オーバーロード <物語の分岐が確認されました>   作:ヒツジ2号

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王都周りの街の情報はおそらくかなり早くラナーがキャッチします。

ついに漆黒の剣に本格的に注視し始めます。


第6章 第16話 -黄金の攻勢-

 

 

それはふとした違和感だった。

ラキュースと話した何日か後の朝の事である。

 

朝の身支度を手伝う侍女が、思っていた者と違う。

言ってしまえばそれだけの事。

 

ラナーの身の回りの世話をする者は10名ほどいて、概ねそれはローテーションが組まれている。

体調不良等、何かの事情でその順番が入れ替わることは確かにあるのだが、ローテーションのうち2名がスキップされた。

 

確率で言えばあり得ることだが、ラナーが手を回した(・・・・・)場合以外で、それは初めてだったから、何となく気になったのだ。

 

 

 

「ヴェラは今日はお休みなのですか?」

 

「え、ええ。そうみたいです。実家に帰る用事があるとかで」

 

「ナイアもですか?」

 

「はっ、はい。ラナー様。仰るとおりです」

 

「そうですか」

 

 

 

言い当てられた侍女の様子から、もしかしたら何かを知っているかもしれないが、今日の侍女は派閥で言えば王派閥の家の者。

お休みの2名は貴族派閥の者だから、詳細は知らないだろう。

だが、やや慌てている様子から、予想外の何か(・・)があったことは想像できた。

 

ラナーは、その黄金の脳髄をかき回し、お休みの2名の者の共通点を探る。

 

いずれも八本指との関連がある貴族の家。

いや、これはこの2名に限った事ではない。

 

では家族構成は?

確かヴェラの腹違いの弟はロベロ伯爵邸の騎士、ナイアの姉もまたロベロ伯爵邸の侍女…これ以外の明確な共通点は思いつかない。

 

ロベロ伯爵関連…そう言えばガゼフが八本指の幹部を捕縛したリ・ロベルはその後どうなったのか。

あの街はかなりの数の八本指が入り込んでいるはずで、将来的なことを考えたらある程度の掃除はした方がいいと考えていたが…

 

 

 

「今日は朝食の後、お父様とお話しますね」

 

「畏まりました、ラナー様」

 

 

 

結果、ランポッサから聞き出した情報は驚くべきものだった。

 

最初、ラナーがリ・ロベルのことを切り出すと、ランポッサは明らかに驚いた表情をした。

 

そしてラナーが、お休みの2名の侍女のことを心配する素振りで話すと、最終的にランポッサはいくつかの情報を娘に話した。

 

 

領主の屋敷に勤める何名かが行方不明になり、ロベロ伯爵も重傷を負ったこと。

リ・ロベルの街で商売をしていたとある商会が、犯罪者とつながりを持っていたこと。

禁止されている奴隷取引などが行われていたが、関係者の何人かが行方不明となっていること。

 

先のガゼフから聞いた話では“犯罪者の捕縛”と“アンデッドの退治”が主であったが、今回のランポッサからの追加情報は、明らかにガゼフと冒険者1チームで齎されたとは思えない大掛かりなもの。

 

…この感覚は、先のリ・アレクサンデルとリ・ブルムラシュールの状況と似ている。

 

そう考えていた矢先、さらに追加の情報を手に入れる。

 

 

その日の夕方以降に、侍女たちが新たな噂話をしていたのだ。

曰く、リ・ボウロロールで何かがあった、と。

 

現時点でどこまで情報が正確か分からないが、リ・ボウロロールに駐在している殆どの貴族が姿を消したことと、ボウロロープ侯の屋敷が消失したとのこと。

 

“消失”というのは意味が分からないが、例えばブルムラシュー侯爵邸のような状況になったのかもしれない。

 

ボウロロープ侯についても消息がはっきりしておらず、これについては同じ貴族派閥のレエブン侯がこれを確認して、その後、状況について王へ報告に来るという。

 

隣街の情報とはいえ、ある程度離れているためその情報の伝達には時間がかかるが、ラナーにしてみればその伝達速度も含めて重要な情報となる。

 

逆算すると、おそらく何かがあったのは『蒼の薔薇』が王都に到着した頃。

 

ラキュースの話では、『漆黒の剣』も同じタイミングで北の街へ向かったという。

 

という事は、普通に考えれば(・・・・・・・)それら2つの冒険者チームが何かをしたとは考えられない。

 

 

『転移』という情報がラナーの中に浮かぶ。

 

少なくとも『蒼の薔薇』のイビルアイ、そしてラナーの見立てでは『漆黒の剣』の魔法詠唱者(マジックキャスター)がこれを使用できる可能性がある。

 

だが今まで起きた事、例えば、リ・アレクサンデルやリ・ブルムラシュールの怪事件、それにリ・ロベルで起きた事を、たった1人ないしは2人で実行可能だろうか?

魔法というのはどこまでのことが可能なのか、ラナーには正確に分からない。

 

ただ、リ・ロベルに関しては時期的に『蒼の薔薇』は関与していない可能性が高く、それらから考えると『漆黒の剣』が何かをした可能性が高い。

 

 

 

「…『漆黒の剣』の方は何としてもお話をしなければいけませんね…まずはリ・アレクサンデルとリ・ブルムラシュールの事件の時、彼らが何をしていたのか調べてみましょう…それに、ちょうどレエブン侯もいらっしゃるとのことですし、ザナックお兄様と一緒にお話をしますか…」

 

 

 

黄金が操る駒が、盤面を一歩進み、漆黒に迫る。

 

 

 

 

 

***

 

 

 

 

 

エ・アナセルの神殿の中でクアイエッセ・ハゼイア・クインティアは目を覚ました。

 

 

「はっ…ここは……カイレ様!」

 

「クアイエッセ、目を覚ましたか…傷は治療したが大事無いかの?」

 

「はい…私は問題ありません。ですが、天使が兎人(ラビットマン)の集落を!」

 

「それについては、こちらの『朱の雫』と『漆黒の剣』の皆さんが現地まで赴き確認済みじゃ。残念ながら既に死んでしまっていた者も居たが、息があった者は両チームの方々が回復を行ってくれて一命をとりとめた様じゃ」

 

「亡くなった者も…くっ……いや、すみません。まずはご尽力いただいた御礼でした。冒険者チームの皆様、御力を貸していただき感謝いたします。それで、天使たちは去ったのでしょうか?」

 

「いや、ここにおられる『漆黒の剣』の方が討伐なさったそうじゃ」

 

「あ…あの高位天使を討伐されたのですか?!」

 

 

クアイエッセは、カイレが手を向けた方向に居た、黒目黒髪の男を見遣る。

恐らくはカイレが言った『漆黒の剣』という冒険者チームの者なのだろう。

 

確かにその5名は、明らかに強者のオーラを放っている。

 

バランスの取れた戦士の男、そこに居るのに存在感が薄く感じるほどのレンジャーの男、がっしりとして森の大木のような森祭司(ドルイド)の男、少年のような若い顔ながら死線をくぐった経験のある目をした魔法詠唱者(マジックキャスター)の男。

そして、闇のような長剣と闇のような雰囲気を纏った黒目黒髪の男。

 

魔法詠唱者(マジックキャスター)の男が、なぜか少し目の周りを腫らしているのが少し気になったが、それよりも黒目黒髪の男の視線が自分を鋭く見据えていたため、クアイエッセの視線は自然とその男に向かう。

 

 

 

「クアイエッセさんといったか。俺は冒険者チーム『漆黒の剣』の一員で名はパルメーラという者だ。あの天使と遭遇した一連の流れを教えてはもらえないだろうか」

 

「は、はい。承知いたしました。併せてカイレ様にも状況の報告をしたいと思います」

 

 

 

 

その後、クアイエッセによって天使との遭遇の様子が語られた。

 

彼が日課である、いくつかの亜人集落の見回りをしていると、兎人(ラビットマン)の集落の上空に突如として5体の天使が現れたという。

 

天使は明らかに高位で、クアイエッセには到底勝てない強さと感じたが、その天使が集落の中で剣を振り住居の外に居た者達を屠り始めた。

 

このようなケースの場合、無理に戦っても殺されるだけなので、任務としては速やかに離脱し情報を持ち帰ることが厳命されていたが、天使の剣がとある兎人(ラビットマン)の家族の父親を切り捨て、さらにその後ろに居た兄妹に剣を振り上げた。

 

咄嗟にクアイエッセは我を忘れて、ギガント・バジリスクを5体召喚し、天使から兄妹を守ったが、その一撃でギガント・バジリスクのうちの1体が真っ二つにされ、その後天使が放ってきた魔法を別のギガント・バジリスクが受け消滅。

クアイエッセ本人もその魔法の余波で大ダメージを負い、それでも戦おうとした召喚主を残りの3体のギガント・バジリスクが守りながら背に乗せて国境まで運んできたというのだ。

 

『漆黒の剣』たちが天使撃破後に兎人(ラビットマン)の集落を訪れたが、彼らの証言や集落の状況からも、クアイエッセの言っていることは真実の様だった。

 

 

 

「クアイエッセさん、それにカイレさん。あんたがたを疑う訳ではないが念のために教えてほしい。あなたたちの国であるスレイン法国というところは信仰系魔法を得意とする人が多いと聞く。あのレベルの天使を召喚できる人があなたたちの国に居るだろうか?」

 

 

パルメーラのその問いに、クアイエッセが答える。

 

 

「正直申しまして、現れた5体の天使は、私にはどれほどの強さかも分からない程の高位天使と感じました。私はモンスターを召喚出来ますが、当然あれほどの強さのモンスターを召喚できませんし、少なくとも私が所属する部隊のなかでもあれを召喚できる者は居ないと思います…」

 

 

カイレが付け足すように言葉を発する。

 

 

「そうじゃな…仮に居たとしても、国の中で片手で数えられる人数以下なのは間違いないじゃろうし、そういった者は皆本国にいる。それに我が国の者がアーグランド合議国の中に天使を召喚して亜人の方を襲うなど、意味もないしあり得んわ」

 

「そうか…ふむ。いや、疑うような物言いですまない。だが、正直言うとアレは俺が知る中でも最高位の天使の一角だ。難度で言うと、そうだな…最も強かった天使は250近かったと思う」

 

「250?!!!」

 

 

パルメーラが発した言葉に、カイレとクアイエッセだけでなく、その場にいた『漆黒の剣』、『朱の雫』の全ての者が声を上げた。

 

天使の強さもそうだが、それを撃退したパルメーラに驚いているのだ。

 

特にカイレは目を見開き、パルメーラを見つめながら言葉を発する。

 

 

 

「パ…パルメーラ殿。あなたは、その難度250の天使を御一人で倒されたのですかな…?」

 

「確かにそうだが…はっきり言って運が良かった。俺は天使に対して有利になるスキルと、天使に対して高い確率でダメージを与えられる剣を持っている…それらを総動員してやっと倒せたといったところだ」

 

 

実際に戦いを目撃していた『朱の雫』と『漆黒の剣』の面々は改めてパルメーラと天使、両方の異常さを理解する。

 

最終的に天使を倒した数えきれないほどの連撃、アレは戦闘後パルメーラによって、彼が持つ悪剣・ハジマリノ悪(オリジンオブエロヒム)の解放された能力だと聞いた。

 

なまじアゼルリシア山脈やカッツェ平野での戦いを見ていたから、『とびぬけて強い』という事は理解していたつもりだったが、戦った天使の強さを改めて聞くと、先ほど行われた戦いが想像の遥か先にあるものだったのだと実感できたのだった。

 

ニニャに関しては、パルメーラが珍しく本気で戦ったのだと既に理解していた。

 

ダインが速やかに解毒をし、パルメーラが自身が持つ水薬(ポーション)で回復が完了するまで、ニニャはボロボロと泣いていたのだったが、それは、普段はなんだかんだ言って全く無傷のパルメーラが、今回は自分を庇って、明らかに大ダメージを負ったのだという事が分かっていたからだ。

 

そして改めて難度250という言葉を聞いて、体に震えが来た。

 

それはあの時パルメーラが身を挺して自分を守らなければ、間違いなく死んでいたという事ではなく、それほどの攻撃を、パルメーラが受けたという事。

 

それはつまり、自分が弱いばかりに、パルメーラが死んでいた可能性もあったかもしれないという事。

 

ニニャは無言で、自分の拳を痛いほど握りしめた。

 

 

 

「情報を共有しておくが、まず、あの天使はほぼ間違いなく何者かが召喚したものだ。自然発生であの強さの天使が出てくることは考えづらいし、天使は、普通はない特性を持っていた。意図して召喚されたのだろう。そして普通は、あの強さの天使というのは魔法などで召喚できるものではない。その方向に特化した者が、かなりの制約を受け、何かのアイテムや特殊なスキルを用いてやっと召喚できるレベルだ。これらから考えると、あれと同じ強さの天使がポンポン出てくることは無いだろうな。だが、目的は良く分からんが…」

 

「…未だ色々と信じられませんが、確かに仰る通り、私がこの国境付近の警備を始めてから、一度たりとも現れたことは有りませんでした…難度で言えば最高でも120程度の巨人などが最も強い者でした」

 

「まあ方向から考えて、アーグランド合議国に召喚者がいる可能性が高いだろうな…クアイエッセさんや『朱の雫』の皆がアレに狙われるような心当たりはあるだろうか?俺たち『漆黒の剣』は今回偶々この任務に参加したから、俺らが狙われる可能性はまずないと思うんだが」

 

 

パルメーラの質問に一同は首を横に振る。

彼らがやっていることは、侵略ではなく警備である。

可能性としてありそうなのは、警備する者達を倒すことで、アーグランド合議国の一部の種族がリ・エスティーゼ王国に攻め込みやすくなるというのがある。

 

話し合ったが、その理由以外が思いつかなかったので、一旦はそれを第一の可能性と考えて今後の警備を続けることとなった。

パルメーラの推論から、あれほどの強さの天使が再び襲ってくる可能性は低いだろうと考え、クアイエッセは任務に戻っていった。

 

カイレは、襲ってきた天使の強さを聞いた辺りから、何事かずっと考えている様子であったが、最終的にはパルメーラをはじめとした冒険者たちに篤く御礼を言い、通常業務に戻っていった。

 

ただパルメーラには、いずれ祖国に招待したいから落ち着いたら再び訪ねて欲しいと告げていた。

 

 

 

 

「しかし、あのクアイエッセさんも随分と真面目な人だよなー…パルメーラさんの話では同じ強さの敵はそんな簡単には出てこないだろうって話だけど、オレだったらすぐに戻るのは普通に怖えーけどな」

 

 

ルクルットの意見に、パルメーラを除く『漆黒の剣』は心の中で賛成した。

その言葉を聞いて、『朱の雫』のルイセンベルグが呟く。

 

 

「…これはクアイエッセ殿ご本人から聞いたのだが、かの御仁はかつて妹がいたそうだが、彼自身や彼の家族がその妹との接し方を誤り、最終的には彼の家族の下を離れてしまったと…そういった経緯があるから、クアイエッセ殿は先ほど聞いた兎人(ラビットマン)の兄妹のことを殊更心配しておられるのだろう」

 

 

兄妹と聞いて、思うところがあるニニャが呟く。

 

「…そうなんですね…きょうだいが一緒に暮らせないのは辛いですね…ですがクアイエッセさんは随分と人間が出来た方に見えましたが、妹さんに対しては辛く当たったりしたのでしょうか」

 

 

「いや………聞いた話ではその逆で、溺愛し過ぎて四六時中監視したり、全ての行動に口出ししたり、そういったことを家族全員でやったらしい……私が言ったという事はどうか内密に…」

 

 

 

『漆黒の剣』の一同はクアイエッセの顔を思い出し、『イケメンだったけど重度のシスコンだったのか…』と微妙な気持ちになった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「それにしても、今回はお前たちがいてくれて本当に助かったぜ。正直、俺たち『朱の雫』だけだったらここで全滅だった可能性が高いし、何よりアレがエ・アナセルまで来ていたら、この街も落とされていただろうな」

 

「いや、偶々だ。そういう事もあるのが冒険者だろ」

 

 

パルメーラの言葉に、アズスはニヤリと笑う。

 

 

「本当にアンタはすげぇな。もちろんパルメーラだけじゃなく『漆黒の剣』全員だ。今回のことは俺から組合にしっかり伝えとくよ。ただ、天使っつーのは倒した証拠がないから中々組合を納得させられないかもしれんが、カイレ殿にもお願いしてちゃんと報酬が出るように脅…交渉しとくぜ。お前らは、なんつーか欲が無さそうだから、報酬いらんとか言い出しそうだからな。そこもちゃんと組合と話しを付けるのもアダマンタイト級冒険者の仕事だぜ」

 

 

アズスという先輩からの言葉にペテル達は真面目な顔で頷く。

 

 

「で、お前たちはこの後どうする?正直あれほどの強敵が出たからな…国境警備は今回みたいな有事に備えるのが主な仕事だが、しばらくはあれほどの奴は出てこないだろう」

 

「そうですね、さっきチームでも話し合ったんですが、念のためもう数日警備をご一緒して、大きな問題が無さそうだったら、エ・ナイウルまで行ってみたいと考えています。エ・ナイウルを踏破すれば王国のほとんどの街に行ったことになるので、今後の移動が楽になるんです」

 

「成程な。じゃあもうしばらくはよろしくな。で、出発するときは言ってくれ。ここエ・アナセルから、エ・ナイウルまでは舗装されたデカい道はなくて、旅人は一度リ・ボウロロールまで戻るんだが、冒険者なら通れる細い裏道がある。お前らならモンスターや野盗なんざ怖くないだろうから、その道を教えるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 

こうして『漆黒の剣』はその後10日程エ・アナセルに逗留し、国境付近に新たな強敵が出てこないことを確認すると、アズスが教えてくれた裏道を通って最後の街、エ・ナイウルを目指すのだった。

 

 




?「もう構ってくんな!!」

?「なにを言っているんだ、この兄が愛しいお前を守るのは当たり前の事だ。さあ、お前のために服(下着含む)を買って来たぞ。まだ幼いとはいえ淑女にふさわしい最高級のものだ」

?「もうむりおうち出る」
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