ようやく「アイツ」が登場です。
「……で、それでね!」
とある小学校だった。
ランドセルを背負った子供たちが大暴れしたり走り回ったりする帰りの喧噪の中、教室の隅で二人の少女が机を挟んで向かい合っている。
一人は、
彼女は活発で、好奇心旺盛な性格をした少女だ。
先日の──「第七学区警備ロボット暴走事件」の当事者でありながら、今はあの時の怖さなどなかったかのように、むしろ興奮気味に友達に語り聞かせている。
もう一人は、ふわふわとした金髪と、どこか猫のような愛らしさを持つ少女、フレメア=セイヴェルン。
彼女は頬杖をつき、少し背伸びをしたような態度で話を聞いていた。
「……でね、ほんとなんだよフレメアちゃん! すごかったんだから!」
六花は身を乗り出し、擬音語たっぷりに力説する。
「おっきなロボットが、グルグルーって暴走してて、もうダメだーって思った時にね、横からおにーちゃんがドーン! って飛び込んできたの!」
「ふーん。大体、それって映画のワンシーンみたいな話だね。にゃあ」
フレメアが相槌を打つ。
彼女の口調は、年相応以上に賢く見せたいのか「大体」とつける癖と、どこからから拾ってきた「にゃあ」という猫っぽい口癖が特徴的だ。
「ビームとかは出したの? 大体、ヒーローってのは最後は光線技でドカーンって決めるものじゃない?」
「ううん、そんなの出さないよ。ベルトもマントもつけてないし」
六花は首を振った。
「普通の高校生の服で、あとね……なんか、すっごく地味なかんじだった」
「地味? 大体、ヒーロー……主人公っぽさが全然ないタイプってこと?」
「うん。でもね、ロボットがぶつかる直前に飛び込んできて、私を突き飛ばしてくれたの! それで、私の代わりにロボットの前に立ちふさがって……」
六花の瞳がきらんきらんに輝く。
「周りの大人は誰も動けなかったの、だけど、あのおにーちゃんだけが助けてくれたの。……能力も使ってなかったと思う。私達と同じ、レベル0みたいだったよ!」
その言葉に、フレメアは少しだけ眉を上げた。
レベル0。無能力者。
この学園都市において、それは「よわっちいヤツ」を意味している言葉だ。自分と同じ。
それなのに、暴走するロボットの前に身を投げ出すなんて。
(……わあ、すごい度胸かも。ちょっとびっくり)
フレメアは内心で軽く感心した。
特別な力がなくても、誰かを守ろうとする人がいる。それは、彼女にとって少しだけ勇気づけられる事実だった。
「そのお兄ちゃん、大体、やる時はやる人みたいだね!」
「でしょでしょ! ……あ、そうだ。それで今度ね、そのおにーちゃんにお礼するの!」
「お礼?」
「うん! ママがおにーちゃんと約束してくれて、ご飯食べに行こうって。……えっと、第七学区のちゃんとしたレストランを予約したんだ!」
六花は嬉しそうに笑った。
「うちはママと二人だから、ママが『六花を助けてくれたお礼ちゃんとしなきゃ!』って張り切っちゃって」
「なるほどね。まあ、美味しいものが食べられるなら正義だね。にゃあ」
フレメアは微笑ましく頷いた。
:
その夜。なんてことないマンションの一室。
夕食のテーブルで、フレメアは姉のフレンダ=セイヴェルンに向かって、学校での出来事を話していた。
「……でね、フレンダお姉ちゃん。六花ちゃんを助けた人と、六花ちゃんとお母さんで今度レストランでご飯食べるんだって。そんな話してたの!」
フレンダは、大好物のサバ缶(本日は味噌煮)をつつきながら、ふーん、と気のない返事をした。
「へえ、そう。よかったじゃん。……ま、どうせどっかの能力者が売名行為でやったのかもだけど」
「にゃあ? ううん違うよ! 六花ちゃんは『地味で、私達と同じレベル0だった』って言ってたよ。大体、普通の高校生だって」
「……、レベル0?」
フレンダの手が止まった。
彼女の趣味というかライフワークの一つに、「友達作り」がある。暗部というドロドロした世界に生きている反動か、彼女は最近表の世界での気楽な交友関係を好んでいた。
もっとも、彼女にとっては
「無能力者が、生身でロボットから子供を助けた、ねぇ……」
フレンダはふうん、と思った。
この悪意が渦巻く科学の街で、そんな割に合わない賭けをするバカ。しかも、地味な一般人。
それは、彼女の「お友達リスト」に加える価値があるかもしれない。
:
──数日後。
フレンダは気まぐれを起こし、そのレストランの様子を遠目に見に行った。フレメアを通して六花ちゃんから日程を聞き出すのは簡単だった。
(ふむ、で、その男は……)
カフェのテラス席から反対のレストランを双眼鏡で覗くと、六花ちゃん親子と一緒に食事をする少年の姿がすぐに見つかった。
(………………、)
黒髪。特徴のない制服。猫背で自信なさげ。
なんだか六花の母親にペコペコと頭を下げ、恐縮しきっている。
「……っは。結局期待外れみたいね」
フレンダは鼻で笑った。
どう見てもただの小市民だ。これは……という何かがない。と思う。第一印象は最悪だ。
:
(はあ、そろそろ帰ろうかしら……)
そして小一時間後。
フレンダはすっかり興味を失ってケータイをいじっていたが、その時、店を出てきた少年の姿が横目に見えた。
「……ん?」
六花ちゃんたちと別れた後。
一変して彼は、すぐ反対側の道沿いへ……そして鋭い目つきでスーパーマーケットに入っていくのが見えた。
「?」
フレンダは、立ち上がる。
(……ん? 何よ今の、あの顔…………)
さっきまでの恐縮した態度とは違う、獲物を狙う狩人のような目。
フレンダは、興味がわいてきたので、結局彼の後を追うことにした。
:
激安スーパー『ラ・モー』。
この神のように安い食品を提供している店の特売コーナーは、貧乏学生たちの熱気で軽い戦場と化していた。いつになく大盛況で、押し合い圧し合いの大騒ぎになっている。
その中心にあるワゴンには──『サバ水煮缶 限定50個 98円』。
「……あったあ!」
木寺一桁は、目を輝かせてワゴンに突撃していた。
残り一つ。最後の一個。
彼は勝利を確信して手を伸ばした。
だが。
スイ。
横から伸びてきた白く細い手が、その缶詰を鮮やかに、まるで手品のように掠め取っていった。
「……あっ」
木寺の手が空を切る。
呆然と振り返ると、そこにはベレー帽をかぶった金髪の少女──フレンダが、勝ち誇ったように立っていた。
「……ふふん。結局私の勝ちね」
「あ、あの……それ、俺が…………」
「早い者勝ちでしょ? ここは戦場なんだから、隙を見せた方が悪いのよ」
フレンダは、実際は見下ろされているが、木寺を見下ろすように言った。
「それに、アンタみたいなトロそうな奴が、この『サバ缶戦争』を生き残れるとでも思ってんの?」
「……サバ缶戦争って。何の茶番だそれ」
「茶番じゃないわよ! サバ缶は完全食なのよ! その価値もわからない素人には、尚更この缶詰を譲るわけにはいかないわね」
フレンダはハ、と鼻を鳴らした。
(……む)
木寺は、その言葉にカチンときた。レストランでの緊張から解放され、ようやくありつけるはずだったご馳走を「素人」呼ばわりされて黙ってはいられない。
というか、いきなり表れて絡んできて、何なんだこの子。
「素人? 聞き捨てならないな」
木寺は一歩踏み出した。
「俺は週に六回はサバ缶を食ってる超ヘビーユーザーだぞ。その缶詰の価値くらいわかってる」
「へぇ? じゃあ聞くけど」
フレンダは、試すような目で木寺を見た。
「アンタ、これを
「あ? ……決まってるだろ。……白飯に乗せて、醤油をちょっと垂らして食うんだよ。素材の味を活かす、それが一番だ」
木寺は自信満々に答えた。
だが、フレンダは「プッ」と吹き出した。
「あっはははは! あーあ、ダメだこいつ! 完全なニワカじゃない……!」
「な、何だとお!?」
「醤油? 白飯? ……発想が貧困なのよ! 結局昭和の食卓かっての!」
フレンダはビシッと指を突きつけた。
「いい? アンタ、サバ缶の脂の重さをわかってないわね。醤油だけじゃ、後半飽きが来るのよ。ご飯との絡みも悪いし、単調すぎるわ!」
「はあ? お前こそわかってないな! あの脂っこさを醤油の塩気で中和するから美味いんだろ! それに、白飯に染みた汁が最高なんだよ!」
「甘いわ! そんなの『エサ』レベルよ!」
フレンダは一歩も引かない。
「サバ缶(水煮)のポテンシャルを最大限に引き出すのは……『カレー』よ!」
「……は? カレー?」
木寺の時が止まった。
「そう! 例えばトマトベースのカレーにサバを入れて煮込むの! そしたらサバの出汁とスパイスが融合して、魚臭さを消しつつ旨味だけを残す。これぞ至高の味になるのよ! それを知らないなんて、アンタ人生の半分損してるわよ!」
「……、邪道だ」
が、木寺は吐き捨てるように言った。
「サバ缶は、あのチープな金属の味と魚の脂を楽しむもんだ。カレーなんかに入れたら、味がわからなくなるだろ。素材への冒涜だ」
「はああ!? アンタ、味音痴なの!?」
スーパーの缶詰売り場の前で、黒髪高校生と金髪少女が、サバ缶を巡って熱い口論を繰り広げている。
周囲の客は「何だあいつら」という目で見ていくが、二人は真剣そのものだった。
「あーそう……わかったわ。そこまで言うなら」
フレンダは、不敵な笑みを浮かべた。
「証明してあげるわよ。私のサバ缶カレーが、アンタの貧相な醤油ご飯より結局遥かに優れていることをね」
「……証明?」
「今から作るわよ。ついてきなさい、ニワカのサバ缶野郎!」
こうして、木寺一桁は、謎のサバ缶少女・フレンダに連行されることになった。
:
彼女に連れてこられたのは、近くの公園である。
昼下がりのベンチ。
フレンダは、スーパーで追加購入したレトルトカレーとトマトジュース、そして安物のカセットコンロを取り出し、手際よく調理を始めた。
「いい? 見てなさいよ。……サバの汁ごと投入! これが旨味の爆弾になるの!」
彼女は鍋をかき混ぜながら熱弁を振るう。
数分後。紙皿に盛られた特製サバ缶カレーが完成した。
「ほら、とっとと食べなさい。私の実力を思い知らせてあげるわ」
「……いただきます」
木寺は恐る恐る一口食べた。
「……………………!」
……美味い。
悔しいが、
「……どう?」
「……負けました。美味いです」
木寺が素直に認めると、フレンダは「ふふん!」と胸を張った。
「でしょ!? 結局私の才能と美貌に溺れるしかないってわけよ!」
二人は並んでカレーを食べた。
フレンダは、ロボット事件のことは一切口にしなかった。その代わり、何気ない会話の中で、彼という人間を値踏みしていた。
「……ねえ。アンタ、名前は?」
「木寺。木寺一桁」
「あっそう。私はフレンダ。……よろしくね、キデラ」
「お、おう」
フレンダは、スプーンを咥えながら木寺を横目で見た。
(……スプーンの持ち方は普通。警戒心は薄め。私のことをただの『ちょっと変わった高校生』としか見てない……ってか、女の子慣れしてなくて何か緊張してるわ、こいつ)
「ねえ、キデラ。アンタさ、例えば今……もし仮に、大事なサバ缶を誰かに奪われそうになったらどうする?」
唐突に、フレンダが話を振った。木寺は少し動揺する。
「え? ……まあ、相手によるけど」
「例えば、すごく怖そうな不良とか」
「……あげるよ。怪我したくないし、また買えばいいし」
木寺は即答した。プライドのかけらもない。
「ふーん。つまんないの」
「しょうがないだろ。見てわかるだろ、俺はそんな強くねえ。……まあ、俺の友達には誰彼構わず殴りに行くやべーやつもいるけど……」
「……は? そいつ頭おかしいわね。……じゃあさ。もし、そのサバ缶が『世界で最後の一つ』だったら?」
「え?」
「もう二度と手に入らない。それを奪われたら、アンタの楽しみは永遠に、不可逆的に、失われる。……それでも、あっさりあげるの?」
木寺はスプーンを止めた。
少し考え込んで、遊具の辺りを見た。
「……いや。それなら、流石に抵抗するかもな」
「勝てないのに?」
「勝てなくても……嫌だって言うくらいはするよ。だって、二度と食えないのは寂しすぎるだろ」
彼は、困ったように笑った。
(……なるほど、ね)
フレンダは内心で頷いた。
こいつは、損得勘定では動かない。「嫌だ」「寂しい」という、感情のラインで動くタイプなのか。
普段は逃げ腰でも、そのラインを踏み越えられたら、無謀なことでもしでかす。ロボットの件も……そういう事なのかもしれない。
「……バカね、アンタ」
「よく言われるよ」
フレンダは笑った。
うん、悪くない。
「広く浅い友達」のリストに加えるには、とりあえず……十分面白い素材だ。
「ごちそうさま。……また遊んであげるわ、キデラ」
フレンダは、空になった皿を片付け、ベレー帽を直して立ち上がった。
「……おう。ごちそうさん。美味かったよ」
(絡んできた割にはあっさりしてんなあ……)
木寺は、軽快なステップで歩き去る彼女の背中を見送った。何だったんだあの子、と首をかしげながら。
:
その夜。フレンダは自宅のキッチンに立っていた。
フレメアはもう寝ている。静かな部屋で、彼女はテーブルの上に置かれたものを見つめていた。
サバ水煮缶。そして、炊きたての白飯と、醤油。
「……あいつ、あんなに自信満々に言ってたわよね」
フレンダは独りごちた。
昼間、キデラが熱弁していた「素材の味を活かす食べ方」。
あそこまで言うなら、実は……本当に一周回って美味しいのかもしれない。そんな好奇心が、彼女を突き動かしていた。
「試してやるわよ。私の舌で」
フレンダは、ホカホカのご飯にサバの身を乗せ、醤油をタラリと垂らした。
そして、パクリと一口。
「……、…………」
モグモグと咀嚼する。
サバの脂と醤油の塩気が混ざり合う。
不味くはない。いや、普通に食べられる。
でも。
「……うーん」
フレンダはスプーンを置いた。
「やっぱ、普通ね。ひねりがないわ」
彼女はため息をついた。
「あいつ、やっぱセンスないわね。……こんなのが一番だなんて」
でも、と彼女は思う。
あの地味な少年が、これを「最高だ」と言って食べている姿を想像すると、不思議とサバ缶好きのシンパシーは感じた。
弱くて、地味で、センスもない。
けれど、自分の「好き」を貫く奇妙な頑固さだけは感じる。
「……ま、完食はしてあげるけど」
フレンダは、少しだけ口角を上げて、残りのサバ飯をかきこんだ。
:
それから数日後。七月上旬である。
時刻は午後六時。
第七学区にある大型書店。
夏休みが見えてきた店内は、涼を求める学生たちで賑わっていた。その喧騒から切り離されたコーナーの奥で、木寺一桁は真剣な眼差しで棚を見上げていた。
「……小萌先生おすすめの心理学本か、漫画かラノベか……どれにすべきか」
ロボット事件で学園都市側から貰った見舞金(正直大した金額ではない)の残りを、彼は少しでも有効に活用しようとしていた。
「……ま、ぜんぶ買えばいいか。金は多分足りるし」
木寺が三冊の本を手に取った、その時だった。
「だーめ。そんな堅苦しい本と馬鹿な本ばっか読んでると、頭がカチコチかどろどろになっちゃうわよ?」
背後から、すっきりした、しかしどこかお調子者な響きを含んだ声が耳元で囁かれた。
同時に、木寺の持っていた本が、手品のようにスッと抜き取られる。
「あっ!?」
振り返ると、そこにはベレー帽をかぶった金髪の少女──フレンダ=セイヴェルンが、ニヤニヤと笑って立っていた。
手には、木寺が選んだ三種の神器。彼女はそれをパラパラとめくり、つまらなそうに鼻を鳴らす。
「うわ、わけわからんラインナップ。……アンタ、変なセンスしてるのね。もっとエッチな本でも素直に探してりゃあいいのに」
「なに言ってやがる! ……返せよフレンダ、それ買うんだから」
どこにでも現れるなこいつ!
そう思いつつ木寺が手を伸ばすと、フレンダはひらりと身をかわした。
その動きは、書店の狭い通路とは思えないほど軽やかで、まるで重力を無視しているかのようだ。
「……てか、お前、なんでここに」
「偶然よ、偶然。……と言いたいところだけど」
フレンダは、本をパタンと閉じ、木寺の顔を覗き込んだ。
その青い瞳が、獲物を定める猫のように細められる。
「私ね、友達はたっくさんいるのよ。それはもうたーくさん。中には人形遊びが好きな子とか、能力開発に必死な子とか、四六時中寝ぼけてる子とかね。……みんなそれぞれ、色んなものが好きで、色んな遊び方をするわ」
彼女は、指を折りながら語る。その口調は楽しげだが、どこか底知れない。
「でもね、アンタみたいなタイプはけっこう珍しいのよ」
「……珍しい?」
「そう。『自分は弱い』って顔をしてるくせに、死地に飛び込むバカ。……サバ缶と平和を愛してるくせに、トラブルの臭いを引き寄せる体質」
「ああ? 言ってることが一ミリも分からん」
フレンダは、木寺の胸元を指先でツンと突いた。
「アンタのこと見てると、なんか負の予感がするのよね。結局いつか野垂れ死にしそうで。……だからさ」
彼女は、悪魔的な微笑みを浮かべた。
「私が
「……は? 鍛える?」
「そう。遊び半分、親切半分よ。……アンタがこの街で、もう少しマシに生き残れるように、この私が特別授業をしてあげる」
嫌な予感がした。
いきなり何言ってんだこいつ。
木寺の本能が、全力で「逃げろ」と警句を鳴らしている。
だが、フレンダは逃がさない。
「ね、この本返してほしかったら……私と遊びましょ。今、超暇なの」
彼女は本と、恐るべき手際で抜き取った木寺の財布をもって、さっさとレジに行ってしまった。そして買った本を小脇に抱え、出口へと歩き出した。
「拒否権はないわよ。……ついてきなさい、キデラ。レベル0流の夜遊びを教えてあげるから」
:
さて、木寺が連れてこられたのは、第七学区の端にある、廃校エリアだった。
フェンスには『立入禁止』の看板。窓ガラスは割れ、校庭は雑草で覆われている。
夜闇が迫る中、その廃校舎は巨大な生き物のようにそびえ立っていた。
「……おい、これ不法侵入だろ」
「バレなきゃ結局犯罪じゃないわよ。それに、ここはもう使われてないし、警備の巡回ルートからも外れてるわ」
フレンダは、フェンスの南京錠をヘアピン一本で、わずか三秒で解錠した。
その手際の良さに、木寺は呆れを通り越して感心してしまった。
「……お前、何者なんだよ」
「ただの、多趣味な女子高校生よ」
フレンダは校舎の中へと足を踏み入れた。
カビと埃の臭い。静寂。
木寺も渋々ついていく。
「……で、何するんだ?」
「
フレンダは、おもむろに階段に腰掛け、木寺を見下ろした。
「ルールは簡単。私がこの校舎のどこかに隠れるわ。アンタは三十分以内に私を見つけて、そしたら本を返してあげる。……でも、もし見つけられなかったら」
彼女はにこりと笑った。
「アンタの財布の中身、全部私がもらうわ。見たところまだ万札も残ってるじゃない? アンタには大金過ぎるわ」
「はあ!? なに見てんだよ! それに理不尽すぎだろ!」
「結局世の中理不尽ってわけよ。……逆に見つけられたら、本に加えて、そうね……」
フレンダは少し考え、悪戯っぽく小悪魔スマイルをした。
「私がアンタに『とっておきの秘密』を一つ教えてあげる」
「秘密……?」
「そう。例えば……『レベル0が格上に勝つための、ズルい戦い方』とかね」
「…………、」
木寺の目が細められた。
この少女は、何を言ってるんだろう。
だが、底知れない説得力のようなものも感じる。少し、木寺の好奇心が沸いてきた。
これは「遊び」だが、同時に彼女からの「試練」なのだ。
「……しゃあねえ……わかった。乗ったよ」
「ふふん、そうこなくっちゃ! ……じゃあ、ハンデとしてすぐスタートにしてあげる。よーい……」
フレンダは、スカートのポケットから小さな球体を取り出し、床に転がした。
カラン、という軽い音。
直後、プシューッ! という音と共に、真っ白な煙が噴き出した。
「グゲホッ、なんだこれ!? 煙幕!?」
「スタート!」
煙が晴れた時、フレンダの姿は消えていた。
静寂だけが残る校舎。
遠くで、カラスが鳴く声が聞こえる。
木寺一桁の、孤独な探索が始まった。
:
「………………、」
木寺は、慎重に廊下を進んでいた。
相手はあのフレンダだ。ただ隠れているだけのはずがない。
彼女の言動、身のこなし。只者ではないことは、これまでの接触で嫌というほどわかっている。
(……一階は職員室と保健室。隠れる場所は多いが……)
一歩踏み出そうとした瞬間、木寺は足を止めた。
床に散乱している、古いプリント用紙。
どれもこれも濡れているが、一枚だけ妙に小ぎれいだ。
木寺は、落ちていた定規でその紙をめくってみた。
「……うわ、地味にエグい」
紙の下には、画鋲がびっしりと上を向いて敷き詰められていた。
踏めば確実に足を怪我する。靴底を貫通する長さだ。
これは「遊び」のレベルを超えている。
(あいつ……本気で俺をハメに来てるのか?)
木寺は冷や汗を拭った。
これは訓練……か? 実戦形式すぎる。鍛えるとか、そもそも正直意味不明すぎる。
「おいおい…………」
このトラップを見るに、「注意深く歩け」「違和感を見逃すな」。という彼女の声が聞こえるようだ。
彼は神経を研ぎ澄ませた。まじめにやった方がいいかもしれない。
視覚、聴覚、そして彼特有の「空気を読む力」。
理科室の前。ドアが少しだけ開いている。
中から、微かな物音がした気がした。
(誘導か? それともミスか……?)
木寺は、ドアノブに触れず、足で少しだけドアを押し広げた。
バシャッ!!
と、頭上から、思い切り白い粉が舞い散った。
「…………」
黒板消しトラップ。
しかも、ただのチョークの粉ではなく、小麦粉か何かが混ぜられている。浴びたら視界を奪われていただろう。
「……くそ、ベタな手を」
木寺は粉を避けながら教室内に入った。
「…………、」
誰も、いない。
だが、黒板に大きく文字が書かれていた。
『遅い! もっと頭使いなさいよ! 筋肉バカじゃないんだから!』
「……は」
挑発だ。
木寺は、逆に冷静になった。
フレンダは、楽しんでいる。そして、俺に「考えろ」と言っている。
力ずくで探すのではなく、相手の思考を読めと。
(あいつはレベル0だと言った。……なら、
能力者は、能力に頼るあまり、物理的な痕跡や心理的な盲点に無頓着になることが多い。
さんざん能力者に焦がれた木寺だからこそ、実感をもって見えている傾向だった。
だが、フレンダは違う。環境を利用し、道具を使い、相手の裏をかく。
俺と同じ土俵の、しかし遥か高みにいるプロだ。(なんのプロなんだよ、とツッコミたいが)
木寺は目を閉じた。
校舎の図面を頭に描く。
俺が追う側。フレンダが逃げる側。
彼女は俺を「観察」したがっている。
なら、隠れ場所として最適なのは、俺の動きが一番よく見えて、かつ追い詰められた時に逃げやすい場所。
「……屋上だ」
袋小路に見えて、実は一番逃げ道が多い場所。
給水塔、避雷針、隣の校舎への渡り廊下の屋根。
身軽な彼女なら、そこを特等席にするはずだ。
:
木寺は、階段に仕掛けられた糸のトラップや、廊下の粘着トラップをおっかなびっくり回避しつつ跨ぎ、ようやく屋上の重い扉を押し開けた。
「はあ……」
夜風が吹き抜ける。
フェンスの向こうに、学園都市の煌びやかな夜景が広がっている。
予想通りだった。
屋上の給水塔の上に、フレンダは座っていた。
足をぶらつかせ、奪った漫画本を読んでいる。
「……見つけたぞ」
木寺が声をかけると、フレンダは顔を上げた。
ふ、と笑う。
「あら。思ったより早かったわね。……十五分か。ま、合格点ってとこかしら」
彼女は、給水塔から軽やかに飛び降りた。
スタ、とほぼ音もなく着地する。その動きには、一切の無駄がない。
「全部の教室見回ってくれたら、もっとたくさんトラップを味合わせてあげたんだけど。一つや二つしか通らずに、結局まっすぐここに来たってわけね」
「ああ……疲れたよ。てか罠だらけじゃねえか。画鋲踏んだらどうするつもりだったんだ」
「愛の鞭よ。……実際の戦場じゃ、画鋲じゃなくて地雷が埋まってるんだから。足一本で済めばラッキーって世界よ?」
フレンダは、本をぽんぽんと木寺に投げ返した。
木寺はそれを受け取り、安堵の息をついた。
「はい。約束通り、返すわ」
「……どうも」
木寺はフレンダの隣に並び、フェンスに寄りかかった。
眼下に広がる街の光。
その光の中に、能力者たちの光と、無能力者の闇が混在している。
「……なぁ、フレンダ」
「ん?」
「お前、本当にレベル0なのか? ……その身のこなし、普通の人間じゃねえぞ」
木寺の問いに、フレンダはにー……と笑った。
「厳密にはね。……システム上の判定はレベル0。能力開発を受けても、結局何の能力も現象として起こせない『落ちこぼれ』よ」
彼女は、自分の脚線美を誇示するようにポーズを取った。
「でも、今の私は、そんじょそこらの能力者より強いわよ? ……爆弾と、体術と、可愛さと、あと『ズル賢さ』があれば、無敵なんだから」
「爆弾て……てか、自分で可愛い言うなよ」
フレンダは、ポケットから変な携帯食料(鯖缶プロテイン?)を取り出し、包みを開けた。
「ねえ、キデラ。……アンタ、悔しくない?」
「え?」
「レベル0であること。……周りの連中が、超能力で空飛んだり火出したりしてるのを見て、自分はなんで無能力なんだろうって、惨めだなって思わない?」
フレンダの声色が、少し真面目になった。
それは、彼女自身がかつて抱いていたコンプレックスの吐露のようにも聞こえた。
木寺は、夜景を見つめた。
五月の実験室で、数値の出ない測定器の前で、泣いていた自分を思い出す。
「……思ってたよ。死ぬほどな」
「今は?」
「今は……今も正直思ってるけど、前よりちょっとマシになった気がする。なんでか分かんないけど……」
木寺は、自分の手を見た。
傷痕が残った手。ロボット事件で少女を助けた時に負った、一生傷だった。
「俺には何もないけど。……何もないからこそ、できることもあるかも……って、そう考えようとしてるのかもな」
「空っぽ」だからこそ、誰かのために、動くことが出来るかもしれない。掬い上げられなかった誰かに、手を伸ばせる時が来るかもしれない。それは現実逃避だろうか。
「……そう。正解よ」
フレンダは、携帯食料を口に含んだ。
「能力者ってのはね、便利なようで結局不自由なのよ。……『自分の能力でできること』しか考えなくなるから」
彼女は、夜景を指さした。
「火が出せる奴は、火で解決しようとする。電気が出せる奴は、電気に頼る。……思考が凝り固まっちゃうのよね。想定外の事態に弱い。ま、何事も例外はあるけれど」
それは、木寺が感じていた感覚と非常に似ていた。
フレンダは、木寺の方を向いた。
その瞳は、肉食獣のように美しく光っている。
「でも、私たちは違う。……武器がないなら、拾えばいい。道がないなら、作ればいい。……使えるものは、敵の力だって、運だって、全部利用してやるの」
彼女はこくん、とサバ味の携帯食料を飲み込んだ。
「それが、弱者の戦術よ。……ダサくて結構。結局、最後に立っていた方が勝ちってわけよ!」
「おお……いっそ潔いなお前」
フレンダは、木寺の胸をまた、指先で突いた。
「だからね、キデラ。……もっと
「卑怯?」
「そう。……話してて思ったけど、アンタはちょっとヌルすぎるわ。自己犠牲とか、誰かを守るとか、基本的にそういう甘い考えで動いてる」
彼女の声が低くなる。
「それじゃ、いつか死ぬわよ。……本当に守りたいものがあるなら、泥水すすってでも、嘘ついてでも、泣きわめいてでも生き残りなさい。……私みたいにね」
フレンダの言葉には、重みがあった。
木寺は知る由もないが、それは暗部という地獄を生き抜いてきた、少女の実感だ。
木寺は、彼女の目を見た。
青い瞳の奥にある、冷徹さと、微かな寂しさ。
友達はたくさんいると言った。だが、その中で本当に心を許せる相手は、どれだけいるのだろうか。
それとも、この少女は、たくさんの友達を、全て想っているとでもいうのだろうか。
「知ったような事言いやがる……ま、善処するよ。俺も、死にたくはないしな」
「よろしい。結局素直が一番ってわけよ!」
フレンダは満足げに頷いた。
:
「さて、本日の授業は終わり。帰ろっか、お腹すいたし」
「まだ続くんかいこれ」
と、フレンダが背伸びをした、その時だった。
屋上のドアが、ドガンッ!! という音と共に、乱暴に蹴破られた。
「……おいおい。ガキどもがこんな場所で逢引かァ?」
現れたのは、四人の男たちだった。
薄汚れた作業着。手には鉄パイプ、バール、そしてスタンガン。
目つきが悪い。薬物をやっているような、焦点の定まらない目をしている。
『スキルアウト(武装無能力者集団)』の類だろうか。この廃校舎をアジトにしていた連中か、あるいは木寺たちを途中から尾行してきたのか。
「……あーあ。雰囲気ぶち壊しね」
フレンダが深いため息をつく。
彼女にとっては、恐怖の対象ではない。汚いものを見る目だ。
「金出せよ。あと、そこの姉ちゃんは……へへっ、上玉じゃねえか」
「遊んでやるからこっち来いよ」
男たちが下卑た笑みを浮かべて、ジリジリと包囲網を縮めてくる。
木寺は、一瞬で顔面蒼白になったが、なんとか、
──だが、フレンダがそれを手で制した。
「……キデラ。これ、テストの続きね」
「……、は?」
フレンダは、冷や汗だらだらの木寺の耳元で囁いた。
「あいつら、四人。武器あり。殺気あり。……私たち、丸腰。どうする?」
彼女は笑っていた。
木寺は想像もつかないが、彼女のスカートの中には大量の小型爆弾が隠されている。彼女一人なら、この程度のゴロツキ、一瞬で消し炭にできる。
だが、彼女はあえて木寺に振った。
この男が甘いのは分かっている。なんだかんだ自分を助けようとするだろう。だが、結果は明白、真正面から行ってもボコボコにされるだけだ。
だから。
たった今教えた「卑怯になれ」という教えを、実践できるか試しているのだ。
(ま、じか…………)
木寺は、瞬時に思考を巡らせた。
こいつ、なんでこんなに冷静なんだよ。
……戦う? 無理だ。数で負けてるし、武器もない。
……逃げる? 一本道の階段は塞がれている。屋上から飛び降りるわけにもいかない。
男たちが近づいてくる。あと数メートル。
フレンダは動かない。木寺の背中を見ている。
なら、やることは一つだ。
プライドを捨てろ。手段を選ぶな。
俺の最大の武器を使え。
「……フレンダ。演技、できるか?」
「お安い御用よ」
木寺の小声に、フレンダは即座に反応した。
次の瞬間。
木寺は、男たちに向かって、派手に土下座をした。
額をコンクリートに叩きつける勢いで。
「ひいぃっ! すいません!
「……あ?」
男たちが拍子抜けして足を止める。
さっきまで女の子を庇おうとしていた男が、いきなりこのザマだ。
「こ、こいつは俺の彼女なんですけど、超金持ちの娘で! 財布に一〇〇万くらい入ってるんです! 親のブラックカードも持ってるんです!」
「はあ!?」
フレンダが目を丸くして叫ぶ。ナイスリアクションだ。
「サイテー!! アンタそれでも男!? 私を売る気!?」
「うるせえ! 俺の命の方が大事なんだよ! お前の金で助かるなら安いもんだろ!」
木寺は喚き散らす。
男たちの視線の質が変わる。
土下座している情けない
「へえ、一〇〇万か。……おい、女の鞄奪え!」
「カードの暗証番号吐かせろ!」
男たち全員の意識が、フレンダに集中する。
その瞬間。
木寺一桁の存在が、彼らの認識から「消えた」。
無害な敗北者。背景の一部。道端の石ころ。
誰も、土下座している男のことなど見ていない。
木寺は、土下座した体勢から、蛇のように音もなく這って移動した。
男たちの足元へ。
彼らは、目の前の金髪の少女に気を取られ、足元の違和感に気づかない。
木寺は、一番手前の男の右足の靴紐と、隣の男の左足の靴紐を、素早く、固く結びつけた。
さらに、もう一組も。
(……よし、準備完了!)
木寺は、フレンダに向かって微かに目配せをした。
フレンダがにたあ、と笑う。
「……よし、やれフレンダ!」
木寺が叫ぶと同時に、フレンダが自分の鞄を放り投げた。
「くれてやるわよ! 貧乏人!」
鞄が宙を舞う。
男たちが反射的にそれを見上げる。「金だ!」と手を伸ばす。
その隙に、フレンダはスカートの中からピンポン玉のようなものを取り出し、地面に叩きつけた。
カッ!!
強烈な閃光と爆音が、夜の屋上を白く染めた。
「うわぁっ!?」
「目がぁ! 見えねえ!」
視界を奪われた男たちが、パニックになって後退ろうとする。
だが、足元は繋がれている。
ドサッ! ズデデエーン!
間抜けな擬音と共に、二人が転倒し、それに巻き込まれて他の仲間も将棋倒しになる。
無様な団子状態。
「今だ、走れ!」
木寺が立ち上がり、出口へダッシュする。
フレンダも鞄を拾い上げ続く。
二人は、転がっている男たちの背中やお尻を踏み台にして、屋上から駆け下りた。
「待てコラァ! 殺すぞ!」
後ろから怒号が聞こえるが、靴紐が解けるまでは追ってこれない。
「あはははは! 傑作! あいつらの顔見た!?」
階段を駆け下りながら、フレンダが大笑いする。
「アンタ、やるじゃない! まさか靴紐結ぶなんて! 地味すぎるけど最高よ!」
「とっさに思いついたのがそれしかなかったんだよ! あとで刺されないかな!?」
「大丈夫よ! 顔なんて覚えてないわよ、あいつら!」
二人は、笑いながら夜の校舎を駆け抜けた。
能力も、爆弾も使わずに。
ただの悪知恵と、演技と、そして卑怯な連携だけで切り抜けた、完全勝利だった。
:
廃校舎を脱出し、息を切らして公園まで逃げてきた二人。
安全圏まで来て、ようやく足を止めた。
「……はぁ、はぁ。……死ぬかと思った」
「だらしないわねぇ。もっと体力つけなさいよ」
フレンダは、自販機でジュースを二本買い、一本を木寺に投げた。
奢りだ。
「……ありがとな」
「いいえ。……面白かったわ、今日」
フレンダは、ベンチに座り、ちょっと脱力した。
炭酸を開ける音が、心地よく響く。
「アンタ、合格よ」
「何のテストだよ」
「私の『お友達』として相応しいかのテスト」
「傲慢が服着て歩いてやがる!」
フレンダは、木寺に向かってあははと笑った。
それは、打算も計算もない、純粋な少女の笑顔だった。
「褒めたげる。あんたには鯖缶3つくらいの価値はあるかもね」
「……喜んでいいのか、それ?」
「結局、光栄に思えってわけよ!」
フレンダは、ジュースの缶を掲げた。
「レベル0同士、仲良くやりましょ。……この街は、化け物だらけだからね。私たちみたいな持たざる者は、手を取り合わないと生き残れないわ」
それは、暗部の少女からの、ちょっとした友情のようなものの提示だった。
利用し合う関係かもしれない。いつか裏切られるかもしれない。
それでも、今この瞬間、二人は弱者としての共感を分かち合っていた。
「……おう。よろしく頼むよ、フレンダ」
木寺は、フレンダと缶を合わせた。
涼やかな音がした。
「じゃあね、キデラ! ……あ、そうそう」
去り際、フレンダは振り返って言った。
「今度、もっと美味しいサバ缶料理、教えてあげるわ。……私、これでも料理には自信あるんだから! 結局店に出せるレベルってわけよ!」
彼女は手を振り、夜の街へと消えていった。
木寺は、しばらくその後姿を見つめ、見えなくなったあと、ため息をついた。
……無茶苦茶で、謎の多い少女だった。
彼女の正体は何なのか。なぜあんなにも戦い慣れているのか。
聞けばよかったのかもしれない。
だが、木寺はなんとなく予感していた。
(……多分、聞いても答えてくれないだろうな)
彼女には、彼女なりの踏み込まれたくない領域がある。
それは、木寺が触れられたくない事が、本当にたくさんある事に似ている気がしたのだ。
だから……今のところはただの「サバ缶友達」でいいか。
「へー本名フレンダ=セイヴェルンね……って、いつの間にかあいつの連絡先が……!?」
ケータイを見て素直にビビりつつ、木寺は一人、帰路についた。