幽霊文字といいます。初投稿です。▼艦娘が道具かどうかで議論する提督とその上司、そしてそれを盗み聞きする多摩。▼pixivでも同名義で投稿しています

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艦娘を道具扱いする提督

 書き上げた報告書を提督に提出しようとして執務室に入ろうとしたところ、提督が誰かと話しているのが聞こえた。こっそり覗いてみると相手はどうやら上司の人のようだ。

 

「だからな、お前は艦娘の子らへの接し方がちょっと冷たいと思うぞ。もっと気にかけてやったらどうなんだ?」

 

「気にかけてないなんてことは全くないですよ?彼女たちの任務に対する適性はなるべく把握する努力をしているつもりですし、調子が悪そうだったらちゃんと休ませたりもしています。そういうのを無視して無理にやらせたところで能率が落ちるだけですから」

 

「能率とかそういうことを言いたいんじゃない。お前はちゃんと成果を挙げてるし、そういう部分に関して別に文句はないんだ。お前の彼女らへの接し方を見ていると、なんというか彼女らを「道具」として扱っているように見えてしまってな」

 

「道具として扱う、も何も彼女たちは元から国の予算で造って運用してる兵器ですよね?もちろん道具だからって雑に扱ったりはしないですけど」

 

「…あのなあ、だからそういう所を直した方がいいと言っているんだ。彼女たち艦娘は人と同じように心を持っていて痛みも感じるということは勿論分かっているよな?それを道具として扱うのは冷淡すぎると思わないか?」

 

「冷淡、ですか。私としては別に冷たく接しているつもりはないので何を直すべきなのかよく分からないのですが、説明していただいてもいいですか?」

 

「開き直ったなお前、まあ正直なのは良いことだが…つまりだな、単なる兵器なら壊れても修理したり代わりを用意したりすれば良いだけだが、艦娘は傷つく度に痛がるし、沈んだら二度と取り返しがつかない。

 

そんな彼女たちを心を持たない物体と一緒くたに扱うのは、彼女たちを戦場に送り込む立場の者として無責任な態度だ。それに、彼女たちは人間と同じようにパフォーマンスが感情に左右されるんだから、うまく信頼関係を築けなければ成果も挙げられない。」

 

「なるほど、分かりました。自分自身でもそういう所は気を付けていたつもりではあったのですが、あまり深く理解できていませんでした。しかし、これは反論というわけでも無いのですが、それでも私には艦娘が人間と何かが根本的に違うものだと感じられます。」

 

「ふむ、ではその「違い」とはどういう部分だと思っているんだ?人間と違って海面に立てるとか、そういうことを言いたいんじゃないよな?」

 

「ええ。もっと内面的な部分なんですが、どうも彼女たちは自分自身のことを兵器とか道具だと認識しているように見えます。何人かから直接そう言われたこともありますし、日々の振る舞いを見ていても本当にそうなんだろうと感じます。

例えば、そうですね、休みを欲しがらないどころか嫌がる艦娘が結構いるんですよね。「今日はもうしてもらう仕事もないし疲れてるみたいから休んでもいいよ」みたいに伝えて休ませようとすると逆にもっと嫌がって、「仕事の能率を上げるためにはちゃんと休んだ方がいい」と伝えると素直に聞くんです。

 

明らかに自分自身のことよりも任務を上に置いているように見えてこちらも心配になったので、任務より先にまずは自分の健康を気遣うように言ってみたことがあるんですよ。そうしたら困惑されるばかりで、どれだけ説明しても理解してくれなかったんです。「仕事に関係のない私生活」というものが分からなかったのかもしれません。」

 

「なるほど…つまり彼女たちは自分のことを兵器だと考えているから任務と休みを切り離して考えることができないんじゃないかと言いたいんだな。それで、結局お前は艦娘にどう接するべきだと思っているんだ?」

 

「要は、彼女たち艦娘が自分自身を兵器とか道具だと思っているなら、それに寄り添ってその通りに扱ってあげた方がいいのではないかと思います。彼女たちが心を持っていることは疑いがありませんが、その価値観は人間とはかけ離れたものです。

ならば、無理に彼女たちの内心に共感しようとするよりも道具として適切に運用してやった方が彼女たちを幸せにできるのではないでしょうか」

 

「そうか。まあ確かに一理あるが、「価値観が人間と違うから」で切って捨てるのは個人的には同意できない。そこをどうにかするように努力するのが「提督」の仕事だろう。

 

ただ、お前のとこの艦隊の様子を見ても特に問題がある感じもしないし、お前にはそういう考え方が合っているんだろうな。…ところで話は変わるが、次の大規模作戦の計画はどうなって…」

 

 

 

 それから少し話した後、上司の人は部屋から出て来て去っていった。そうだ、私は別に話を盗み聞きしに執務室まで来たわけではない。さっさと用事を済ませるとしよう。

 

「提督、昨日の出撃の報告書だにゃ」

 

「おお、もうできたのか。早いな」

 

「そんなに書くこともなかったにゃ。それはそうとして…提督、艦娘が何を考えてるかを知りたいなら私たちに直接聞いた方が早いと思うにゃ。というか、人同士で問答したところで何かわかるのかにゃ?」

 

「盗み聞きしてたのかよ…機密に触れるような話もするから、次からはしないでくれ。

まあいい、確かに多摩の言う通りだ。じゃあ折角だし、さっきの話を聞いた上での艦娘からの感想を聞かせてもらおうか」

 

「感想って言われても困るにゃ…そもそも艦によってどう扱われたいかなんてだいぶ違うと思うにゃ。

たぶん道具として扱われるのが嫌なのも、逆にそれが嬉しいのも両方いるにゃ。まあ多摩にも他の艦の考えることなんてわからないけど」

 

「それもそうか、まあ個人差はあって当たり前だよな。ちなみに多摩自身は人にどう扱われたいと思っているのか聞いてもいいか?」

 

「別にいいけど、こういうことを聞くなら他の誰かに聞いた方が詳しく教えてくれると思うにゃ。多摩は、まあ、提督とか他の人に内心でどう思われてるかなんてどうでもいいにゃ。

無理なことをするように言われなくて、ほどほどに休みをくれればそれだけで構わない。この答えで十分かにゃ?」

 

「ああ、ありがとう。他の艦たちにも何かの機会に聞いてみることにするよ。」

 

「その方がいいと思うけど、結構デリケートな話題だからあんまり直接的に聞かない方がいいにゃ。深く考えずに答える多摩みたいのは多分例外で、だいたいの艦はもっと深刻に捉える気がするから、あんまり話してくれないかもしれないにゃ。

…もう報告書も出したし、疲れたからもう戻っていいかにゃ?」

 

「おい、この話題を振ったのは君の方だろう…でも助かったよ、お疲れ様」

 

 

 執務室から出て廊下を歩きながら考え事をする。それにしても、なぜ提督もあの上司の人もわざわざあんなことを気にするのだろう。そもそも私たちは人の手で軍艦として生み出されたものだ。私たちは与えられた名前を名乗って与えられた任務をただ実行しているだけで、それらに関して私たちから何か要求した覚えはない。

 

だから人間が私たちをどう扱うかなんてことは人間にしか決められないし、艦娘に聞いてみてそれを参考にすることに意味があるとは思えない。人間だろうと道具だろうと、私たちはそれに「なれ」と命じられればその通りに「なる」のだ。好きに決めてくれて構わない。

 

…まあそんなことを考えても私が何か変えられるわけでもないので、正直どうでもいい。難しいことを考えていたら眠くなってきたし、部屋に戻ったら昼寝でもしよう。

 

 

 

 


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