オーバーロード <物語の分岐が確認されました> 作:ヒツジ2号
「ミルンドール殿、サトゥルヌス殿、ファーイン殿、あなたたちのおかげでアディは命を落とさずに済んだ。子供たちが森の危険性を軽視して命を落とすことはよくある事なのだが、それでも我が子が命を落とすというのは…いい気分ではないからな」
アディの父と思われるダークエルフが、一行に話しかける。
机の上には茶(のようなもの)が置かれ、一応は歓迎されているようだ。
横では、おそらくはアディの母と思われるダークエルフが幼子というかほぼ赤子をあやしている。
先ほどアディから聞いた弟とはこの赤子の事なのだろう。
「…ところで、皆さんはどこから来たのだろうか。ファーイン殿は同胞に見えるが、ミルンドール殿やサトゥルヌス殿はエルフであろう?このダークエルフの村々に用があってきたのだろうか?」
アディの父が、先ほどから少々落ち着かないような態度をとっている本当の理由はこの辺りにあるのだろう。
幻術をかけたファーインはダークエルフに見えるらしく、他2名はエルフに見えるようだ。
ファーインの話でも、予てよりこの2種族は特に交流が無いように見えたらしいたから、彼らからしたらなぜエルフたちがやってきたのが分からないのだ。
もしかしたら侵略なども疑っているかもしれない。
あのエルフ王のことだから、もしかしたらその悪評はダークエルフの村まで広がっている可能性もある。
そういった可能性を考慮して、当たり障りが無さそうなカバーストーリーは事前に(主にパンドラが)考えてあった。
「いえ、実は私たちはエルフ王国の中心からかなり東の村出身でして、ファーインさんはだいぶ昔にダークエルフの村から引っ越して来た方なんですよ。私たちは、まあ何と言うか変わり者で、この森林の様々な場所を冒険したいと思っていた仲間でしてね。それでつい先日、旅立ったところなのですが、その矢先でアディ君が
一番若く見える緑髪のエルフがそう答えたことで、アディの父は一瞬キョトンとしたが、その直後の小さな笑いと少しの落胆のような表情を見せた。
「はは…それは本当に何とも変わりものですね、いや、失礼。実は50年ほど前に、エルフの王からの使者の方が来たことがあって、我らダークエルフの住む場所について話をされたことがあったんだ。その使者の方は、またそのうち来てもう少し具体的な話をすると仰っていたんだが、それ以来音沙汰がないので、てっきりあなたたちが新たな使者の方かと勘違いしていたんだ」
サトゥルヌスは、『成程、だから少々がっかりしたような表情だったか』と思うと同時に、そのダークエルフの言葉の端々に違和感を覚えた。
聞いたところ屑野郎のエルフ王に対する感情に、悪感情のようなものを感じ取れない。
エルフ王の矛先がダークエルフには向いていないか、あるいはその悪行がダークエルフの村のような辺境までは伝わっていないか…?
何にしろ情報が必要だ。
同じ疑問をパンドラも持ったようで、ミルンドールは速やかにその情報を集めるための質問をする。
「なるほどー!私たちはかなり辺境の村出身なので、そういう話は聞いた事が無かったのですが、冒険の途中で王城がある街まで行くかもしれませんから、良ければお伝えしますよ?50年前は王様からどういう話があったのですか?」
「ん、ああ、それは悪いが…いや、あなた達のような強い冒険者ならば王城へ行くこともあるか…では、本当についででいいのだが、もし可能なら伝言をお願いできるだろうか。実は俺はこの村の狩猟頭なんだが、長老会、祭祀頭、薬師頭、狩猟頭は50年前の御話——ダークエルフの故郷であるトブの森林への帰還の話について伝え聞いていてな、その剣について進展があれば教えていただきたいと、王城の方へ伝えてもらえるだろうか。同胞のファーインさんは知ってるだろうが、この辺りのダークエルフは昔はここより遥か北のトブの森林に住んでいたのだ。だがその森林で強い魔物が暴れ出したために泣く泣く故郷を捨て、この場所に辿り着いた。エルフの王はそんな我らを受け入れてくれただけでなく、50年ほど前に、我らが故郷に帰還できる可能性が出てきたと教えてくれたというのだ」
「そうなんですか。あ、でもファーインさんはかなり幼いころにうちの村に来たらしいからその話は知らないかもですねー。ちなみにあなたは王様に会ったことはあるんですか?」
「む、そうだったか…ファーイン殿、悪かった。先ほどのことは忘れてくれ…それで、エルフの王だが、俺は会った事は無いな。王は多忙な方と伝え聞いている。御伝言を頂いたときも、時に世界各地の悪しき存在を討つ旅をしながら、国の内政もこなしていたとか…全く頭が下がるな」
「そうなんですねー私たちも王様には会った事が無いので、王城に行く際の参考までにと思ったのですが。もしかしたら王様は不在かもなので、その場合は王城の方にお伝えしときますね!」
「ああ、そうしてもらえると助かる」
「じゃあ、もし良ければ少し村の中を見させていただきて、その足で私たちは出発しますので!」
ファーインははじめ、アディの弟——エグニアという名の赤子をぼんやりと見ていたが、会話に自分の名が出るとぴくッと反応して、そしてアディの父によるエルフ王の評価を聞いているうちに少しずつ表情が険しくなり始めていたので、それに気づいたミルンドールは速やかに会話を切り上げ、ブルーベリー家を後にした。
『ミルンドール、ファーイン、今
ミルンドールは、にこりと微笑み小さく頷いたが、ファーインの方は目を見開いた後、突然頭の中に響いた神の声に対して無言で何度もお辞儀をしていた。
その後、村の中を散策し、居合わせた長老会の者にも同じことを聞いたが、彼らもやはりエルフ王に対してアディの父と同じ印象を持っていた。
最後に薬師頭のところへ行ったところ、彼も同じような反応を見せたのだが、その薬師頭の隣に居た子供、おそらくは薬師の見習いと思われる者が、薬師頭と比較して非常にぶっきらぼうな態度だったので、ファーインはエルフ王の件とは別の意味で顔を顰めた。
サトゥルヌスもその表情に気づいたが、ここまでの会話の流れで憎悪の対象のエルフ王に対するダークエルフたちの反応で腹を立てているのだろうと考えた。
一方でミルンドールは正確に、それだけではなく『神に対する不敬』について腹を立てていると気づき、彼女の肩をポンポンと叩いた。
ファーインはハッとし、表情を元に戻したが、その後は終始うつむいて無言となってしまった。
「いや、あんた。すまんの。うちの見習いが態度が悪くて。こ奴——ギレナは腕はいいし賢い子なのだが、少々人付き合いが苦手でな…だからと言って本心で優しさが無いわけでもないのだが…」
「いえいえ、別に気にしていませんよ!」
そんな師の物言いと緑髪の若いエルフのやり取りにも、ギレナと呼ばれた少年は不服そうな表情を浮かべ、特に何を言うでもなく手にいくつかの薬を持つと出ていってしまった。
「はぁ、全く…あの様でなければ、今すぐにでも薬師頭を任せてもいいほどの腕前なんだがな…」
「あの若さで、それほど腕が立つのですか!」
「ああ、そうだな。しかも本心の部分は…いや、そうだな。こっそりギレナの後をつけてみるといい」
薬師頭の言葉に従い、3者は念のため透明化し、ギレナの後をつけた。
ギレナはいくつかの薬草から作った薬を手に持ち、村はずれのエルフツリーに入っていくとその中には横になっているダークエルフが居た。
そのエルフは病気か何かなのだろう。
見たところ非常にやつれていて、かなり苦しそうだ。
かなり高齢に見えたが、現在エルフとなっているミルンドール(パンドラ)から見たところ年齢は先ほどの薬師頭とたいして変わらないという。
「…すまないなギレナ」
「いや…別に。仕事だしな…それに俺の調合の練習になる」
ギレナが調合したと思われる薬を飲んだダークエルフは少し落ちついたように一息つくと、そのまま眠った。
ギレナはその様子を観察し、何かブツブツ言うと、またそそくさと薬師頭の家に戻っていった。
サトゥルヌスは個人的興味から、この村というかこの世界で使用されている薬草に興味が惹かれたが、一方で今はファーインの案件を優先すべきだとも分かっているので、泣く泣く薬師頭やギレナとの接触はしない事とした。
ただ人間として一般的な感情から、この病気っぽいダークエルフは治してあげても良いかなと考えた。
「〈
サトゥルヌスがそう言って仲間2人を見ると、ミルンドールは胸に手を当てて敬意を示す姿勢をしており、ファーインは手を合わせ膝をついて祈っていた。
『…勘弁してくれよ』
サトゥルヌスは複雑な気持ちになったが言葉には出さなかった。
その後、村から十分離れたところで森に夜の帳が降り始めたので、今日はここで宿泊することにした。
「じゃあ、今日はこの辺りで泊まろうか……
森の中に、蔦に覆われながらも厳かな雰囲気の教会が出現した。
サトゥルヌスとしては、ユグドラシルと違って発動しなければ転移でスレイン法国の神殿まで戻ればいいと思っていたが、これまでのところ、ごく一部であるが魔法もスキルもちゃんと発動している。
そうなるといよいよこの場所は、ゲームでなく現実、しかも何故かユグドラシルのルールーを引き継いでいるという不思議な状況であると認めざるを得ないなと考え、教会の中に足を踏み入れる。
ミルンドールはニコニコしながらサトゥルヌスについて教会に入って来るが、一方でファーインは、驚愕の表情と祈りの姿勢のまま、入り口で固まっている。
「どうした、ファーインさん?」
「サ、サトゥルヌスさーーーん…このような神の奇跡…余りの事で……いえ、私はこの神の教会へ足を踏み入れる資格があるのでしょうか…?」
「え、資格?いやそんなものは必要ないと思うけど…」
「ファーインさん!大丈夫ですよ!神の御業に触れて色々と思うところがあるんですよね?ですがこの教会は
「はっ…はい!ミルンドール様!!」
「おいドイツ語…はぁ…まあいいか」
他人の目が無くなって、ちょっとパンドラみがにじみ出てきたミルンドールに若干の不安を覚えつつ、
「…そういう訳で、この教会スペースの左右の扉から宿泊できる部屋に繋がっているから各自好きな部屋を使用するように」
「はい!」
「かっ…畏まりました」
「で、その前に、一度情報のすり合わせをしておきたい。あの村のダークエルフたち、まるでエルフ王の性格のことを知らないように感じた。それに50年前の話というのが真実だとすると、エルフ王は50年前は真っ当に王をやっていたようにも感じる…まずはファーインさんに聞きたいんだが、あのダークエルフの言っていたことに心当たりとかあるだろうか?」
「はっ、はい。私が連れさられた時とは、大きく異なると言わざるを得ません。アイツは内政など何もしていないようでしたし、監禁した女エルフに対して慈悲のある対応などッ…!!す、すみません…なぜか高齢と思われる側近などはあのような王を擁護するような発言をしていましたが、ですが、50年前の話など、城のどの者も言っていませんでした。城ではダークエルフは見かけませんでしたので、ダークエルフの村のような僻地までは王の実情などが伝わっていないか、あるいは王の評判を落とさないように意図的に誤情報を流しているのかもしれません」
「なるほど…ミルンドールさんはどう思いますか?」
「はい!ファーインさんが言っている可能性もあると思いますが、別の可能性として、50年前とはそもそも王が違うという可能性は無いでしょうか?何者かがこっそり入れ替わったのか、あるいは当時の者達の中では合意の上でそうなったのかは分かりかねますが、高齢な側近、つまり50年前のことを知っている者が王を擁護するという点から、後者の可能性を感じました」
「ふむ……いずれにしろその辺りは王の側近からも聞き出す必要がありそうだな…明日以降は、可能であれば別のダークエルフの村を訪問し、王に対する認識が今日の村と同じであるか確認してみよう。そしてエルフが暮らす領域に入り、まずは王城から遠い村で同じように聞き込み、その後は王城に忍び込んで側近たちからも情報を得れば良いか」
「はい!当面はその作戦で良いかと思います!」
一通り作戦会議が終わり、サトゥルヌスは自室に戻ることにした。
話せば話すほど、他2名が畏まった感じになっていくので、もうさっさと部屋で1人になって色々と魔法を試してみたかったというのもあるし、この
だが教会エリアから出る際に、ファーインに対しては一言謝っておかなければならないと考えた。
なぜならば、最終的には怨敵であろうエルフ王を対処するためとはいえ、自分を強姦した者の話をしたり、他者から聞いたりするのは、どう考えても嫌だろうと考えていたからだ。
「……ファーインさん。色々と辛いことを強いていると思う。申し訳ない。せめてゆっくりと休んでください」
「へっ…?!!」
そう言い残して私室に向かう扉の奥に消えた神に対して、ファーインはどう返していいか分からなかった。
神や従属神といった御方の傍付として旅をするなど、スレイン法国の人間としては、これ以上ない光栄なことである。
確かにエルフ王とそれにまつわることに関して、自身は恨みや怒りと言った感情を抱いている。
だが、その事について、神が謝ることなど……。
まして、
そこまで考えたところで、従属神の御方が優しく御声を掛けてきた。
「ファーインさん、色々とお考えかと思います。ですが我らの
「ミ…ミルンドール様…!」
ファーインが手を合わせると、ミルンドールは、ふふと微笑みながら言葉を紡いだ。
「実は
「それは…はい、その通りかと思います。神の御力であのダークエルフの子供は命を落とさずに済みました」
「ええ、そしてあの少年の両親は、子を喪わずにすみました。良かったと思いませんか?」
「……はい、仰る通りかと思います」
ミルンドールはもう一度微笑むと、その緑色の美しい髪を翻し、私室に繋がる扉から出ていった。
教会に残されたファーインは、その壁に描かれた壁画———そういった神話や伝承は知らないので何故そのような絵が描かれているかは分からなかったが———女性が幼子を抱く壁画をぼんやりと見つめながら、自分でも気づかぬうちに再びその両手は祈りの姿勢となっていた。
現在のパンドラは、モモンガの記憶と意思をくみ取る形であけみちゃんになっています。
結果、『創造主の記憶にある、あけみちゃんらしい対応』+『創造主の根底にある考えの、親子関係の修復』という行動理念で動いている状態になっています。
パンドラさんはマジ有能です。