時:2026年05月26日(火) 20:20 小説情報

ディストピアのネット友達が優秀すぎる(作者:名無しのペロリスト)(オリジナルSF/文芸)

ディストピア世界に転生した、元オタクOLは絶望した。▼飯がクソ不味いだけでなく、前世にあったサブカルチャーが絶滅していたのだ。▼それに都市に貢献しない者を生かしておくほど、アバシリシティは甘くない。▼だからと言って過酷な労働はしたくはないので、せめて身の回りの環境を改善するために仮想空間で色々していると、何故か上級市民のお嬢様がログインしてきて──。


総合評価:4521/評価:8.58/完結:28話/更新日時:2026年06月07日(日) 00:00 小説情報

TS転生外宇宙系魔法少女ダークネス・ルーシィ(作者:SIS)(オリジナル現代/ホラー)

SAN値直葬系マスコットとそれを心から愛する転生者(正気)の日常。▼※序盤とタイトルを書き直しました。▼気分転換に書いた作品を投稿欲を満たすために投稿してみます。▼続き書いたら増えます。


総合評価:2467/評価:8.53/連載:33話/更新日時:2026年08月08日(土) 17:54 小説情報

TS転生人外ロリ、厭世魔法少女の使い魔になる(作者:蓋然性生存戦略)(オリジナルSF/冒険・バトル)

とりあえず地球が爆散して転生することになった人間が一人。▼元凶を名乗る自称神様モドキに願いを聞き届けてもらい、TS転生人外ロリになった彼は、転生直後に浮かれた気分だったためにボコられ、とある魔法少女の使い魔にされてしまう。▼最初は死にたくないがための投降だったが、次第に魔法少女《エンドロール》の私生活の彩りの無さに対し、お世話魂に火がついた。▼これは、厭世家…


総合評価:5087/評価:8.74/完結:12話/更新日時:2026年05月15日(金) 14:40 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>