なんだかとってもヤバいけん~勇者の剣を棄てにいく~   作:陸一じゅん

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これがいわゆるハートスランプ④

 船が着岸した。

 予定より半日早く、二日目の深夜に到着し、最後の一夜を船で明かして地面を踏んだ。

 

 そのとき、衝撃奔る――――!

 

 以下はわしのリアクション。

 

 

 ホンマにここでええんか?

 ここのチョイスに愛はあるんか?

 そもそも道は繋がっとるんか?

 

 芸人のロケちゃうねんぞ!!!!

 

 

 ◇

 

 

 そこは~ジャングルでした~。

 

 ウルルンな滞在記がはじまりそうな光景が広がっている。

 鳥だか猿だかも、どっかの樹の上で、ピーヒョロロ~いうとる。

 

 船を見送ってから、平静を装いながらも内心はとまどうお姫ちゃん。

 事前に話が通っていたのか、いそいそと準備をはじめる護衛のアビくん。

 きょろきょろしている賢者のおっちゃん。

 

「あれぇ、おらぬのう。ここで待つように言うておったのだが……はて」

 

 ハテ? やないでおっちゃん。護衛組で段取りばっちりはええことやけど、ウチのお姫さんにちゃんと話通してもらわな。

 

(……ここで追加の護衛と馬の補充。なるほど)

 

 え? お姫ちゃんはなんか知っとる? 知らんのわしだけ?

 お姫ちゃんはわしの柄に手を触れ、気合を入れ直すように息を吐いた。

 

(情勢なんて言っても、あなたじゃ分からないでしょう)

 

 それって待ち伏せされる危険があるっちゅうこと?

 

(勘がいいのね。……そうよ。この旅を妨害するものがいる)

 

 お姫ちゃんはそれだけ言って、川岸から一歩、荷物をまとめているアビのほうへ踏み出した。

 たいがいの河川敷がそうであるように、このあたりにも広く小石が積み重なっている。

 

 姫の二歩目の踏み込みで、わしはその体重のかけ方に違和感を覚えた。

 ぐるりと視界が回る。――――お姫ちゃんが体の方向を変えた。

 小石につまづいたのか?

 違う。三歩目に踏み出している。

 少女は不格好に、小石に足を取られながらも走り出していた。

 

「―――――アビッ! 」

 

 さすがのアビだった。

 お姫ちゃんの異変を察知し、こちらに駆け出し、お姫ちゃんに肉薄するまで、『判断』というものに瞬きほどの時間も使わなかったに違いない。

 走りにくい河川敷の数メートルを、アビはものの数秒で駆け抜けた。

 

 駆け抜けながら腰から抜いた剣――――ナタみたいな形の、脇差くらいのやつ――――を、鞘ごと構え、猛進してくる敵を正面から迎え撃つことに成功した。

 

 角が鞘に絡む(・・・・・・)

 

 アビは受け流すように獣の額を弾き、斜めに跳んだ。

 それは体高がアビの胸ほどまである、巨大な猪だ。

 真っ黒に濡れて、泥と木の葉にまみれている汚い猪だった。

 口が唾液の泡で真っ白に汚れ、牙と、なぜか前に突き出す角が一対ある。

 おかしな猪やった。

 

 猪の後ろ、河川敷との境、森の前に、賢者のおっちゃんが立っている。

 杖を天にかかげ、何か呪文のようなものを叫んどる。

 

「アウトゥール! ハウ! アウトゥール! ハウ! 」

 

 賢者から力を感じる。目の前の猪には、魔術がかけられている。

 汗と血。土と水。腐った水と、炎のかおり。

 

 ―――――戦いのかおり!

 

 

 

 わしは焦った。今までになく焦った。

 こういうときわしは、『剣を抜け。戦え』というだけでよかった。

 でも、でも、でも、お姫ちゃんはちがう。

 この子は、この子は、もう走ることもできない。身をすくませ、アビの背中を見つめることしかできていない。

 

 あかんでお姫ちゃん。ここは危ない。近すぎる。

 そんなのお姫ちゃんも分かっている。猪が振りまく殺意に、頭ごと体が固まっている。

 

 あかん。あかん。あかん―――――!

 

 

 アビがこけた。猪はアビを襲わない。その目にはお姫ちゃんだけがある。

 

「はっ、はっ、はっ―――――! 」

 

 そのとき、呼吸することしかできていなかったお姫ちゃんの口が笑い、……と同時に、巨躯が空を舞った。

 

 舞う土埃。咆哮。光を受ける小山のような白いからだ。

 

 

 

 

 

 

 ―――――ブォォオオオオオオ!!!

 

 ――――――ブヒィィイイイイイイ!!!

 

 

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ―――――…………」

 

 お姫ちゃんの体が、握り締めたわしに縋りつくようにして脱力する。

 白熊VS大猪て。あんなん小規模怪獣大決戦ってタイトルつくで。

 

 謎の白熊が猪を川に放り込み、決戦の場は離れたものの、ここはまだ危ない。お姫ちゃんは離れんとあかん。

 よろよろとアビが、頭を押さえながらこちらへとやってきた。

 ……頭打ったんか? 大丈夫かいな?

 

 わしを抱え込んで丸まったお姫ちゃんを、そのまま抱えて立ち上がる。

 歩き出して、ようやくお姫ちゃんは顔を上げた。

 

「アビ、血が―――――」

 

 アビがすこし下を向いて微笑む。これが本望です、みたいな笑顔。

 流れる血があごをつたい、お姫ちゃんの襟元を濡らした。

 

 

「おじょうさまぁああ~! 」

 

 賢者のおっちゃんがダバダバ駆けてくる。

 汗だくで、あのへんな帽子がずれて、ずれて…………え、何あれ。

 

 木ィ生えとるやんけ!

 

 すっんげぇ~! リアル頭山や!!!

 

 

 ……いやでも正直、ちょっとビジュアルがキモいな。

イテッ。

 

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