なんだかとってもヤバいけん~勇者の剣を棄てにいく~ 作:陸一じゅん
船が着岸した。
予定より半日早く、二日目の深夜に到着し、最後の一夜を船で明かして地面を踏んだ。
そのとき、衝撃奔る――――!
以下はわしのリアクション。
ホンマにここでええんか?
ここのチョイスに愛はあるんか?
そもそも道は繋がっとるんか?
芸人のロケちゃうねんぞ!!!!
◇
そこは~ジャングルでした~。
ウルルンな滞在記がはじまりそうな光景が広がっている。
鳥だか猿だかも、どっかの樹の上で、ピーヒョロロ~いうとる。
船を見送ってから、平静を装いながらも内心はとまどうお姫ちゃん。
事前に話が通っていたのか、いそいそと準備をはじめる護衛のアビくん。
きょろきょろしている賢者のおっちゃん。
「あれぇ、おらぬのう。ここで待つように言うておったのだが……はて」
ハテ? やないでおっちゃん。護衛組で段取りばっちりはええことやけど、ウチのお姫さんにちゃんと話通してもらわな。
(……ここで追加の護衛と馬の補充。なるほど)
え? お姫ちゃんはなんか知っとる? 知らんのわしだけ?
お姫ちゃんはわしの柄に手を触れ、気合を入れ直すように息を吐いた。
(情勢なんて言っても、あなたじゃ分からないでしょう)
それって待ち伏せされる危険があるっちゅうこと?
(勘がいいのね。……そうよ。この旅を妨害するものがいる)
お姫ちゃんはそれだけ言って、川岸から一歩、荷物をまとめているアビのほうへ踏み出した。
たいがいの河川敷がそうであるように、このあたりにも広く小石が積み重なっている。
姫の二歩目の踏み込みで、わしはその体重のかけ方に違和感を覚えた。
ぐるりと視界が回る。――――お姫ちゃんが体の方向を変えた。
小石につまづいたのか?
違う。三歩目に踏み出している。
少女は不格好に、小石に足を取られながらも走り出していた。
「―――――アビッ! 」
さすがのアビだった。
お姫ちゃんの異変を察知し、こちらに駆け出し、お姫ちゃんに肉薄するまで、『判断』というものに瞬きほどの時間も使わなかったに違いない。
走りにくい河川敷の数メートルを、アビはものの数秒で駆け抜けた。
駆け抜けながら腰から抜いた剣――――ナタみたいな形の、脇差くらいのやつ――――を、鞘ごと構え、猛進してくる敵を正面から迎え撃つことに成功した。
アビは受け流すように獣の額を弾き、斜めに跳んだ。
それは体高がアビの胸ほどまである、巨大な猪だ。
真っ黒に濡れて、泥と木の葉にまみれている汚い猪だった。
口が唾液の泡で真っ白に汚れ、牙と、なぜか前に突き出す角が一対ある。
おかしな猪やった。
猪の後ろ、河川敷との境、森の前に、賢者のおっちゃんが立っている。
杖を天にかかげ、何か呪文のようなものを叫んどる。
「アウトゥール! ハウ! アウトゥール! ハウ! 」
賢者から力を感じる。目の前の猪には、魔術がかけられている。
汗と血。土と水。腐った水と、炎のかおり。
―――――戦いのかおり!
わしは焦った。今までになく焦った。
こういうときわしは、『剣を抜け。戦え』というだけでよかった。
でも、でも、でも、お姫ちゃんはちがう。
この子は、この子は、もう走ることもできない。身をすくませ、アビの背中を見つめることしかできていない。
あかんでお姫ちゃん。ここは危ない。近すぎる。
そんなのお姫ちゃんも分かっている。猪が振りまく殺意に、頭ごと体が固まっている。
あかん。あかん。あかん―――――!
アビがこけた。猪はアビを襲わない。その目にはお姫ちゃんだけがある。
「はっ、はっ、はっ―――――! 」
そのとき、呼吸することしかできていなかったお姫ちゃんの口が笑い、……と同時に、巨躯が空を舞った。
舞う土埃。咆哮。光を受ける小山のような白いからだ。
―――――ブォォオオオオオオ!!!
――――――ブヒィィイイイイイイ!!!
「はぁ、はぁ、はぁ―――――…………」
お姫ちゃんの体が、握り締めたわしに縋りつくようにして脱力する。
白熊VS大猪て。あんなん小規模怪獣大決戦ってタイトルつくで。
謎の白熊が猪を川に放り込み、決戦の場は離れたものの、ここはまだ危ない。お姫ちゃんは離れんとあかん。
よろよろとアビが、頭を押さえながらこちらへとやってきた。
……頭打ったんか? 大丈夫かいな?
わしを抱え込んで丸まったお姫ちゃんを、そのまま抱えて立ち上がる。
歩き出して、ようやくお姫ちゃんは顔を上げた。
「アビ、血が―――――」
アビがすこし下を向いて微笑む。これが本望です、みたいな笑顔。
流れる血があごをつたい、お姫ちゃんの襟元を濡らした。
「おじょうさまぁああ~! 」
賢者のおっちゃんがダバダバ駆けてくる。
汗だくで、あのへんな帽子がずれて、ずれて…………え、何あれ。
木ィ生えとるやんけ!
すっんげぇ~! リアル頭山や!!!
……いやでも正直、ちょっとビジュアルがキモいな。
イテッ。