ダウナー・ジャジー・シーカーズ~テンション低めの気怠げお兄さんによる飯テロ有の悪くないダンジョン配信~ 作:北乃ゆうひ/YU-Hi
「
スキル宣言と共に、抜刀一閃。
目にも止まらぬ速度で抜き放たれた一閃と共に、無数の
基本的に射程が短く持続時間も数秒と短い。使い勝手の悪い技だ。
しかも斬撃波は剣の刀身の半分ほどの射程な上に、目の前にしか発生しない。しかもこの斬撃波の一つ一つは非常に威力が低いと来ている。
セイジの放つ斬撃の壁は非常に密度が濃くなっているのだが、そもそも練度が低いと斬撃の密度も薄い技だ。
その為、攻撃にも防御にも使いづらいということで、取得しても結局使わないままという居合い剣士も少なくない。
だが、そんな技だからこそセイジの無駄なこだわりが発揮され、我流アレンジによる派生技を編み出していた。
セイジが放つそれは密度も濃く、時間も一秒程度とはいえ長くなっている。
「――
抜き放った刃を鞘へは戻さず手首を返して、もう一太刀。
一般の剣士が放つそれよりも密度の濃い斬撃の壁の二つ目が現れる。
しかも、この技は二振りなどというケチな動きで終わらない。
「おおおおおおおおおお――……ッ!!」
セイジを知る者からすれば珍しい気合いの伴う声と共に、剣を鞘には戻さずに何度も振り回していく。
その一太刀、その一太刀、その一回、その一回で、都度無数の斬撃波による壁が発生する。
結果として高密度の斬撃障壁が長時間発生する形になっていく。
そんなの刃の壁に、飛びかかってくる魚たちは弾かれ切り裂かれ、その辺りに散らばるように落ちていった。
:何か知らんがすげぇ技使ってる!?
:あの数の魚ロケット全部切り払ってるの!?
:雄叫びありがとうございます!それはそれとしてちゃんと生き延びてくださいねー!!
:魚と刃の音がやばい
:身体の動きで前髪で隠れていた目が見えるのもメカクレの醍醐味!ありがたい!とはいえ死んじゃダメですよー!!!
:ものすごい金属音は鼻と刃がぶつかる音か?
:我々のフェチを満たすことより生き延びるコトを考えてぇぇぇぇぇ
ババババババ
ズバズバズバ
ギジギジギジ
ダダダダダダ
バサバサバサ
ガキガキガキ
ズガガガガガ
ボトボトボト
魚ガトリングと、斬撃がぶつかる音のコンサートは、魚が水面から出てこなくなるまでずっと続いた。
:ここまで壁を維持できるワルニキってもしかしてすごい?
:この手の技の維持時間って超人化の強さだけでなく技の練度も関わってくるしな
「はぁ、はぁ、はぁ……さすがに、疲れた……。想定以上に長かったな……どんだけいたんだ……」
:すげぇ数の魚が転がってるな
:珍しく息上がってるし
:汗もやばい
:汗だくニキ、ヘキです!
:新たなフェチネキが生まれたか
:ようこそフェチの沼へ歓迎するよ?
「休みたいが、回収しないとな」
:ダンジョンのダルいところだよねぇ
:この数全部がモヤ化するのは勿体ないもんね
そうして絶命している魚はSAIへ。
まだ生きている魚は気絶させてクーラーボックスへと放り込んでいった。
「……さすがに全部回収は無理だったか」
それでも数が数だ。
途中から黒いモヤ化が始まっていったので、さすがに全部の回収は難しかった。
:おつかれー
:結構ゲットできたな
:百近く回収してない?
:今更だけどそれって食べれる魚なのかしら?
:あ
:草
:それは
:たしかに
:ちょっとww
コメント欄を見ていないセイジは、リスナーたちの懸念に気づかないまま、テキパキと片付けをしていく。
クーラーボックスの肩紐を背負い、セイジはドローンに向けて話しかける。
「さてここで料理してしまいたいところだが……また魚が飛び出してくると怖いからな。
一階へ戻ってから、エリア端近くに移動しようと思う」
:それはそう
:その懸念は正しい
:食べれなかった場合この大量の魚どうなるの?
:ギルドと研究所に丸投げじゃね?
:まあ金には換えられそうだから無駄にはならんだろ
そうして、セイジは息を整えつつも足早に池の前を後にするのだった。
:同じ無音でもやっぱ移動中、探索中は見所あるなw
:さすがに釣りは虚無がひどかった笑
:まさかフェチを楽しむにも限界があると知れるとは思わなかったわ
:全会一致で虚無扱い草
なんてコメントが流れているのを知らないままに、セイジは一階にあるエリア端に近い池までやってきた。
「さて、到着だ」
:ここなら大丈夫なのかな?
:料理始めたら池から魚ガトリング始まったりして
「……やめてくれ。その懸念を抱えながら料理をするのはとてもダルい……」
ドローンの上部にコメントを表示するなり流れてきた懸念に、セイジは盛大に嘆息を漏らす。
「……この池にはカニも歩いてないし、大丈夫だと思いたい」
:結構切実な声してんなw
:あれのおかわりは勘弁して欲しいだろ誰だって笑
:ゲームであったとしてもアレが何度も発生するのは嫌だもんなww
「魚が欲しくて少し調子に乗ってしまったが、やらなきゃ良かったとは思っている」
:今日は珍しいダウナーニキがいっぱい見られて楽しい笑
:本気でダルかったのが分かる声で草
なんであれ、この池の周囲にはモンスターの気配も薄い。
とりあえずは安全に作業ができるはずだ。
いつものようにキャップ用のクッキングスペースを作り、料理をする為の準備をしていく。
:そろそろトラブル発生するかな?
:ダウナーニキの場合、迷い人が現れるコトも多いしな
:ダンジョンだけじゃなくて人生に迷っている人とか
:この間ムルちゃんの配信で迷子対応に巻き込まれてたし
:マオちゃん遭遇を迷子対応扱いすんなw
:詳細語るにはダークすぎてなぁ・・・
:それはそう
好き勝手言っているコメント欄をいつものように放置しつつ、準備を進めていると、人が近づいてくる気配を感じて手を止めた。
「……ん?」
:どうしたニキ?
:モンスターか? 人か?
:やっぱり乱入あるんですね
:もはや恒例である
:むしろ醍醐味じゃね?
:急に巻き込まれたゲストと一緒にメシ喰うの見るのも楽しいよね
セイジは作業の手を止めて立ち上がると、武器を手にした。
それから、気配のする方へと視線を向けると――
「あ」
「あら?」
――見慣れた顔のメガネ美人……
普段は担当しているアーティストやアイドルたちより目立たないようにする為か、敢えて地味な格好をしている彼女だが、今日はプライベートなのか、探索者装備でありながらもオシャレで華やかな雰囲気だ。
「妙なところでお会いしますね」
「……もうしかして配信中ですか?」
「ええ、まぁ」
「それでしたら、ステラと呼んでください」
「了解です」
:知り合いか
:配信中にリアフレと遭遇とか他の配信にはないダンジョン配信の醍醐味だよなこれw
:しかも配信者でもなさそうな感じの人だったりするのはな
:でも配信馴れというか配信対応には馴れてる感じだね
「あ、顔出し問題ないですよ。何人かの担当している子の配信には顔をだしてますし」
:担当している子?
:ステラさん声だけ聞くと可愛い人っぽい
:どこかで聞き覚えのある声だけど別の推しの関係者かな?
「じゃあまぁとりあえず気にせずにドローンを動かします」
「そうしてください」
:配信というよりカメラ馴れしてるっぽい?
「それにしても本当に妙なところでお会いしますね。ステラさん」
「探索は基本的に本業の片手間や暇つぶし程度の嗜みなんですが、ノルマ依頼だけは放置できませんから。仕事柄失効させるワケにもいかないので」
「なるほど」
:そうなんだよなぁ
:片手間なのに仕事柄失効させるワケにもいかない?なんの仕事だろう?
:自動車免許の更新みたいなもんだもんなノルマ依頼
:あ!もしかしてランドさんのマネさん?
:っていうか美人さんだ
:ちょっとニキ!誰よその女!可愛いじゃない!紹介しなさい!
:嫉妬系の荒らしかと思ったら違うしw
「あ、今チラっとコメント見えちゃいましたから答えてもいいですか?」
「構いませんけど、何が見えたんですか?」
「バーチャル配信者のランド・ドランドさんは私が担当している方で間違いありませんよ」
:やっぱり!
:芸能マネージャーの方でござったか
:あれ?でもステラさんのこと配信者関係なくどこかで見たことあるような
ネオンのことで盛り上がっているコメント欄を横目に、セイジはネオンに訊ねる。
「ところでホ……ステラさん。ダン材料理に興味ありません?」
「ワ○ルドさんが配信している以上は料理だろうと思ってましたけど、本当にダンジョン内でキャンプしながら料理してるんですね」
池の周りに用意されている調理環境に驚いてから、ネオンはうなずく。
「そりゃあまぁ興味のあるなしと言われれば興味ありますけど、良いんですか? 配信中なんですよね?」
「まぁ配信中に誰かが交ざって食べ始めるのも、うちの配信の醍醐味みたいな扱いになってるようなので」
そうだろう――と、ドローンに向けて訊ねれば、コメント欄が盛り上がっていく。
:もはや原風景
:誰かが急に交ざるのは日常茶飯事なので
:美人なら大歓迎
:ステラさん自己紹介してもらっていいですか?
:ダウナーニキ、ステラさん紹介してください
「とまぁこんな感じです」
「うちの子たちとはまた違う訓練されたコメント欄ですね……」
「訓練した覚えはないんですけどね?」
:その通り
:うちらは勝手に育った
:我々は自らに訓練を課した結果である
「つまり放置しすぎてフリーダム化してる、と」
「そうとも言います」
「その割には荒れてないの、すごいとは思いますけど」
:配信内容が分かりやすいモノではないから騒ぎたいだけの人は来ないのかもですね
:ドカンと笑って騒ぎたいタイプは真っ先に脱落する内容ですしおすし
:今日も動きのない虚無的釣り配信を乗り越えてきたので面構えが違うのよ
:さすがの私も脱落しかけたけどね
:ニキは虚無虚無タイムを反省して
「コメントにも出てますが、オレを追いかけてくれる人たちは、変に荒らさないタイプの人ってだけではないかと」
「確かにそうみたいですね」
やりとりをしながら、セイジはSAIから折りたたみの椅子を取り出して広げる。それをネオンにすすめた。
「あ! わざわざありがとうございます」
:さらっとイスをすすめたな
:スムーズに会話しながらスマートな対応よき
:こういう紳士ムーブを普段からしてるなら色々勘違いされてそうだよなニキ
「ところで、ステラさんは魚は大丈夫ですか?」
「え? はい。大丈夫ですけど……このダンジョンで魚、ですか……?」
:うん そういう反応になるよねw
:わかるわかるw
:このダンジョンを知っている人ほど魚と結びつかないだろうなぁ笑
「あの……念のためお伺いしたいんですけど、なんていう名前のモンスターでしょうか?」
問われて、セイジは自分の首筋を撫でながらしばらく思案したのち、首を傾げながら答えた。
「……さぁ」
「さぁ!?」
:未知の魚だもんなぁ笑
:実際あの魚なんなん?
:ステラさんのリアクション草
「え? いやでもほら、以前ごちそうして頂いたダン材料理は全部正体が分かってたじゃないですか。なんで今回は隠すんですか?」
:ステラさんごちそうしてもらったことあるのか
:ニキと知り合うとご馳走して貰えるのか
:いやぁ実は隠してるワケじゃないんですよね
:リアクションは正しいんだけど実際正体不明の魚なのも事実w
「……一応、検索したんですけど」
「え? まさか……」
「今回料理する魚に関しては、何の情報も出てこないんですよね」
「……新発見のモンスターを料理する気なんですかッ!?」
セイジの正気を疑うような眼差しを向けてくるネオン。
その視線を真っ直ぐに受け止めて、セイジは気怠げに首肯するのだった。