とある科学の存在証明   作:かさねtyann

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ミサカミコト

 

 

 

 空気が、澱んでいた。

 木寺一桁は、目の前の「少女」を見つめたまま、思考の処理落ちを起こしていた。

 

 

 

(……なんだ、こいつ…………?)

 

 

 

 目の前に立っているのは、間違いなく御坂美琴と同じ顔をした少女だ。

 常盤台の格好。茶色のショートヘア。整った顔立ち。

 

 だが、()()()()()()()()()

 

 先ほどまで隣でジュースを飲んでいた御坂美琴が「真夏の太陽」だとするなら、目の前の彼女は「真冬の月」だろうか。

 

 

 熱がない。光がない。感情という色彩が、綺麗さっぱり抜け落ちている。そういう印象を受ける。

 

 そして何より、その装備だ。

 

 

 頭には軍用と思しき武骨な暗視ゴーグル。背中には、ヴァイオリンケースのような細長いバッグを背負っている。常盤台のお嬢様が身につけるには、あまりにもちぐはぐなアイテムたち。

 

 

「……あの、いやだから、御坂さんだよな?」

 

 

 木寺が改めて、恐る恐る声をかけると、少女は無表情のまま首をコクリと傾けた。

 

「はい。ミサカはミサカです。ですが、あなたが先程接触していたお姉様とは異なる個体です、とミサカはあえて親切に繰り返し二度も事実関係を整理します」

「……は? え?」

 

(……()()?)

 

 木寺の眉間にしわが寄る。なんだその喋り方は。自分の行動をいちいち実況しているのか?

 

 というか、「個体が異なる」ってどういう意味だ。

 

 

「えっと……双子、とか?」

 

 

 木寺が苦し紛れに尋ねると、少女──仮称、異なる個体は、木寺をじいっと見つめた。

 

「当たらずとも遠からず、といったところでしょうか。ミサカは妹です、とミサカは簡潔に自己紹介を完了します」

「妹……ああ、なるほど」

 

 木寺は少しだけ納得、安心した。

 

 

『兄妹姉妹』というのは、得てして似て非なるものだ。俺と二葉がそうであるように、御坂美琴にも、性格が真逆の妹がいたとしても不思議ではない。……いや、顔が似すぎている気もするが、一卵性双生児ならあり得るか。

 

 

「で、その妹さんが、俺になんの用で?」

 

 木寺が尋ねると、御坂妹は足元をきょろきょろと見回した。

 

「黒猫です、とミサカは目的を今一度開示します」

「黒猫?」

「はい。この付近で生体反応をロストしました。黒くて、小さくて、四足歩行の哺乳類です、とミサカは特徴を列挙します」

「いや、猫の特徴は大体知ってるけど……」

 

 

 木寺は溜め息をついた。さっきの(美琴)といい、この妹といい、どうしてこうも唐突なんだ。

 しかも、この無機質な喋り方。

 関わりたくないオーラがプンプンしているが、そこは木寺一桁の悲しい性分、困っているように見える人間をあんまり邪険にできない。

 

 

「……こっちには来てないと思うけど。あっちの公園の方じゃないか?」

 

 木寺が指さすと、御坂妹はその方向をちらっと見つめ、

 

「なるほど。あなたの証言には客観的な根拠が乏しいですが、現状では有力な手がかりです、とミサカは判断し、捜索範囲を拡大します」

 

 そう言って、一歩踏み出した。

 

 と、その時。

 

 

 

「んにゃあ」

 

 

 

 小さな鳴き声がした。木寺の足元。

 そこに置いてあった、大量の缶ジュースが入ったビニール袋の陰から、小さな黒い毛玉が顔を出したのだ。

 

 

「……いた」

「あ」

 

 

 御坂妹が立ち止まる。黒猫は、木寺の足にスリスリと体を擦り付けている。どうやら、おしるこの甘い匂いか何かに釣られて寄ってきたらしい。

 

「なんだ、ここにいんじゃねえか」

 

 木寺がしゃがみ込み、猫の頭を撫でようとすると、猫は気持ちよさそうに目を細めた。野良にしては人懐っこい。それ以前にまだ子猫すぎるのか。

 

 

「確保します、とミサカは目標に向けて接近を試みます」

 

 御坂妹が、ロボットのような動きで近づいてくる。その手つきは、小動物を愛でる少女のそれではなく、不発弾を処理する工兵の手つきに近かった。

 

「ちょ、待て待て。そんな殺気立って近づいたら逃げるだろ」

「殺気? ミサカの感情レベルは平常値を維持していますが、とミサカは心外であることを表明します」

「いや、動きが硬いんだよ……こう、もっと優しく……」

 

 木寺が猫を抱き上げようとした、その瞬間。

 

 

「あんたたち……そこで何やってんの?」

 

 

 背後から、低い声が響いた。まるで地獄の底から響いてくるような、ドスの利いた声。

 木寺と御坂妹が同時に振り返る。

 

 そこには、路地裏の入り口に立ち尽くす、御坂美琴の姿があった。

 先ほど黒子と一緒に帰ったはずの彼女が、肩で息をしながら戻ってきていたのだ。その表情は、焦燥と、動揺と、そして微かな恐怖……? に彩られている。

 

 

「……お、御坂姉? 帰ったんじゃ……」

 

 

 木寺が声をかけると、美琴はぴく、と反応したが、いきなり凄い勢いで距離を詰めてきた。

 

「忘れ物よ! ちょっと気になって戻ってきたら……ってか、あんた、その子と何話してんのよ!?」

 

 美琴の視線が、木寺ではなく御坂妹に釘付けになる。その目は明らかに泳いでいた。

 

 

「いや、猫探してるっていうから……妹さんなんでしょ?」

「いっ、妹ぉ!?」

 

 

 美琴が裏返った声を上げた。顔色がさっと青ざめる。

 

「ち、違うわよ! 妹なんていないわよ! いとこ! そう、いとこの子よ!」

「え? でもこいつ、『ミサカは妹です』って……」

「それは口癖! 最近流行ってんのよ、一人称を『妹』にするのが! ねえ!?」

 

 美琴は必死の形相で御坂妹の肩を掴み、ガクガクと揺さぶった。御坂妹は無表情のまま、されるがままになっている。

 

 

「はい。ミサカは流行の最先端を行くハイセンスな個体、一○○三一号です、とミサカは空気を読んで肯定します」

「ああああほら見なさい! そういうことだから!!」

 

 

 美琴は強引に納得させようとするが、どう見ても無理がある。

 木寺はじと目で二人を見た。

 

「……ふーん。まあ、どうでもいいけど」

 

 

 別に深く追及するつもりはない。家庭の事情なんて、他人が首を突っ込むべきものじゃない。それは木寺自身が一番よく知っている。

 

 それに、美琴の焦りようを見るに、あまり触れられたくない事情があるのだろう。

 例えば、この妹……いとこ? が極度の厨二病で、その設定を守るために家族総出で苦労しているとか。

 

 

 

「で? 猫は見つかったの?」

 

 美琴が話題を逸らすように聞いた。

 

「ああ、こいつなら……」

 

 木寺が足元を見ると、黒猫はいつの間にか姿を消していた。美琴の殺気に怯えて逃げ出したのかもしれない。

 

「……逃げられたみたいだな」

「そう。ならいいわ。ほら、行くわよ!」

 

 

 美琴は御坂妹の手を引くと、強引に歩き出した。

 

「ちょ、お姉様、ミサカはまだ研修の途中ですが、とミサカは抵抗の意思を……」

「うるさい! 研修なんて終わり終わり! 今日はもう帰りなさい!」

「ですが、実験のスケジュールが……」

「あーあー聞こえない! ほら、あっちでアイス奢ってあげるから!」

 

 美琴は木寺の方を一度も振り返ることなく、御坂妹を引きずるようにして路地裏の奥へと消えていった。

 まるで、木寺とこれ以上接触させるのを恐れるかのように。

 

 

「……なんだかなぁ」

 

 

 残されたのは、木寺一桁と、大量の缶ジュース。そして、割り切れない違和感だけだった。

 

 

 

(……実験? 一○○三……一号?)

 

 御坂妹の言葉が、妙に耳に残る。というか、そもそもあんな格好で、あいつ何をしていたんだ?

 暗視ゴーグルに、あのバッグ。どう見てもただの散歩じゃない。

 

 それに、美琴のあの態度はなんだ。ただの「いとこ」なら、あそこまで必死に隠す必要はないはずだ。

 

 

(……ま、俺には関係ないか)

 木寺は首を振って、思考を打ち切った。詮索は不幸の元だ。

 これ以上、常盤台の事情に関わってろくなことはない。

 

 上条なら首を突っ込むかもしれないが、俺はそこまで暇人じゃない。通りすがりの一般人として、この場を去るのが正解だ。

 

 

「……よし、いくぞ」

 木寺は足元のビニール袋を持ち上げた。何度持ってもくそ重い。

 二十本からの缶ジュース。全部で5キロ以上あるんじゃないか。それが全部指にかかってくる。

 これを寮まで持って帰るのか。風邪上がりの体には堪える重労働だ。

 

「なんで俺、こんなんばっかなんだろ」

 木寺は青紫色に染まる空を見上げ、深い溜め息をついた。その背中は、世界の理不尽を一身に背負ったかのように丸まっている。

 

 

 

 

 :

 

 

 

 

 

 美琴と逃走した結果、結構遠くまで来てしまっていた。

 とぼとぼと歩くこと数十分。木寺は第七学区の繁華街を抜けていた。

 

 両手には、ビニール袋が二つ。途中で袋が破けそうになったので、コンビニでわざわざ袋を追加購入して分散させたのだ。その姿は、まるで特売日に買い出しに来た主夫のようである。

 

「……重い。腕ちぎれるっつうの」

 額から汗が滴る。喉が渇いた。さっきおしるこを飲んだばかりなのに、もう口の中がパサパサだ。一本くらい飲んでしまおうか。いや、ぬるくなっている缶飲料ほど不味いものはない。

 

 木寺が自販機の前で立ち止まり、冷たい水を恨めしく見つめている時だった。

 

 

 

「……あら。木寺じゃない」

 

 

 

 涼やかな、しかしくっきりした意志を感じさせる声音が掛かった。

 木寺はびくりとして振り返る。

 

 そこにいたのは、黒髪を後ろで束ねた、やや長身の少女。吹寄制理だった。

 彼女はスポーツバッグを肩にかけ、手に英単語帳を持っている。どうやら、部活か何かの帰りらしい。

 

「……げ、吹寄」

「『げ』とは何よ、『げ』とは。クラスメイトに会ってその反応は失礼じゃない?」

 

 吹寄は呆れたように眉をひそめた。

 

 四月からの「騒動」を経て、彼女との関係は修復された……というより、再構築された。以前のような無視や軽蔑は全くない。

 

 だが、その代わりに「手のかかる問題児」としての彼女の監視の目が厳しくなった気がする。よく言えば愛の鞭というか。

 

 

「いや、ちょっと……この格好が我ながらみじめでよお……」

 木寺は両手のビニール袋を持ち上げて見せた。中身は大量の缶ジュース。しかもラインナップがカオスだ。

 

 

『激辛ハバネロオレ』『納豆サイダー』『ドリアンソーダ』……。

 美琴が蹴り出した自販機のラインナップは、学園都市でも指折りのゲテモノ揃いだったらしい。

 

 

「……何それ。買い占め? アンタ、そんな趣味あったの?」

 

 吹寄が袋の中身を覗き込み、顔をしかめた。

 

 

「違うって。……ちょっと事故って、押し付けられたんだよ」

「事故? また? アンタ、本当トラブルに愛されてるわね」

「愛されたくねえよ、こんな偏愛……」

 

 木寺は肩を落とした。吹寄は溜め息をつきつつも、その視線が袋の中の一点に止まった。

 

「……ん? ちょっと待って」

 

 彼女の手が伸び、袋の中から一本の缶を取り出した。

 それは、毒々しい紫色のパッケージに包まれた『プロテイン増量・ムラサキイモ・エナジー』だった。

 

 

 

「これ……! ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!?」

 

 

 

 急に吹寄の目が輝いた。

 普段の鉄壁の委員長からは想像もつかない、キラキラリとした瞳だ。彼女は健康オタクであり、怪しげな健康食品やドリンクに目がないのだ。

 

「え、そうなの? 普通に売ってたが……あげるよ、それ」

「い、いいの!? これ、ネットオークションだと定価の三倍はするのよ!?」

「マジで? ……まあ、俺は飲まないし。荷物が減るなら助かる」

「……アンタ、たまには役に立つわね」

 

 吹寄は嬉しそうに缶を抱きしめた。そして、咳払いをして表情を引き締める。

 

「オホン。……まあ、タダでもらうのも悪いわね。荷物持ちのお礼も兼ねて、何か奢ってあげるわ」

「え、いいよ別に……」

「いいから来なさい。あそこの屋台、新作の野菜マシマシ健康焼きそばが出たのよ。一人じゃ入りにくかったし」

 

 

 吹寄は強引に木寺の腕を引いた。有無を言わせぬ圧力。

 木寺は流されるまま、屋台の方へと歩き出す。

 

 

 

「……へいへい」

 

 まあ、悪い気はしない。吹寄とこうして普通に話せるようになったのは、あのロボット事件以来だ。彼女は厳しいが、面倒見はいい。こうやって気にかけてくれるのは、クラスの一員として認めてくれている証拠だ。

 

 木寺は少しだけ表情を緩めた。

 

 その時である。

 

 

 ドオッ!! 

 背後から、誰かがぶつかってきた。かなりの勢いだ。

 木寺はバランスを崩し、前のめりになる。

 

 

「うおっ!?」

「きゃっ!?」

 

 

 前を歩いていた吹寄に突っ込む形になる。

 木寺は転倒を防ごうと、必死に手を伸ばした。だが、両手には重いビニール袋。とっさに手が出ない。

 

 結果として、木寺の体は吹寄の背中に覆いかぶさるように倒れ込み──

 

 ガシャーと、派手な音を立てて、二人は地面に転がった。

 

 木寺の下敷きになる形で、吹寄がうめき声を上げる。

 

 

 

「いっ……!」

「……ってて……悪ぃ、吹寄……」

 

 

 

 木寺が動転し、夢中で動こうとした時、「妙な感触」に気づいた。

 

 

 柔らかい。そして、温かい。自分の顔が、何かに埋もれている。目の前には、非常に健康的な太もも。

 

 

 それは、スカートの中の……()()()()()()()()()……。

 

 

 

 

 

 

「………………、」

 

 

 

 

 

 

 時が止まった。

 木寺の脳内コンピューターが、状況を解析する。

 

 転倒。吹寄のスカートがめくれ上がっている。俺の顔が、その……非常に際どい位置にある。

 

 いわゆる、ラッキースケベというやつだ。

 

 

 

(……終わった)

 

 

 

 木寺は悟った。これは、死刑宣告だ。

 

 

 

 

「……木寺」

 

 

 

 すぐに、立ち上がった鉄壁の女。

 頭上から、地底の底のような低い声が降ってきた。吹寄制理の声だ。怒りを通り越して、氷点下以下の冷気を帯びている。

 

「……あ、あの、これは不可抗力で……後ろから誰かが……」

 

 木寺は震えながら弁明しようとした。だが、吹寄は無言でスカートを払った。その顔には、表情がなかった。ただ、軽蔑と、失望と、汚いものを見るような目が、そこにあった。

 

「……最低」

「い、いやや、違うんだって! ホントに!」

「上条の影響かしらね。類は友を呼ぶって言うけど……」

 

 吹寄は冷ややかに言い放った。

 

「そういうのは上条一人で十分なんだけど。……それも中学生相手に」

「は?」

 

 吹寄の視線が、木寺の背後に向けられた。木寺が振り返ると、そこには。

 

 

 

「……痛いです。ミサカは慣性の法則に従って転倒しました、とミサカは状況を報告しつつ、臀部の痛みを訴えます」

 

 

 

 ぺたん、と尻餅をついている少女。御坂妹だった。

 彼女もまた、スカートが盛大にめくれ上がり、こっちはこっちで縞パンを惜しげもなく晒している。

 

 つまり、木寺は背後から御坂妹に追突され、その勢いで吹寄を押し倒し、結果として二人の女子のパンツを同時に目撃するという、上条当麻も真っ青のトリプル役満を達成していたのだ。

 

 

 

「……、…………………………」

 

 

 

 木寺は停止した。弁解の余地がない。

 

 客観的に見れば、中学生の女の子と戯れていて、その勢いでクラスメイトにセクハラをした変態にしか見えない。

 

 

「……幻滅したわ。せっかく見直してたのに」

 

 吹寄は、早くも飲み干したさっきの謎飲料の缶を木寺の足元にコン、と置いた。無機質で乾いた音が響く。

 

 

「もういいわ。一生そこで勝手にやってなさい」

「ちょ、吹寄! 待ってくれえ!」

「話しかけないで」

 

 吹寄は踵を返すと、早足で去っていった。その背中は、以前のように──いや、以前以上に冷たく、木寺を拒絶していた。

 

 

「……あ、ああー……」

 

 

 木寺は地面に膝をついた。夏休み明け。教室に入った瞬間の空気が、容易に想像できる。

 

 

『女子の敵』『変態』『ロリコン』『人あらずド痴漢』。

 そんなレッテルが、再び木寺一桁の額に刻印されるのだ。

 

 

「……なんで、だよう……」

 木寺は頭を抱えた。

 やっと。やっと普通に戻れたと思ったのに。やっと、クラスに居場所ができたと思ったのに。

 

 一瞬で崩れ去った。

 この世界は、木寺一桁が幸せになる可能性を排除することに全力だ。

 

 

 

「……あの、大丈夫ですか? とミサカはあなたの精神状態を懸念します」

 

 背後から、無温度な声が掛かった。全ての元凶である。

 木寺はゆっくりと振り返り、恨めしげに御坂妹を見た。

 

「……お前、なんでまたここにいるんだよ…………」

「はい。あなたを追尾していました、とミサカはストーキング行為を自白します」

「ストーキングって……」

「一○○三一号とのリンクで……いえ、お姉さまとの会話であなたが『キデラ』という個体であることを確認しました。そこで、先程の猫の件について、追加情報を提供しようと……」

「……?? いや猫の話なんかどうでもいいよ! お前のせいで俺の人生設計が崩壊したんだぞ!」

 

 木寺は叫んだ。だが、御坂妹は動じない。彼女は立ち上がり、制服のしわを整えると、淡々と言った。

 

「申し訳ありません。ミサカの不注意により、あなたの社会的評価を著しく低下させてしまいました、とミサカは深く反省します」

「反省してる顔じゃないだろそれ……」

「表情筋の制御が不十分なため、内面が伝わりにくい仕様です、とミサカは補足します」

「仕様って……」

 

 

 木寺はがっくりと項垂れた。もういい。怒る気力もない。

 どうせ俺はこういう星の下に生まれたんだ。諦めよう。夏休み明けは、また透明人間生活に戻ればいい。慣れてるじゃないか。一人ぼっちは。

 

 

 

「……もういいよ。帰ってくれ」

 木寺はよろよろと立ち上がり、散らばったジュースの缶を拾い集めた。

 吹寄が捨てた謎飲料も拾う。まずそう……本当に虚しい味がしそうだ。

 

「……手伝います、とミサカは贖罪を申し出ます」

 

 御坂妹が、ビニール袋の一つに手を伸ばした。

 

「いらねえって。一人で持てるから」

「いいえ。これはミサカの責任です。あなたの寮まで搬送を補助します、とミサカは譲りません」

 

 御坂妹は強引に袋を奪い取ると、すたすたと歩き出した。

 

「ちょ、おい! 勝手に行くな!」

「こちらの方向で合っていますか? あなたの帰巣本能を求めます、とミサカはナビゲートを要求します」

「帰巣本能って鳥か!」

 

 木寺は慌てて追いかけた。このまま放っておくと、こいつはどこまでもついてきそうだ。

 

 それに、こんな目立つ変な中学生を連れて歩いているところをまた誰かに見られたら、さらなる誤解を生む。

 

 さっさと寮まで行って、ジュースを置いて、追い返そう。それが……最善か。

 

 

 

「……はぁ。ついてねえなぁ」

 

 

 

 

 

 木寺一桁と御坂妹。奇妙な二人は、夜の迫る学園都市を、学生寮へと向かって歩き出した。

 

 

 

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