婚約破棄が国を亡ぼす ~「最強」の戦乙女を追放した愚かな王太子たちは、それに気づかなかったようで~   作:みやび(雅媛)

8 / 8
最終話 王国の終焉、そして薔薇の女王の戴冠

 かくして、王国は一度滅びた。

 正確には、腐敗しきっていた王家と、それに連なる無能な貴族たちが一掃されたのだ。

 

 私がアーベルジュ騎士団を率いて王都の門をくぐった時、市民たちは枯れ果てた声で、しかし熱狂的に私たちを迎え入れた。

 彼らにとって私は、戦争の原因を作った愚かな王太子を一掃し、侵略者である帝国軍を追い払った「救国の英雄」だったからだ。

 

 城に残っていたのは、主を失った玉座のみ。

 私は迷うことなく、その前に立った。

 

「……誰もいないなら、私が座るしかないわね」

 

 異議を唱える者は誰もいなかった。

 北部の王家派貴族は壊滅し、東部は戦火で疲弊。

 生き残っている西部・南部の貴族たちは、私を旗頭として推してくれている。

 何より、最強の武力を持つ私に逆らえる者など、この国にはもう存在しなかった。

 

 ◇

 

 それから数ヶ月後。

 戴冠式が行われ、私は正式にこの国の女王――初代「薔薇女王」ヴィクトリアとして即位した 。

 

 そして私の隣には、王配としてルシアンが並び立った 。

 元は一介の執事である彼との結婚に、一部から身分差を懸念する声もあったようだが、彼の実務能力が黙らせた。

 戦後の混乱期、山積する問題を魔法のような手腕で片付けていく彼を、今や貴族も官僚も「影の王」として畏敬の念で見ている。

 

「……ふう。やっと落ち着いたわね」

 

 式典を終え、二人きりになった私室。

 重たい王冠を外し、ソファに身を沈めると、ルシアンが慣れた手つきで紅茶を淹れてくれた。

 

「お疲れ様でした、陛下。素晴らしい戴冠式でしたよ」

「よしてよ、その『陛下』って呼び方。二人きりの時はヴィーでいいわ」

「ふふ。では、ヴィー。……愛していますよ」

 

 ルシアンが私の隣に座り、肩を抱き寄せる。

 幼い頃からずっと傍にいた彼。

 執事として、乳兄弟として、そして今は夫として。

 彼がいなければ、私はあの婚約破棄の日に野垂れ死んでいたか、帝国に売られていただろう。

 

「ねえ、ルシアン」

「はい?」

「ふと思ったのだけれど……。今回の一連の騒動、どこまでがあなたの『手配』だったの?」

 

 私は気になっていたことを尋ねてみた。

 王太子の自滅、帝国の暴走、リリスの裏切り、そしてオスカーの死。

 すべてがあまりに都合よく転がりすぎている。

 優秀な彼のことだ。きっと、私の知らないところで色々と奔走してくれていたに違いない。

 

「策略だなんて、人聞きの悪い」

 

 ルシアンはきょとんとした顔で、けれど瞳の奥で悪戯っぽく笑った。

 

「私はただ、背中を押しただけですよ。愚か者がより愚かな方へ進むように、少しだけ囁いただけです。彼らが平均以上に馬鹿でなければ、こうも上手くはいかなかったでしょう 」

「……やっぱり。あなた、性格悪いわよね」

「お褒めにあずかり光栄です。全ては、愛する貴女のためですから」

 

 彼は私の手の甲に口づけた。

 その言葉に嘘はないと知っている。彼はいつだって、私のためなら何でもする人だから。

 ただ一つ、気にかかることがあった。

 

「じゃあ、工作のために色々な人と会ったでしょう? ……女性とも、親しくしたのかしら?」

 

 つい、口をついて出た言葉。

 嫉妬なんて女王らしくないけれど、彼が有能すぎてモテるのは事実だ。

 

 ルシアンは少しだけ目を見開き、そして今までで一番嬉しそうな笑顔を見せた。

 

「もしかして、嫉妬してくださっていますか?」

「……悪い?」

「いいえ、最高です」

 

 彼は私を抱きしめる腕に力を込めた。

 

「誓いますよ、我が女王陛下。私の心も体も、指先一つに至るまで、全て貴女だけのものです。他の有象無象になど、興味すら湧きません 」

 

 その言葉の重みに、私は満たされた気持ちで胸を預けた。

 彼が裏でどれほど手を汚したとしても、どれほど冷酷な策を巡らせたとしても、私に向けられるこの愛だけは真実だ。

 

「私もよ、ルシアン。大好きだわ」

「私もです、ヴィー」

 

 私たちは口づけを交わす。

 窓の外には、復興へと歩み出した新しい国の風景が広がっている。

 その礎(いしずえ)に、かつての愚か者たちの屍が埋まっていようとも、私たちが知ったことではない。

 

 最強の武力を持つ女王と、最凶の知略を持つ王配。

 二人が治めるこの国は、これから長く「バラ色の時代」として繁栄を極めることになるのだが――それはまた、別のお話 。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。