もしもグランドツアーの3人がキヴォトスに来たら   作:ガチタン雷電

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第1章 砂漠と元CEOの亡霊

 

第1章 “砂漠と元CEOの亡霊”

 

アビドス砂漠 午前5時 日の出まであと1時間

 

 アビドス砂漠の朝は、イギリスの雨とは真逆だった。

焼けるような熱気、刺すような光、そしてどこまでも続く砂丘。

 その真ん中に、1台2万ポンドで購入した3台の中古車がまるで処刑台の囚人のように並んでいた。

 

 

 

 

■ジェレミーの車:中古のランドローバー・ディスカバリー3

 

「見ろ、これが文明の頂点だ。」

 

ジェレミー・クラークソンは、誇らしげに中古のディスカバリー3を指さす。

サスペンションがすでに少し沈んでいるのは気のせいではない。

 

「えーと、それ“頂点”っていうより“ピークを過ぎて転げ落ちた後”じゃ……」

 

リチャード・ハモンドがつぶやく。

 

「ハモンド、それはお前が乗ってきた奇妙なSUVを見る時のリアクションだ。」

 

 

■リチャード・ハモンドの車:中古の「HUMMER H3」

 

砂漠の真ん中で、ジェレミーとジェームズの車の横に並ぶのは――

明らかにサイズ感のバランスがおかしい 黄色いハマー H3 だった。

 

2万ポンドという予算で買える“ギリギリ現実的なハマー”と言えばこれしかない。

しかし、ハモンドが選んだ個体には、どうやら大きな問題があった。

 

外観:妙に派手なイエロー

 

「どうだ!完璧だろう!」

 

ハモンドが胸を張るが――

車体は明らかに“軍用・タフ・強い”というハマーのイメージを裏切る、

レモンキャンディみたいな黄色。

 

ジェレミーが鼻で笑う。

 

「お前、その色…… 砂漠で見つけてもらいやすいレスキュー隊仕様か?」

 

「違う!これは“サンバースト・イエロー”という洒落た色なんだ!」

 

ジェームズが冷静に指摘する。

 

「サンバーストというより、ただの“目立つバナナ”だよ。」

 

 

■走行距離:23万マイル

 

ハモンドは得意げだ。

 

「ほら、アメリカ製だから長持ちするんだ!」

 

ジェレミーが眉をひそめる。

 

「アメリカの“歴史”は、銃とバーガーだけだろ。」

 

 

 

■前オーナー:イギリス軍の関係者の“友人”

 

ハモンドは前オーナーの履歴を胸を張って説明した。

 

「実は、これは中古車販売店の元軍人の友人が持ってたんだ!写真だって見せてもらった。」

 

ジェレミーがすかさずツッコむ。

 

「つまり軍用車の“本物”ではなく、“軍関係者の知り合いがなんとなく買ったSUV”ってことだな?」

 

 

■謎の改造:屋根に余計なライトバー

 

ジェームズが眉間を押さえる。

 

「ハモンド、そのライト……点くのかい?」

 

「もちろんだ!ほら!」

 

スイッチを入れた瞬間、

ライトバーは一瞬だけ砂漠を昼間のように照らし、

その後バチッと音を立てて消えた。

 ショートしたようだ。

 

ジェレミーがため息をつく。

 

「またハモンドの車だな。」

 

 

 

■異音:左後ろから“ガラガラ…ガラ”という音

 

ハモンドは聞こえないふりをしているが、

車が動くたびにまるで鍋を転がしているような不吉な音がする。

 

「これはアメリカ流の“サウンドシステム”だ!」

ハモンドは必死で言う。

 

ジェレミー:

「違う。劣化しているというんだ。」

 

 

■全員の総評

 

ジェレミー:

「砂漠で最初に壊れる車、確定。」

 

ジェームズ:

「このハマーの唯一の利点は……黄色で見つけやすいところだね。

 遭難した時に、すぐ発見してもらえる。」

 

ハモンド:

「うるさい!これは完璧なオフローダーなんだ!」

 

 

 

ハモンドのハマーは、

彼の身長の約2倍の高さで、

燃費は悪く、

ライトは壊れ、

色は派手で、

そして砂漠とはまったく相性が良くなさそうだった。

 

つまり、グランドツアーの車としては完璧だった。

 

 

■ジェームズの車:中古の6代目 Nissan Patrol(Y62)

 

一方、ジェームズ・メイの前には――

砂漠用の馬のように巨大で、無駄に威圧感のある 6代目 日産パトロールが鎮座していた。

 

「で、ジェームズ。なんで君がアラブの王族が乗るような車を買ったんだ?」

 

ジェレミーが皮肉っぽく言う。

 

「中古だったんだ。たったの1.5万ポンドでね。奇跡的だろう?」

 

「奇跡じゃない、スキャンダルのせいだ。」

 

ジェレミーがニヤリと笑う。

ハモンドも急に悪い顔をした。

 

「ねえジェームズ、購入時、車のトランクに巨大なスピーカーケースとか入ってなかった?」

 

ジェームズは眉をひそめる。

 

「どういう意味だい?」

 

ハモンドがわざとらしく口を尖らせる。

 

「ほら、“CEO密輸用スペシャル・エディション”だったとか……」

 

ジェレミーが追撃する。

 

「ああ!それで2万ポンドまで値下がりした理由がわかった!

この パトロール、“カルロス・ゴーン脱出パッケージ”だったんだ!」

 

ジェームズの眉が跳ね上がる。

 

「そんなわけあるか!ただの中古だよ!」

 

「いやいやジェームズ、日産はゴーンが逃げた直後、車の値段が軒並み下がったんだ。」

ジェレミーは腕を組みながらうなずく。

 

「つまりそのパトロールは“CEO一人ぶん安い”んだよ。」

 

「黙れジェレミー。」

 

「次のオプションは何だ?“楽器ケース風CEO輸送ボックス”とか“空港素通りパッケージ”とか?」

 

「黙れと言ってる!」

 

ジェームズが真っ赤になって怒る。

しかしハモンドは容赦なく追い打ちをかける。

 

「いやーでも良い車だよジェームズ。強いし、壊れないし、そして――」

 

「そして?」

 

「逃げ足が速い。」

 

ジェレミーとハモンドが同時に爆笑した。

 

ジェームズは深いため息をつき、砂漠を見つめる。

 

「……君たちとはもう話したくない。」

 

 

 

こうして、カルロス・ゴーンの亡霊に取りつかれた Patrol と、壊れそうなディスカバリーと、ハモンドの妙な車の3台は、

灼熱のアビドス砂漠を走り出すことになった。

 

最悪の組み合わせで、最悪の環境へ。

 

旅の始まりとしては、実に“グランドツアーらしい”。

 

(ナレーション、ジェレミークラークソン)

 




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