インフィニット・ストラトス ~An Irregular Bound~   作:れみんとぅ

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第10話 REVELATIONS

一夏は困っていた。この上なく困惑していた。

 

「第一印象から決めてました!お願いします!」

 

どう返せというのか。皆頭を下げ、右手を自分の方へ差し出している。つまり誰かの手を握ればいいのだろうか。

 

いや、それをやったら衝撃砲とビームと日本刀が飛んでくる気がする。ナシだ。

 

(く、クラウス助け…)

 

「「「お願いします!!!」」」

 

彼の方も、シャルルの方ですら同じだった。

これは自分ひとりでなんとかするしかない。そう思い口を開く。

 

「…それは置いといてさ、早くISを」

 

「「「置いとけるかっ!!!」」」

 

「ひぃっ!?」

 

ものすごい剣幕で怒られた。どうやら選択を間違ったようだ。

再びクラウスの方へ視線を向けると、

 

「……。」

 

「「「………!!!」」」

 

なにやらこちらには聞こえない大きさで言い聞かせ、皆の顔が紅潮していた。

そしててきぱきとやるべきことをこなしていく。

 

(一体何を言ったんだ…?)

 

考えても仕方がない。こちらも奥の手を使うしかないようだ。

鬼教官こと、実姉織斑千冬の力を。

 

「…お前ら、フルマラソンしたいの?」

 

一瞬で全員の顔が真っ青に。作戦成功。一夏のグループも作業を開始した。

 

一方、シャルルは。

 

(…えっと、これはどうすれば…)

 

同じく困っていた。このままでは千冬の出席簿(てっけん)をもらうことになってしまう。

 

そこで思いついた。打開策を。

考えれば簡単な事だった。その千冬の力(・・・・・・)を借りればいい。

 

「みんな、フルマラソンは嫌でしょ?」

 

「「「構わない!!!思いを伝えられるなら!!!」」」

 

(あれ!?おかしいな!?)

 

まるで効果がなかった。後に待つフルマラソンよりも、今この時を大切にするということか。

 

ここで彼女たちにシャルルは少々腹を立てる。表情には出さないが、心には怒りの火が小さく灯った。

 

自分は悪くないにも関わらず、痛い思いをするのは御免である。

ニッコリと微笑む。それは怒りの笑みだった。

 

「ごめんね。僕はやるべきこともできない人と恋人になる気は毛頭ないんだ」

 

「「「!!!ご、ごめんなさい!!!」」」

 

皆慌てて作業を始める。それを見てシャルルは一度長く息を吐く。

 

次に顔が上がった時には、彼は屈託のない笑みを浮かべてグループの皆のもとへ歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、それでいい。降りて次の人へ」

 

「ふぅっ…」

 

IS実習の最中。クラウスは生徒たち(全員女子)を指導し、順調に進めていった。だが。

 

「あまちゃ〜ん。これじゃ私乗れないよ〜?」

 

「最初よくやるミスだな。少し待っててくれ、俺が乗って」

 

「ダメですよ!危険です!」

 

「…山田先生、そうは言ってもどうやって…」

 

ISを初めて操縦した時に1番よくやってしまうミスとはなんだろう。

 

うまく歩けず転ぶことか。それとも起動がうまくいかないことか。

確かにどちらもとても多い。だが、1番ではない。

 

1番多いのは、

 

しゃがませ忘れた(・・・・・・・・)時は、原則専用機持ちの人がISで運んであげてください」

 

そう、しゃがませ忘れる事だ。

 

ISは例外3人を除き女性が扱うものであるため、それをやってしまうと1人では乗ることができなくなってしまう。

 

男ならよじ登ればいいが、女性はそうもいかない。そのため、もう1人が運ぶのが一般的な対応だ。

 

そして他聞に漏れず、クラウスたちもそうせざるを得ない状況になった事になる。

 

「…わかりました。布仏、構わないか?」

 

「いつでもうぇるかむ!」

 

バッ、と両手を広げる本音。クラウスはその様子に苦笑い。そしてISを展開すると、どこか子供を相手にするような雰囲気を醸しながら本音を抱き上げる。

 

その瞬間、周りの生徒から声が上がった。

 

「あー!ずるい!」

「私も!」

「お、お姫様抱っこ!?」

 

「お前ら落ち着け…」

 

呆れるクラウス。そして彼にしがみついて笑う本音。やはりどこか親子のような雰囲気があった。

 

「ほら、布仏」

 

「抱っこの時間が短い〜」

 

「そりゃそうだろう」

 

直立状態のISは、操縦席までの高さは精々3メートルほどだ。そのためISで抱き上げてしまえばそれで終わりである。

 

「起動から歩行までだ。操縦席は座る感じで…そうだ」

 

「布仏本音。打鉄、行きま〜す!」

 

「いや、歩くだけなんだが」

 

「ロボットに乗ったらやりたくならない?」

 

「それは否定しない」

 

雑談しつつもしっかりと歩き、所定の位置まで行く。

止まると、本音は少しの間ある方向を見つめる。

 

「…どうした布仏?」

 

「なんでもないよ〜」

 

そして、そのまま(・・・・)降りた。

クラウスは黙って本音を見て、そして順番を待つ残りの女子へ目を移す。

 

彼女たちはスッと目を逸らした。

どういうことか納得し、ため息。

 

「…次の人」

 

「はぁ〜い」

 

語尾にハートマークがつきそうな声音で1人近付き、両手を広げる。

クラウスは何も言わず抱き上げ操縦席へ運んだ。

 

「えへへ…」

 

「どうしたんだ?そんなに顔を緩めて」

 

「なんでもないよ〜♪」

 

頭の中で疑問を浮かべていると、歩行を終えた彼女がいつの間にかしゃがまず降りていたことに気がつく。

 

「おいおい…」

 

「ごめんね♪」

 

その後はクラウスのグループの女子は全員しゃがまずにISを降り、その度にクラウスはため息を漏らすことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで実習は終わりだ。午後は使用した訓練機の整備を行うので、第一整備室に集まるように」

 

千冬の声が終了を告げ、昼休みに入る。

クラウスは1人で整備室へ行こうとしたが、一夏に呼び止められる。

 

「クラウス!昼ってヒマか?」

 

「まあ、優先しなきゃならない用事はないが」

 

「なら、屋上で一緒に飯食おうぜ!シャルルもいるしさ」

 

特に断る理由もない。一夏のことだ、十中八九あの3人(・・・・)も誘うだろうとは思うが。

 

また騒がしくなるな、と思う反面、嬉しくも思うクラウスであった。

 

そして、屋上。

 

「一夏!これはどういうことだ!」

 

「箒さん!抜け駆けは許しませんわ!」

 

「あんたらなんかの好きにはさせないからね!」

 

3人が憤慨。

これにより周りにはギャーギャーと騒いでるように聞こえるのだった。

 

「いや、シャルルはまだ学校のことなにもわからないし、1人にするわけにもいかないだろ?それに、はやくみんなと打ち解けて欲しいしな」

 

鈍感なのもなかなか罪である。一夏は異様にモテるが故、なおさらだ。

 

更に彼の表情から見る限り全く悪気がないのだから余計にタチが悪い。

 

「…僕、来てよかったのかな…」

 

苦笑いしながらシャルルが言う。同じくクラウスも苦笑い。

 

「一夏からすれば当然だが、あの3人はそうもいかないんたろうな」

 

あまりアグレッシブに行く性格ではない2人は、彼女たちのペースには到底ついていけなかった。

 

「それよりもはやく飯を…って、クラウス、それ手作りか?」

 

空腹に耐えかねたか、一夏が話を遮った。が、クラウスの持つプラスチックの容器に目が留まる。

 

「ああ、今日は早く起きて自分で作ってみたんだ。いつも食堂や菓子パンじゃ体に悪いからな」

 

2段になったその容器、弁当箱を分離し、それぞれの蓋を開ける。

片方には白米、もう片方には彩り豊かなおかずが詰められていた。

 

「おお〜美味そうだな!一口くれよ!」

 

「いいぞ、ほら」

 

おかずの容器を差し出す。だが、一夏は手を出せない。

 

「…そうだった、箸を」

 

「おう、さんきゅ」

 

受け取ると、おかずの中のひとつ、玉子焼きを掴み口へ運んだ。

 

「…美味い…美味いぞ…!!」

 

「味付けは勘だったんだが、どうやらうまくできたみたいだな」

 

一夏が硬直。気にする様子もなくクラウスは弁当をつついている。

 

「味見役にされたのか…」

 

「美味かったのだからいいだろう」

 

「おう、美味いから許す」

 

存在感を無くしている箒、セシリア、鈴の3人は不機嫌そうにしている。シャルルは笑顔で見守っている。

 

「…一夏、私も今日は弁当を作ってきた。よければ食べるか?」

 

「いいのか箒!?」

 

「ほら」

 

「サンキュー!」

 

なんだか餌付けされているように見えなくもないのだが、一夏本人は幸せそうな顔で箒お手製の弁当を頬張っているので何も言うまい。

 

「くっ…」

 

「油断した…先を越されるなんて…」

 

再び存在感を無くしているセシリアと鈴が悔しそうに顔をゆがめる。シャルルはどこから出したのか菓子パンを食べながらなおも笑顔で見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日の放課後。

いつものようにISの訓練のためアリーナに集まる専用機持ちたち。

そして今日はもう1人、シャルルも一緒である。

 

「一夏、ボクと対戦してくれないかな?」

 

「おう、いいぜ」

 

昨日の昼から存在感を失いがちな3人は不機嫌そうに一夏を睨みつけている。

クラウスは一夏は悪い事はしていないと思うものの、自身の身の安全を考え黙っていた。

 

対戦開始。

一夏の装備は雪片のみ。当然接近すべく行動する。

だが、シャルルは彼の動きを読み、近付かせることなく一方的に銃弾を浴びせていた。

 

それでもただやられる一夏ではない。

瞬時加速で弾幕を掻い潜りながら突進。シャルルはそれに対応して正確に狙いを定め引き金を引いた。

 

通常の瞬時加速であれば、完璧な対処だ。そう、通常であったなら(・・・・・・・・)

 

彼の撃った弾丸が当たる直前。

一夏は左のスラスターで真横(・・)に瞬時加速。それによって彼は左に急旋回、更に自らの身体も回転しそのまま蹴りの姿勢に入った。

 

シャルルは僅かに下がり、一夏の蹴りが紙一重で届かない位置を取る。それは反撃を考えてのことであり、この場合のセオリーと言えた。

 

しかし、セオリー通りいかないのが一夏のスタイルであり、クラウスの教えた戦術だった。

 

かつて鈴との戦闘でも見せた技。邪魔が入らなければ確実に入っていたであろう蹴り。

 

 

踵に装着された雪片弐型が、シャルルを襲った。

 

 

咄嗟に手に持つアサルトライフルを盾に使い、エネルギーの刃を防ぐ。

ライフルを中央で一刀両断にして、雪片は通り過ぎた。

 

だが、一度近付いたならそう簡単に離すわけにはいかない。一夏は再び右手に持ち雪片を振るう。

 

反撃や回避の暇を与えず攻撃。シャルルは左腕の盾で受け、いなし、距離を取る隙を探し続けた。

 

このまま一夏が押し切るかと思われた。だが、エネルギーを削り切れず反撃は終わった。一夏自身の救いようのない凡ミスによって。

 

 

蹴り飛ばした(・・・・・・)のである。自分から。

 

 

その後シャルルが再び一定の距離からアサルトライフルを撃ち続け、白式のエネルギーが尽きて試合終了。

 

微妙な面持ちのシャルルと、落胆している一夏。箒とセシリアは顔を背けて口もとを押さえ、鈴は腹を抱えながらも笑いを堪えている。

 

「…い、いちか。わるくはなかったぞ…」

 

流石にクラウスも笑いそうになり、緩む口を無理矢理引き締めながら一夏を労う。

 

「いっそ笑え…」

 

「あはははははははは!!!!!!」

 

「鈴お前じゃねぇっ!!」

 

(泣)と付きそうな一夏の憤慨が、アリーナに虚しくこだました。

 

「…でも、驚いたよ…まさか個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)を使ってくるなんて。それも真横に。あれ、かなり身体に無理がかかってたんじゃない?」

 

「ああ、あれはめちゃくちゃ痛かった…やるつもりはなかったんだけど、とっさにな」

 

個別連続瞬時加速は、機体の各スラスターをひとつずつ連続して点火させることで、より長い時間瞬時加速を継続する技。

 

ただし、使いこなすのは至難の技である。

 

まず、途切れさせずに点火しなければならない。更に点火させるスラスターの位置に合わせ機体制御。それも点火のタイミングを測りながらだ。

 

そしてその全てを、敵の攻撃から身を守りながら行わねばならない。

 

常に数個のマルチタスクを正確に行う冷静さと技術がなければ成功しない、難易度最高クラスの超大技である。

 

「俺ができるのは2回が限界だな。クラウスはもう少し行けるみたいだけど」

 

「せいぜい4回くらいだ。俺もまだまださ」

 

「よ、4回も…?」

 

ほぼ国家代表並みの実力である。それを知るシャルルは、それすら『まだまだ』と言ってしまうクラウスに驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜。

寮の自販機で飲み物を買いながら、シャルルは1人呟いた。

 

「今日の一夏の実力には驚いたなぁ…明日はクラウスとも対戦してもらおう。そうすればーーーーー」

 

 

 

 

 

いいデータが取れる(・・・・・・・・・)だろうね」

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

声の主はクラウス。だが、彼がここにいた事は問題じゃない。

 

(僕の考えてることがわかったの!?)

 

表情には出さない。その程度の事は訓練してきている。そして、シャルルは答える。

 

「…びっくりした。いるなら声をかけてくれればいいのに。データって、なんのこと?」

 

「君が1番わかってるんじゃないのかい?シャルル…いや」

 

次に彼が紡いだ言葉は、シャルルを戦慄させるものだった。

 

 

 

 

「とぼけても無駄だぜ。シャルロット(・・・・・・)・デュノア」

 

 

 

 

「…!!」

 

言葉も出なかった。1番知られてはいけない秘密を知られていた。

 

なぜ。どうやって。絶対に知られないように対策していたはずなのに。

 

思考がフリーズする寸前、クラウスは再び口を開く。

 

「あっははー、完全に予想外でフリーズかい?デュノア社は、いや、君の父親(・・・・)は面白い事を考えるよねぇ」

 

「…クラウス、いや、君は一体誰なの?」

 

それ以外に言葉が出なかった。

出会ってから、今日の放課後に話していたクラウスと全くの別人だった。

 

寡黙であまり感情を表に出さない人という印象だった。だが、今の彼は真逆。

 

陽気に話し、笑う。

しかし今の彼の目は、どこか濁って光を失っているように見えた。

 

昼間よりもずっとフレンドリーに話しかける目の前の人間は、かえって不気味に見える。

 

シャルルは全身に鳥肌がたつのを感じていた。

 

「何を言ってるんだい?僕は何も変わっちゃいないよ。ただ、僕が表に出てきただけ(・・・・・・・・・・)さ」

 

「………」

 

「信じられないといった顔だね。まあそれが普通の反応だよ。そんな事より君の話をしようじゃないか」

 

「…どうしようっていうの?」

 

「どうする?う〜ん…」

 

笑いながら顎を撫で、考える仕草をするクラウスに見える(・・・)人物の言葉を待つ。

 

自分の本名を言い当てられた時点で、おそらく自分が本当は女(・・・・)である事は知られている。

 

シャルルの頭の中では、最悪の結末が渦巻いていた。

 

まあ(・・)いいんじゃないかな(・・・・・・・・・)このままで(・・・・・)。僕には関係ないしねぇ」

 

「…え?」

 

「別に君が本当は女の子だとか、産業スパイまがいの事をしているとか、バラしたりなんてしないさ。『彼』もデータなら別に渡しても構わないみたいだし」

 

『彼』とは昼間のクラウスのことだろう。もっとも、シャルル…いや、シャルロットの耳には全く入っていなかったが。

 

「じゃ、僕はそろそろ寝ようかな。出てくるたびに深夜徘徊してちゃ身体が持たないからね」

 

そう言って踵を返し、歩き出す。

シャルロットはそれを黙って見つめていた。

 

角を曲がるのを見届けると、彼女(・・)はその場にペタンと座り込んだ。

緊張の糸が切れたせいだろう。暫く立ち上がることはできなさそうだ。

 

 

 

 

 

時間が経ち、立ち上がれるようになった時。

シャルロットは、自分の買ったお茶が無いことに気がついた。




前回の更新からかなり間が空きましたが、大して進化したというわけではないのが悲しいところです。
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