オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「うーん…全然遭遇しないですね」
「そうだなーオレの感覚にも引っかかんねーな」
「もうこの辺りには居ないのかもしれないな…ダイン、どうだ?」
「樹々の隙間にも気配は感じないのである!」
『漆黒の剣』一行は現在、アズスに教わった裏ルートでエ・ナイウルに向かっている。
実はこの道には、いくつかの盗賊団が居ることが分かっていて、エ・アナセルの冒険者組合は『漆黒の剣』に、これらのゴロツキを捕まえるかあるいは討伐する依頼を出した。
しかしながら、いくら進めど、そういった者が出てくる気配はない。
また、元よりモンスターも、アダマンタイト級の一行は気配で避けるので遭遇しない。
唯一、生者には無差別に襲い掛かるアンデッドも、このエリアにはいないようだ。
なんなら盗賊団を誘い込むようにゆっくり進んだりしたが、『漆黒の剣』は全く敵に遭遇せずに裏ルートを踏破して、エ・ナイウルに到着していしまった。
途中で洞窟がいくつかある場所や岩場地帯など、盗賊がいかにも居そうな場所を見つけたので、それらに踏み込んでみたが、確かに何者かが生活していた気配はあれど、どの場所でも人間は発見できなかった。
「なんかよー、すでにこのアジトは捨てたって感じだったな」
「そうだね…死体とか、戦った跡みたいのが無かったし、単純にアジトを移したって感じかな。もしかしたら、リ・ボウロロールの周辺の麻薬村とかに居たのがそうだったのかもしれないね」
「成程な…ラキュースさんも言っていたけど、あれらの村の住人は少し不自然だったから、その線もあるかもな。いずれにしろ、アジトっぽい場所の位置と、無人だったことを冒険者組合に伝えとくか」
「であるな!」
エ・ナイウルに到着したのは午前中であったため、一行はまず宿を確保してから冒険者組合に行き、エ・アナセルで受けた盗賊団調査の件を伝えた。
エ・アナセルの冒険者組合に張り出されていた依頼は、やはりアダマンタイト級が受けるべきであるものは見られず、一方で港街なだけあって、港湾の警備や海に出るモンスターの討伐などの珍しいものが見られた。
「なあ、せっかくだから港を見てみないか?海のモンスターとやらは、もしかしたら強敵もいるかもしれないし、それにリ・ロベルでは魚料理を食べられなかったから、港近くの食堂なんかに行ってみたいと思うんだが」
「大賛成である!」
意外とグルメ(というか何でも食べてみたがる)なパルメーラとダインの意見が一致したので、一行は遅めの朝食が食べられないかと港に足を運んだ。
港の付近では、食堂というよりも屋台のような店が多かった。
恐らくイカのような生物や、足が生えた魚のようなものが焼かれて売っている店があり、塗られているタレ?のようなものが焦げるいいにおいがする。
パルメーラとダインがそっちへ吸い寄せられていったので、他のメンバーもそれについていく。
港からは別の街へ出発する客船や、恐らくは漁をするための船がいくつか見られる。
さっそく買った魚介類の串焼きを頬張りながらパルメーラが船を見つめていると、ペテルが知らない男に話かけられていた。
「あ、あの、もしかして、アダマンタイト級冒険者チーム『漆黒の剣』の方ですか?」
「え、えっと。はい。俺は『漆黒の剣』のリーダーのペテルですが…」
「うお、マジですか!俺はミスリル級冒険者チーム、『四武器』のコニー・ロヴネルっていいます!数々の偉業を成し遂げて短期間でアダマンタイト級まで駆けのぼった全冒険者の憧れの存在にお会いできるとは!サインください!」
「あ、えーと…はい、俺のなんかで良ければ…」
アダマンタイト級になってから、他の冒険者や街の人から、尊敬や憧れの眼差しを向けられることも多くなった一行であったが、サインまで求められたのは初めてだったので、ペテルも若干どうしていいのか困惑気味だった。
確かにリ・アインドルではガガーランがサインを求められていたのを見たが、いざ自分が求められるとさすがに気恥ずかしい。
「えっと…こんなんでいいでしょうか?というか俺たち普段はここからかなり遠い、エ・ランテルがホームなんですが、よくご存じですね」
「ああ、それはもう!『朱の雫』のアズスさんが、この間酒場で色々と教えてくれましたからね!
『漆黒の剣』の面々は、頭の中でサムズアップするアズスの姿が浮かび、「あいつか…」と心の中で呟いた。
まあ、アレで大ベテランの先輩であるし、戦闘スタイルや使用魔法などの情報漏洩をすることは無いだろうが、ドラゴンスレイの件やアンデッド大量討伐などの話が、色々と脚色されて、諸国に伝えられていくのだろうという予感はある。
特に何も考えていないパルメーラ以外は、少し気恥ずかしくなって俯いた。
「コニー、何をして……その方々は?」
「お、スカマ。なんと、かの伝説の『漆黒の剣』の皆さんだ!この方はリーダーのペテルさん。俺は先にサインをもらったぜ」
「し…『漆黒の剣』…アダマンタイトの…いや、それよりコニー、他の冒険者の方に絡んで迷惑をかけるんじゃない!」
「なんだよ、スカマ。お前だって実はかなり気になってるんだろ。髪の色変えたりとか…」
「あー待て待て!!余計なことを言うんじゃない!!はぁ…すみません、私は『四武器』リーダーのスカマ・エルベロです。『漆黒の剣』の皆様、ウチの盗賊が迷惑を…」
「あ、いえ。気にしないでください。それに俺たちは、アダマンタイト級になったばかりで、まだこのプレートにふさわしいような振る舞いは出来ていないです。良ければ、畏まらずに同じ冒険者として接してくれると嬉しいです」
「そ…そうですか……でしたら、その…私も戦士なのですが、戦士としての戦い方で教えて欲しいことが…」
「え…いきなり戦術指導の依頼?!俺のサイン貰うの以上に攻めてるだろ…!」
「う、うるさい。こんな機会滅多にないんだ!」
そんな感じで『漆黒の剣』は、『四武器』のスカマとコニーと色々と話をしたのだった。
聞くと『四武器』はあと2名チームメンバーがいるが、
ニニャが『空き時間に無償で孤児院のお手伝いをするなんて、まさに神官ですね』と言うと、スカマもコニーも少し遠い目をして『ええ、まあ…』と言った。
その後、スカマとペテルが戦士談義をしていてコニーが空いていたので、パルメーラは気になったことを聞いてみた。
「ああ、俺は
「パルメーラさん!あのパルメーラさんですか!いやーお話できて光栄だなー!!あ、えっと船ですか?ええ、定期船が出ていて他の港町へ行けますよ。ですが、聖王国への船はここしばらくは欠航してますね」
「ああ、なんかアンデッドの被害が出てるとか」
「らしいですよ。まあ詳しくは分かりませんが。それとアンデッドといやぁ、最近アンデッドが乗った幽霊船を見たって奴が居ましたね。聖王国と関係あるかは分かりませんが」
「幽霊船か…気になるな……ん?あの沖の方を走っているデカい船は定期船か?」
「あー、アレはこの国の船じゃないですね。アーグランド合議国となんでも遥か東方の諸島国家を結ぶ船だとか…でもあの国は危険なので、これも正確なことは分かりませんが」
「アーグランド合議国か…」
エ・アナセルでの件もあるので、少し時間が出来たら一度見に行くべき国だとパルメーラは考えている。
火焔天の熾天使を撃破後に、アーグランド合議国内の
もっと奥、例えばアーグランド合議国の首都のようなところも、恐らくはそういう状態なのだろう。
少なくともユグドラシルと同じ天使を召喚する存在も気になるし、行方不明というドラゴンも気になる。
さらにそこから船が出ていて遥か東とやらに行く道があるのならば、それこそユグドラシルの痕跡を探すためにも一度行ってみた方がいいかもしれない。
東の諸島国家とやらは、次に『蒼の薔薇』と会ったら、リグリットやイビルアイに何か知っているか聞いてみようと考えたのだった。
『漆黒の剣』たちは、その後エ・ナイウルに何日か滞在し、奴隷関係や八本指関係の調査や、この『四武器』との交流をした。
また、ペテル達がパルメーラに、改めて修行をしてほしいと申し出てきた。
これは先の熾天使との戦いで皆思うところがあったためだ。
パルメーラも断る理由はないので相手をしたが、やはりニニャ以外の3名は、レベルアップという意味での成長が余り見られない。
パルメーラは3名にそれを告げ、ここから先は技術や戦術の幅を増やす方向に舵を切った方がいいと説明した。
同時にパルメーラは、改めて手持ちの防具からいくつかを皆に渡した。
皆のレベルが以前よりも上がったことで、もう少しだけ高レベルの防具が使用できるようになったからである。
そんなこんなで1週間ほど『漆黒の剣』はエ・ナイウルに滞在し、そろそろ王都に戻ろうかという話になってきた。
だがペテルが、一旦その前に、ホームであるエ・ランテルに戻り、冒険者組合に顔を出して、何かアダマンタイト級が処理しなければいけない問題が起きていないか確認しようと言った。
パルメーラも含め誰も反対はしなかったので彼らはこの街で馬車を売り、エ・ランテルへ転移する。
幸運なことにこの街の領主である、ナイウーア伯爵は奴隷などを使用していない比較的清廉な側の貴族であったため、パルメーラの粛清対象とはならなかった。
ただ、街中にあったいくつかの違法店舗——実は八本指の息がかかっていたのだが——は従業員が消えるという謎の現象が起きたという。
彼らがエ・ランテルに転移したちょうどその頃、王城には一人の貴族が到着し、王との謁見を行っていた。
その男の名は、エリアス・ブラント・デイル・レエブン。
その蛇のように鋭い目つきはそのままであるが、ここ最近急に老けたと噂されている王宮の蝙蝠。
実際彼の金髪には白髪が混じり、元々痩躯ではあるが、最近はより一層、体重が落ちている。
最近の寝不足で、目の周りにはわずかに隈がある。
彼は王命により、リ・ボウロロールに訪問し、ボウロロープ侯と思しき男の確認をして、その結果を報告しに来たのだ。
結果から言うと、その男は確かにボウロロープ侯であった。
しかしその男は、レエブン侯が良く知っていた獰猛な力強さを孕んだ眼の色は影を潜め、年齢以上に年老いた老人のような弱弱しいものとなっていた。
リ・ボウロロールの神殿で保護されていたその老人は、生きる気力を失ったように俯いていて、レエブン侯の顔を見ると一瞬だけ希望のようなものを目に宿らせたが、すぐにまた卑屈な目をして『レエブン侯か…』と呟いた。
レエブン侯は、時間をかけてボウロロープ侯から何があったかを聞き出したが、その内容はとても信じられるものではなく、一方で確かに彼が言う通り、屋敷は跡形もなく消えている。
屋敷に居た者も全て姿を消していて、その中には彼の娘で同時に第一王子バルブロの妻である者も含まれていた。
少し離れた街に親戚はいるらしいが、その者のところへ行く気力も失っていて、かといって、彼をこのまま神殿に置いておくわけにもいかず、一旦はレエブン侯が登城する際に使用しているリ・エスティーゼ内にある別宅の1つに保護している状態だ。
王に会うために共に王城に向かうことを提案したが、貴族として城に入る服も、階級を示す勲章も、何もかもを失っていて、王に会いたくないと言うので、仕方なくレエブン侯は一人で王と会っているのだ。
ランポッサ3世は、レエブン侯からの報告に耳を疑った。
しかし、実は忠臣である彼の言葉は疑うべきものでないし、あのボウロロープ侯が打ちひしがれたように『王に会いたくない』と言っているらしく、現にここに居ないという事実が、その信じられない報告が真実であるという事を物語っていた。
レエブン侯も頭が痛くなっている。
ただでさえここのところ激務に次ぐ激務だ。
何故か幾人かの貴族が連続して死に、その者達が治めていた土地が最終的には自分あるいは自分の派閥の者の土地となった。
死んだ貴族たちは、この国に害悪な者達ばかりであったため、そういう意味では悪い話ではなかったのが、それらの土地を自分が管理するとなると話が違ってくる。
多くの者は、貴族たちの死が、実はレエブン侯の画策によるものだとまことしやかに噂をしている。
それは確かに、結果だけを見ればそれを疑われるのは当然だと思う。
もし逆の立場であったら、自分もその者を疑うだろう。
だが、これは明らかな濡れ衣。
そもそも死んだ者たちの街で起きた事、死に様などは明らかに人の業を越えているものもある。
殆ど御伽噺の類のような事が起きた街もある。
逆に考えるとこれは、他の貴族から疑われるように誰かが仕向けてきていることかと考えたが、それにしては自分が領地を得ることになったという事実が矛盾している。
自分のことを陥れるつもりであれば、自分が領地を得るというのは、敵にとって何の利益があるのか。
現に自分は、王家を除き、もはやこの国で最も広大な領地と収入源を持っている状態だ。
何年か前の自分であれば、これ幸いとばかりに権力の手を伸ばし、自身が王になるように画策したかもしれない。
だが、今は違う。
そんな事をしてもこの国に起きている崩壊は止まらないし、何より更なる混乱を招いて国がより乱れる。
というか、すでに混乱は起き始めていて、特に第一王子のバルブロからは敵視されている節がある。
ザナック殿下にはすでに話をしていて、この状況を活かして殿下が王位を継ぐ手札にできるならば惜しまず協力すると伝えてあるが、彼もさすがに立て続けに起こる事態に若干の疑いの色を見せている。
そこに来て今度はリ・ボウロロールである。
第一王子の妻である、ボウロロープ侯の娘も失踪していて、ボウロロープ侯は生きてはいるが、あの様子では今後は六大貴族として強い意見を述べることが出来なくなるだろう。
そうなると第一王子にとっては分が悪くなる。
今後のリ・ボウロロールを含めた領地をどうするかという事が確実に火種となって、もし仮にあの土地まで自分が管理しなければならなくなったら、いよいよ第一王子は自分のことを明確に敵と認定するだろう。
正直頭はアレなので、敵対しても恐ろしいという訳ではないが、何か信じられないような愚かで強硬な手段…例えば自分の家族に手を出して脅迫するなどの行動に出るかもしれないという恐れがある。
ボウロロープ侯という表の権力がなくなっても、裏の権力となってしまっている八本指と第一王子は繋がっていて、その八本指を使って何らかの…
考えれば考えるほど頭が痛い。
確かにこの状況は好機である。
貴族派閥や、国賊のような貴族が続々と消えて行き、うまくすればザナックが王位を継ぐ道が見えてきている。
だが、そうなったとしても潜在的な問題である八本指やそれこそ第一王子をどうするのか…
もはや“蝙蝠”として暗躍することもできないほど、自身は目立ってしまっていて、さらに単純に仕事量が多すぎて色々なことに手が回らない。
だが少なくとも、王城へ来たこのタイミングでザナック殿下とは話しておかなければならない。
今後の事、そして、この状況を作っている何者かの存在の可能性とその思惑についての情報交換を…
王との謁見を終え、そんなことをぐるぐると考えながら王城の廊下を歩いていると、声を掛けられた。
「レエブン侯…」
「あ…殿下。ちょうど良いところでした。これから殿下のところへ向かおうと考えておりました。このところ起こっていること、そして今後のことについて、お話を」
「ああ、その事なのだが……その話は妹の、ラナーの部屋で行う必要があるようだ」
「第三王女…殿下ですか?」
「ああ、そのラナーだ。あの女……オレとレエブン侯のことについてすべてを知っている。どうやって知ったのかは不明だが……そのうえで、今レエブン侯がこの王宮に来ているから呼んで来いと、そして今後のことについて3人で話し合うべきだと、そう言ってきたのだ」
「な…んですと。まさか…いや…あの日見た幼いラナー殿下のあの顔…あれは…やはり見間違いでなく……わかりました…伺いましょう」
ザナックがその扉の前まで来ると、従者である青年騎士が扉の前で待っていた。
確か名は…クライムと言ったか。
従者は深く礼をすると、中でラナーが待っていると告げ、扉を開けた。
彼は部屋の中には入らず、外で待機して他の者が聞き耳などをたてぬように見張りをさせるという事だろう。
「お待ちしておりましたわ、ザナックお兄様、レエブン侯」
一見すると物語の中から出てきた理想的な姫のような笑顔で、その黄金の魔女は2人に笑いかけた。
ラナーの駒がもう少し盤上を進みます。