なんだかとってもヤバいけん~勇者の剣を棄てにいく~ 作:陸一じゅん
この時が来てしまった。
―――――つまり、旅立ちの朝である。
天気はピッカンの晴れ模様。空気は二重の意味で湿っぽい。
すっかり仲良くなった弟妹たち、「お姉さま行かないで」って泣いとるし、お母ちゃんも目じりをフキフキ。
もう、もう……! なんかね……!
わしちゃん辛い……! こっちもこっちで二重で辛い!
だってもう、馬車に乗り込んだお姫ちゃんの表情がやっぱり暗いんよ。
いや表情は見えんのやけど。
でも持ち主やから、心拍とか、手汗の水分量とか、全身の強張りとかでね、できる武器ってやつは分かるもんなんですわ。
今のお姫ちゃんの状態はアレ。『顔は笑って心は泣いてる』ってやつ?
乳母のおばちゃんも、これには気づいとらんと思う。
こういう変化を気づかせないよう、お姫ちゃんは徹底しとったからね。
猫みたいなところがあるねん。近くにいる人ほど、気づかせんようにするっていうかさ。
お姫ちゃんは乳母のおばちゃんが部屋を出ていってから、布団の中でシクシクシクシク……。
ついでとばかりに、わしへの返事も無くなったっつーわけでね。
虫、蒸、無視です。デデドン! 無視!(ここに集中線)ですよ。
まー仕方ねーよな。
考えてみりゃね、この子しっかりしとるけど、まだ十四歳。中学生なんよ。ナイーブで当然の思春期よ。
国を背負って旅に出るやら、そのために半年かけて肉体改造に励むやら、そらあんたねぇ。『こう』なりますわな!
ふつうの中学生やってそうやろ? 家、学校、家、学校の繰り返しに納得してても参っちゃう子はおりますやん? 自分で選んだ部活動、でも朝練、放課後、部活のあとは塾で、休日も練習と試合……とかやってたら、プッツン来るてな。
やっぱストレス発散には遊び。遊びですよ。人生娯楽が必要ですわな。
世の忙しい学生たちがどうやって正気を保ってるかっちゅうと、やっぱり同世代の友達や趣味なんよな。
そしてその同世代の友達ってのが、お姫ちゃんにはまずハードル高かったわけやな~。
というかね、城のやつらもあかんねん。なんかこう、お姫ちゃんを信奉しとるっていうかさ、神聖視しとるっていうか。
弟妹ですら、まるで天女様みたいなキラキラフィルターでお姫ちゃんのこと見とるからね。
高嶺の花の孤独ってやつ?
そんで、そんなとこに、四六時中うっせぇわしがおるっちゅうわけでェ。
自分で言うのもなんだけど、騒音プライベート暴き狂化付与の呪いアイテムが装備されて取れないよ! 状態なわけでェ。
自分で言うのもなんだけど、わしっアイテムはロクでもねえ!
うおージレンマだよォ~! 心苦しいよォ~!
わしかて好きでこうなわけじゃないんだよォ~!
ぐにゃぐにゃのコンニャクになって無害を表明したいよォ~ッ! 『最初は生臭いだけで、意外と味が染みて美味しくなる縁の下の力持ちタイプ』って評価がほしいよォ~ッ!
こんなの『毒を持って毒を制す』の毒じゃん!
『適切な管理のもと慎重に取り扱ってください』じゃん!
勇者だかなんだか知らんけど、賢者のおっちゃんはこんなん十四歳に押し付けんなよォ~!
運命運命って、どいつもコイツも若い力を信じすぎ!
もっとこう、溶解炉に沈んでもホンマに帰ってくるくらい、タフそうなオッサンを選抜してほしい。ムキムキのアフロヘアとかで「こいつ絶対死なへんやろな」ってやつ、目ん玉さらにして世界中探したら、どっかおるやろ。そういう、わしの心が痛まんやつを選抜してほしい。
旅なんて、ただでさえストレスかかるんだからさぁ!
しかも男所帯でしょォ!?
なんで侍女のお姉ちゃん一人やふたりつれてこんかったんよォ~!
着替えとかお風呂の準備とかどうすんのよォ~!
うちのお姫ちゃん、文字通りのお姫様育ちなのよ!
アンタ知らんでしょ! この子、さいきんまで靴下だって自分で履かなかったのよ! 『靴下を自分で履く練習』なんてカリキュラムが組まれてたレベルなんだからね!
「……ん? 姫様、どうなさいました」
「……いえ。別に」
「さあ、そろそろ見えてきますぞ! 」
おっほ。
――――海やん……!
―――――船やん?
――――――港や~ん!
水気が鋼に滲みますわァ~!
誰かぁ~! 錆止め塗ってェ~!