一人で二人、二人で一人。
 一人が二人、二人が一人。
 殺戮奇術の匂宮(におうのみや)兄妹。

 ──に、酷く似ている二人。
人喰い(カーニバル)》のリズムに、《人喰い(マンイーター)》のイズム。
 二重というにはあまりに重なっていない妹。
 二重というにはあまりに重なっていない兄。
 二重というにはあまりに重なり過ぎた兄妹。
 彼ら彼女らが跋扈した世界線のアーカイブ。



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登場人物紹介


 先生(語り部)─────────────────主人公。

 アロナ(あろな)────────────────秘 書。
 プラナ(ぷらな)────────────────秘 書。

 匂宮イズム(におうのみや・いずむ)───────殺し屋。
 匂宮リズム(におうのみや・りずむ)───────名探偵。

 陸八魔アル(りくはちま・ある)─────────便利屋。
 鬼方カヨコ(おにかた・かよこ)─────────便利屋。
 浅黄ムツキ(あさぎ・むつき)──────────便利屋。
 伊草ハルカ(いぐさ・はるか)──────────便利屋。

 鬼怒川カスミ(きぬがわ・かすみ)────────爆弾魔。
 下倉メグ(しもくら・めぐ)─────────────破壊魔。

 錠前サオリ(じょうまえ・さおり)────────傭 兵。
 阿慈谷ヒフミ(あじたに・ひふみ)────────一般人。

 黒舘ハルナ(くろだて・はるな)─────────美食家。
 赤司ジュンコ(あかし・じゅんこ)────────暴食家。
 獅子堂イズミ(ししどう・いずみ)────────悪食家。
 鰐渕アカリ(わにぶち・あかり)─────────飽食家。

 愛清フウカ(あいきよ・ふうか)─────────料理人。
 牛牧ジュリ(うしまき・じゅり)─────────料理人。

 狐坂ワカモ(こさか・わかも)──────────七囚人。







第一章 凶暴なる少女(共謀なる症状)①

 

 

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 骨の髄まで喰べ尽くさせて。

 

 

     1

 

 

 実を言えば、ブラックマーケットにたった一人で足を踏み入れるつもりはなかった。当然ながらキヴォトス屈指の危険地帯、並びに無法地帯であるこの場に足を運んだのは、いくら私でも両手で数えられるほどしかない。

 

 元より私は直接的にも間接的にも戦闘能力を有していない一般的な大人であり、普遍的な大人でしかないのだけれど、しかしそれでもブラックマーケットに足を運ぶに値する理由があれば、やはり直接赴くほかないのであった。

 

 どうやら私が所持していた携帯電話をどこかに落としてしまったらしく、『シッテムの箱』の管理人たるアロナとプラナの二人に捜索を依頼したところ、どうやら私の携帯はブラックマーケットの闇市に売り払われてしまっていたとのことだったので、こうして直接訪れたというわけである。

 

 携帯電話を携帯していないだなんて、それはもはや『携帯電話』という名詞に対する冒涜なんじゃないのか──とか、そんなくだらないことを考えながら、二人の頼れる秘書によって示された座標へ向かうことおよそ七時間。

 

「まさか、こんなところでカイザーPMCの残党と出くわすとはね……」

 

 携帯を取り返すことはできたものの、ご丁寧に破壊されていて修復は不可能。それどころか、私がPMC残党に追いかけられる始末である。そんな事情もあり、私は現在手頃な廃墟ビルに身を潜めているところなのであった。周囲からはどたどたと人(というかオートマタ)が走り回る音が聞こえるし、私を探す者たちの怒号なんかも響き渡っている始末である。

 

「ごめんなさい、先生。まさか、傭兵がここに流れ着いているだなんて、考慮していませんでした」申し訳なさそうな声色でそう言うプラナ。既に力を使い果たした(要するに充電切れのような状況である)アロナは、『シッテムの箱』の内部に存在する教室空間に備え付けの机に突っ伏して、すぅすぅと寝息を立てている。

 

「気にしないで、プラナ。まさか私も、かれこれ五時間追いかけられ続けることになるだなんて、全く想像もしていなかったから」私は慰めるつもりでそんな言葉を口にする。「だからこれは、誰が悪いとかじゃなく、シンプルに『間が悪かった』ということなんだろうね」

 

「……しかし、先生」

 

「それよりも! 今はこの窮地を脱する方法を模索しなきゃね」そこまで言って一呼吸置いてから、言葉を継ぐ。「プラナ。私のことを、助けてほしい」

 

 私ほど情けない大人もなかなかいるまい。誰かに助けてもらわなければ、窮地の一つも脱せないという事実は、流石に私の心に重く響いた。だけど私はこの事実を恥ずかしがるつもりなんか、さらさらない。そうでなければ、私は私を助けてくれたみんなに顔向けできない。

 

 あくまでも、私は私らしく。先生らしくも、まして大人らしくもないけれど……これが私の生き方で、関わり方で、繋がり方だから。

 

 そんな弱々しく情けない私の言葉の意図は、果たしてプラナに誤差なく伝わったらしく。少し目を伏せた彼女は、一瞬の時間を置いてから健気に頷いてくれた。

 

「しかし先生、周囲にはおよそ50人ほどのむくつけき巨大ロボットたちで溢れかえっています。この状況から私が取ることの出来る対処法は、どれだけ多く見積もっても三つが限度です」

 

 なるほど、三つか。プラナの表情から察するに、恐らくはどの選択肢であっても命の危険が伴いそうである。こんなところで命をくれてやるつもりなど到底ないのだけれど、しかしわがままを言っていられるような状況でもない。

 

「それに加えて、もう一つ悪い知らせがあります」プラナはますます申し訳なさそうにしながら言う。「どうやらPMC残党は、先生の携帯にGPSを仕込んでいたようです。たった今、起動したのを確認しました」

 

「……マジで?」

 

「大マジです」

 

「ハッキングで、どうにか位置情報を誤魔化せたりとか……」

 

「出来ますが、しかし既にPMC残党たちはこちらに向かって来ているようです。逃げるのは間に合わないかもしれません」

 

「……一応聞いておきたいんだけど、ここから入れる保険とかあったりするかな」

 

「検索完了。医療保険か生命保険であれば、いくつか加入できそうです」

 

 あるんだ。しかもいくつかは。

 じゃなくて、これはいよいよ本格的にまずいかもなあ。まさか私の携帯それ自体が罠だったなんて、想像よりも数倍、数十倍は恨みを買っているらしい。携帯を買い戻しただけなのに、まさかハッピーセットで恨みまで付いてくるだなんて、こんなにいらないおまけもない。

 

 うーん……そうなると、いよいよ私も覚悟を決めるべきかもなあ。これからどうなるか、まるで想像も付かないし。どれだけ酷い目に遭わされるんだろうか。痛くなければいいんだけど。

 

 どたどたと走る足音が段々とこちらに近づいて来るのを感じた。この調子だと到達まではあと三十秒といったところだろうか。短い人生だったなあ。

 

 と、まあそんな感じで、どのような辞世の句を詠むか考え始めた私の思考を遮ったのは、先ほどから何やら文面を打ち込んでいる様子のプラナであった。

 

「申し訳ありません、先生。私一人では、どうやってもこの状況を打開することが出来ず」ぺこりと頭を下げるプラナ。「先輩なら、もう少し上手くやれたのでしょうが、汗顔の至りです」

 

「いや、別にいいんだよ、プラナ。こうなってくると『間が悪かった』というよりは、むしろ私の『運が悪かった』のかもねえ──」

 

 そんな私の弱気な発言は、またしても遮られることとなる。これまたもちろん、プラナの言葉によって──ではない。それでは私の言葉を遮ったのは、一体何者によるものだったのか?

 

 答えは単純。

 ()()()()()

 

「なっ──⁉︎」

 

 耳をつんざく爆音の発生源は私のほとんど隣辺りに位置していた壁、爆風の正体は何者かが何らかの手段を用いて壁をぶち抜いた時に生じた衝撃波。いくら身を潜めていたのが廃ビルだったからといって、鉄筋コンクリート構造をぶち抜ける武装などそこまで多くはない。普通に考えれば砲弾の類が激突したのだろうが、しかしそれにしては火薬の匂いもしないし、そもそも砲弾が飛来する音も聞こえなかった。

 

 つまるところが、明らかな異常事態。駆動音すらも聞こえなかったことから、以前目にしたゴリアテとかいう超ド級のロボット兵器を用いたとも思えない。もしかしたら静音版の改良型が開発されたのかもしれなかったが、しかし一応はカイザーPMCを解雇された身であるはずの残党たちが、そんな上等な武装を有しているとも考えづらかった。

 

 これは、間違いない。

 私、ピンチどころか、空前絶後の大ピンチ。

 

「プラナ、プラナ! これは一体何が起こっているの⁉︎ PMC残党は音の出ない新型迫撃砲でも手に入れてたのかなあ⁉︎」

 

「落ち着いてください、先生。今のはPMC残党側の攻撃ではなく、私の手配によるものです……、いえ、この場合は()()()()()と、そう言うのが最も適切かもしれませんが。つまるところが援軍です」

 

「……援軍? というとプラナ、つまりきみがさっきまで熱心に打ち込んでいたメッセージは、その援軍に向けたものだったということ? その、近くにいた生徒のうちの誰かにお願いをしたのだと、そういうことかな」

 

「そういうことになります。私が取ることの出来る対処法は三つしかなかったので、こういった荒事が得意な方に、救援要請を送らせていただきました。これも要請と言うよりは、()()と形容するべきなのかもしれませんが」

 

 救援依頼……その言い方に込められた意図を読み取るに、つまりプラナは何らかの報酬(恐らくは金銭)と引き換えに、どこかの誰かに私の救出を依頼したのだろう。

 

 となると、続いて新たな疑問が湧き上がる。()()()()()()()()()()()()()()? こういう時真っ先に思いつくのは便利屋68(シックスティーエイト)のみんなか、傭兵のアルバイトをしている錠前(じょうまえ)サオリかのどちらかなのだけど、しかしそれにしたって、到着が早すぎる気がする。

 

 それに。便利屋のみんなもサオリも、廃ビルの壁に風穴を開けるだなんて真似が、果たして出来るのだろうか。そりゃあ爆弾なんかを用いれば可能かもしれない。が、しかし爆弾を使ったという可能性は、火薬の匂いがしないという時点で考慮に値しない。

 

 考えれば考えるほどに、プラナが誰を呼んだのかが分からない。ちらとぶち抜かれた大穴の方を向いてみても、砂煙が立ち上りすぎてその向こうを窺い知ることは出来なかった。

 

「……ねえ、プラナ」たまらず問いかける私。「きみは、誰を呼んだの?」

 

「誰を呼んだのか。ええ、それは──」

 

「おいおい、僕んことあんなに熱烈に猛烈に激烈に呼び出しやがったってのに、そりゃあ酷いだろ、酷いんだよ、酷いよなぁあああああああ⁉︎」

 

「っ、なっ……⁉︎」

 

 ──そこに、何者かが()()()

 否。現れた……のではない。初めからそこにいたのだ。恐らくは、ビルの壁に風穴を開けた時から、立ち上る砂埃の中に、ずっと。

 

 気づけば砂埃の中に何者かのシルエット。矮躯に、長髪──そして()()()()()()()()()()()()()。体つきと声音から考えるに、恐らくは女性。年齢のほどは十七、あるいは十八歳ほどだろうか。とすると未だ姿を現さない彼女は、つまり生徒であるということになるのだが。

 

 突然の乱入者に意識を奪われた私は、現状置かれている危機をどのように脱するべきだろうか、などという瑣末な悩みを丸ごとどこか彼方へと吹っ飛ばしてしまった。そんなことよりも、今は援軍である(らしい)ところの目の前の彼女に、目を奪われて、意識を奪われて、そして心を奪われた。

 

「依頼人とはいえど、そーんなふーうーにぃ、僕のことをぞんざいに扱うってんならよお」私に正体した影の中の生徒は、そのまま口を()()()と開き。「()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 直後、私は息を飲み、固唾を飲む──よりも早く、あるいは速く。眼前の生徒は私に飛び掛かる。嫌でも感じる本能的な怖気、誰でも感じる生物的な恐怖……、それでいて、今の今まで一度だって感じたことのないような圧力(プレッシャー)。間違いなく私と彼女とでは()()()()()()()()()()

 

()()()()()!」

 

 彼女は。

 笑っている、ように思えた。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()!」

 

 私が被食者で彼女が捕食者。

 私が被害者で彼女が加害者。

 私が被傷者で彼女が加傷者。

 

「先生っ!」叫び声。どこから? 私が抱えているタブレット端末──『シッテムの箱』から。誰の? 信頼なる秘書にして親愛なる生徒であるプラナの。「避けてくださいっ‼︎」

 

()()……()()()()()()‼︎」

 

 成人男性の喉から発されたとは思えないほど情けない悲鳴を上げながら、私の肉体は半ば反射的にその場を飛び退く。しかしながら、カイザー残党から身を隠そうと画策していた私の立ち位置的に、背後にあるのは壁だけだった。

 

 しかしそれでも、藁にも縋る思いで必死に身を引く私。甲賀流忍者もびっくりの様相で壁に身を押し付けた。その甲斐あってか、初撃はすんでのところで躱すことが出来た。だけど、この距離なら二度はない。眼前に大きな口が迫る。真っ赤で、鋭く、私の命を喰い散らかさんとする牙。

 

 ああ、これは、駄目だ。ここから生存できるビジョンがまるで見えない。ちくしょう私の物語もここまでか、ご愛読ありがとうございました……、とか、そんな風に考えて地面にへたり込んだ私の視界に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 アクセサリー……というよりか、まんま()()。緑の縁をしたごく一般的な眼鏡が、鼻頭ではなくおでこのあたりに引っ掛けられている。そして私は、そのごくごく一般的な眼鏡に見覚えがあった。

 

 緑縁の眼鏡、ほっそりとした矮躯、長過ぎる長髪、それよりも一層目を引くすらりと長い両腕、そして十八歳ほどの年齢──

 

「も、もしかして……」

 

 私はやっとのこと、言葉を吐く。

 

「リズム、だよね……?」

 

 

「──なあんだ」

 

 

 と。

 どうやら──彼女は人の話を聞く姿勢に入ったらしい。

 

「お前、リズムを助けた『シャーレの先生』って奴か」

 

「……え?」

 

 私は驚く。

 立ち上がって彼女と……正面から向き合う。

 そんな私の様子を知ってか知らずか、彼女は楽しげに、笑った。

 

「ひゅー、危うく間違って喰っちまうとこだったじゃねーかよ……危ねえ危ねえ。勘弁してくれよ。こちとら殺戮は一日一時間までって決めてんだからよお」

 

「……いや、ちょっと、何を言って」

 

「ぎゃははっ! こりゃまた僕も随分と有名になっちまったもんだぜ──つって! 元々悪名高かったけっどなー!」

 

 彼女は、哄笑(こうしょう)する。

 恐らくは、無意味に。

 

 私はそんな彼女の有様にろりめいた。

 私の知っているリズム──匂宮(におうのみや)リズム──とは、口調がまるで違う。口調だけじゃない、あの日、シャーレで彼女と会ったときと、雰囲気も、表情も、眼つきも、全然別物だ。誰だ、この子は? あたかも。それはあたかも、容れ物だけ同じで──中身をそっくり違えてしまったかのような。

 

 錯覚。

 錯覚か?

 いや、違う。

 ()()()()()()

 

 自慢じゃないが、私は一度見た生徒のことは絶対に忘れない。その関わりがどれだけ微小なものであっても、すれ違った時に一度挨拶を交わした程度の些細な関わりでも、私は生徒のことを記憶できる。それなのに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その肉体は、確かにリズムと瓜二つ──どころかまるきり同じ──に見えるけれど。

 

 だから、そう。

 錯覚なんかじゃ、なくて。

 ()()()()()()()

 

「もしかして……リズムが話していた()()って、きみのこと──なのかな」

 

「ん? あー、ああ……何だよあいつ、僕のことを吹聴して回ってやがったのか。いやーまったく困っちゃうよな、()()()()()を持つと。ぎゃははは!」

 

 その長い腕をもって、これまた長い髪をかき上げる仕草を見せる彼女……、否、《彼》(肉体は女性のものらしい)は再び笑った。今度もまた哄笑。やはり意味はないのだろう。

 

 この様子から察するに兄妹仲は良好らしい。私がいちいち気にすることではないかもしれないけれど、しかし喜ばしいことには間違いなかった。

 

「ところで、僕の依頼人──」にやりと笑いながら、言葉を選ぶ《彼》。「──あー? 一応は僕も生徒なわけだし先生と呼ぶべきなのかな、この場合は。まあいっか、とにかく、先生! お前は外にいるオンボロ鉄細工に追っかけられてる真っ最中で、どーにかここから脱する機会(チャンス)を創り出すため、僕に依頼を寄越したと、つまりそういうことなんだよな?」

 

「相違ないよ」私は『シッテムの箱』の中で冷や汗を拭っているプラナに目を遣りつつ答える。「依頼をしたのは私ではなく、私の秘書だという違いはあるけれどね」

 

「なんだそりゃ。別にどっちでもいいじゃねーかよそんなのは──つまり、僕は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を始末すればいいってことだろ? 人間相手と違って、鉄屑連中は手加減の必要がなくて助かるよなあ」

 

「そう、なるね。お願いしてもいいかな?」

 

「お願い! お願い⁉︎ ぎゃはっ! お願いなんかいちいちされなくても始末してやるっつーの! それともあれか、そうやって下手に出て上目遣いで僕のことを落とそうって魂胆か! いいねえいいねえ燃えちゃうぜ萌えちゃうぜ滾って違えて痺ッれちゃうぅーううううう……イエーっ‼︎」

 

 ……テンションの落差には、少々思うところがないでもないけれど。しかしきっと《彼》はそういう生徒なのだろう、そう思うことで、ひとまずは納得することにした。

 

 というか、そうだ。

 どうやら私には親しげに接してくれているらしい《彼》の名前。様々なハプニングに見舞われたせいですっかり忘れていたけれど、しかしここを逃せばその名を知る機会(チャンス)をみすみす見逃すことになってしまうのではないだろうか。そういった思考のもと、私は問いを投げかけてみることにした。

 

「そういえば。私はまだきみの名前を聞いていないような気がするんだ。ここで会ったのも何かの縁、つまりはきみの名前を知っておきたいのだけれど」

 

「あん? 何だよ妹から聞いてねーのかよ。ったく、ほんっとーに肝心なところは抜けてやがるぜ……、つってもまあ、それがリズムのリズムらしさであり、リズムの(リズム)なんだろーけどさ」

 

「あー、まあ、言いたいことは何となく分かるかな……」

 

「まあ今は僕の妹のことはいい。名前、名前、なーまーえー、ね。いいか、一回しか言わないから耳の穴に風穴ぶち開けてよーく聞いとけよ」

 

 何だか鼓膜が破れそうな言い回しだった。

 そんな風に若干の間を置いてから、《彼》は名乗りを上げる。

 

雨宮(あまみや)一彦(かずひこ)……じゃあ、ねえぜ⁉︎ ぎゃははは!」

 

「…………」

 

「私は殺し屋依頼人は秩序! 十四の十字を身に纏い、これより使命を実行する!」天に向かって吼えるように、《彼》は言った。「今は匂宮イズム……《人喰い(マンイーター)》のイズムさ」

 

 ──私たちは、そこにいた。

 ──私たちは、そこに()った。

 ──私たちは、そこで出逢った。

 

 殺戮奇術の匂宮兄妹。

 二人との出会いが、果たして何をもたらすのか。

 

 この時点の私に窺い知ることなど、できるはずもなかった。

 

 


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