インフィニット・ストラトス ~An Irregular Bound~   作:れみんとぅ

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第11話 憎悪の理由

 

 

「…なあ、クラウス」

 

「なんだ」

 

昼休みである。天気がいいので、屋上で昼食を摂っていた。

一夏もクラウスも、自前の弁当を広げている。

 

そして、いつもの3人とシャルルは、今日はいなかった。シャルルはクラスメイトに捕まり、いつもの3人からは逃げてきたのだ。

 

「俺、なんであいつに引っ叩かれたんだ…?」

 

「俺が知るか」

 

一夏の左の頬には、紅葉のように赤い手形がついていた。

事の次第は以下の通りである。

 

〜〜〜〜〜

 

『えーと、ですね。今日は、というか、今日も、なんですけど、転校生を紹介します。入ってください』

 

真耶に言われ入ってきたのは、小柄な少女だった。

 

腰まで伸びる艶やかな銀色の髪。左眼の眼帯。他人を寄せ付けぬ雰囲気。

 

『…あの、自己紹介をお願いします』

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒだ』

 

真耶の声に必要最低限の自己紹介。そして再び沈黙。

 

『…あの、以上ですか?』

 

『以上だ』

 

同じような自己紹介しかしなかった一夏も、皆がずっこけた分いくらかマシだったろうか。

全く会話が続かず、すぐに静寂が場を支配していた。

 

『…お、織斑くん…』

 

『え、俺!?』

 

真耶は正面にいた一夏に助けを求めた。しかし求められても彼にもなにもできない。

 

だが、原因である彼女はその『織斑』に反応した。

 

『織斑…?そうか、お前が織斑一夏か』

 

『え?ああ、そうだけどーーーーー』

 

パァンッ。

乾いた音が響き、一夏は左頬がヒリヒリと痛むのを感じた。何が起きたのか理解するまでに、かなり時間がかかった。

 

『私は認めない…お前が教官の弟など、私は絶対に認めない!』

 

〜〜〜〜〜

 

「意味がわからん。俺が何をしたって言うんだ」

 

「教官、織斑、弟という単語から推測するに、第二回モンド・グロッソについてじゃないのか」

 

「…なんでわかるんだ?」

 

「彼女はドイツ人だ。織斑先生は昔教官をしていた事もあるらしいし、世話になったんじゃないのか」

 

クラウスとしては何も特別な事をしたつもりはないのだが、一夏は奇跡を目撃したかのような顔をしていた。

 

「…いやでも待て。それじゃあいつは軍人って事に」

 

「その通り。ラウラ・ボーデヴィッヒはドイツのIS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』隊長だな。階級は少佐、そしてドイツの代表候補生だ」

 

「で、なんでそいつに俺がビンタを食らう」

 

「『織斑教官に汚点を残させた奴は許さん』とでも思っているんじゃないのか」

 

第二回モンド・グロッソ。

優勝候補筆頭であった前回覇者の千冬は、決勝を棄権した。

理由は、自分の弟である一夏を何者かに誘拐された事を知ったからだった。

 

彼を見つける際に千冬はドイツの協力を受けたため、その借りを返すために1年間教官の職につく。

 

ラウラは彼女が教官であった時期に訓練を受けたのだろう、随分と慕っているらしかった。

 

「…俺だって、好きで誘拐されたわけじゃねえのに…」

 

「そうだな。一夏を恨むのは筋違いもいいところだ。ただ、あの雰囲気はまた何か仕掛けてくるだろう、注意しておいた方がいいな」

 

「…おう」

 

一夏はそれっきり黙ってしまった。

彼も千冬に罪悪感があるのだろう、複雑そうな顔をして弁当を食べている。

 

クラウスはどう声をかけていいかわからず、結局何も言わず昼休みは終わった。

 

 

「今日はクラウスと対戦したいな」

 

放課後、いつものようにアリーナに集まり訓練。シャルルはクラウスに対戦を申し込んだ。

 

「ああ、やろうか」

 

「お願いね」

 

向かい合う。端の方では箒、鈴、セシリアが一夏に何か言っていた。

 

「こう、どぎゅん!という感じだ!」やら「感覚よ感覚!なんでわかんないの!?」やら「回避は右に45度、下に12度ですわ!」やら聞こえるが、残念ながら一夏にはひとつも理解できていない。

 

彼にアドバイスをするのなら、もう少し簡単に説明しなければならない。逆に、箒のように擬音だらけだったり、鈴のように感覚だと言ったりといったざっくりし過ぎな説明でも伝わらないのだが。

 

「いくよクラウス!」

 

「どこからでもこい」

 

一方こちらは戦闘開始。

シャルルがアサルトライフルを連射する。クラウスはそれを回避、彼の周りを回るように動いた。

 

そのためシャルルは迂闊に動けず、その場から撃つしかない。考えなしに突進してはカウンターを受けてしまうからだ。

 

「くっ…!」

 

焦りが募る。明らかに、クラウスはシャルルの実力を測っている。そして、彼の動きは限界には程遠いと初見でわかるほど手加減されていた。

 

ライフルが弾切れ。投げ捨て、ナイフを構え突進する。

 

クラウスは動きを止めシャルルと向き合った。手にはスナイパーライフル。彼の額に照準を合わせている。

 

「このっ!」

 

引き金が引かれる瞬間、シャルルは身を沈め射線を回避、顔を上げる。

 

視界の中央、白い刃が迫った。ナイフで左に受け流す。

 

同時に右の脇腹に衝撃を受け吹き飛んだ。空中で立て直し相手を見る。

 

視界を投擲され回転する刀が覆いながら迫っていた。再びナイフで強引に弾き飛ばす。

 

「なっ…!!」

 

驚きの声が漏れる。同時に、自らの敗北を悟る。

 

直後、額に衝撃を受け、シャルルは大きく仰け反り宙を舞った。

 

 

「…なぜ怒っている」

 

「別に怒ってないよ」

 

「……」

 

模擬戦を終えてから、ずっとシャルルは頬を膨らませてそっぽを向いていた。その額が少し赤い。

 

「2人目か…」

 

「2人目?」

 

一夏の呟きに、クラウスが疑問を口にする。するとセシリアが。

 

「怒りますわよ」

 

「何故だ」

 

一夏としては何故こうも綺麗に額を狙い撃てるのか気になるところ。ついでに射撃の指導もしてもらいたいが、白式に射撃武装はない。

 

「遠慮なく撃つんだね、クラウスは…」

 

「模擬戦とはいえ戦闘。実戦を想定するのは当然のことだ」

 

「ああ…うん…僕が間違ってたよ…」

 

セシリアの時もそうだった。クラウスとの戦闘後は一夏を除く全員と少しの間ギクシャクするのである。

クラウスは全く気にしていない平常運転のお陰で周りが余計ぎこちなくなる。

 

だが、今回はそんな空気はすぐに払拭された。ただし、望まない形で。

 

「ねぇ、あのISってドイツのじゃない?」

「そうなの?まだ試作段階だって聞いたけど…」

「あの大きな砲身、どんな武装なんだろう…」

 

観客席で(主にクラウスと一夏を)見物していた生徒たちがある方向を見ながら口々に言う。

 

つられてクラウスたちもその方向を向いた。そこには、一夏へ過激な挨拶をかました少女がいた。

上から見下ろす彼女…ラウラ・ボーデヴィッヒは一夏を見据え、言った。

 

「ふん…それがお前の専用機か…ならば話は早い。私と戦え」

 

「断る。理由がねえよ」

 

一夏ははっきりと断った。だが、その返事は予想通りと言わんばかりにラウラは鼻で笑った。

 

「お前になくとも私にはある」

 

「もうすぐタッグマッチトーナメントがある。やるならその時でいいだろ」

 

「あくまで断るか…ならば戦わざるをえない状況にするまでだ!」

 

言葉と同時に右肩の砲身が一夏へ向いた。躊躇わず引き金を引く。

その瞬間に反応しシャルルは一夏の前へ出ると盾を構え、同じくクラウスは拳銃をホルスターから引き抜いた。

 

ドゴァッ!!

 

爆音とともに砲身(・・)が爆発した。ラウラも、そしてシャルルとクラウスを除く皆にも一瞬何が起きたのかわからなかった。

 

「なにっ…?」

 

「Mit dem Angriff ist es plötzlich sehr radikal(いきなり攻撃とは、随分過激だな)」

 

「「「!?」」」

 

皆の視線が声の主、クラウスに行く。

彼は拳銃をラウラへ向け静止していた。銃口からは細く煙が立ち上っている。

 

「…そういや、クラウスってドイツ出身だったな」

 

一夏が間抜けにそんな事を言う。

クラウスがなんと言ったのかは、彼とラウラにしか聞き取れていない。

 

「…ふん」

 

彼女は無言で立ち去った。

見えなくなった後、クラウスが一夏へ向き直る。

 

「やはり仕掛けてきたな」

 

「え?あ、ああ…まさか話が通じないとは思わなかったよ」

 

他の4人は腹立たしげな表情を浮かべている。その後は微妙な空気のまま、今日の訓練は終わった。

 

 

夜。

雲はなく、満月が美しく輝いている。

その月明かりの下、白銀の髪を揺らし、ラウラは静かに佇んでいた。

 

「教官…」

 

自らが慕う女性を思い浮かべる。厳しく、しかし優しく、凛とした表情の裏に慈愛に満ちた表情を持つ。

彼女、織斑千冬は誰よりも強い。ISの操縦技術も、人としても。

 

しかし、だからこそ。その千冬に汚点を残させた人間が許せない。

 

「私には弟がいる」

 

何故そこまで強いのか。そう尋ねた答えだった。その時の彼女の表情は、とても普段の千冬からは想像できないものだった。

 

ーやめてください教官。なぜそんな顔をするのですかー

 

「お前も会う機会があるかもしれないが、その時は気を付けろよ」

 

ーなぜ、そんなに優しい顔をしているのですかー

 

「気をしっかり持たないとーーーーー」

 

ーやめてください、教官…ー

 

そこで回想から現実へと引き戻された。背後から足音が聞こえたからだ。

ラウラは軍人である。自分の背後からの気配には人一倍敏感だった。

 

「誰だ」

 

コンバットナイフを引き抜き振り返る。気配の主は肩をすくめながら彼女へ声をかけた。

 

「Es tut mir leid. Ich wollte nicht zu erschrecken, aber.(すまない。驚かすつもりはなかったんだが)」

 

「Sie hinter dem Militär stehen nicht. Ich weiß nicht einmal, so etwas tun?(軍人の背後には立つな。そんな事もわからないのか?)」

 

相手は初めて教室に入った時、あの織斑一夏の隣に座っていた人間だった。

世界で2人目の男性IS操縦者。名前はクラウス・アマーリアと言ったか。だが、そんな事は微塵も興味がなかった。

 

「Ich tue es nicht, dass er musste leider Armee. Manövrieren des IS auch ich Autodidakt. I Klaus Amalia. Ich werde fragen, Grüße, Laura Bodewig Dur(生憎軍にいた事はないもので、ISの操縦も独学だ。俺はクラウス・アマーリア。よろしく頼むよ、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐)」

 

「ふん…」

 

「…久しぶりにドイツ語を話すと疲れるな。日本語でも構わないか?」

 

「好きにしろ」

 

ドイツ人同士、ドイツ語で会話もできるが、クラウスの言う通り、他の言語を話すのが長くなるとドイツ語は疲れるのである。

 

「何の用だ」

 

「いや、特に用はない。月が綺麗だったんでな」

 

明らかな嘘。しかしラウラは指摘することなく、再び月を見上げた。

長い沈黙。それを破ったのは、ラウラだった。

 

「…私は、遺伝子強化試験体だ。生まれてからありとあらゆる武器の扱いを教え込まれ、全て優秀な成績を残していた」

 

「遺伝子強化試験体…生体兵器、か?」

 

「近いが違う。いわゆる試験管ベビーだと思えばいい」

 

なぜ、自分の身の上話をし始めたのか。彼女自身もわからなかったが、まるで別の生き物のように自分の口は声を紡ぐ。

 

「しかし、ISの適合性向上のために越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の手術を受け、それが暴走した」

 

「…擬似ハイパーセンサーのことだったか」

 

「力を制御できず、私はその後全て基準以下の成績にまで落ちた。周りから『出来損ない』の烙印を押され、私は自らの存在価値を見失っていた」

 

クラウスは時折確認するだけで、黙って聞いていた。ラウラは続ける。

 

「そんな時に、教官に出会った。教官の訓練は厳しいものだった。それこそ何度血反吐を吐いたかわからん。だがそのお陰で私はまた部隊最強に返り咲き、黒ウサギ隊(シュヴァルツェ・ハーゼ)の隊長になれた」

 

「…その誰よりも慕う教官の『汚点』は許せない、と?」

 

「当たり前だ!!」

 

核心を突くクラウスの質問に、彼女は声を荒げ噛み付くように言い返した。

 

「あの時教官は確実に2連覇を果たしていたはずだ!!奴さえ居なければ!!教官は!!決勝を棄権することなどなかった!!奴さえ居なければーーーーー」

 

「それは違うな」

 

「…なんだと?」

 

感情が爆発し一気にまくし立てるラウラの言葉を、クラウスは静かに遮った。

大声を出したわけではない。しかし、その声に彼女は次の言葉を発することなく押し黙った。

 

「きっと、織斑先生はあいつがいたからこそ(・・・・・・・・・・)第一回のモンド・グロッソを制したんだ」

 

「ふん。戯言を」

 

「守るべきもの、守りたいものがある人間は驚くほど強いものだ。それが自分の尊敬する人間や愛する者なら、なおさらな」

 

彼女はなにも言わなかった。クラウスは続ける。

 

「俺に兄弟はいないから兄弟愛はわからない。だが、織斑先生と一夏が互いに思いやっているのは見ていてはっきりとわかる。ボーデヴィッヒ、お前にも居るはずだ。守りたいと思う、家族のような存在が」

 

再び沈黙だけが帰ってくる。しかし、ラウラの眼には憎悪とは違う感情が渦巻いていた。

 

「きっと織斑先生は汚点だなんて思っちゃいない。むしろ誇りに思っているんじゃないか」

 

「そんはず…」

 

「あるんだよ。守りたい者を守れたと、自分が正しいと思う力の使い方(・・・・・・・・・・・・・・)をしたと」

 

彼女はなにも言えなかった。

 

ーもし、黒ウサギ隊の部下達が危険にさらされたら?ー

 

ーその時、自分だけが守る力を持っていたら?ー

 

自分は躊躇うことなくその力を振るっただろう。例え周りから非難されたとしても。

 

自分の大切な者を守れたのだと、自分は正しいことをしたのだと、そう思うだろう。

 

「"力"と"暴力"は紙一重だ。なあ、ボーデヴィッヒ」

 

彼の呼びかけにラウラは顔を上げた。目が合う。

クラウスの表情は、優しく諭すようなものだった。

 

 

「お前は、どんな時に引き金を引く?」

 

 

意味深な言葉。

しかし、ラウラの中に蠢いていた一夏への憎悪に、ヒビが入った。

 

 




ゴールデンウィークに兄が帰省しました。

兄「ただいま。相変わらずプロアクティブな顔してんな」

僕「プロアクティブ!?」
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