すけこま!   作:糖分至上主義

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前回の投稿から期間が開いてしまい申し訳ないです。
おそらく次回も間が空きそうですが、エタってはいないので思い出したときにでも読んでください。



想い人にたどり着く一等星

「い、以上で君に関する連日の報告は終わりだルシエラ君。…最後の確認だ。先に読み上げたことは一切の虚偽が含まれていない、ということでいいのだね」

 

霞ヶ関裁判所内にて。

内部はおろか、付近5km内に()()誰一人として存在しない。そんなゴーストタウンのようになった裁判所では、本来裁判官や弁護士、検察官が座っている位置にラップトップが立ち並ぶ異様な光景が広がっていた。

総理大臣に最高裁判官、警視庁長官や防衛大臣まで、この国でも有数の権力を持った人物がそれぞれ別々の画面に表示され、中央の机の前で腕をくんでいるルシエラに詰問を続ける。

 

「一般市民に魔法を行使するなど一体どういう心づもりだね!?我々は貴殿を信じたからこそ子供たちを任せたというのに!!」

「……はぁ。今後の処遇だとか、学園の維持問題だとか。もっと建設的な会話をしないかい」

 

かれこれこの場に来てから5時間は経過をしており、皮肉や誹りといったものが含まれた質問にも、唯唯諾諾と返答するだけであったルシエラだったが、今ではすっかり腕を組み不服ですと言わんばかりの態度を示していた。

 

「ええい、いいから質問に答えよ!先の内容に嘘偽りはないのか、と聞いている」

「だから何度もそうだ、と言ってるじゃないか。ボクはボクの目的を果たした。そのために多少の無茶をしたわけだし、これに伴って君たちとボクの間で結ばれた契約もおしまい」

 

そして最初は余裕を保っていたはずの質問側が、今現在力強さを失い、少し上擦ったようなもので気を伺うように話を続けていた。

 

「だ、だがねえ君。いきなりそんなふうに契約を打ち切られても我々だって、学園に通っている生徒だって困惑するだろう」

「そ、そうだ。貴殿はたしかに契約を果たしてくれていたが、急にそれを辞めるだなんて、些か冷酷ではないのかね。我が国に籍をおき、我が国の国民にも助けられたことだってあるだろう」

「そもそもだ。君が見つけた伴侶とやらだが、その者の素性は確かなのかね。言葉を選ばずに言わせて貰うが我が国の安全を害する可能性がないと言い切れるのかね。どこか他国の内通者だったりはしないと、君は自信を持って断言出来るのかね」

 

各モニターから矢継ぎばやに質問が飛びだす。

報告ではルシエラが行った「学園内での一般人に対する加害行為」の審議について疑問視の声が上がっており、以前から一定の人間が持っていた不信感を煽る形となった。

しかし政府上層部としてはここで国防の一端を担うルシエラを失うのは避けたい。なんなら有利な形で契約を更新するのが最も望ましい。

 

結果、彼らはこういう形で難癖をつけることしかできずにいた。

 

「ふぅぅぅむ。ボクとしては最低限の契約をこの3年と数ヶ月で果たしたとは思うんだけれどねえ。正直、元教え子が現場に出て、あるいは教師として新たな世代を導く、もうその段階まで進んでいるはずだろう?」

 

やれやれと芝居がかった様子で額に手を当て、もう一方の肩をすくめるルシエラ。

実際、世界が交わりだして三年の月日が経過した今。

最も初めにルシエラが教鞭をとった者たちはすでに一定の地位をもって現場で活躍をしている。

何なら政府から派遣された者たちは一年間の研修をルシエラの下で終え、学園の教師として教鞭をとっていた。

 

ルシエラとしてはこんな結末が分かりきっている裁判をさっさと終わらせて出ていきたいのだが、後々に尾を引くような瑕疵は作りたくなかった。そもそもこうして裁判の開かれる原因となった「一般市民(四郎)に対する魔法の行使」は純然たる事実。

ここで洗脳や暗示の魔法を行使すれば後で四郎に何を言われるかたまったものではない。あくまで誠意をもって対応するとルシエラは決めていた。

 

互いの思惑がマイナスに作用しあった結果、長時間に渡る堂々巡りの裁判が行われる現在に至った。

 

 

「もういいじゃありませんか、垣谷首相。彼女は十二分に我々に尽くしてくれましたよ」

 

 

突如としてルシエラの後方部で扉の開閉音がするとともに、日本の総理大臣を窘めるような穏やかで上品な声が響く。

裁判所の扉には、豊かな白髪を後ろに撫で付けた背筋の伸びた老人と老婦人、そして顔の半分以上を白い布で隠した、ゆったりとした麻の衣を来た中性的な人物が立っていた。

 

「ルシエラ・クロッヒェン・サヴァトロモチカ殿。本来は我々でしっかりと守らねばならなかった我が国を何年もお守り頂きありがとうございます。

重ねてこの者たちの非礼もお詫び致します。誠に、誠に申し訳ありません」

「へ、陛下!?なぜ其方に…」

「私はこの御方とお話に参ったのです。それだと言うのに画面越しだなんて寂しいじゃないですか」

「さびしい…って」

 

(わたくし)がぜひお話したいと思ったのでこちらに案内していただいたんですよ。この人ったら女性の元に男性だけで向かおうとしてらしたもの。一人くらい同性がいた方が話しやすいじゃありませんか」

 

あらあら、と白いレースの手袋をつけた老婦人が茶目っ気を滲ませた声で会話に加わる。

 

「これはこれは。ご丁寧にどうもありがとう。先にご紹介に預かったルシエラ・クロッヒェン・サヴァトロモチカだ。ルシエラと呼んでくれ、神の子よ」

「よろしくお願いしますルシエラ様。いやはやこの数年、神の子と呼ばれるようになりまして汗顔の至りです。私としましては満仁(みつひと)と呼んでいただけると幸いです」

 

老人は恥ずかしそうに目を細めながら、後方にいる麻衣の人をみる。気が付けば老婦人は全員の背景と化していたララップトップを閉じて回りだしていた。

何かを言おうとしていたのだろう、柿谷と呼ばれた男は「こう」とだけ言い残して電源を落とされていった。

 

「これで、我々以外誰もいませんね。お二人も、ここまで私を案内していただき感謝します。

…初めまして、ということになるのでしょうか。天津甕星(あめつかみぼし)の御霊」

「それであっているよ。だから君の名前をうかがってもいいかな?この地に根ざす神の姿をとるモノ」

 

「我が名は思兼神(オモイカネ)。天孫の様子を見ようとひとたび地に降り立っただけでしたが…世界があまりにも混沌としていますので今はこの二人のもとに身を預け、相談役のようなことをしております」

 

根っからの性分なものでして、と付け加える思兼神を覗き込もうとして、急に浮かんできたデフォルメされた四郎に怒られたルシエラは目を逸らす。

意味もなく相手の全てを知ろうとするのは良くないのだとここ最近学んだからだ。

 

「ふむ…。私の中に入った存在はあまり人間とは友好的ではなかったようです。そのため抑え込むのに手間取りまして、こうした場での挨拶になってしまい申し訳ありません」

「ああ、いいよいいよ。ボク自身、ここ数ヶ月は特に忙しくってね。で?それだけじゃないだろう、君がこうしてやってきたのは」

「ええ。もう焦らされるには貴方も望むところでは無さそうですし。

単刀直入に言いますと、今回の判決はまず有罪です。が、貴方のことを切り捨てるにはこの国のことを知りすぎています。よって落とし所として、貴方には引き続き学園で教師をしていただきたい。ただし一教師として、になりますが」

 

いつの間に取り出したのか、思兼神は雇用契約書と書かれた書類と、生活保障に伴う約款と書かれた書類の束を胸の前に抱えていた。

 

「既に押印などは押されていますので、あとは貴方が記入するだけで済みます。もう一方の約款についてですが、一般生活に置いてどの程度なら力を使っても良いかなどが記されています」

「拒否権は?さすがに無期限無報酬の完全奉仕は嫌だぜ」

「ありません。とはいえ貴方に暴れられると被害や労力が冗談ですまない程かかります。よって1年間の期限付き契約という形にいたします、気に入ってくだされば継続の手続きも行いますし。

もちろん給与なども発生しますし、学園に1年も勤めれば向こう数十年の生活は保証されます。その間に伴侶となる御方との将来設計でも建ててはいかがでしょうか」

 

予想の範疇であったからなのか、一片の考える仕草すらせず思兼神は淀みなく答えていく。

 

「(うーん…うーん……。ボクの条件が楽すぎるな。はて、一体何をして欲しいのやら。以前は覗き込めば一瞬だったけど、なかなかに不便だね)」

 

思兼神は説明癖でもあるのか、はたまた何かを教えること自体が好きなのか。

ルシエラが思考を深めている間も、雇用形態や休暇のとり方について、果てにはおすすめの国内にある新婚旅行先までも喋り出す。

このまま放っておいても一生話していそうだな、と悪い考えがルシエラの中で浮かんでくるも、天皇陛下夫妻に止められ、布の下ではさぞ楽しげに説明してそうだった思兼神も戻ってくる。

 

「失礼。ついつい熱が入ってしまいましたね 。要するにいままでと大差ない生活を送って貰いたい、ということです。このままですとおそらく私が学園の長を引き継ぐことになりますので」

 

どうぞと差し出される書類を受け取り、ざっと約款の方に目を通すルシエラ。

ペラペラと、常人からするとまるで一気にスクロールして読み飛ばしているような速度で書類をまくって行くと、ある部分に目が止まる。

 

「この、「日常生活における魔法の行使」についてなのだけれど。鏡のワープのみ常時発動、それ以外の使用には規制…て、学園を維持している魔法は解いてもいいのかい?言っちゃあれだけど、この国にあの大きさの学園も、それを押し込めるだけの土地もないだろう」

「ええ。ですので、()()()()()()。何も人類に与するのは私だけではありませんので。初めのひと月で近隣各所を回ってお願いしてきました。どんなに引き篭ろうと、私の前では鎧袖一触ですので」

 

胸を張りながら冗談めかして笑う思兼神だが、何を思っているのかどこか懐かしむ声色をしていた。「正直、1人に寄りかかった組織に未来などありませんし」と付け足された言葉は、今度は言葉尻になるにつれて落としどころを見失ったかのように声量が減っていく。

 

ルシエラからしても、学園を維持し続けるのは正直言って面倒であったから助かるには助かる。

基本的に学園内に幽閉されることになるうえ、校長室を訪ねてくるのは見知った大人ばかり。人とは違う感覚を持ち合わせる彼女とて、飽きは来るのだから。

それにあそこでは生徒に気を使って、魔法の研究も控えなければならない。魔法の研究とはマニュアルのない爆弾解除ゲームみたいなものなのだから………。

 

「さて、と。それでは今日はありがとうございました。追って詳細は知らせますし、いろいろと詰めなければならないこともありますが真面目な話はこのくらいでいいでしょう。何か質問はありますか?」

「連絡方法とか、どんな奴が新たに加わったのかとか、いくらか質問もあるけれど…まあ、その時になればわかることだし別にいいよ。ボクとしては面倒な役職から降りれていい具合に落ち着いたしね」

 

ルシエラからしたら思兼神は決して信用にたる神物ではない。それはおそらく相手にとってもそうなのだろう。だからこそ、互い同士で見張りあっていればいい。

最悪、四郎の身に危機が迫ればあの朱禰が動くのだ。気にすることはない。

 

「(おそらくあの剣がある限り、一番安全なのはあいつの傍に四郎を置いておくことだしね。ボクは『理解ある』友人だからね。ボクはボクなりに彼を助ければいい)」

「(彼女の伴侶とやらについても知りたいですし、多くを縛りすぎるのはそれはそれで均衡を保てない。彼女の性質が鏡に由来していそうなのも厄介ですね)」

 

 

「「(だから、今はまだ見定める時)」」

 

 

ルシエラはとてもよく似合う悪人面を、布で隠れて見えない思兼神もその下では老獪さがにじむような鋭い目つきを相手に向けあっていた。

 

「あら!行けませんよ、女性がそのような顔をなされては。それよりルシエラ様、よろしければあなたの意中の御方のお話、聞かせてくださらないかしら」

「思兼神様もよろしければお話に混ざられてはいかがですか。わたくしめが手続きの方は連絡しておきますので」

 

一瞬の空気を感じ取ったのか、ふたりが互いに寄り添うように会話に参加する。まるで2人の思惑を読み取ったかのような口ぶりは、しかし2人の穏やかな目つきで疑いを晴らす。

生まれて80年と少し。ルシエラと思兼神からしてみれば10分の1にも満たない期間しか生きていない2人だが、生まれてから国の象徴たらんと生きてきた老夫婦は「思いやり」という確かな武器で度量を示した。

 

「…フフ、そうだね。良かったら聞いてくれるかい?ボクの最愛にして、それでいてどこまでも自由に羽ばたいて居て欲しい、大事な大事な駒鳥の話を」

「それは興味がありますね。同じ勤め先で働くことになるあなたの()()のことですから」

 

 

 

 

 

■■■■■■

 

 

 

 

 

「どうだデイビット。其方からはなにか見えたか」

「ダメだアカシャ。こっちは雲が厚すぎる。こりゃ今日も明日も観測できねえ」

「そうか。こちらは逆によく晴れた夜空だが、見慣れた星団が輝いているだけ……待て。なんだあの星は」

「あん?もしかしてついに未発見の星を観測したのか!?なあ、見えたのか、どうなんだ。返事をしてくれ」

「あああ、そんな…嘘だろ。ごめんよ母さん」

「おい、待て。……何が見えたんだ?なあアカシャ何があったんだ」

 

「…車輪だ。クソ、こんなことなら毎日しっかりと祈りを捧げとくべきだった!」

 

「アカシャ、しっかりしろ!おい、アカシャ!!」

 

 

「車輪から足の生えたような星が一直線に落ちてきやがる!!」

 

 

 

 

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