世界が君を忘れても [旧題:完成する君と未完成な僕]   作:ねじぇまる

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第5話 嵐を追う者たち

――Heroine: Hokko Tarumae

 

朝。

帽子の角度は今日も完璧。前髪の白い流星がちょうど縁からのぞく位置。赤いラインが左耳のやや上。

鏡の中の自分に、小さく頷きます。

 

「よし」

 

ヴィルシーナさんは洗面台の前で、手早くヘアブラシを走らせていました。

毎朝のヨガで姿勢を整え、制服にはシワひとつなく、立ち居振る舞いの一つ一つが洗練されている人。

もっとも、以前ひどい寝癖がついた朝には「見られたのがタルマエさんだけでよかったわ……」と呟いていたこともあるので、努力の上に成り立っている完璧さなのだと思います。

 

「……ふふっ、今朝は帽子の調整、手間取らなかったのね」

 

「はい! 昨日のうちに角度を決めておいたんです!」

 

ヴィルシーナさんはブラシを置き、鏡の中で最後のチェックを終えると、私の方を振り返りました。

 

「今日のトレーニング、坂道インターバルだったかしら。頑張ってね」

 

「はい! ヴィルシーナさんも今日のレッスン、頑張ってください!」

 

「ええ。……ところで、今週末、トレンドの情報交換もしたいのだけれど。新しいアクセサリーのブランドが気になっていて」

 

「いいですね! 私も次のとまこまい通信のデザインの参考にしたいですし!」

 

同室で、長女同士で、目指す方向はまるで違うけれど、お互いの努力を認め合える関係。

私はヴィルシーナさんのことが好きです。同じ部屋でよかったと、心から思います。

 

▪ ▪ ▪

 

朝食を済ませ、廊下を歩きます。

今日のメニューはトレーナーさんに言われた通り、坂道インターバルと、新しい『とまこまい通信 Vol.5』の構成会議。Vol.5の特集は「苫小牧の秋鮭と、ウトナイ湖の渡り鳥ガイド」の予定です。渡り鳥のイラスト、もう少し練習しないと。

 

そんなことを考えながら角を曲がった時でした。

 

「――おお。見つけたぞ」

 

目の前に、壁のように立ちはだかるウマ娘がいました。

 

銀色の芦毛。圧倒的な体格。そして、どこか浮世離れした、悠然たる佇まい。

学園中の誰もが知っている問題児にして怪物。

 

ゴールドシップ。

 

「な、あ……ゴ、ゴールドシップさん……?」

 

「うむ」

 

彼女は腕を組み、仁王立ちで私を見下ろしています。

 

「誇り高きロコドルの生き残りよ。己が使命を果たすべく、港から北の塔へ上り、剣を得るのじゃ」

 

「……え? え? 港……剣? あの、すみません、何の話を……」

 

「誇り高きロコドルの生き残りよ。己が使命を果たすべく、港から北の塔へ上り、剣を得るのじゃ」

 

同じセリフです。

一言一句、まったく同じセリフを繰り返しています。

 

「あ、あの、ゴールドシップさん? 私、これからトレーニングが——」

 

「誇り高きロコドルの生き残りよ。己が使命を果たすべく、港から北の塔へ上り、剣を得るのじゃ」

 

三回目。

まったく同じ抑揚、まったく同じ間合い。まるで、こちらが正しい選択肢を選ぶまでループし続けるゲームのNPCのようです。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 何て答えればいいんですか!?」

 

「誇り高きロコドルの——」

 

「もうやだー!」

 

私は悲鳴を上げながら、ポケットからスマホを取り出しました。

こういう時に頼れる人は一人しかいません。

 

「ヴィルシーナさん! た、助けて……!」

 

電話口でパニックになっている私に、ヴィルシーナさんは「そういうことね」と一言だけ返し、すぐに来てくれました。

 

「私に任せてちょうだい、タルマエさん」

 

ヴィルシーナさんは落ち着いた足取りで、ゴールドシップさんの正面に立ちました。

ゴールドシップさんは相変わらずループしています。

 

「誇り高きロコドルの生き残りよ。己が使命を果たすべく、港から北の塔へ上り、剣を得るのじゃ」

 

ヴィルシーナさんは一呼吸だけ間を置いて、こう言いました。

 

「『はい』」

 

たった一言。

 

するとゴールドシップさんの表情がパッと変わりました。

 

「ほっほっほ。勇敢なるロコドルよ。汝に光あらんことを……」

 

そう言い残して、ゴールドシップさんは満足げに廊下の向こうへ悠然と去っていきました。

 

「進んだ……! さすが、よくわかってるね!」

 

「ふっ……。コツはね、"言葉"を聞きすぎないことよ」

 

ヴィルシーナさんはわずかに口元を上げて、そう言いました。

この人がゴールドシップさんのセリフの「攻略法」を知っているのは、同期として理解を深めようとした結果らしいのですが……その努力の方向がすごい。

 

「……ヴィルシーナさん、すごいです。なんというか……もう、尊敬します」

 

「大げさよ。同期の言動を把握しておくのは、勝負の場で後れを取らないためですから。……それより、あの子、ああ見えてお菓子選びのセンスだけは確かだから、何かもらったなら大事にしておきなさい」

 

「え? 何ももらってないですけど……」

 

「あら、そう。……ならきっと、次に来るわね」

 

ヴィルシーナさんはそう言って、姿勢よく廊下を歩き去っていきました。

 

▪ ▪ ▪

 

午後。ダートコースの脇で、私はストレッチをしていました。

今日は坂道インターバルの前に、コースを軽く流す予定です。

 

と、その時。

 

「ねーねー、きみ! ちょっといい?」

 

明るい声が飛んできました。

振り返ると、ふわふわしたブラウンのお団子ヘアーと八重歯が特徴的なウマ娘が、方位磁石のような円盤を片手にこちらへ駆けてきます。

見た目の印象よりずいぶん背が高くて、私と目線がほぼ同じでした。

 

「あっ、やっぱり! ホッコータルマエちゃんだよね? チラシ配りの子!」

 

「は、はい! とまこまい通信、読んでくださったんですか!?」

 

「うん! Vol.3のハスカップジャムの作り方、すっごくよかったよ☆ あ、自己紹介がまだだった!」

 

彼女はビシッとポーズを決めました。

 

「リッキー☆ラッキー☆大吉祥☆ コパノリッキーだよっ! 風水の力でキミにもハッピーを呼び込んであげる♪」

 

「ふう……すい?」

 

「そう! 風水! 三千年の歴史を持つ環境開運学! 統計学にも通じるれっきとした学問なの! オカルトじゃないからね、そこだけは先に言っておくよ☆」

 

コパノリッキーさん。

名前は聞いたことがあります。風水に詳しいダートのウマ娘で、ちょっと……その、押しが強いという噂の。

 

「あのね、タルマエちゃん。きみのいつものトレーニング場所、ちょっと気になってたんだ」

 

「え、私のトレーニング場所……砂場のバンカーですか?」

 

「そう! あそこ、龍脈の流れ的にはすっごくいいんだよ。大地の氣が溜まりやすい場所で、ダートの練習にはまさに吉方位☆」

 

「りゅう……みゃく」

 

「ただね、入口の向きがちょっと惜しい! 北東——つまり鬼門から入ってるでしょ? できれば南東側から入ったほうが、陽の氣を取り込みやすくなるよ☆」

 

「は、はあ……」

 

正直、何を言っているのか半分も理解できません。

でも、リッキーさんの目はキラキラと輝いていて、その熱量だけは本物だということがわかります。

 

「あとね! きみの帽子! 赤いラインが入ってるでしょ? 赤は風水的には勝負運を高める火の色! すっごくいいと思う☆」

 

「えっ、そうなんですか?」

 

「うん! それに白は浄化の色だから、赤と白の組み合わせって、悪い氣を払いながら勝負運を上げる最強の配色なの!」

 

帽子の話になった途端、私の耳がピクリと動きました。

帽子は私のこだわりです。角度の話は毎朝格闘しているくらいですが、色の組み合わせに意味があるなんて、考えたこともなかった。

 

「……リッキーさん。それって、衣装の色選びにも応用できますか?」

 

「もっちろん☆ ロコドルの衣装でしょ? ステージで着る色によって、観客に与える印象も、自分自身のコンディションも変わるんだよ!」

 

「すごい……! じゃあ、例えば苫小牧のPRポスターを作る時、背景の色を風水的に考えたら——」

 

「いいねいいね! それ超アリだと思う☆ 金運なら黄色、人気運ならピンク、信頼感なら青! 目的に合わせて色を選ぶだけで、効果が全然変わるんだから!」

 

リッキーさんが興奮気味に語り出し、私も負けじとメモ帳を取り出して書き留め始めました。

 

「あっ、でもね、大事なのはバランスなの。派手な色ばっかり使うと氣が散るし、地味すぎると印象に残らない。陰と陽の中庸——風水の基本だよ☆」

 

「中庸……バランス。なるほど、それはロコドル活動にも通じますね。押しすぎてもダメだし、控えめすぎてもダメ……」

 

「そうそう! タルマエちゃん、話が早いね☆ リッキー☆ラッキー☆意気投合☆」

 

リッキーさんはニカッと笑いました。八重歯がのぞく、屈託のない笑顔。

なんだか、この人とは仲良くなれそうな気がします。風水のことはまだよくわからないけど、「何かを広めたい」という情熱は、私の「苫小牧を広めたい」と同じ種類のものだと感じました。

 

「でもリッキーさん、一つだけお願いがあるんですけど」

 

「なになに?」

 

「……トレーニング中は、風水の話は控えめにしてもらえると……」

 

「えぇー!? なんでなんで!?」

 

「集中が……その、とまこまいのことで頭がいっぱいで、同時に風水は処理しきれないというか……」

 

「むー。……まあ、しょうがないか。じゃあ、トレーニング後ね! お茶でもしながら!」

 

「はい! その時は苫小牧のよいとまけを持っていきますね!」

 

「よいとまけ!? あの有名な!? やったー☆」

 

二人で盛り上がっていると、遠くからトレーナーさんの声が聞こえてきました。

 

「おーい、タルマエー。坂道の時間だぞー」

 

「あっ、はい! すぐ行きます! ——リッキーさん、またお話しましょう!」

 

「うん☆ 次はきみの部屋の家具配置を風水的にチェックしてあげるから!」

 

「それはヴィルシーナさんに相談してからで……!」

 

私は手を振って、坂道へ向かいました。

走り出しながら、メモ帳の新しいページに書き足します。

 

『ポスター配色:信頼感→青、人気→ピンク、金運→黄色。バランス大事。リッキーさんに要確認』

 

ロコドル活動のヒントが、思わぬところから見つかるものです。

 

▪ ▪ ▪

 

――Trainer: Minato

 

レパードステークス当日。新潟競馬場。

 

重賞。タルマエにとって初めてのタイトルマッチだ。

ジャパンダートダービーの5着から約一ヶ月。彼女は変わった——というより、戻った。

あの大舞台で浮足立った反省を活かし、練習中の目つきが一段階鋭くなっている。苫小牧のPRを考える時間と、走ることだけに集中する時間を、意識的に切り分けるようになった。

リッキーが言うところの「中庸」を、彼女なりに咀嚼した結果なのかもしれない。

 

俺はスタンドの隅に陣取り、攻略ノートを開いた。

 

『レパードステークス ── 1着。初重賞勝利』

 

たった一行。それだけだ。

勝ち方も、展開も、何も書いていない。「1着」という結果だけ。

俺にできるのは、この数字を信じて送り出すことだけだ。

 

「トレーナーさん」

 

パドックの柵越しに、タルマエが声をかけてきた。

いつもの帽子は外している。代わりに、勝負服の上からジャージを羽織った出走スタイル。

 

「今日は、砂だけを見ます」

 

「……ああ」

 

「でも、ひとつだけ。勝ったら、ライブのMCで苫小牧の名前を言わせてください」

 

「勝ったらな」

 

「はい。勝ちます」

 

彼女は短く言い切って、パドックへ戻っていった。

その背中には、前回のような浮ついた空気はなかった。静かで、重く、地面に根を張るような安定感。

 

(……頼むぞ、ノート)

 

俺はポケットの中で攻略ノートを握りしめた。

これが当たるかどうか、俺にはわからない。デビュー戦は俺の介入で「変えた」。ダートダービーは「変えなかった」。

今回は——ノートを信じて、彼女を信じて、あとは祈るだけだ。

情けないトレーナーだが、今の俺にはこれしかない。

 

▪ ▪ ▪

 

ゲートが開く。

 

タルマエは好スタートを切った。

今回は、スタンドを見なかった。

ただ真っ直ぐに、目の前の砂だけを見ていた。

 

先行集団の三番手。理想的な位置取り。

第三コーナーから第四コーナーにかけて、じわじわとポジションを上げていく。

その走りは、デビュー戦の泥臭い突進とも違う。砂浜トレーニングで培った足腰が、重い砂を「味方」として活かしている。一歩一歩が深く、確実に地面を掴んでいた。

 

最終直線。

先頭のウマ娘が失速するのを見て、タルマエが仕掛けた。

漁師の脚が唸りを上げる。一完歩ごとに、砂が後方へ弾け飛ぶ。

 

半馬身差。一馬身差。

そのまま、押し切った。

 

「ゴール! 先頭はホッコータルマエ! 先行策から見事に抜け出し、初の重賞タイトルを手にしました!」

 

俺はスタンドの隅で、声にならない声を上げた。

拳を握りしめた手が、白くなっている。

 

ノートの通りだ。1着。初重賞勝利。

当たった。今回も。

 

安堵で膝が震える。同時に、胸の奥にちりりとした痛みが走る。

俺は喜んでいる。だが同時に、「ノートが正しかっただけだ」という事実が、薄い棘のように刺さっている。

彼女が勝ったのは、俺のおかげじゃない。彼女自身の実力と、一ヶ月の努力の結果だ。

俺はただ、答えが書いてあるページを開いていただけだ。

 

▪ ▪ ▪

 

ウイニングライブ。

 

タルマエにとって、初めてのセンターステージだった。

持ち歌はまだない。汎用曲だ。振り付けも、他の出走者と同じ共通のもの。

だが、彼女だけが違ったのは——MCの時間だった。

 

曲が終わり、マイクが渡される。

通常なら、関係者への感謝やファンへのお礼を手短に述べて終わる時間。

 

だがタルマエは、一拍の間を置いてから、客席を真っ直ぐに見据えた。

そして、深く息を吸い込んだ。

 

「——とまこまい観光大使、ホッコータルマエだべ!」

 

客席がざわめいた。

困惑の色が大半だ。重賞のウイニングライブで、いきなり「観光大使」を名乗るウマ娘など聞いたことがない。

だが、ざわめきの中に、小さな笑い声が混じっていた。嘲笑ではない。不意を突かれた時の、思わず漏れる種類の笑い。

 

「今日は応援、ありがとうございました! 苫小牧はですね、ハスカップが美味しくて、工場夜景が綺麗で、ホッキ貝は日本一で——」

 

話し始めたら止まらない。

ロコドルモードのスイッチが入った彼女は、もう誰にも止められない。

制限時間が来てマイクを回収されるまで、彼女は一心不乱に苫小牧をPRし続けた。

 

スタッフが苦笑している。客席には「なんだあの子」と首をかしげる人もいる。

だが同時に、スマホでステージを撮影している人もいた。「面白い子がいる」と。

 

俺はスタンドの隅で、それを見ていた。

 

腕を組み、背もたれに体を預けて。

彼女が輝いている。泥臭くて、不器用で、観光大使の名乗りなんて場違いもいいところだけれど——それでも、間違いなく輝いている。

 

「あの、すみません。ここ空いてます?」

 

横から声がかかった。

隣の席を指差す、見知らぬ男性客。

俺が座っている席の、すぐ隣——ではなく、俺が座っている席そのものを指差していた。

 

「……座ってますけど」

 

俺が答えると、男性は一瞬きょとんとした顔をした。

俺の顔を見て、席を見て、もう一度俺の顔を見て。

 

「あ……すみません。気づかなくて」

 

男性は頭を掻きながら去っていった。

 

心臓が、嫌な速さで脈打っている。

俺は確かに、ここに座っていた。立ち上がってもいない。身を屈めてもいない。普通に背もたれに体を預けて、ステージを見ていた。

それなのに、俺の存在が——目に入らなかった?

 

(……いや)

 

IDゲートが三度エラーを出したのは、機械の不調だと思えた。

攻略ノートの文字が薄い気がしたのは、インクのせいだと思えた。

だが、目の前に座っている人間が「いない」と認識されるのは——どう取り繕えばいい?

 

ステージの上で、タルマエがまだ苫小牧をPRしている。

その声が、妙に遠く聞こえた。

 

(……気のせいだ)

 

俺は自分にそう言い聞かせた。

だが今回は、その四文字が、いつもより重かった。

 

▪ ▪ ▪

 

ライブが終わった後。

新潟の夏の夕日は、驚くほど赤かった。

 

競馬場の裏手にある小さなベンチに、俺とタルマエは並んで座っていた。

彼女はまだ勝負服のまま。汗が乾いて、少し塩を吹いている。だが表情は晴れやかで、夕日に照らされた頬が赤く染まっていた。

 

「……勝ちました」

 

「ああ」

 

「苫小牧の名前、言えました」

 

「聞こえてた。……だいぶ早口だったけど」

 

「えへへ……つい、全部伝えたくて。時間、足りなかったですね」

 

彼女は照れくさそうに笑った。

その笑顔は、前回の5着の後に見せた強張った表情とは別人のようだった。

 

しばらく二人で夕日を眺めていました。

蝉の声が遠くで響いている。夏の新潟の、穏やかな夕暮れ。

 

「……トレーナーさん」

 

「ん?」

 

「次は、どこですか」

 

俺は少し黙った。

攻略ノートのページが頭をよぎる。次のレース、その次のレース。書いてある結果を、順番に。

 

「……次はもっと大きなレースだ。格上の相手が出てくる。ここからが本当の戦いになる」

 

それだけ言った。具体的なレース名は伏せた。

正直、どのレースに出すべきかは、ノートの記述を見て決めているだけだ。戦略的な判断なんて、俺にはできない。

だが彼女は、俺の言葉をいつも通り真剣に受け止めてくれた。

 

「はい。……望むところです」

 

タルマエは立ち上がり、夕日に向かって大きく伸びをした。

帽子を被り直す。角度を微調整して、満足げに頷く。

 

「次のレースまでに、もっといいキャッチフレーズも考えないと。今日のMC、ちょっと唐突すぎましたよね」

 

「まあ……インパクトはあったぞ」

 

「インパクトだけじゃダメなんです。ちゃんと心に残らないと」

 

彼女はメモ帳を取り出し、何かを書き始めた。

またキャッチフレーズの推敲だ。重賞を勝った直後なのに、もう次のことを考えている。

 

「『北の港から飛んできた、紙の翼の渡り鳥♪ 苫小牧ロコドル、ホッコータルマエだべ!』……うーん、もっとひねった方がいいかな」

 

夕日が、二人の影を長く伸ばしていた。

俺の影も、彼女の影も、同じ方向に、同じ長さで。

 

——今は、まだ。

 

――[System]: First title acquired. Trainer contribution logged. Priority re-evaluation pending.

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