その二つの脅威を退けたスバルは屋敷にてエミリアらの帰りを待っていた。
が、どれだけ待っても彼女らは帰ってこない。
不審に思ったスバルはもう一度『聖域』へと赴くのだった。
メリークリスマス
まぁ正確にはイブですが
男女が熱い日ということでスバルとエミリアがいちゃつくお話です
アレな表現は出てきませんがいちゃつきます。なにせエミリアはあんなことやそんなことを知りませんからね。でもいちゃいちゃはします。
さながら新婚さんです。微笑ましいですね。本当ですよ?
タイトルが不穏だって?
キミのような勘のいい牡蠣はフライだよ
作者自身によるpixivからの転載となります。
ご了承ください
作者自身によるpixivからの転載となります。
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「スバル?どこにいるの?」
墓所の試練に挑むためにスバルに言われたこともあり、無理やりに睡眠をとった。あれだけ「側にいて」と頼んだのにスバルはまた約束を破って何処かに消えてしまった。
「なんで、なんで………」
エミリアはベッドの上で膝を抱え、涙を流す。パックも、スバルも、みんなみんないなくなってしまう。何を言っても、どれだけ言っても、それは変わらない。だれもエミリアとの約束を守ってくれない。
なんで?どうして?
だれも理由を教えてくれない。
△▼△▼△▼△▼
目の前に淡く光を発する墓所が見える。今日も今日とてエミリアは試練に挑む。何もわからず、ただどうしようもなく苦しい。
スバルも村のみんなもエミリアが試練に挑み、突破するのを信じてくれている。その期待にエミリアは答えられていない。それが重くのしかかる。
リューズやガーフィール、ラムの見張りの下、エミリアは墓所へと入った。
ここでもスバルは側にいてくれない。嫌だ。側にいてほしいのに。
『まずは己の過去と向き合え』
聞きなれた声と共にエミリアはその場に倒れる。
△▼△▼△▼△▼
「よし!間に合ったな!!!」
「そうみたいかしら」
墓所の前に村のみんなが集まっている。スバルがお願いした通りにしてくれたことにスバルは素直にありがとうを言いたい。
『聖域』にポツリポツリと普通は有り得ない雪がちらつく。ロズワールの野郎は自身の野望の為に毎度この雪を降らし、スバルに命の選択を強いてくる。それをはねのけるべく、スバルは動いた。
まず屋敷に戻り、ベアトリスと契約した。迫りくる『大兎』に対してスバルはベアトリスを当てる。
「スバル様!」
「みんな待たせたな!後は俺とベアトリスに任せろ!!なんたって初陣補正があるからな!頼ってくれていいぜ!!!」
勢いよく啖呵を切り、スバルは『大兎』を待ち受ける。魔力に惹かれる魔獣どもは必ず人の多いここに集まってくる。
△▼△▼△▼△▼
緑の葉に包まれ、上からは優しい日の光が注いでいる。
「見たことある………」
これはパックが封印していた昔の記憶と同じ景色。
「やあ。ここ数日は本当に千客万来だね」
辺りを見渡すエミリアに声が届く。さも当然のことのように木陰に佇む少女が一名。白い頭髪に黒の装束。麗しいという言葉の似合う魔女。『強欲の魔女』エキドナである。
「本当に、千客万来だ。歓迎すべき客人も──そうでない、招かれざる客人も」
「………」
「あれだけの醜態ぶりでよくもまあおめおめと顔を出せるものだね。その厚顔と諦めの悪さには、さしもの『ボク』も驚かされるよ」
エキドナはエミリアに隠すことなく悪意と侮蔑をぶつける。見た目からは想像もできないほどにその声と視線は冷え切っている。
「挫折して泣きじゃくっても、抱いてくれる男に媚びればそれでよしとする淫売め。何度も何度も、『ボク』だけの世界を汚す冒涜者め。幾度も幾度も、彼に許される自分を愛する恥知らずの背徳者め。――どうか言ったらどうだい、魔女の娘」
まただ。エキドナの言葉を聞くたびに胸が張り裂けそうになる。理解のない存在からのよくわからないぼんやりとしたものへの悪意は沢山受けてきた。でもエキドナの悪意はそれとは違う。エミリアを『エミリア』として理解し、その存在を嫌っている。
魔女はエミリアの試練の突破を望まない。
魔女はエミリアの来訪を望まない。
魔女はエミリアの存在を望まない。
凝りもせずエミリアの心に悪意のナイフが突き刺さる。
見慣れた獣道をエミリアは歩いてゆく。前を見ることもなく、ただの作業のようにエミリアは同じ行動を繰り返す。今度こそはという思いだけを胸にエミリアは歩いてゆく。
「あれが昔のキミかい?まだ何も知らないとはいえ、呆れるぐらいに能天気な顔をしているね」
「そう…ね」
気軽に放たれる言葉のナイフがエミリアに突き刺さる。
次第にエミリアの目に涙が浮かぶ。
「またそれかい?何度も何度もここに来て同じことを繰り返して。キミは全く学習しないね。何もしなくても甘や
かしてくれる存在がいるから仕方ないのかな?」
「……そんなの、いないわ」
「存在すら認識していないのかい?流石の『ボク』でも彼らに同情してしまうよ。今までキミのために命をかけていたのにね。薄情なものだ。」
エキドナの言葉には容赦の無い侮蔑が含まれている。
うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい
この魔女がパックやスバルの何を知っている。
自分勝手で約束も守らない。私はそんな彼らを知っている。
「嫌い。嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!パックも!!スバルも!大っ嫌い!!!」
頭を抱え、蹲ってエミリアは叫ぶ。濁流の堰を切って落としたように口をついて言葉が溢れ出す。
「ここまで惨めになれるとはね。驚愕に値するよ。」
エキドナの言葉はエミリアには届かない。
「スバル………」
エミリアは直前に嫌いと吐き捨てた人物の名前を呟く。寄る辺を失った子供のように。
▼△▼△▼△▼△▼△
「ハァ…ハァ……これで終わったんだよな?」
「そうかしら。奴らは別の次元に飛ばしたのよ。もうこっちに来ることは無いかしら」
「なら次はロズワール邸だ!時間がねぇ、ベアトリス頼む!」
「分かったのよ、スバル」
スバルとベアトリスは紫の光を纏い、墓所には目もくれず屋敷の方角へと帰って行った。
△▼△▼△▼△▼△▼
暗い石壁の部屋。エミリアはいつものようにそこですすり泣く。
今日の挑戦は終わりだ。また朝まで眠れないのだろうか。
そう思いながらエミリアは石の扉を開く。
「なんで、どうしてみんなここに?!」
エミリアの目に飛び込んでくるアーラム村の住民たち。彼らは異口同音に「スバル様」と口にする。
「そうなの、そうなんだ、スバルが……」
エミリアは俯き、そう口にする。
「突然ですが、エミリア様。この雪に心当たりはないでしょうか?」
一人の老婆が口を開く。
───まただ。
ここでもこの容姿は私を傷付ける。表面で無くなっても心の奥底の差別視は無くなりはしない。
それがどれだけ同じ村で過ごした人たちでも、それは変わらない。
老婆の言葉は既にエミリアの耳に入っていない。入れる価値もない。
聞き飽きた差別の言葉だろう。
エミリアは後退り、石の扉を再び開く。
ここだけはエミリアを守ってくれる。何も言わずにエミリアを受け入れてくれる。
「スバルは、なんで、なんで………」
スバルは理由は分からないけれど村のみんなのために動いた。
それが良いことだとエミリアは思う。
────私のために動いて。
スバルは何かのために何処かに行ってしまった。
────私の側にいて。
私だけのものでいて─────
ずっと、ずっと
▼△▼△▼△▼△▼△
「やっと、か………」
紫色の結晶の中、ククリナイフが鈍く輝いている。理外の持久力を持ったエルザ・グランヒルテは陰魔法の結晶に包まれ、行動を停止した。
連れのメィリィ・ポートルートは陰魔法に包まれ、意識を失っている。
「これで終わりかしら」
ベアトリスはホッと息を吐く。
「ベアトリス〜〜!!!お前、すげぇなぁ〜!!!」
スバルがベアトリスを抱き締める。
「分かったかしら!落ち着いて下ろして欲しいかしら!!」
「へへへ、でもこれで分かってる分は終わりだ。後はエミリアたんだけど、エミリアたんなら大丈夫。俺は信じてる」
スバルは『聖域』の方角を見て、そう言った。
△▼△▼△▼△▼△▼
「バルス、遅いわよ。ロズワール様を待たせたこと、恥を知りなさい」
「ちょっと待ってくれ、頼むから。情報処理が追いつかねぇ」
いつも通りの視線でスバルを見つめるラム。問題はその下である。
「なんで膝枕されてんの?」
「あら、ラムは好きなようにさせて貰うと言ったわ。やることが終わった今、何をするのもラムの勝手よ」
「ロズワールはそれで良いのかよ………」
「「………」」
「無駄口は終わりよ、バルス。バルスにはすべきことがあるもの」
「雑談とかでもなく無駄口なんすね、姉様……。そう言えばエミリアはどこだ?」
「バルス、命令よ………エミリア様を、助けてあげなさい。エミリア様はずっと墓所に引きこもっておられるわ」
「!いつから?!」
「バルスが屋敷に戻ったあの日からずっとよ」
▼△▼△▼△▼△▼△
「エミリアたん?いる?」
墓所の前に立ち、スバルはエミリアを呼ぶ。
すうっと扉が開き、長い銀の髪が見えた。
「スバル?やっと来てくれた!もう寂しかったんだから」
はしゃいだ子犬のようにエミリアはスバルに駆け寄ってくる。
「そ、そうか。とりあえず無事で良かった。ラムから様子を聞いてしんぱ、痛ぇ!」
握られた腕が悲鳴をあげる。爪が食い込みそうな程に力が入っている。
「もう、離さないんだから。スバルはず〜っと私の側にいるの!私はスバルのために何でもするから、スバルもそうしてくれるとうれしいな」
「俺はずっとエミリアたんがナンバーワンだけど……」
「ちゃ〜んと聞いたからね?もう絶対どこにも行かせないんだから………」
「エミリア、なんでずっとここにいるんだ?みんな心配してるから顔くらいは………」「どうして?スバルがずっとここにいてくれるんでしょ?私はそれだけで十分よ?」
「いや、でもみんな…」「今ここにいるのは私なんだから私のことを話して欲しいの。なんでスバルは私以外のことを考えるの?」
「それ…」「私はずっとスバルといたいの。だからその他のことはいいの。私はスバルのことだけ考えてる。なのにスバルは他の人のこと…」
「わ、わかった。とりあえずストップだ、エミリアたん」
「ホント?!と〜っても嬉しいわ!!ずうっといっしょだからね?」
スバルを見つめる紫紺の瞳の色が深くなる。全てを飲み込む闇のように。
△▼△▼△▼△▼
エミリアが強引にスバルを扉の中に連れ込もうとする。
「ス、ストップ!ストップだ!エミリアたん!」
「どうして?スバルは私と二人っきりは嫌?」
「いや、すっごくうれしいし、ドキドキするけど、その奥はダメなんだ。俺、もうそこに入れないからさ」
「そうなの?う~ん困っちゃった。スバル、どうすればいいかな?」
「とりあえず前の部屋に戻ればいいんじゃないかな?」
「そう?あそこにはラムが来ちゃうわよ?」
「じゃ、じゃあ俺からラムに言っとくからさ」
「分かった!ありがとう、スバル」
エミリアはそう言ってスバルの腕を抱きしめた。痛いほどに強かった。
△▼△▼△▼△▼
「………分かったわ。ひとまず、この夜はエミリア様の部屋に近づかない。そして、ベアトリス様を預かっておく。これでいい?」
「サンキュー、姉様。エミリアたんの気持ちが落ち着くまで変な刺激は与えないようにしねぇと………」
「バルスはエミリア様に試練が突破出来ると思っているの」
「してほしいとは思ってるよ。でも、今のエミリアには………」
「無理なのか、やらせたくないのか。全然違うわよ、バルス」
「………やらせたくないが勝ってると思う」
「どっちでもいいわ。ラムは無理だと思っているもの」
「………」
「以前のように馬鹿みたいに突っかかってこないのね」
「俺だってちょっとくらい成長するよ」
「ハッ!バルスが成長なんて笑えるわ」
「相変わらず辛辣ッスね、姉様」
スバルは立ち上がりエミリアの元に向かう。できるだけエミリアの側にいたい。
「バルス」
ドアに手をかけたところでラムの声がした。
「……覚悟はしておきなさい」
ラムはそれだけ言って何も言わない。
△▼△▼△▼△▼
「覚悟、ね」
エミリアが突破するまでここから離れられない。どれだけ時間がかかるのか、それも分からない。
そして最悪スバルが………
横に首を振り、その考えを振り落とす。せっかくロズワールの企みを防ぐことができたのだ。ここでまた奴の思惑に乗るなんてまっぴらごめんである。
「エミリアたん?いる?」
とてとてと走る音が近づいてくる。
「スバル!入って?」
何日も使っていなかったはずなのに部屋には埃一つない。恐らくはラムが毎日掃除していたのだろう。
「ここに座って?」
エミリアはベッドに座り、自分の横を手でポンポンと叩いている。
スバルが座ると上半身をエミリアに倒された。頭がひんやりとした柔らかいものに包まれる。
「スバル、私の膝枕好きだったでしょ?」
エミリアはそういってスバルの髪を撫でる。
誰だこの人は?
俺の知っているエミリアはこんなこと絶対にしない。
エミリアから底知れぬ恐怖を感じる。光のない瞳がスバルを飲み込もうと口を開けて待っているような気がした。
△▼△▼△▼△▼
夜になった。
夜になってもスバルはエミリアから解放されることは無い。
「スバルは今日からここで寝るの!」
「ここって言ってもベッド一つしかないけど………」
「私の隣が空いてるわよ?」
顔を傾け、エミリアはスバルを見つめている。
エミリアの眼に言いようのない狂気が映っている。
スバルはエミリアの言いなりに隣に入った。
人肌の暖かみとは別種の寒気を感じる。
「私の言ったことを守ってくれてとっても嬉しいわ!スバル、ありがと。もう離してあげないんだから」
スバルの頬に冷ややかな銀が当たる。透き通るような髪に陽光が当たる。キラキラと銀が光を反射していた。
▼△▼△▼△▼△
(どうすればいい?俺がやるしかないのか?)
右腕をエミリアに抱えられながら、スバルは考える。
スバルが試練を突破すれば『聖域』から脱出することはできる。ガーフィールの問題もあるが、一旦脇に置いておく。
しかし、それをエミリアを信じたスバルは進んでしたいとは思わない。あくまでも最終手段である。
が、その他の手段をスバルは思いつかない。
エミリアの回復を待つ。スバルの結論は結局ここに落ち着いた。
エミリアなら大丈夫。スバルはそう信じている。
▼△▼△▼△▼△
「エミリアたん、試練はどうするの?」
「私はスバルがいればそれでいいわよ?」
「いや、できたら前みたいに屋敷で暮らしたいなぁってさ。ほら、あっちの方が広いじゃん?」
「う〜ん…広くてもスバルと一緒にいれる?」
「そりゃあ、俺はずっとエミリアたんの側にいるよ?」
「ホント?!じゃあ、スバルのために頑張るね!」
「うん、応援してるよ、エミリアたん!」
△▼△▼△▼△▼
再度、エミリアが試練に挑むようになってから数日。
状況の進展は全くない。何日、何回やっても結果は変わらない。
毎度エミリアは泣き、スバルがエミリアをあやしている。
段々とエミリアの泣き顔が乾いているように見えてくる。最近では墓所に近づくだけで涙を見せるようになってきた。
これが条件反射のものなのか、演技のものなのか、スバルは前者であることを祈るしかできない。
「スバル、どうにかできないのかしら?もう、見ていられないのよ」
見かねたベアトリスが口を開く。
「何回やろうと変わらないかしら。あの娘には無理かしら」
「そんな!ことは………」
「言い切れていないのよ」
ベアトリスの指摘はもっともなものだ。何も変わらない。変えない。変わろうとしない。
(やるしかないのか?俺が、もう一度………)
『お悩みのようだね』
声が聞こえる。二度と関わりたくないような悪魔の声が聞こえる。
有り得ない碧空が目に入る。空を漂う雲も、照りつける太陽も現実のそれに限りなく似た紛い物。
「なんでここにまた連れてきた、エキドナ!」
目の前に立つ白髪に黒のドレスの美しい少女。『強欲の魔女』エキドナにスバルは吠える。
「キミが望んでボクがそれに応えた。気の利いたことをしてくれる女性は好きだろう?」
「勝手に人の気持ちを理解した気になってんじゃねぇよ。お前が感情を理解できていねぇのはこの前のやりとりでわかってんだ」
「ひどいことを言うね。これでも一人の乙女なのに………」
「変に人間の振りしてんじゃねぇよ、魔女が」
「そう怒らないで欲しいな。ほらお茶でもどうだい?」
「お茶じゃなくてお前の体液だろうが!忘れてねぇぞ!!」
「言っただろう?それは言葉の綾だって。本当の体液では」
「うるせぇ!そんなことはどうでもいい!早くここから出せ!!」
「ここにいても実際の時間は経過しないよ?」
「時間が経つ感覚はあるだろうが」
「わかっていればそうと割り切れると思うけれどね」
「俺は違ぇんだよ。とにかく俺はここから出る」
「本当にいいのかい?」
「本当にこのままでいいと思っているのかい?」
「それはどういう………」
「思っているんじゃないかい?このままだと進まない。みんなが『聖域』から出られなくなってしまう、と」
「………」
「ボクならこの状況を覆すことができる。どうするのかはキミ次第だ」
エキドナはチャンスをちらつかせる。エキドナは試練への挑戦権を与えることができる。スバルが望みさえすれば試練に挑み、みんなを『聖域』から解放することができる。
ベアトリスはエミリアの解放をスバルに託している。
ラムはエミリアを諦めている。
ロズワールはスバルに期待している。
スバルはエミリアを信じたい。けれどもう『エミリア』が分からない。
▼△▼△▼△▼△
「俺の気持ちはこの程度だったのかよ……」
淡い光が部屋全体を包んでいる。強烈な自己嫌悪と共に第二の試練が始まった。
〜〜〜〜〜〜〜
「はぁ………はぁ………次だ……」
見慣れた至近距離に石壁が見える。
扉を開け、スバルは再び昏倒する。
〜〜〜〜〜〜〜
気持ちが悪い。吐瀉物が口に纏わりついている。
ギリギリで意識を保ちながらスバルは最後の扉を開く。
〜〜〜〜〜〜〜
スバルの前に光の木が生えている。線のように細いそれからは強大な魔力が感じられる。
「じゃあな、エキドナ。できれば二度と会いたくねぇぞ」
精一杯の悪態をつき、スバルは『聖域』を解放した。
▼△▼△▼△▼△
「とりあえずこれで屋敷に帰れるな」
「よくやったわ、バルス。褒めてあげてもいいわよ」
「ありがとうございますよ、姉様」
「それで、あの娘はどうなのかしら」
「エミリアにはとりあえずずっと俺が付いてるよ。それしか対処が分かんねぇだけだけど」
「またみんなで前みたいに暮らしてぇよ」
「そうね。バルスがいなかった頃は良かったわね」
「酷いな?!姉様?!」
「嘘よ。バルスでも少しくらいは助けに………」
「姉様?!?!なってるよね?!俺泣くよ?!」
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またレムを除けば以前のような生活が始まった。
屋敷のみんなと過ごせる。ここにレムがいればと思わない日はないけれど。
▼△▼△▼△▼△
「嫌い」
背後には業火が燃え盛っている。
「嫌い」
舞い上がる黒煙が輝く星々を覆い隠す。
「嫌い」
屋敷は瓦礫と化し、崩壊の一途を辿る。
「嫌い」
焼身、下敷き、串刺し、絞殺。
採れる方法で邪魔者が死んでゆく。
淡赤も淡青も金色も濃紺も全てに黒が振り散る。
「みんな、みんな、嫌い、大っ嫌い!!!」
泣き狂ったような声でエミリアが叫ぶ。
△▼△▼△▼△▼△▼
「エミリア?なんで、こんなこと……なんでみんなを…」
焼け焦げた臭いが充満している。あちこちに煤を付け、スバルはエミリアと相対する。エミリアの髪は右側だけが異様に斜めに切断されている。
「ほら、またじゃない」
「またって、何が…」
「また『みんな』って言った。スバルにはずっと私がいるのに、スバルは私だけを見てくれないの。どうして?」
「どうしてって、みんな俺の大切な人たちだからだよ!レムもラムもベアトリスも!もちろんエミリアも!みんなみんな俺の大切な人だから」
「私だけじゃダメなの?」
「ダメとかそういうことじゃないんだよ!エミリア!」
スバルの声はエミリアの耳には入らない。分厚い壁に塞がれているように二人の会話は噛み合わない。
唸る炎がスバルを貫く。
「エミ…リア、君は…絶対に……俺が、救ってやる」
焦げた夜天の下、エミリアは黒髪の死体の色褪せた赤を自らでそっと隠した。
光を失った瞳孔をそっと閉じ、大事に大事に運び出す。
「絶対に離さないんだから。ずうっといっしょよ、スバル」
高い高い崖の上、エミリアはスバルを抱えたまま、宙を舞い、堕ちてゆく。
前書きにも書きましたがこの世界のスバルくんは大兎に襲われると逃げ出せずに食い殺されています。そのせいで病みリアを知りません。だからエミリアを救うという発想がそもそもありません。そういう世界線です。
いかがでしたでしょうか
二人はイチャイチャしましたね。噓は言っていませんよ?
幸せになれるなんて一言も言ってませんからね
元ネタは四章の試練で少しだけ描写されたエミリアが「嫌い」と言っている世界線です。
書いてみて思いましたが、カサネルルートでエミリアのメンケアをミスったらなりそうだなぁと思いました
本当にどうでもいい余談ですが、
勘のいい牡蠣はフライなら活きのいい牡蠣はなんなんでしょう。やっぱり生ですかね?
お目汚し失礼
では
読了お疲れ様でした