めっっちゃ全話から空きましたね
とりあえず、どうぞ
《あれから数日が経った。肌心地のよい初夏は雨季を追いかけるように過ぎ去り、入道雲に急かされるように夏が訪れた。蝉は夏の訪れを祝うように歌い、燦々と照りつける日差しはさも舞台照明のようだ
人々は涼しげで浮足立った服装を身にまとい、我先にと外へ繰り出した。そしたら彼らは役者になるのだろうか
ここ横須賀鎮守府も例外無く服装と共に雰囲気は浮かれ、数多の艦娘や水兵達が外出届にペンシルを走らせた
ある者は友人達とショッピングへ。またある者はカップルでデートへ…。夏と言う喜劇は横須賀を活気づかせた
しかしどんな時、どんな場所にも例外というものは存在するもので。やはり横須賀鎮守府にもそれは存在した。それがこの私、こと海軍憲兵少尉である刑部成寛》
『と、空色の巡洋艦タシュケント。この二人はそんな朝四つ時を食堂で堪能しているのさ』
『…タシュケントさん、人の文章は勝手に読むべきではないと思うんだ』
振り返った先にいるのは嚮導駆逐艦タシュケント改め、空色のタシュケント。最近仲良くなった艦娘だ。凛々しさのある彼女の顔は、悪戯が上手く行った時のような無邪気な笑顔で満ちていた。それはまるで咲き誇れる向日葵のような華やかさを宿していた。差し込む日の光によって栗色の美しい髪は透き通る飴色に輝き、開かれた窓から戦ぐ海風が踊らせた
『同志オサカベ、そんなに僕に見られるのが恥ずかしいのかい?。もしかして僕に見られたら恥ずかしい内容だったのかな』
「…ふう」
軽く漏れたため息は、恥ずかしがり屋の帳面を閉ざすには丁度良かった。静かに仕舞われた帳面を少し不貞腐れた顔で追うタシュケントは言葉を紡いだ
『見せてくれてもいいじゃないか…まあいいよ。同志オサカベは日記も嗜むんだね。それもロシア語で…日本語でも良かったんじゃないかい?』
タシュケントはご尤もな疑問を投げかけた。そこには意外と深い訳があったりする
『なにぶんロシア語とは暫く距離を取っていたからね。練習がてら日記を始めたんだ』
『でも話せるし文章も十分に書けているじゃあないか。君はこれ以上インテリになろうと言うのかい?まさかロシア文学に手を出そうとしているのかい?』
驚愕に染まる彼女、しかしそんな中でも冗談を忘れないのは大したものである
『まさかね。確かに日常生活を送れる位の知識はあるけれど、更に高度な知識を求められるとそうは行かなくなるのさ』
『僕はもう十分な気もするんだけれどね』
彼女との世間話は中々に盛り上がり、時の流れに気付かされたのは鐘が11時を告げる頃だった。
昼食時に差し掛かった食堂は優美な香りを漂わせ、鎮守府の人々を誘った。海風戦ぐ朝四つ時とやらは彼等の賑やかさには敵わなかったようだ。
この賑やかさもそれはそれで心地が良く、その雰囲気に乗せられ彼女に視線を向けた。しかしその先にあったのは、先程とは別人ではと疑いたくなるやうな面持ちを浮かべるタシュケントが居るのみであった。
『同志オサカベ、どうやら僕達は例外ではなかったらしいね』
言葉単体で見れば肯定的なのかもしれない。しかし、彼女の浮かべたニヒルな笑みがそうとは言っていなかった。
『…なら良い事かもしれないね。人とは群れを作る生き物だよ。群れにいるなら居た方がいい。けれども…』
『けれども?』
『…その群れに合わないなら、また別なのかもしれない。タシュケントさん、場所を変えようか』
『うん…』
ここ横須賀鎮守府は、他の鎮守府とは一線を画す鎮守府である。国家の中枢たる東京大都市圏を防衛する帝国海軍における最重要拠点と言う揺るぎない地位である点でも確かである。しかしそれ以上の特徴として"居酒屋鳳翔"の存在があった
居酒屋と言うがその実カフェバーに近いもので、居酒屋の一面が現れるのは夕食時を過ぎて暫くしてからである。朝はモーニングが提供され、昼時前にはブランチが。勿論昼にはランチコースに変わる
この存在は他基地との格式の違いを意図せずとは言え明白にするには十分過ぎた
居酒屋鳳翔の店主、鳳翔の存在である
彼女にとって客の相談とは使命であり、得意なものと自負があった。如何なる堅物であっても彼女の雰囲気が醸し出す母性の前では、人本来の正直な心内を打ち明けるのであった
しかし、例外は何事にも存在するのであった
嚮導駆逐艦タシュケントと憲兵刑部の存在であった。片や日本語が通じず、片や壁が厚すぎた
特に刑部は致命的であった。明らかに酒に溺れていても愚痴を吐かない。その割に数あるカウンターの内彼女に一番近い席を選び、終始シガレットと日本酒を嗜む限りであるのだ。話しかけても軽く答えるのみ。会話は二言で途切れてしまうのが常であった。別に彼女は客が好きなように楽しめればそれで良いと考えている。しかし彼はいかにも話を聞いて貰いたい様子を訴えかけてくる
要するに鳳翔は刑部を理解出来ないのである
しかし天性の優しさから来るものなのか、彼に対して無関心になることは選択肢に存在しないのであった。それどころか相手の悩みに寄り添うことが出来ない自分に負い目すら覚えるのが彼女もとい、鳳翔と言う人物なのであった
負い目は悩みとなり、悩みは
「はぁ…」
ため息となって具現化した
はい。ここまで読んで下さった方々は多分分かると思います。
区切りが悪いでしょう?そうなんです悪いんです…ただ許して下さい。鳳翔さんとの絡みは3話目にしっかり書きますんでぇ…
次話もよろしくです