インフィニット・ストラトス ~An Irregular Bound~   作:れみんとぅ

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第12話 ラピッド・スイッチ

 

この日も、アリーナではクラウスたちが訓練に勤しんでいた。ただし今この場にいるのは鈴、セシリア、クラウスの3人。一夏と箒は剣道の稽古、シャルルは用事があるからと今日は来ていない。

 

数ヶ月が経ち慣れてきたとはいえ、未だ話題の尽きない男性IS操縦者であるクラウスを一目見ようと、相変わらずアリーナの観客席には多くの見物人がいた。

 

そして現在、鈴×セシリア対クラウスの模擬戦中である。といっても、模擬戦と言えるほど拮抗しているわけではなく、クラウスがアドバイスしながら無傷でいなし続けているが。

 

「はぁっ!!」

 

「全て当てようとするな。もっと不規則に、牽制射撃と当てに行く射撃を織り交ぜて使え」

 

鈴の衝撃砲を難なく避け、更に接近し振り下ろされた双天牙月も余裕を持っていなし、つんのめった鈴自身を絡め取るように足に引っ掛け蹴り飛ばす。

 

「そこですわ!!」

 

「マニュアル通り過ぎる。敵の死角から狙うだけじゃなく敵の意識を死角から逸らすようにもビットを使え」

 

死角から飛んできたレーザーを天叢雲で振り向きざまに両断。セシリア自身からの狙撃も同じく両断する。

 

即座に武器を持ち変え二丁の拳銃で背面のビット2基を破壊、爆風に紛れてライフルでセシリアを狙撃した。

 

「もらったぁ!!」

 

その間に復帰した鈴が突進し牙月を薙ぎ払う。だがクラウスは身を沈め刀の鎬に滑らせていなした。

 

振り抜かれた鈴の腕を掴み遠心力を利用して投げ飛ばす。狙いは爆煙でこちらを確認できていないセシリア。

 

爆煙を破って飛んできた鈴にまずセシリアは驚愕し、それでも冷静に回避行動。

 

その時、向かって右に弾丸が通過した。セシリアは逆に、つまり向かって左に動き鈴を避けた。

 

 

その回避した先で、クラウスが刀を上段に構えていた。

 

 

迎撃も近接武装の展開もできず、彼の一閃をまともに食らってセシリアは地面に叩きつけられる。

そしてほぼ同時に、再び鈴が体勢を立て直しクラウスに向き直る。

 

その時には彼も次の行動に移っていた。

横薙ぎ。鈴は分裂し二刀流となった牙月で受けるも、重みに耐えられず弾き飛ばされた。

 

諦めず衝撃砲を放つ。だが僅かなタメの間にクラウスは彼女を蹴り降ろす。

 

 

下を向いた鈴の眼前に、レーザーが迫っていた。

 

 

直撃と同時に衝撃砲も発射。レーザーを撃ったセシリアにクリティカルヒット。

 

更に鈴は背中に衝撃を受け、鈴はセシリアに向かって勢いよく突っ込む。

2人は一発たりともクラウスにダメージを入れられず、揃って地面に転がされている。

 

見物人の誰かが「うわ…圧倒的…」と呟くと、転がる2人が悔しそうに、そして苦しそうに唸った。

 

 

「「納得いかないわ(いきませんわ)!!」」

 

ぶすっとした顔で、並んで整備室のベンチに座っていた鈴とセシリア。

気持ちが収まらないのか、自機の稼働データを見ていたクラウスに詰め寄った。

 

「なんで1発も、それも擦りすらしないのよ!?」

 

「私のブルー・ティアーズを死角に飛ばしているのにどうしてあそこまで簡単に避けられるんですの!?」

 

「……まず、凰だが」

 

2人の勢いに気圧されながらも、苦笑を返して話し始める。代表候補生が一般生に教わるという、なんとも滑稽な光景になっていた。

 

「凰は衝撃砲を、全て当てる気で撃っているだろう?」

 

「そ、そりゃ…全部当たれば早いし」

 

つまり牽制ゼロ。外せばそれなりにストレスになってしまう。

 

「それはそうだが、実力者同士の戦いで百発百中なんてまずありえない。そこを割り切って、牽制射撃を混ぜるべきだ」

 

代表候補生であればそのくらいやっていて当然のはずなのだが、鈴の実力ゆえにそうせずとも当てられたのだろうか。

 

「…わかったわ。やってみる」

 

素直に認める。だがクラウスは余計なことを口走った。より自覚させるためではあったが。

 

「突進しかしない猪は怖くないだろう?」

 

「ちょっと私が猪だっていうの!?」

 

「ほら、猪」

 

「うっ…」

 

ぐうの音も出ず黙り込む鈴。押し退けて今度はセシリアが詰め寄る。

 

「さあ!説明してくださいますの!?」

 

死角から(・・・・)しかこない(・・・・・)なら、死角だけ(・・・・)意識していればいいだけの話だ」

 

必ず死角からレーザーが来るのであれば、死角だけを気にしていればいい。他のコースからは来ないのだから。

 

「理屈はそうですが…」

 

「ついでに動きがマニュアル通り過ぎる。だから読まれやすいんだ」

 

「…なるほど…」

 

基本通りの動きは、基本ゆえに読まれやすい。基礎は確かにとても重要だが、応用がないようでは上にはいけない。

 

「あとは、目視に頼り過ぎだな。だから爆炎が広がると追撃ができないんだ」

 

「で、ですが目視でなければ狙いが」

 

「レーダーがあるだろう?」

 

「れ、レーダー…ですの?」

 

ISのハイパーセンサーは、操縦者のあらゆる感覚を鋭くさせる。

さらにそれだけでなく、敵の座標が感覚的に(・・・・)わかるようになるという便利な機能まである。つまりは、見えなくても(・・・・・・)どこにいる(・・・・・)のかわかる(・・・・・)のだ。

 

「わかるのだから、そこに向けて撃てばいい」

 

「ですが…」

 

「見えていなければ確証が持てないか?爆炎に包まれてる敵に向けて『やったか!?』と言うのは漫画だけで充分だ。もっと自分のISを、ブルー・ティアーズを信頼してやれ」

 

自機を、機械を信用するというのはなかなか勇気がいるものである。だから未だ車や飛行機は完全な自動操縦になっていないし、必ず人が点検し整備する。

 

「信頼…」

 

「ISはただの機械じゃない。パートナーだろう?戦地を共に駆ける、唯一無二の戦友(・・)だ」

 

国家代表となり、実戦配備、あるいはモンド・グロッソに挑むとなれば、頼れるのは自分の腕と戦略、そして自分の操るISだけだ。

自らの命を預けるのだ。絶対の信頼を置いていなければ、全ての力を発揮することはできないだろう。

 

「…わかりました。もっと私の相棒を信じてみますわ」

 

セシリアは左耳についているイヤーカフスに触れながら、はっきりとした声で返事をした。

その姿を見て、クラウスは満足そうに頷き、再び稼働データの確認に戻る。

が、しかし再び作業を中断。今度は箒との稽古を終えた一夏が駆け寄った。

 

「クラウス!模擬戦しようぜ!」

 

やれやれ、と苦笑いを噛み殺しながら、彼は一夏へ向き直る。

 

「今しがた凰とオルコット相手に模擬戦をしたばかりだ。エネルギーが切れかかってるから、打鉄ででもいいなら相手になるぞ」

 

「もちろんだ!まず打鉄のお前に勝てなきゃ話にならないもんな!」

 

なんとなく嬉しそうにしているのは気のせいだろうか。後ろでは先程まで稽古をつけていた箒が不敵な笑みを浮かべていた。

それに気が付いた鈴が話しかける。

 

「なに笑ってんのよ?」

 

「見ていればわかる」

 

「ふぅん…?」

 

クラウス対一夏の模擬戦。

話題の男子2人の対決ということもあり、アリーナでクラウスと代表候補生2人の模擬戦を見ていた者、箒と一夏の稽古を見物に行っていた者。両者が同じ場所に集まったことで、結構な人数になっていた。

 

「行くぜ!」

 

「ああ」

 

いきなり瞬時加速。真正面から一夏が突っ込んだ。

トップスピードのまま雪片を上段から振り下ろす。

 

クラウスは近接ブレードを中段から持ち上げ受け流す構えに。しかし、刃が火花を散らすことはなかった。

 

 

一夏は一度雪片を引き、軌道を縦から横に切り替えたのだ。

 

 

剣道でよく見られるフェイントである。

通常、面から入るのであれば小手に行くことが多い。しかしIS戦において小手はほぼ効果はないため、一夏は面から胴へ切り替えた。

 

ただ、そのためにフェイントの練習をするのでは、簡単に見破られ逆に利用されてしまう。

 

必要なのは、面や胴の練習(・・・・・・)である。

対戦相手に『本当に打つ』と思わせるためには、そこに本気の気迫が籠っていなければならない。フェイントのための練習では、その気迫は備わらない。

 

しかし一夏は、長い間竹刀を握っていなかった。ブランクがある分、その太刀筋にはブレが生じる。

では、そのブランクを埋め合わせるために、何をしたのか。

 

そのための、開始早々の瞬時加速である。

 

得られたスピードを全て乗せて振り下ろされれば、フェイントかどうかなど考える暇はほとんどない。

 

故にクラウスは、防御のため刀を持ち上げた。それによって胴が空き、一夏はそこへ雪片を振るう。

完全に虚を突いた一撃。一夏は入ると確信する。

 

だが。

 

「…驚いたな」

 

ギャリィィィ!!と耳障りな音と火花を撒き散らし、一夏の雪片とクラウスのブレードは打ち合った。

 

「なっ…!?ひ、左腕一本(・・・・)かよ!」

 

彼は、左腕だけで一夏の雪片を受け止めていた。

 

一夏は両手持ちで、更に当たる瞬間に全ての力を込めた。つまり片腕で受けるのはインパクトの瞬間をズラされない限り不可能である。

あの状況で、クラウスは咄嗟にやってのけたのだ。

 

刀の峰に右手を添え、クラウスは笑う。

 

「一瞬引っかかった…磨けば必中の一撃になるだろうが…今はまだ詰めが甘い!」

 

「うおっ!!」

 

雪片を弾き、更にその手にもう一撃。

片手持ちになったところに一撃を浴び、一夏は雪片を弾かれる。

 

これで一夏は丸腰。クラウスは間髪入れず右の蹴りを放ち、彼をアリーナの壁に吹き飛ばす。

 

壁に叩きつけられたことで肺の空気が全て吐き出され、一夏は苦しげに声を漏らした。

 

ほぼ同時、顔の左数センチ横に刀が突き刺さる。

 

「詰みだ」

 

「うっ…」

 

追撃を避けるため右へ顔を向けると、額にピッタリとアサルトライフル『穿千(うがち)』が突きつけられた。

 

「…参ったよ。まだ勝つどころか一撃も入れられねえや」

 

「かなりギリギリだったがな。あの時偶然タイミングがズレていなければ負けていたのは俺だった」

 

ふうっ、と息を吐き出し、クラウスは言った。一夏はそれを聞いて目を丸くする。

 

「え?あれってたまたまだったのか?」

 

「狙ってやるだけの余裕はなかった。まともに受けていたら得物を弾かれていたのは俺だ」

 

少しずつだが確実に、自分はクラウスに近づいて行っている。

いつか、肩を並べ、背中を守ることができるだろうか。

 

一夏は自らの成長を実感し、しかし再び気を引き締めるのだった。

 

 

訓練後は食堂で夕食を摂るのは、もはや習慣のようになっている。こうすることでクラウスや一夏と話したい女子が近寄れないのだが、箒、鈴、セシリアの3人にとっては好都合だった。

 

そして誰が一夏の隣に座るかで、いつもの3人が火花を散らすのもまた、もはや恒例行事となっていた。

 

「あ、みんな!」

 

「シャルル!席空いてるぞ、こっち座れよ」

 

「うん。ありがとう一夏」

 

結局、大抵は一夏の隣は男子2人で埋まるのだが。

 

「それにしても、今日のクラウスはいつも以上に速かったように思ったんだけど…」

 

シャルルが注文を終えて席に着くと、思い出したように一夏が話し出した。

 

「そうねぇ…なんか、武装の切り替えが意味わかんないくらい速かったように思うわ」

 

「一瞬で切り替えていましたわね。あれは一体どんな芸当ですの?」

 

鈴とセシリアも同意する。その質問には、シャルルが答えた。

 

「それは多分、高速切替(ラピッド・スイッチ)をやってたからだと思うよ」

 

「高速切替?」

 

一夏は聞いたことがないと、彼へと聞き返す。一方代表候補生2人は知ってはいるのか、ある程度合点がいったようだった。

 

「事前に武器を呼び出すことなく、リアルタイムで切り替えるんだ」

 

「そんなことができるのか?」

 

「一応ね。だけど状況に合わせて正確な武器選択ができないと逆に致命的な隙ができちゃったりするんだよ」

 

ほぇ〜、と間抜けな声を出す一夏。鈴とセシリアが小さく吹き出し、彼は赤面した。

 

「そうなると、戦闘中にかなり器用な事をこなさなければならないのではないか?」

 

箒の問いかけに、シャルルは頷く。

 

「その通り。だから技術としてはあってもほとんど使いこなせる人はいないみたい」

 

「…それをクラウスは使いこなしているということか?」

 

「いや。俺のは言うなれば『なんちゃって』高速切替だ」

 

クラウスの物言いに一夏、鈴、セシリア、そしてシャルルも思わず笑った。

笑われた彼は腑に落ちない顔をしていたが、気にするのをやめて説明に戻る。

 

「武装の数が少ないからな。そこまで苦労はしない。本当の高速切替はもっと多い…それも10や20を超える数を操ることだ」

 

「3つでも充分言えると思うけど…」

 

「シャルル程じゃないさ」

 

今のやり取りから、まさかと箒が口を開く。

 

「察するに、クラウスに高速切替を教えたのは…」

 

「うん、ボクだよ。武装が少ないとはいえ、説明してすぐに成功させたのには流石にびっくりしたよ」

 

やはり、そうだった。

クラウスが1人で習得したのではなく、シャルルに教わって習得したようだ。

ちなみに、と一夏が聞く。

 

「シャルルの武装の数はいくつなんだ?」

 

「う〜ん…20はあるかな」

 

「ファッ!?」

 

素っ頓狂な声を上げると、周りに笑われ赤面。しかしその驚異的な数字に鈴とセシリアもかなり驚いたようだ。

 

「まさかこんな身近にそんな使い手がいるとは…」

 

「世界って狭いもんねぇ…」

 

二桁を超す数の武装を高速切替で操るのは、モンド・グロッソに出場するほどの実力を持つ操縦者の中でもそうはいない。テクニックだけで言えば、シャルルは世界トップクラスだった。

 

「クラウスって、ひょっとして他のことも周りに教わってたりするのか?」

 

「大体全部な。射撃はオルコットに、剣術は篠ノ之に。鈴にはISでの近接戦闘の手解きを受けた。ああ、それと織斑先生から直接指導してもらったこともあるぞ」

 

「千冬姉から!?すごいなお前…ついて行けたのか」

 

「いや、何度も死ぬかと思った。俺にはまだ早いな」

 

「…だよな」

 

クラウスとて初めから強かったわけではない。惜しまぬ努力があってこそ、現在の強さがある。ただ、その努力をしているところを周りに見せないだけだ。

 

「…教えた途端勝てなくなったのはいささか癪ですけれど」

 

「"的当て"ならオルコットの方が上だが」

 

「慰めになっていませんわ」

 

射撃を教えてからすぐ自分を越えられてしまった。悔しいのは当然だろう。

同じく鈴と箒も当時を思い出したのか、肩を落とした。

 

「あの時はアンタが凌ぐのが精一杯だったのに、今度は私がそうなるなんて…」

 

「落ち着けばもう少しマシになると思うんだが…」

 

「うるっさい!わ、よぉ…」

 

暗に『猪突猛進』と言われ憤慨するも、自覚しているために尻すぼみに声が消えていった。

 

「始めた時は一本も入れさせなかったのに、今度は一本も入れられなくなった…」

 

「…単純なフェイントに簡単に引っかかるからな…」

 

「う、うるさい!わかっていても腕が勝手に動くのだ!」

 

それだけ彼の練度が高いのだろう。影でどれだけ竹刀を振るっているのか、箒には想像がつかない。

 

しかし、実力者に教わったとはいえ彼の成長スピードは『異常』と思われる程凄まじいものだった。

一体どんな訓練を積んでいるのだろう。それこそ血反吐を吐くような訓練ばかりなのだろうか。

 

皆気にしているが、口には出さなかった。

 

 




テスト前です。
僕は中の中、ど真ん中なので赤点などの心配はありませんが、今回は友達と勝負をしているのでいつもよりやる気がみなぎってます。
負けるとジュースを奢らないといけないので、もう必死です。
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