事が事だった為、気になった俺は、現場へと向かう。
「・・・それにしても、財団Xなのか、それともハンドレッドなのか」
こうして、改めて見ると、原種の存在が、どれ程厄介な存在なのか、改めて知る。
強さに関しては、おそらく、なのは達だけでも十分に勝つ事は出来るが、その特性で恐ろしいのは捕食した対象を強化すると共に支配する事。
それらの特性を見て、一番に思い出したのはインベス。
「なんか、思い出しているようだけど、どうかしたの、ツカサ?」
「・・・何、侵略種の特性に似た奴らを思い出したんだよ」
「ボス!それって、どんな奴!どんな奴!」
「馬鹿犬は騒がないの」
「雌猫には聞いていない」
思い出している最中で、ゼータが話しかけたが、そんな事をお構いなくデルタが横から入ってくる。
それで機嫌が悪くなったゼータとその挑発に乗ったデルタは相変わらず喧嘩を始めてしまう。
「はぁ、良いから」
『それ、ウチも気になります。先生が言う似た奴ってなんですか?』
「お前はお前でちゃっかりとしているな。まぁ、あくまでも似ているだけだし、かなり違う部分もある」
『それでも参考程度で』
「・・・インベスと呼ばれる奴らだ。そいつらはヘルヘイムの森に自生しているヘルヘイムの果実を喰らう事によって、どのような生き物でもインベスに変える。そして、そのインベスは理性を失い、人々を襲う事がある」
『なるほど、侵略種と似ている部分は確かにありますね』
「・・・あぁ、そうだな、そう考えれば」
ふと、考えたのはシイナに関しても似ている部分があった。
最初は、ウィザード達と似た存在だと考えていたが、より近いのはエグゼイドの永夢とパラド、リバイスの一輝とバイスのような感じかもしれない。
「・・・それが何か関係しているのか、いや、それとも「ぎゃぁぁぁぁぁ!」っ!」
「・・・馬鹿犬、分かっていると思っているけど」「グルルルルルッ」
叫び声と共に、俺達は既に、叫び声がした場所へと走り出していた。
搬運箱が六つ、整列していた。どれも空だ。
中身を抜かれた後の蓋が開け放しになり、緩衝材の端切れが箱の底に薄く敷かれている。ゼータの足音が倉庫の床を短く叩き、調査灯の光が天井の梁を這った。
映像は調査班の隊員が身につけたカメラから送られている。手ぶれが小刻みだ。緊張しているのが分かる。
「搬送箱、確認。六つすべて空です。番号は——」
調査班の隊員が手元の端末へ番号を読み上げようとした時、ゼータの声が低く重なった。
「下がって。まだ触らないで」
隊員の手が止まった。調査灯の円がわずかに揺れ、倉庫の奥へ滑る。
光が届いた先に、それはあった。
作業台の脇に、人型の鎧が沈黙していた。
直立しているわけでも、椅子に腰かけているわけでもない。膝を少し折り、両腕を垂らした姿勢で、まるで本体だけが抜け落ちた抜け殻のように立っている。輪郭のライン、装甲の配置、胸部から肩へかけての分割面——見覚えがある。
メガヘクス。
俺がいくつかの世界で見た、あの機械質な静止姿勢と同じ枠組みだ。だが、映像越しでも違いは目につく。装甲の継ぎ目が整っていない。 ずれている。曲線の角度が左右で微妙に歪み、完全な対称を作れていない。
そして、頭部に眼がある。
調査灯が向けられると、その眼が濡れたような光を返した。瞳孔が細まる。灯を追っている。
俺は画面へ指先を添えた。ズーム。解像度が粗くなるが、頭部の眼だけは鮮明に浮き上がった。濡れた球体。瞳孔の収縮。あれは機械のセンサーじゃない。
「——メガヘクスに似ている」
通信へ向かって短く告げた。
「だが、あの眼は違う」
『どう違うんです?』
ハヤテの声が端末から返る。総督として指揮席にいるはずだ。背景に低い操作音が混じっている。
「メガヘクスの眼は光源を反射する。あれは自ら光を返している。生き物の眼だ」
『生き物……』
ハヤテが復唱したきり、通信が一瞬沈黙した。
猫科の獣人らしく、足音をほとんど立てずに鎧へ近づく。調査灯が照らす範囲の縁を歩き、鎧の正面へ回り込まないように位置取りを変える。ゼータの視線は鎧の顔ではなく、肩と胸の継ぎ目に向いていた。
「……隙間で膜が動いている」
ゼータの声が低い。報告というより、自分へ言い聞かせている響きだった。
残置された装備——空の搬送箱、取り外された保管設備、そして動かない鎧。最初はそれで説明がつくと思えたのだろう。持っていかれなかった残骸。だしゼータが判断を取り消した今、その説明はもう成立しない。
「中に何かいる」
デルタの声が上から降ってきた。
映像の端に、黒い戦闘衣の肩が映る。デルタが調査班と鎧の間へ移動した。腰が落ちている。獣の姿勢だ。鼻先がわずかに動き、金属の奥から漂う匂いを追っている。
「鉄の匂いの下に、生き物の匂いがする。——汗みたいな」
デルタが短く告げたあと、尾が一度だけ大きく振れた。警戒ではない。興味と、倒していいか迷う間の揺れだ。
「デルタ、今は近づかないで」
ゼータが淡々と釘を刺す。デルタは鼻を鳴らしたが、足は止まった。
その映像が俺の端末に届いた瞬間、俺は撮影していた隊員の手が止まったことに気づいた。調査灯の円が小さくぶれる。握っている手に力が入ったのか、それとも逆に力が抜けたのか。
鎧は、まだ動いていない。
だが、目玉が動いている。
頭部の眼だけではない。肩の継ぎ目、胸の装甲の合わせ目、肘の曲がる内側——そこに大小の目玉が覗いている。それぞれが別の方向を見ている。ゼータを見ているもの。デルタを見ているもの。調査班の隊員を捉えているもの。
一つの意思ではなく、それぞれが別々に周囲を観察している。
「……あれは一つの生き物なのか」
俺の呟きは通信に乗せなかった。問いかけではない。確信がないまま口に出しただけだ。確信がないことを、俺は口に出さない主義だ。だが今回は、自分でも氣づかないうちに漏れた。
『調査を中止。全員、退避してください』
ハヤテの声が飛んだ。指揮席から即座に判断が下りた。映像の向こうで調査班の隊員が一歩後ろへ下がる。
だが、その一歩が終わる前に、鎧の肩の隙間が膨らんだ。
膜が脹れる。内側から何かが圧力をかけている。装甲の継ぎ目が広がり、その間から濡れた表面が覗く。目玉が増えた。肋骨のあたりに当たる装甲の裏側から、新たな眼球が押し出されるように現れ、調査班の方を見た。
そして、鎧が立ち上がった。
膝が伸びる動作が重い。関節がきしむ音ではない。金属の内側で何かが蠕動する湿った音が、映像のマイクを通して俺の耳へ届いた。直立した鎧の頭部がゆっくりと回り、調査灯の光を正面から受け止める。
眼が、細くなった。
瞳孔が縦に裂け、光を絞る。それは確かに生物の反応だった。強い光を嫌う生き物の、原始的な防御反応。
全身の目玉が一斉に動いた。
同じ方向を見たわけではない。それぞれが、倉庫の中にいる人間一人一人を捉えた。調査班の隊員三人。警戒部隊の先頭二人。ゼータ。デルタ。六つの対象を、十数個の眼が同時に追っている。
映像が揺れた。撮影していた隊員が後ずさりしたのだ。
「——全員、搬入口へ」
ゼータの声が静かに響いた。
叫んではいない。だが、低く、鋭く、逃げ場のない指示だった。猫科の獣人が腰を落としたまま、退路を確認しながら一行の方へ向き直る。デルタが調査班の隊員の背中を軽く押し、搬入口の方へ促した。
鎧は、まだ追ってこなかった。
ただ、立っている。十数個の眼だけが、去っていく人間の背中を追っている。