なんだかとってもヤバいけん~勇者の剣を棄てにいく~ 作:陸一じゅん
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お姫ちゃんご一行は、ほとんどの待機時間を持たず、スムーズに船へと乗り込んだ。
ちゃんと船室があるタイプの大きな船で、前世でいうところの、ヨットに近い規模感なんやと思う。
船の中を動く人数からして、わしが前世で知っとる豪華客船とは比べるべくもないつくりやけど、たぶんこの世界の文明からしたら、贅沢ぐあいはどっこいどっこいなんやもしらん。
甲板は船員さんたちが動き回っとるからて、お姫ちゃんたちはそうそうに船室に引っ込んだ。
荷ほどきもせんうちに、賢者のおっちゃんが釘止めされたテーブルに地図を広げる。
わしにもわかるで。この世界、地図っちゅうのはめっちゃ貴重やろ。
おっちゃんはその地図を、わざとボロ布で包んで、カモフラージュしとるみたいやった。
中身は、書き込みがいっぱいあって細かい。
余白に、インクや文字の癖が違う文字が描きこまれとんねん。
そっか、こうして持ち主が情報をメモってくのもアリなんやな。
それだけやなくて、ロール状になっとんねんけど、芯にしとる棒にめっちゃ高そうな装飾と焼き印が入っとるし、縛る紐も専用の文鎮がついとる。
……なあこれ、金庫にしまっておくもんで、持ち歩くもんちゃうやろ。出すとこ出したら、城が立つやつちゃうの?
「今、われわれがいるのがここ」
おっちゃんが地図を指した。
こう、ひょうたんの形をギュッ! と固めたみたいな池……あ、これ湖か!
字はよう読めんからわからんけど、これが例の、武神のおっちゃんの足跡……ってされてる湖らしい。まあ牛の蹄に見えんこともないか。わしには肺に見えるけど。
賢者のおっちゃんは、ぐい~っと湖からのびる川をなぞって、航路を示す。
船旅は三日。そっからは陸路になるらしい。
「船を降りてすぐ、護衛と合流できまする。それから陸路で、まずは西南を目指します。最初の目的地は、東マーニャ刑務所です」
「刑務所……ああ、なるほど」
刑務所???とハテナマークを浮かべるわしを腰目に、お姫ちゃんは合点が行ったように頷いている。
「そこでどなたかとお会いするのですか? 」
「ええ。姫さまのための侍女と馬を預けております。もちろん囚人ではございませんぞ。身元確かな娘でして、わしの妻の縁者となります」
「奥様の。それはありがたいことです」
なんや、侍女さんそこで合流するねんな。
……四日……いや五日ちょいになるか。
自分のお世話できるかなぁ、お姫ちゃん。
(……できますわよ五日くらい)
ひっさびさに、お姫ちゃんの念話がとんできた。
ホンマかぁ~? わからんことあったらわしに聞くねんで?
「ですから、それまで姫様には、いくらかのご辛抱をおかけするかと思いますが……」
「ええ、まったく大事ありません」
こりゃ不安たっぷりって感じやな。わしには丸ッとわかんねん。
姫ちゃんは、えほん、と気を取り直すように咳ばらいをした。
「……それと、賢者さま。姫さまという呼び名も、もはや秘めたほうがよろしいのではないでしょうか。いかがかしら」
「ええ、確かに……。船を降りるまではと思うておりましたが、たしかに船に乗っとるあいだに慣らすのがよろしいかと存じます」
「ええ、ではそのようにお願いします。わたくしはさる豪商の娘、ということで、よろしいのでしょう」
「はい」
賢者のおっちゃんに頷きを返すと、お姫ちゃんはその斜め後ろに立つ護衛騎士に目を向けた。
「でも、こんなのはアビには関係がないことね。あなたは今まで通り、心の中では変わらずお呼びになってちょうだいね」
「………」
わしからは顔まで見えんのやが、はにかみの気配がした気がする。
なんでって、賢者のおっちゃんがニコニコしとるから。
あまずっぺぇ~。
こういう『チョットエエムード』のとき、わしは手が誤りがちで、『チョットエエムードノ曲』を……流してまうねんなぁ。
ほら、たまたま、な? つい、な?
……イントロが終わって歌詞が流れ出したところで、意図を『理解』した姫ちゃんに、めっちゃ柄を殴られた。ごめんごめんごめんて。
船旅は快適。暇なだけやった。
『船旅は』な?