オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
とはいえ今回は仲間を守りながらという状態なので、本当の意味の全力は出せません。
「スキル〈
黒い風が、一体の〈
結果、位置的にパルメーラと、その他の仲間達が5体の天使を挟む形になった。
パルメーラの通過から、わずかに遅れて通過した〈
その一撃で倒しきることは出来なかったが、〈
だが次の瞬間、その他の3体の〈
「余所見をするなよ…スキル〈
瞬間、傷ついた1体を含む4体の〈
だが次の瞬間には、パルメーラは既に、傷ついた1体の〈
「スキル〈トロメーアの氷枷〉」
〈火焔天の熾天使〉を含む残る4体に巨大な氷の枷がかかり動きを封じる。
3体の〈
パルメーラは気にすることなく、動きを封じている〈
瞬く間に3体の〈
「〈
パルメーラの声と共に、4体の中央に闇が広がる。
大地から、空から、樹々から、ザワザワと何か不吉な者の声が漏れ聞こえ始め、その不吉な気配が、その闇に一斉に集まり、内側に向かって極大の爆発を起こした。
「……ただの野良熾天使ではないな」
パルメーラの呟きの後、闇が晴れる。
そこには1体の熾天使。
3体の〈
目を凝らしてみると、〈火焔天の熾天使〉の周りには、薄く虹色の輝く六角形の壁がある。
ここまでの戦闘は殆ど20秒かそこらの間に行われた。
それを目撃していた『漆黒の剣』と『朱の雫』は言葉も出ない。
が、無理もない。
今行われた戦闘は、
まず、〈
〈
そしてスキル〈
最後に悪魔の全体魔法である、第7位階の〈
ここまでの戦闘でパルメーラは確信した。
この天使たちは何者かに召喚され、強化されている存在だと。
まず、単体ならば余裕で倒せるはずの〈
また、〈火焔天の熾天使〉は明らかに防御が高く、オリジナルの野良モンスターにはない防御壁を展開している。
そして、〈
そもそも〈火焔天の熾天使〉は
野良モンスターではレベル70程度。
下手すると智天使よりも弱いのだ。
しかし出現した状況から80レベルの智天使を従えている雰囲気があり、実際に攻撃をした感じ、明らかに〈
恐らくは85レベル程度だろう。
これらから、明らかに聖属性として高い能力を持つ者が意図して強化して召喚したモンスターであると考えられる。
ユグドラシルで考えた時、このレベルの天使召喚を出来る者となると、それこそ『セラフィム』の天使ロールプレイヤーのクラスだ。
仲間内——AOGのメンバーではこれが出来る者は居ない。
自身が熾天使のるし★ふぁーさんは、ゴーレムクラフトに特化していて、天使召喚スキル関係は全くとっていないし、たっちの奴は聖騎士で一部の魔法は使えるがより戦士職特化の傾向が強いから、同じく召喚スキルを取っていない。
そもそも自分自身もそうだが、聖騎士や暗黒騎士は戦士スキルを極めた方が強いので召喚系は取らない。
現在の自分は召喚が出来る悪魔にもなれるから、召喚する場合はいちいち悪魔に戻っている。
あとは…
いや、何よりAOGのメンバーだったら、自分に攻撃してくる理由が無い。
天使というと想像できるのは例のスレイン法国。
『陽光聖典』の隊長と言っていたニグンという者は権天使を召喚していた。
特殊部隊の隊長クラスでその程度…と考えていたが、実は実力を隠していた、あるいは『陽光聖典』をはるかにしのぐ部隊が存在する?
そこまで考えて、その疑問は先ほど倒れていたクアイエッセという男に聞けばいいかと考えた。
それよりもまずは、目の前の残った〈火焔天の熾天使〉を撃退しなければならない。
この世界に来て、恐らく初めてのガチ戦闘。
しかしパルメーラは焦るどころか、その顔に邪悪な笑顔を張り付けた。
「
そう言うと、パルメーラは悪剣・
睨み合う形になったところで〈火焔天の熾天使〉は、驚いたことに声を発した。
「邪悪ナル者ヨ、裁キヲ受ケヨ———
「魔法か、良いだろう。受けてやるぜ」
〈火焔天の熾天使〉の背後に虹色のひずみが生まれる。
そしてそこから7色の魔法の奔流があふれ出す。
パルメーラはそれを受ける体制に入ったが、そこで予想外の事が起こる。
あふれ出した魔法は、パルメーラへ向かうのではなく、パルメーラ以外の『漆黒の剣』に向かって放たれたのだ。
「バッ…バカなッッ!!」
虹色の魔力が『漆黒の剣』へ伸びる。
最も近くに居たのは、結界を張っていたニニャであった。
彼が張った結界は精々が第6位階程度の魔法しか防げない。
「クソがぁッッッッ!!!」
刹那の時間、パルメーラが取れた選択は、転移して自分の身体をニニャの前に投げ出すことだけだった。
第10位階魔法を完全に防げるほどの結界を張ることもできない。
転移が使えることは、『漆黒の剣』には伝えていない。
だが、もうそれ以外に被害を抑える方法が思いつかなかったのだ。
〈
パルメーラはその背中に、土・火・毒までの攻撃を受けることになった。
そして無効化できる闇の攻撃のわずかに生まれたタイミングで、賭けに出ることにした。
「オオオオオオオオオオオ!!!
魔法を含む攻撃や防御などの方向を曲げて、発動者に戻すことが出来る魔法。
しかし、その成功率は相手のカルマ値が高いほど上がり運に左右される。
正直、
死ぬことは無いだろうが、大ダメージ必須だ。
かといって避けることは出来ない。
それをすれば『漆黒の剣』や『朱の雫』に被害が出るだろう。
なのでパルメーラは一か八かの賭けに出たのだ。
結果、風・水・聖の奔流は、〈火焔天の熾天使〉に帰っていく。
だが、それらの魔法はやはりあまり効いていない。
「まさか、コイツ…!」
パルメーラは
純粋な物理攻撃、そして少し手加減した力で何度も切り刻む。
手加減しているにも拘らず、その斬撃は明らかに効いている。
「やはり、物理防御を捨てて魔法防御を上げていたか」
その言葉が終わる前に、【幾億の刃】が発動した。
『×5000万』
瞬間、〈火焔天の熾天使〉は数えきれないほどの剣線の嵐に包まれる。
剣線の残像が幾重にも重なり、凄まじい風切り音と共に〈火焔天の熾天使〉を包み込む。
暴威が過ぎ去った後、その場には〈火焔天の熾天使〉は跡形もなく消滅していた。
***
「ラキュース、お帰りなさい。今回も無事に戻ってくれて何よりです」
「ラナー、ありがとう。あなたに受けた依頼、今回は想像以上に上手くいったと思うわ」
ラナーの私室には、ラナーの他、護衛のクライム、そして『蒼の薔薇』のラキュースがいる。
ラナーとラキュースは紅茶を飲みながら落ち着いて話をしているが、ラナーは心中で想定以上の成果に少々驚いている。
それはラキュースが持ち帰った羊皮紙の束。
麻薬保管倉庫兼事務所と思われる場所にあった書類を持ち帰ったというのだが、その量も質も想像以上だったのだ。
「私も一応、内容を確認したのだけど、いくつか理解できないものもあったわ。例えば王都の地図のいくつかの建物に印がある書類、これは王都の中のアジトの位置を示しているのかと思うのだけど、印の位置が違う地図が7種類あったわ。いくつかは攪乱用かと思うのだけどどれが本物か分からないのよ」
「…おそらくですがどれも完全に正確ではありませんね。この地図は麻薬取扱部門が所持していたもの。麻薬取扱部門からすれば自分たちのアジトの位置はこのように記す必要が無いはずです。ですので、少なくとも麻薬取扱部門のアジトは載っていないか、あるいは踏み込まれても構わないダミーでしょう。あとは、この地図がリ・ボウロロールにあったことを考えると、麻薬を運ぶために密輸部門も関係しているかもしれません。そうなると密輸部門のアジトも同じ状況かもしれません」
「なるほど…さすがはラナーね。じゃあこの地図にある印は、逆に言うとその2部門以外のアジトの可能性はあるという事ね」
「その可能性はあると思います。今までの状況から考えると、八本指は部門ごとに協力しているのは稀で、多くの場合は他部門を陥れようとすらしています。7枚の地図に記されている場所はいずれもアジトの可能性はありますので、これもお願いすることになってしまうのですが、調べていただけますでしょうか」
「勿論任せて!でもそうなると、麻薬取扱部門や密輸部門のアジトの特定は別にしないといけないわね」
ラナーは少し思案する顔をすると、羊皮紙の中からいくつかを取り出した。
その羊皮紙にはいずれも数字しか書いていない。
ラキュースはそれらは、単に何かの計算や数量のメモだと思っていた。
「これと、これと…あとこれもそうですね。おそらくですが、この数字の列は麻薬取扱部門の倉庫か事務所の位置を示していると思いますよ」
「えっ…?この数字の羅列が?」
「ええ。見てくださいラキュース。この数字の列は一見どれもバラバラで関係が無いように見えますが、どの羊皮紙の数字も、最後の4桁の並びは“2206”か“4115”です。これが意味を持っていると考えると、この4桁は“荷物”を運び込む場所の指定、それより前の数字は日時、数量などなどを現わしているのではないでしょうか」
「確かに…どれも“2206”か“4115”ね。でも、この数字の列からどうやって割り出せばいいのかしら…」
「これも可能性ですが、この王都の街部分は東西南北の4つの門を中心にして4区画に分けられています。最初の数字はもしかしたら、この区画の数字かもしれません。各区画は最大で5本の王城側へ通じる大通りがあります。次の数字はこの大通りの数値ではないでしょうか。最後の2ケタは、恐らくですが大通りから入っていく路地の番号かもしれません。例えば“2206”は、第2区画、2つ目の大通り、6番目の路地…その並びにある建物倉庫などがあるかもしれません。まずはこの仮説に基づいて探してもらってもいいですか?」
「本当に、さすがラナーね。分かったわ。まずはその考え方で建物を探してみる」
「ありがとうございます。倉庫としての使用なので他よりも大きい建物か、地下や3階以上がある建物かもしれません。ところでラキュース、羊皮紙はこれで全てでしたか?」
少しの沈黙があった。
しかしラキュースは小さく一つため息をつく。
「いえ…他にもあるわ。もちろん全てラナーに渡すのだけど、これから渡す資料には…内容に幾人かの王国貴族との関りを示す証拠が含まれているの。でも…その中には…」
「…バルブロお兄様の御名前があったのですね」
「…そうよ。ラナー、とても残念だけど、バルブロ殿下と麻薬取扱部門との関係性を示す書類と、他の部門との関りを記載している書類もあるわ」
「…そうですか」
ラナーの悲しそうな表情に、ラキュースは心が痛む。
賢いが純粋なラナーにとっては、身内と犯罪者組織とのつながりの証拠でおそらく耐えがたい悲しみを感じているだろう。
だが、今後八本指や、それを支援している腐敗貴族たちと戦うためにはここで念を押しておかなければならない。
「ラナー、悲しいのは分かるわ。私もこの国の貴族としてとても悲しい。けれど今、ちゃんと手を打たなければ、この国は本当に滅んでしまう。八本指を完全に締め出すためにも、この資料は適切に使用すべきだと思うわ。今回の作戦で手に入れた資料は全て貴方に渡す約束だけど、この資料をもって安易にバルブロ殿下やその他の八本指とつながりがある貴族に話してしまえば、きっと彼らは証拠をもみ消してしまう。その事を伝えてから渡そうと思ったのよ」
そう言ってラキュースは、追加の羊皮紙の束をラナーに渡した。
ラナーはそれを受け取り、ゆっくりと、しかしその目と頭は高速で動かしながら内容を確認する。
「気を使ってくれてありがとう、ラキュース。ですが、リ・ボウロロール周辺の村に麻薬畑が増加しているという情報を得た時から、ある程度の覚悟はしていました……非常に残念ですが……こちらの証拠はお父様や適切な方にのみお見せして、バルブロお兄様が心を入れ替えてくれるように祈ります。だからラキュース、あなたもこの資料の存在は他の方へ言わないでください」
「ラナー……ええ、もちろんです。私たち『蒼の薔薇』も作戦に協力してくれた『漆黒の剣』の皆さんも、冒険者の掟として、決して情報は漏らしません」
「本当に、ありがとう、ラキュース。ところで、今回の依頼は『漆黒の剣』の皆様にも手伝っていただいたと伺いました。これは私からの依頼ですし、ちゃんと御礼と報酬をお渡ししなければいけませんので、明日にでも『漆黒の剣』の皆様もお連れいただいて宜しいですか?」
「明日…はちょっと難しいわね。『漆黒の剣』の皆さんは今回の作戦の後、一旦北へ向かったの。王国の西側まで来た事が無いから、せっかくだからエ・アナセルや・エ・ナイウルを見てから王都に戻ると言っていたわ」
「あら、そうですか…それでは、『漆黒の剣』の皆様が王都に戻られたら、お連れしてくださいね。クライムも、王国に生まれた新しい英雄のことが気になっているみたいですから」
そう言ってラナーは、クライムに向かって微笑んだ。
クライムは少し顔を赤くして『恐縮です』とだけ述べる。
「『蒼の薔薇』の皆さんは、しばらく王都に居ますか?」
「ええ、そうね。正直、麻薬倉庫にも忍び込んだし、しばらくリ・ボウロロールにはいかない方がいいと思うわ…それに、すこしガゼフ戦士長と話したいことがあるし…」
その後、いくつかの情報共有と、仲の良い貴族令嬢同士の、少なくとも外見上は親し気な会話をしたのちラキュースは王城を後にしたのだった。
その日の夜、クライムも侍女も居ない寝室でラナーは考える。
ラキュースが持ち帰った情報、あれは明らかに八本指、そして腐敗貴族にダメージを与えるには十分なものだ。
ラキュースに詳しくは説明しなかったが、資料の中には、敵対者に持ち去られることを想定したダミーだけでなく、明らかに内部の重要情報を含むものもある。
さすがアダマンタイト級2チームでの合同作業といったところか。
これを機に、是非とも『漆黒の剣』も駒にしたいものだ。
バルブロは元より、八本指とつながりがある大小さまざまな貴族がしっかりと記載されていて、自分がこれを適切に使用すれば、名前の載っている者達を充分に破滅に追いやれる量と質だ。
だが自分としては、そういった作業を全て馬鹿正直にするつもりはない。
傀儡になる可能性が高い
特に、ブルムラシュー侯爵がいなくなってしまった今、帝国に密通する者は準備したい。
そして王位をうまくザナックに継がせて、自分はクライムと共に辺境——できれば帝国との戦争に負けて、王国が滅んでも影響を受けなそうな土地——例えば聖王国との国境のリ・ロベルなどに引きこもる。
リ・ロベルであれば、最終的に聖王国に亡命するという手もあるが、現在聖王国の動きが見えなくなっているため、その情報も手に入れたいところだ。
ラキュースが手に入れた資料を見た限り、幸いにもロベロ伯爵の領地は、麻薬の運び込み、運び出し両方が行われているようだ。
ロベロ伯爵の名もあったから今回の資料で弱みを握り、情報収集と、逃亡先の準備を進めることを視野に入れよう。
「ふふ…ロベロ伯爵は残しましょう。本当に今回はラキュースが良く動いてくれましたね…これだけ揃えばあとはザナックお兄様とレエブン侯を取り込んで…聖王国が難しければ、レエブン侯のご子息という手段もありますが、帝国に滅ぼされた場合は悪手かもしれませんね…そろそろ、バルブロお兄様にはいつ消えてもらうかも考えなくてはいけませんね…」
ラナーは鏡の前で笑顔の表情を作りながら小さく独り言を言う。
少しだけ見えてきた、自身の幸せのための糸口のおかげで、今日の笑顔づくりは少々うまくいかなかった。
タイムラグとこの世界の情報伝達の観点から、ラナーはまだリ・ロベルに起きたことを正確には掴めていません。