オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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たぶんここまで読んでいただいていた皆さまがずっとミスじゃね?と思っていただろう、『アーグランド合議国』の名前にはじめて触れることになりました。


第6章 第14話 -エ・アナセルでの邂逅-

 

 

 

「おお、『漆黒の剣』。久しぶりだな!活躍してるみたいじゃないか!」

 

「あ、アズスさん。お久しぶりです」

 

 

 

冒険者組合で、『漆黒の剣』と『朱の雫』のリーダーどうしが挨拶をする。

 

この街では当然有名なアダマンタイト級冒険者チーム『朱の雫』は元より、その『朱の雫』が事あるごとに宣伝していた、この国で3番目のアダマンタイト級冒険者チーム『漆黒の剣』がエ・アナセルの冒険者組合に現れ、2つのアダマンタイト級が気さくに挨拶を交わしている様に、他の冒険者たち、そして受付嬢たちは憧れを含んだ眼差しで彼らを見ている。

 

しかも『朱の雫』のリーダーであるアズスが言うには、『漆黒の剣』は『朱の雫』よりも強いとの事。

否が応でも、その視線は『漆黒の剣』の5名に集まる。

 

 

 

「ああ、パルメーラも久しぶりだ。もう体は問題ないみたいだな。リ・アインドルではご活躍だったそうじゃないか」

 

「ん…何で知ってるんだ?」

 

「ハッハッハ!アダマンタイト級ともなればそこら中に情報網があるんだよ!まあ本当のことを言うとな、ラキューから手紙で聞いた。『蒼の薔薇』のイビルアイが何日か前に手紙を持ってこの街まで来たのさ。“世話になったから『漆黒の剣』がエ・アナセルに来たら仕事を手配したり必要な情報を提供してほしい”とのご依頼だ。まあ可愛い姪っ子からの頼みだから聞かないわけにはいかないしな」

 

「成程、そういう事か。まあそこまで気を回さなくてもいいんだがな」

 

 

 

そう言いつつ、パルメーラはイビルアイが手紙を持ってアズスの元まで転移したことは知っていた。

無論、ラキュースに憑けた影の悪魔(シャドウ・デーモン)からの報告である。

 

イビルアイには憑けていなかったが、アズスには憑けているので彼が手紙を受け取ったことも知っている。

 

 

 

「で、『漆黒の剣』。どうだ、何か欲しい情報はあるかい?」

 

 

アズスの提案にペテル達は顔を見合わせたが、皆、現時点では特に何か欲しい情報があるわけではないとのことで一致した。

 

この街にはニニャの転移先の登録のために訪れたという事が第一目的であることを告げる。

 

 

「成程な。しかし転移ってのは本当に便利だな。俺のチームの魔法詠唱者(マジックキャスター)も習得してくれれば助かるが。まあ俺個人としては馬車でゆっくりと旅をすることの方が好きだがな……ところで、特にこの街で何かする目的が無いっていうんなら、少しばかり俺たちの依頼を手伝ってくれないか?」

 

「『朱の雫』の皆さんからの依頼という事ですか?」

 

「いや、そういう訳じゃないさ。俺たちが組合から受けてる依頼を一緒にやらないかって話だ。またお前たちと共闘したいってのが本音だな」

 

「冒険者組合からの依頼ですか。内容はどういったものですか?」

 

「ああ、これはこのエ・アナセルでは恒常的にある依頼なんだが、この街の北にはアーグランド合議国との国境が有って、あの国からは定期的に強い亜人なんかが流れてくることが有る。そいつらがこのリ・エスティーゼ王国に侵略してこないように見張り、時に討伐するのが仕事だ。いつもはスレイン法国のある部隊が、陰から協力してくれるんだが、なんか急用が出来たとかで、その部隊のほとんどの者が一時的にスレイン法国に帰還してな。まあ、強い亜人が来るなんてめったにないんだが、このエ・アナセルまで到達されるとデカい被害が出るかもしれんから一緒に警備をしてもらえると助かるのさ」

 

「ああ、話に聞いたことが有ります。かつて大地の巨人(アース・ジャイアント)族が侵入してきたことが有ったとか」

 

「そうそう。さすが良く知ってるな。その時はスレイン法国の例の部隊も居て、このエ・アナセルまで巨人が到達することは無かったが、その後も時々亜人族が姿を見せている」

 

「なあ、俺はよく知らないんだが、そのアーグランド合議国というのはどんな国なんだ?定期的に国境超えて攻めて来るなら、国として守りを固めるべきじゃないのか?」

 

「あー…パルメーラ。あんたの考えは尤もだぜ…まあ何と言うかこの国の貴族共がアレだからな。順を追って説明するとだな、まずアーグランド合議国てのは多民族国家群だ。人間種、亜人種、異形種が混在して住んでいる。大昔には特に強い種族の代表が“評議員”として国の方針を決めていたらしいが、ある時からその“評議員”が居なくなったらしい。それ以降は国を纏める者達が不在となって種族ごとに覇権争いをしているような状況だ。だからその覇権争いに負けたものや、単純に領土的野心を持つような部族が国境を越えてリ・エスティーゼ王国に押し寄せてくることが有るんだ。そんな状況になってから、最終的にこの街は領主が逃げ出しちまって、現在は王直轄地になってる。だが、王家も専任の護衛となるような兵を結成することが出来ず、またバカな貴族連中がそういったことに国が予算を使うのを邪魔してくるから、王は比較的高額な金額で冒険者に依頼を出している。そういう訳で俺らみたいな冒険者が防波堤の役割をしてんのさ。スレイン法国は、この街の人間に被害が及ぶのは不味いと考えている一方で、王国がスレイン法国に全部押し付ける事が無いように、秘密裏に部隊を送ってくれていて、後は保険のために、この街の神殿にはかなり強い方が派遣されている」

 

「…なぁアズス。他の街でも思ったんだが、この国の中枢にいる貴族は頭がアレなのか?仮にこの街がその亜人とかに落とされたら、連鎖的に他の街にも攻め込まれて、いずれ国が亡びると思うんだが」

 

「…俺が貴族を辞めたくなった理由がわかるだろ?」

 

 

 

しばらく皆で貴族のことを罵り合った後、最終的に『漆黒の剣』は『朱の雫』が受けている依頼を手伝う事とした。

 

 

「…よし、うちのチームも組合での受注は完了したから、良ければ暫くは『朱の雫』の皆さんと一緒に行動してもいいですか?」

 

「ああ、ペテル。いいが、その前に神殿の方に挨拶をしといたほうがいいだろう。俺が案内するからついてきな」

 

 

アズスたちの案内で、『漆黒の剣』一行はエ・アナセルの神殿までやってきた。

実を言うとパルメーラにとって、この神殿には入ってみたいと考えていたので好都合だった。

 

前日に街中へ侵入させた悪魔たちから街の様子を概ね聞いている。

娼館あり、ただし奴隷らしきものはいない。

賭博場無し、麻薬取扱無し、都市長宅に奴隷らしきものは居らず、一方で平民らしき者も働いている。

 

全体的にエ・ランテルと似た環境で、一方で先ほどアズスから聞いた話で納得できたのだが、エ・ランテルと比べると露店などは多くはなく、住民が皆、比較的武装している傾向がある。

これは北からの侵略に備えて、普段から危機意識が高いためだろう。

 

明確なスラムが無いのも、外からの侵略という共通の敵があるために、住人が比較的結束していて平等であるという意識が高いと思われる。

 

ここまではパルメーラにとって非常に好印象の街だった。

 

しかし気になるのは神殿。

 

悪魔からの報告によれば、この神殿には結界が張られていて、低レベルの悪魔は入れず、また無理して入ろうとすると探知される可能性が高そうだという。

 

その報告があったため、パルメーラは悪魔たちにこの神殿には入らないように命令していた。

 

アズスの説明から考えると、その守りを固めているのは十中八九、スレイン法異国から派遣されている強い力を持った者だろう。

 

そういう訳でパルメーラは、その者が敵でないかを確認するため一度自分の目で見ておきたかったのだ。

 

 

神殿の扉をくぐった瞬間、わずかにスキル“悪魔の祝福”に引っかかった感触があった。

恐らくはこの結界をかけた者にも、その感覚は伝わったはず。

 

パルメーラの予想通り、扉の先の礼拝堂のような部屋の真ん中には老婆が居り、その老婆は鋭い目でこちらを見ている。

 

 

「…待つのじゃ、お前たち」

 

「ああ、カイレ殿。今日は、例の国境警備に加わる新しい仲間を連れてきた」

 

「…アズス殿、貴方を疑う訳ではないが、新しい御仲間とやらの中に、悪魔のオーラを纏っている者がおるようじゃ…」

 

 

その言葉に、一同は納得したような顔をした。

一方でカイレと呼ばれた老婆は、皆のそのような表情が理解できないとばかりに首を傾げる。

 

 

「…ああ、カイレさんといったか。たぶんあんたが言ってるのは俺の事だろうな。俺は悪魔の末裔人(ディアボロ・ディセンディ)という種族でな。遥か昔に悪魔と交わった人間の末裔だ。その証拠に俺の左手にはこういう紋章がある」

 

パルメーラが左手の甲に光る紋章を見せると、老婆は目を見開き『何じゃと…?!』と驚愕している。

 

すかさずペテルがフォローを入れる。

 

 

「あ、あの。俺たちはアダマンタイト級冒険者チーム『漆黒の剣』の者です。俺はリーダーのペテル、この人はパルメーラさんと言って、チームの一員です」

 

 

その言葉を聞き、老婆の視線からは警戒の色が薄まった。

 

 

「『漆黒の剣』!…そうかあんたらが。いや、失礼した、パルメーラ殿。遥か昔の南方には貴方のような人間種が多く存在していたことは知っておる。しかし悪魔の末裔人(ディアボロ・ディセンディ)という種族は儂も初めて会ったのでな。あんたらが善き者達であることは知っている…リ・ブルムラシュール、エ・ランテルでは多大な寄付を頂いたようだしの」

 

 

パルメーラはその老婆の言葉に、少しそっぽを向いて小さく「…匿名」と呟いた。

 

 

「ハッハッハ、悪かったの。アズス殿もすまんかった。そうか、かの『漆黒の剣』の方々が協力なさってくれるか。それは心強いの。儂もこの歳で最盛期の力は出せんし、今は色々あって(・・・・・)、部隊の者達も一度国に帰っておる。こんな時に大規模な侵攻が無いことが一番じゃが、何があるか分からんからな」

 

「おいおい、カイレ権大司教殿。最盛期じゃないって、それじゃ最盛期の時はどんな鬼人だったんだよ…」

 

 

アズスの言葉に老婆はニヤリと笑う。

 

 

「この世界にはの、上には上がいるのじゃ。儂とて、嘗て居たと言われておる、アーグランドの評議員のドラゴンなぞには触れることも出来んじゃろう」

 

「アーグランド合議国にはドラゴンもいるのか?」

 

 

パルメーラは少々驚き、老婆に尋ねる。

嘗てアゼルリシア山脈で戦ったドラゴンは、パルメーラ基準ではかなり弱かったが、『漆黒の剣』にとってはそうではない。

 

成長した彼らでさえ、複数のドラゴンや、あるいはウルベルトが良く知るユグドラシルのドラゴンが相手では敵わないだろう。

 

しかし老婆から帰ってきた言葉は、想像とは異なっていた。

 

 

「おそらくは居ないじゃろうな。アーグランド評議国として、ドラゴンを含む評議員が居たのは100年以上前の事。5体とも6体とも言われていたドラゴンの評議員はある日突然姿を隠したらしい。それ以来かの国の秩序は失われ、国境は見ての通りじゃ。もしドラゴンが戻っているのならば国の統治が再開されて現在のような混乱は収まっているじゃろうからな…ドラゴンたちは噂では、世界中の空を飛んでいるだの、遥か東方へ居を移したなど様々じゃが、本当のことは誰も知らん」

 

「…成程な。じゃあ今まで出てきた奴らで最も強かったのは巨人族か」

 

「そういう事じゃな。では『漆黒の剣』の皆様にこの神殿のご案内しようかの。出発は明日じゃろうから今日はゆっくりとしていくといいじゃろ」

 

 

その後『漆黒の剣』は、一通り神殿の中を案内され、今回の作戦で傷ついた場合は特別にこっそりと神殿が回復する旨や、作戦で必要となりうそうなアイテムの一部を提供してもらえるという話を聞いた。

 

また、カイレは自国の特殊部隊の者のうち、1名だけは未だ本国に戻らずに作戦に従事していて、その者はアーグランド合議国内に侵入していて、強力な者がこちら側へ入り込まないための第一次防波堤の役割をしていると言っていた。

もしその者と会うことが有ったら、自分の名前を出してくれれば大丈夫だろうとの事。

 

パルメーラの見立てでは、カイレという老婆は戦士としての実力は皆無であるが、パルメーラの種族をひっかけるような結界を張れる実力、そしてアズスの態度から、少なくともアダマンタイト級の実力はある魔法詠唱者(マジックキャスター)であると想定し、この街の神殿には引き続き入り込まないように悪魔たちに注意した。

 

また、過去に悪魔を忍び込ませた陽光聖典のニグンという男——現在、彼はまだこのリ・エスティーゼ王国に滞在していて、リ・アインドルの南の平原のアンデッドを殲滅しているようだ——の影の中の者達には、不用意に他のスレイン法国の者の影に移らないように厳命した。

 

 

 

***

 

 

 

翌日。

 

神殿から貰ったアイテムはとりあえずニニャに預け、一行は『朱の雫』と共に国境付近まで歩を進めていた。

 

 

「さーて、それじゃあとりあえず国境手前の見張り小屋まであと少しだ。カイレ殿が言っていたように、スレイン法国の特殊部隊が1名だけ残っているが、彼は主にアーグランド合議国内側の国境付近で亜人たちを守っている。どういうことかというと、国境付近まで追いやられている亜人ってのは弱小部族が多いんだ。もしアーグランドの中心付近から強い亜人なんかが流れてきた場合、国境を越える前にまず被害を受けるのはそういった弱い亜人部族で、彼はそれらを守るとともに、そこで持ちこたえて国境まで来ないようにするってことをしている。彼の仕事の内容的に滅多に合うことは無いが、もし会ったら一応挨拶しておいた方がいいだろうな。彼の名前は——」

 

 

そこまでアズスが言ったところで、見張り小屋が見えてきた。

同時に、見張り小屋の前には3体の傷ついた魔獣——それは蜥蜴のような巨体と石化の視線、毒の体液、そしてミスリル級の硬さを持つ皮膚を持つ——ギガント・バジリスクと、それに囲まれて倒れ伏す1人の金髪の男だった。

 

瞬間『漆黒の剣』は、魔獣に襲われている人間を守るために動こうとしたが、アズスがそれを止めるジェスチャーをしながら、大声を上げた。

 

 

「クアイエッセ!!大丈夫か?!何があった?!!」

 

「ア…アズス殿……すみません。天使が…天使が現れ、兎人(ラビットマン)の集落を襲っていたのです…この子(ギガント・バジリスク)達を召喚したのですが全く歯が立たず……この子達は私を連れてここまで逃げてきてくれたのです…」

 

 

そこまで言うと、その金髪の男は気を失った。

召喚したといっていたギガント・バジリスクも消滅した。

 

 

ダインはすぐさま呪文を唱え、男の治療を始めた。

 

それ以外の者は、たった今気を失った男の言葉を聞き、何をすべきか早急に作戦会議を始めた。

 

しかしパルメーラの左手の紋章は、この世界に来てから最大の警鐘を告げる。

痛みを伴うほどの“悪魔の祝福”に引っかかる感触。

 

間違いなく高位の天使。

 

 

 

「皆、各自最大限の守りを固めろ!!俺が戦うから絶対に手を出すんじゃない!!」

 

 

一同は驚いた表情でパルメーラに注目した。

そしてパルメーラを見て再び驚く。

 

その右手はいつの間にか抜かれた黒き刀身の長剣。

悪剣・ハジマリノ悪(オリジンオブエロヒム)が握られており、パルメーラが纏うエネルギーが、エ・ランテルのアンデッド討伐時と同じくらいに膨れ上がっている。

 

そしてパルメーラが目を向ける方角から現れたのは5体の天使。

 

 

4つの顔と4つの羽根がついた車輪のような体に、燃え盛る剣を持つ天使が4体。

その背後には、全身が赤く燃えた6枚の羽根を持ち、その羽根で顔と足を隠した天使が1体。

 

 

「パルメーラさん!…あれは?ご存じなのですか?!」

 

ニニャの質問にパルメーラが答えた。

 

 

「〈殲滅の智天使(ケルヴィム・アナイアレーション)〉が4体と、〈火焔天の熾天使〉が1体だ。特に熾天使の方は熾天使モドキ(・・・)とはいえ、難度は…おそらく210だ。俺以外では攻撃も通らん。絶対に手を出すな!」

 

 

パルメーラの口から語られた難度に一同は凍り付いた。

 

そして次の瞬間、パルメーラは黒い風となって天使の方へ突進していった。

 

 




クアイエッセ!
カイレ!
熾天使!

という弩等の登場でした。

カイレは当然ですがチャイナドレスは着ていません。
チャイナドレスはその価値を正確に理解する人がいるので、法国の最奥で大事に管理されています。
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