なんだかとってもヤバいけん~勇者の剣を棄てにいく~   作:陸一じゅん

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そこになかったらあらへんからね。

 

 み~ぎて~ わしの~柄《つか》~!

 ひだぁりて~ も、わしの~柄ぁ~!

 

 ――――離せやボケェ!両手でぎゅっと握ってからに!

 

 

 ここはお姫ちゃんの部屋。天蓋ベッドが素敵やね。

 わしの前世観からやと、ちょっとアジアンテイストな内装やね。南国風っちゅうんか。

 でっかい窓から、チラッと湖の対岸にある森が地平線まで続いとるのが見えたから、熱帯の気候なんやもしらん。

 窓のかたちは基本的に鎧戸か、ちいちゃい曇った硝子が光取りのためにはまってるだけ。大きい窓なんかは、ほぼ入り口を兼ねているみたい。

 エラい開放的やけど、冬場や雨ン日はどないするねん、って思うねんけど、たぶんそうなったら部屋ン中真っ暗になる覚悟で鎧戸締め切ってしまうんやろな。

 ベッドのカーテン、あれ麻やろか。細かいお花の刺繍がかわゆいね。三原色で菊系の模様はやっぱりアジアンなかんじ。

 

 そして、アー……わしは思い出す。

 

 いやや! いやや! 火口に飛び込みたくない! 火山融解されとうない!

 すべてが嘘なら、そう良かったのにねぇ! 今から入れる保険ありませんか!

 わしの経歴がわしの無い首を絞める! 落ち込むでしかし!

 ああ夢ならば、どんなによかったことでしょう……。

 

 

(……なんて情緒が不安定な剣なのかしら)

 

 

 お姫ちゃんがぼやいた。いや、正確には、口は開かれていない。

 ん? これはじゃあ、お姫ちゃんの心の声?

 

(やめてちょうだい。気持ち悪い)

 

 おっほ。ほーん? なるほどなるほど……そういう仕様ね。

 

(……あなたの声は、ずっと聞こえていたわ。それこそ二歳のころからね)

 

 吐き捨てるように、お姫ちゃんは言う。

 

(どういうことか、ようやくわかったところよ)

 

 ほお、なるほどな。感度良好ってことか。

 ……ちゅーことはやで、相性がめちゃええってことやんな。

 

 姫ちゃんの腕にガッと力がこもった。ぎりぎりと歯ぎしりの音がする。

 

 

(やめて! あなたを滅するために頂いた力って意味よ! )

 

 経験則や経験則。年長者の言うことはいったん飲み込もうや。

 そらあんた、才能ですわな。

 そない遠く離れてもわしの声が聞こえるて。そんなん、おっちゃん……わての最初の持ち主レベルしか、寡聞にして聞きませんなぁ。

 

 ……うーわ嫌そう。でもしゃあないやん? 持って生まれた才能ですわな。

 めぐり合わせめぐり合わせ。わしと縁があるっちゅうこっちゃ。

 

 幸か不幸か、わしは嬉しいんよ。

 だってわし、ずぅ~っと一人で誰にも言葉が通じんとさ、一本やったから。ロンリーオンリーなクノーちゃんやったから。

 お姫ちゃんには悪いねんけど、わし、あんまお兄さん斬ったときのことも覚えとらん。

 子供の血ィ吸いたないねん。これは信じてもらいたいところやね。

 というか、ね。あんま気分のええもんやないから、血ィ浴びたないねん。

 本音やで? わし、斬ったはったの勝負は好きやし、一騎討ちは大好物やけど。……いや聞いてや? 戦いは好きやねん。勝負事はな。

 でも虐殺は嫌いやねん。

 この違いわかる? ふわっとでええで。

 有象無象を斃したところでな、楽しないねん。むなしいだけや……。

 わしかて武器や。武器は使い方に文句言わん。むなしさも苦しみもないやろ。

 でもわしは、ちょっとばかし人間味あるからな。しゃあないねんけど、気持ち悪いねん。

 子供はとくに嫌。若い子ォの価値は、幼いほど価値がつけられんと思うねん。

 可能性の塊やろ? あ、この世界その価値観ない? ま、ちょっと先進的かな。

 いや馬鹿にしとらんで? 価値観それぞれや。人の数だけ世界があると、わし思うとる。

 偉い人にも、偉い人なりの苦悩があらはる。貧しい人にもいろいろや。親やったり、子やったり、女やったり男やったり。

 背負うとるもんはちょっとずつ違うやろ?

 お姫ちゃんにはお姫ちゃんの、わしにはわしの。人間の苦しみ、武器の苦しみや。

 お姫ちゃんが苦しんどるの、伝わってくるで。

 わしにちょっとだけ、その荷物分けてくれんか。だってもうわしら、一心同体みたいなもんやん。一蓮托生……はちょっと違うか。

 でもさ、さっきも言うたけど、これも縁やん?

 わしのこと好きにならんでもええからさ、いっぱいお喋りしようや。

 わし、年上やし、お姫ちゃんみたいな若い子ぉやと、ウザイかもしらんけどさ。

 そういうウザさも、いずれは……ね? こう、ちょっとずつ歩み寄っていけたら。素敵やなって……。

 ん? お姫ちゃん?

 えっお姫ちゃん!?

 

 ……えっ、寝とる!? うそ!

 この状況でコイツ、ぐーすかぴーできるんか!?

 ごっつい肝太いやんけ! すっげーな!?

 

 へぇえ~やぁああ~……

 嘘やろ……ええ……

 なんやねんこれ……あほらしないか? わし、これでも神剣やっぞ……。

 

 くそっ! ばーかばーか!おたんちん! もう知らんっ!

 

 ――――スヤスヤやんけ!

 

 マジか! スルースキルカンストか!?

 

 えーんえーん! 死にとうないよう~! 死にとうない~!

 ぷるぷる、ぷるぷる、わし、悪い剣やないよぅ~!

 

 ぷるぷる! ぷるぷるぷる!

 

 神様仏様~! ここから入れる保険ないんですかぁ~!

 

 

 

 

(……まあ呆れた。命乞いも真面目にできないのかしら)

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 あった~らし~いっ、あっさがきた~

 きぼ~うの~あっさ~に!

 

 なったらええのにな……。

 

 急に元気なくなるやん。いや、そらそうなりますがな。ねえ?

 

 ねえ? お姫ちゃん? お姫ちゃんっ! お姫ちゃんたらって、ねえ!

 

 

「あ~~~っ! もう! うるさいっ! 」

 

 ぷんぷんのお姫ちゃんが、布団をぼふん!と叩く。

 おばちゃんが、びくぅ! とする。

 お姫ちゃんは、とたんにシュンとして、「ご、ごめんなさい。びっくりさせて」と、謝る。

 扉がバーン! 開いて、足早に男が入ってきた。

 背筋が伸びた若い男で、部屋をキッと睨みながら見渡して。腰に帯刀しているところを見るに……護衛やろか。

 

 と、わしが所感を述べたら、(そうよ)と肯定の言葉が返ってきた。

 

(彼の名前はアビ)

 

 アビかぁ。なんやっけ。「灰色」って意味やんな。

 外国の血が入っとるんやろか。肌の色や瞳の感じは、この国の人とそう変わらんけど、顔立ちや体つきが、少し違うかんじがした。

 

(……剣のくせに、わかるのね)

 

 そら~わし武器でんがな。年季入った人間観察のたまものっちゅうやつやんな。

 

 アビはなかなかに美丈夫や。きれいな琥珀色の目が珍しい。

 鼻筋は通っていて、目がクリっとしとって、目ヂカラと愛嬌がある。なんちゅうかこう、人に好かれそうな感じ。

 体格もええし、こらギャップ萌えでんがな。モテますでなぁ。

 

(……でも彼、言葉が話せないの)

 姫は寂しげに言った。

(話さなくても、わたしは彼の言葉がわかるけれど、でも……)

 

 姫の視線が、アビを見つめている。

 

 ん?

 んん?

 

 

「まったくもう! 姫様は寝起きですよ! 出てった出てった! 」

 優しく叩きだされるところのアビもまた、ちらりと姫様を見つめた。

 

 

 ……ほう!?

 

 なるほど把握! 了解しましたっ!

 

 

「……いったい何を了解したっていうの!? 」

 

 

 お姫ちゃんが叫んだ。

 

 

 つまりアレっすね! ええやつっすね!

 

 愛……ありましたわ! がはは!

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