「はぁ……はぁ……クソ……」
奈落の底にて俺——神代優は傷だらけで壁に体を預けている。一体どれだけ戦ったのか……魔物の攻撃を出来るようになった予見で躱し続けてカウンター攻撃してそれを何度も繰り返して今まで生き抜いてきた。
ただ強さの差があるのとまだ予見に慣れていなかった事もあり、どうしても躱しきれない攻撃もあってかすり傷程度とは言えそれを何度も受ければ体に限界が訪れるのは時間の問題だった。そしてその限界が近く体が言うことを聞かなくなってきている。
ちなみに、予見が使えるようになったという事はもちろん解析も出来るようになっている。出来るようになったタイミングはハジメを助けようとしたあの未来のイメージが浮かんだ時だ。
「戦いながら無我夢中で進んできたけど、ここは何層なんだ……?どこか休める所とかないのかな……」
痛みに耐えながら精一杯力を込めて体をなるべく普通に動かす。
俺は倒した魔物の素材を回収していた。こういった素材は武器に改造できたりするから出来るだけ回収しておきたいのだ。だが、流石にそろそろバックが限界だ。これ以上は持ち物増やすと戦闘しづらくなる。
「勿体ないけど、仕方ない……先へ進むか」
魔物に見つからないように慎重に行動する。そうしてしばらく行動していると突然頭に直接声が響いてきた。
『お願い、助けて……』
「急に声かけられるのは心臓に悪いな……それにしてもこの声……どこかで……」
急に聞こえてきた声に驚きつつも俺は声の出どころを探っていた。
今のはおそらく念話という技能だろう。魔力を使って相手に直接声を届かせる技能だ。であれば念話に使われた魔力の痕跡を辿っていけば良い。
「あ、そうだ。この世界に転移される時に同じような声を聞いたんだ」
俺は見つけた痕跡を辿って歩きながら呟く。
こんな奈落の底から転移中の俺に声を届かせるとかどう考えても普通じゃない。というか何で俺なんだ?他のやつには聞こえてる様子がなかったし……
「とにかく何があっても良いように警戒しておかないとな……」
例え何者であれ、助けを求められたのなら無視は出来ない。とりあえず行ってみてから危険かどうかを判断するとしよう。
しばらく進んでいると目の前には壁があった。行き止まりである。
「痕跡はこの奥なんだよな……掘ってみるか」
と言っても普通にやっても時間がかかるだけなのでこれを使う。
俺が取り出したのは作りかけの魔法陣が描かれた手袋。これはオルクス大迷宮に行く前の宿の作業で作っていたもので錬成の魔法陣が描かれていて、技能にないものを使うため魔法陣は非常に複雑なものとなっている。
解析が出来るようになった今なら、完成させる事が出来るはず。これを完成させて錬成を使って掘っていくのだ。
「魔物に見つからないうちにさっさとやるか」
それからどのくらい経っただろうか。体感では30分くらいかな?とにかく、そのくらいかけて魔法陣を完成させた。
「よし、これを着けて……それから魔石も使わないとな」
俺はここで回収していた素材の中から魔石を取り出した。
本来なら魔石を粉末にして染料として魔法陣に使うのが当たり前なのだが、そんな事をすればまた最初から魔法陣を描く事になり大変時間がかかる。そんな悠長にしてられるような穏やかな場所ではないので今回は少し荒い使い方をする。
やり方は単純。手袋を装着して魔石を握り、壁に魔石を握った手を当てる。後は錬成を使うだけだ。
「〝錬成〟」
すると魔法陣と魔石が輝き、壁の形が変わって道が出来ていく。
どうやら成功したようだ。安心したぜ……この魔石の使い方だと出力の調整が出来ず、暴発する可能性があるので良い子は真似しないように!
だが逆にこうでもしないと発動に成功するかどうか分からないんだよな……魔物が持っている魔力操作の技能があればこんな面倒な事しなくて済むのになぁ……
俺はそんな事を思いながら先へ進んでいくと、徐々に周囲がグランツ鉱石の壁へと変わっていった。
そして広いところに出ると巨大なグランツ鉱石があった。
「これは……あの時のトラップと同じ転移の……!だけどトラップじゃないな」
このグランツ鉱石をよく見ると何かを入れる窪みがあった。多分魔石を入れるのだろうが魔石なら何でも良いわけではなさそうだ。
俺は巨大なグランツ鉱石の奥を見る。
「ゴーレムか……こいつに埋め込まれてる魔石を使えって事だな」
ゴーレムの体には俺の剣よりも硬い鉱石が大量に使われている。
うん、どうしよう……勝てる気がしない——いや、待て。このゴーレムは魔力を燃料に動いている。つまり奴の魔力が尽きるまで躱しきれば勝てる……!予見が使えるようになった今、負ける事はないだろう。
「…………あれ?なんか力が抜けて……」
突然俺の体が動かなくなった。嘘だろ……こんな時に体の限界が来たのか……!?これまでの戦いで傷つきまくった体だ。いつ限界が来てもおかしくはなかったが、よりにもよって今なのか!
ゴーレムが俺のところへ向かってきている。
「何で……さっきまでは全然平気だったのに。明らかに不自然——」
気づけばゴーレムは既に目の前にいてゴーレムの拳が俺に向けて振り翳されていた。
俺は思わず目を瞑る。
……………………………………………………あれ?
いつになっても何もこない……?
目を開けて見てみてるとゴーレムの拳が目の前で止まっている。すごいギリギリだった。
調べてみるとどうやら魔力が底を尽きたらしい。さっきまでそこそこ残っていたのに……それにそれは俺も同じだった。
「そういう事か……魔力を吸い上げられてるのか」
そう言いながら俺は巨大なグランツ鉱石を見る。吸い上げてるのはグランツ鉱石……ではなくグランツ鉱石に仕掛けられた転移先の場所だ。どういうわけか魔法陣越しに転移先に魔力が集まっているようだ。
何はともあれ、運が良かった。人生で初めて幸運というものを味わった気がする。
そう思っているとゴーレムの体が崩れていって魔石が顕になった。
俺は動かない体を時間をかけて少しずつ精一杯なんとか動かしてゴーレムの魔石とゴーレムの体に使われていた鉱石を回収。
そしてその魔石をグランツ鉱石の窪みに入れると魔法陣が起動した。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……出来れば何も出ない平和的な場所であって欲しいけど……」
まぁ流石に無理だよね……
そう思いながら俺は転移していったのだった。
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「え…………………は?何、これ……?え?本物⁉︎」
俺が転移されて辿り着いた場所には——辺り一面の神結晶、巨大な神水の地底湖、そしてその真ん中には柱のように半透明の巨大な結晶が聳え立っており、中には白銀の髪の女の子が眠っていた。
順に説明しよう。
まず、神結晶だ。神結晶は1000年という長い年月をかけて大地の魔力が結晶化した伝説の鉱石だ。つまり見渡す限りの数の神結晶なんて普通に考えてあり得ない。
次に神水。神水は神結晶が更に年月をかけて魔力が飽和状態になると溢れ出す液体でトータスの伝承では「不死の霊薬」とも呼ばれている。飲み続ければ寿命は尽きないとされ、飲むことで傷や魔力を瞬く間に回復することができるのだ。
最後に中央にある結晶の中にいる女の子。周囲の結晶に負けないくらい輝いて見える白銀のセミロングの髪に顔立ちは思わず綺麗と言いたくなるくらい美しい女の子だった。神秘的な雰囲気があり、良い意味で人間とは思えなかった。
また、神水の地底湖の底には半透明の結晶を中心に魔法陣が展開されており、先ほどゴーレムと俺から魔力を吸い上げた原因となっている。
「なんなんだ、ここ……とにかく神水があるなら飲んでおこう。体がもう限界だしな」
困惑しつつもとりあえず命を大事にする事にした。