悪魔と呼ばれ慣れて 3rd   作:ボルメテウスさん

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炎氷雷

 割れた街灯の光は、死に損ねた星みたいに明滅を繰り返し、人気の途絶えた通りへ薄い白をまき散らしていた。

 砕けたショーウィンドウの破片は、道路脇へ溜まった雨水の残りへ沈み、ネオンの色を滲ませながら夜の底で鈍く光っている。

 昼間なら人の声や車の音で埋もれていたはずの市街地は、今や戦いの前触れを知って息を潜めたみたいに静かで、その静けさの中にだけ、異端な存在が持つ嫌な圧力がじわじわと広がっていた。

 

 ディケイドへ変身した俺は、抉れたアスファルトの上で重心を落とし、正面に立つキラーの動きを睨んでいた。

 仮面の奥からこちらを見返すあいつの視線には、単なる敵意だけではなく、理解者ぶった嫌悪と、自分こそが正しい異端だと信じ切った醜い確信が宿っている。

 その圧が路面の亀裂や折れた標識の影にまで染み込み、街そのものが敵意の器に変わっているみたいで、ひどく気分が悪かった。

 

 俺の斜め後ろでは、轟が右へ冷気、左へ炎を宿しながら、キラーの一挙手一投足を静かに追っている。

 昔みたいに、俺の背中だけを見て動く顔じゃない。

 今の轟は、自分の戦場をきちんと持ったうえで、それでも俺と並ぶべき瞬間を見極められるようになっていた。

 

「来るぞ」

 

 俺が低く告げるより早く、キラーが地面を砕きながら踏み込んだ。

 重い。

 だが、その重さは筋力だけで生まれるものじゃない。

 恨みと執着と、理解されなかった怒りを何重にも塗り固めたような圧が一撃ごとにまとわりついていて、真正面から受ければ腕ごと骨を軋ませてくる。

 

 俺はライドブッカーを斜めへ差し出し、キラーの振り下ろしを真正面で受けるのではなく、刃の角度で半歩だけ逸らす。

 火花が弾け、折れた街灯の足元でガラス片が跳ねる。

 そのわずかな軌道のずれを、轟は見逃さない。

 

「右を止める」

 

 短い声と同時に、轟の右手から冷気が走った。

 氷は路面の上を蛇みたいに這い、キラーの踏み込みの先を先回りして凍らせる。

 靴底が氷を噛み、わずかに重心が浮く。

 その一瞬があれば十分だった。

 

 俺は受け流したまま腰を沈め、キラーの懐へ低く潜り込む。

 ディケイドの蹴りが脇腹を抉るように叩き込まれ、鈍い衝撃が夜気へ響く。

 キラーは後退する代わりに、そのまま肘で押し潰すように反撃してきた。

 真正面から受ければ重い。

 だが、今の俺には、その真正面の重さを削る相棒がいる。

 

「左は逃がさない」

 

 轟の左手から放たれた炎が、夜の空気を赤く裂いた。

 ただ燃やすための火じゃない。

 進路を限定し、逃げ道を削り、相手の反撃の形を狭めるための熱だった。

 赤い火線がキラーの背後を舐めるように走り、その装甲の表面を炙る。

 熱に追われるようにキラーが身体をひねった、その角度が次の答えになる。

 

「悪くない」

 

 俺が横へ飛びながら言うと、轟もまたわずかに前へ出た。

 

「そっちもだ」

 

 短い返答の後、轟の炎と氷が連続で走る。

 冷気で足場を狂わせ、熱で視界を揺らし、そして俺がその隙へ刃を差し込む。

 昔の訓練では、俺が作った型へあいつをはめ込んでいた。

 だが今は違う。

 今のこれは、互いが互いの動きを前提にして噛み合っている。

 師弟のまま、それでも対等に近づいた呼吸だった。

 

 キラーが一度大きく距離を取る。

 折れた看板を背にして、仮面の奥の眼がぎらりと光った。

 その視線は、今度は俺ではなく轟へ向いていた。

 

「師弟、か」

 

 キラーの声は静かだった。

 静かなくせに、耳へ入るだけで嫌な棘が残る。

 

「導く者は、いずれ導けなかった者を背負う」

 

 風が吹き、砕けたポスターの切れ端が俺達の間を横切った。

 キラーは続ける。

 

「教わる者は、いずれその教えを裏切る」

 

 轟の肩が、ほんの一瞬だけ強張った。

 それは本当にわずかな揺れだったが、こういう手合いはそのわずかを狙う。

 

「それでも並ぶのか」

 

 俺は振り返らない。

 振り返らないまま、キラーだけを見据えて吐き捨てた。

 

「気にするな」

 

 短く切る。

 余計な説明はいらない。

 

「そういう手合いは、自分が捨てたものを他人にも押しつける」

 

 背後で轟が静かに息を吐く気配がした。

 それだけで十分だった。

 立て直したと分かる。

 

「……分かってる」

 

 キラーが嘲るように肩を揺らす。

 その動きと同時に、さっきまでより一段深い踏み込みで突っ込んできた。

 今度は俺達の間へ割り込み、連携そのものを叩き壊すつもりらしい。

 道路が大きく裂け、街灯の残骸が吹き飛び、ビル壁面のガラスへ亀裂が走る。

 被害が広がる。

 長引かせるほど、こっちの不利は増す。

 

「重い……!」

 

 轟が氷で受けながら低く漏らす。

 氷壁が一瞬で軋み、白い破片が吹き散る。

 そこへ炎を重ねて押し返すが、キラーは執念ごと押し込むように前へ出る。

 

「だが、まだ崩せる」

 

 俺はそう言いながら、キラーの重心と軸の残り方を見る。

 重い敵には、重いまま壊れる瞬間がある。

 怨念で立っているならなおさらだ。

 押し切る時にこそ、身体は本音を晒す。

 

「轟、少しだけ時間を作れ」

 

「何をする気だ」

 

「お前と一番噛み合う力を使う」

 

 轟の目が一瞬だけ細くなる。

 問い返すより早く、右手の氷が高く噴き上がり、左手の炎がその周囲へ壁を作る。

 青白い氷柱と赤い熱が夜の交差点を切り取り、その中へ敵と俺だけを閉じ込めるように空間が歪んだ。

 その一瞬の遮断の中で、俺はカードを引き抜く。

 

「見ておけ、轟」

 

 ディケイドライバーへ叩き込み、冷えた空気ごと押し開く。

 

「今のお前と並ぶなら、こっちの方がいい」

 

『FORM RIDE!REVICE! Come on! サンダーゲイルGO! 一心同体! 居心地どうだい? 超ヤバいっす! 豪雷と嵐でニュースタイル 仮面ライダー! リバイス!』

 

 電子音声が夜の街へ派手に響いた直後、ディケイドの輪郭がほどけ、その上から別の力が重なっていく。

 装甲の色が変わり、全身へ走る雷光と風圧が、まるで嵐そのものを纏うみたいに周囲の空気を震わせた。

 豪雷と嵐。

 一人で完結するためじゃなく、二つの力が一つへ噛み合ってこそ意味を持つ戦い方。

 今の轟と並ぶなら、これ以上ない答えだった。

 

「その姿を使うのか」

 

 轟の声には驚きが混じっていた。

 だが、その驚きは否定じゃない。

 師匠が何を重ねたのか、その意味へ一瞬で辿り着いた声だ。

 

「お前に一番近い」

 

 俺はリバイスの姿のまま、正面のキラーを睨んで答える。

 

「一人じゃなく、並んで戦うための力だ」

 

 その言葉で、轟の気配が変わった。

 背中を追うのではなく、並ぶ。

 守られるのではなく、噛み合わせる。

 今の戦いはそういう形へ変わったのだと、あいつ自身も受け取ったらしい。

 

 キラーが再び踏み込む。

 その一歩へ合わせて、俺は雷を引くように前へ出た。

 リバイスの機動は、ただ速いだけじゃない。

 風圧そのものが進路を押し広げ、拳の一撃へ豪雷が重なる。

 真正面から殴り合うように見せながら、実際には敵の軸を一気に削るための突破力だ。

 

「右足が浮く」

 

 俺が踏み込みながら叫ぶ。

 

「なら左を止める!」

 

 轟が即座に応じ、右手の氷がキラーの左足首へ絡みつく。

 凍結した路面が軋み、キラーの片足だけがわずかに遅れる。

 その半拍のずれへ、俺の豪雷を宿した拳が叩き込まれた。

 

 鈍い衝撃音が夜へ響く。

 拳圧が前方の空気をねじり、巻き上がった粉塵とガラス片が小さな竜巻のように街路樹の周囲を舞った。

 キラーの身体が大きく揺れる。

 まだ倒れない。

 だが、その踏みとどまり方自体が、次の拘束になる。

 

「今度は逃がさない」

 

 轟の左手から炎が走った。

 赤い熱がキラーの背後へ回り込み、退路を焼き切る。

 同時に、下からは氷がせり上がり、左右と後方、さらに足元までが一気に狭まっていく。

 俺はその閉じた空間の中心へ敵を押し込み、リバイスの風と雷で体勢をもう一段崩した。

 

 ここから先は、どちらか一人では完成しない。

 俺が引き込み、轟が閉じる。

 轟が止め、俺が穿つ。

 その全部が噛み合って、初めて答えになる。

 

「師匠、今だ!」

 

 轟の声が夜気を裂く。

 

「分かってる!」

 

 轟が両手を同時に振るった。

 氷と炎が螺旋みたいに交差し、キラーの周囲へ白と赤の拘束を描く。

 動きを奪い、装甲を脆くし、逃げ道まで焼き潰す決着の形。

 俺はその中心へ向けて跳ぶ。

 豪雷と嵐を纏った脚へ、街路樹の葉を揺らすほどの風圧がまとわりついた。

 

 キラーの仮面が俺を見上げる。

 その奥で、異端の怨念が最後までこちらを睨みつけていた。

 

「異端が……異端のままで……!」

 

「違うな」

 

 俺は空中で身体を捻りながら言う。

 

「俺達は、お前みたいにそこで止まらない」

 

 轟の炎と氷が、ちょうどその言葉へ重なるようにキラーを締め上げる。

 そして次の瞬間、俺の必殺キックがその中心へ突き刺さった。

 

 爆ぜる。

 雷光が裂け、風圧が広がり、氷片と火花と白い蒸気が夜の交差点を一気に埋め尽くす。

 衝撃波が砕けたショーウィンドウの破片をさらに跳ね上げ、周囲の紙屑が渦へ巻き込まれながら高く舞った。

 キラーの装甲は中心からひび割れ、怨念じみた圧がばらばらに砕けていく。

 最後に聞こえたのは、怒りとも悔恨ともつかない歪んだ叫びだった。

 

 その声もすぐに途切れ、異端のライダーは膝から崩れ落ちる。

 夜の街へ残ったのは、焦げた金属の臭いと、溶け始めた氷が路面を細く流れる音だけだった。

 

 俺はリバイスの姿のまま着地し、ひび割れたアスファルトの上でゆっくりと姿勢を戻す。

 少し遅れて、轟もまた腕を下ろした。

 赤い炎は静かに消え、白い冷気だけがまだ薄く宙へ残っている。

 戦いは終わった。

 だが、勝利の感触だけじゃないものが、この夜には確かに残っていた。

 

 割れた街灯の光の下で、轟がこちらを見る。

 表情は大きく動いていない。

 けれど、その瞳の奥にあるものは分かった。

 昔みたいに追いかけるだけじゃなく、今の自分でも師匠と並べた。

 その手応えを、あいつは静かに確かめている。

 

「……久しぶりだったな」

 

 轟の声は低く、けれどどこか素直だった。

 

「そうだな」

 

 俺は短く返す。

 

「でも、悪くなかった」

 

 その言葉に、俺はほんの少しだけ口元を歪めた。

 街はまだ壊れたままで、敵の爪痕だって消えていない。

 それでも、この夜に師弟として得た答えは、確かに悪くなかった。

 

「授業としては上出来だ」

 

 そう言うと、轟がわずかに肩を揺らした。

 笑ったのか、それとも呆れたのか、たぶん両方だろう。

 

 夜風が通りを抜け、砕けたガラスの表面を撫でていく。

 戦いの熱を失った市街地は、ようやく深夜らしい冷たさを取り戻し始めていた。

 俺は崩れ落ちたキラーの残骸から視線を外し、その先の暗がりを見た。

 これで終わりのはずがない。

 この異端の夜の先には、まだ別の面倒が待っている。

 

 だが少なくとも今夜だけは、久しぶりに並んだ師弟の呼吸が、確かに次の戦いへ繋がるものになった。

 それだけは、壊れた街灯の白い光の下で、妙に鮮やかに残っていた。

 

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