AION REAGALIA(アイオン・レガリア)   作:ネネカ大神

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第二十四章:【黄金の戴冠、そして永遠に続く朝焼け】

宇宙の根源である『原初の時計・クロノス』をその手で制圧し、この世界の法典(コード)を自らの意志で書き換えたアル・ゼノン。 かつての彼は、強すぎる力に振り回され、世界を救う代償として石化や結晶化という「静止」を余儀なくされていた。しかし、二十八人の翼たちとの絆を経て「本気」を解放した今の彼は、もはや力の反動に屈するような未熟な存在ではなかった。

 

聖時計塔『クロノス・マギ』の頂上に立つアル・ゼノンの身体を覆っていた透明な結晶は、彼の呼吸一つで霧散し、瑞々しい生命の輝きへと変換された。

 

「……見ていろ。これが、余が選び、余が完成させた世界だ」

 

ゼノンが軽く指を鳴らす。 瞬間、宇宙の寿命を削っていた「虚無の渦」は完全に消失し、代わってエテルナの空には、かつてないほどに美しい、永遠に色褪せることのない黄金の朝焼けが広がった。 それは管理された箱庭の空ではない。王の「全能」によって、崩壊の運命を物理的にねじ伏せ、永久不変の安定を手に入れた新世界の夜明けであった。

 

「王よ。……貴方という存在は、ついに宇宙の摂理さえも、その玉座の飾りになさったのですね」

 

蒼穹のイシュタルが、畏怖と熱烈な敬愛を込めて、王の背中に声をかけた。 彼女の背後には、死の淵から蘇り、王の権能を分かち合ってさらなる高みへと至った二十八人の翼たちが、壮観な列をなして跪いていた。

 

ゼノンはゆっくりと振り返った。 その瞳は、右目に黄金の時計、左目に深い藍色の輝きを宿し、見る者すべてを平伏させるほどの絶対的な覇気を放っている。しかし、その唇には、以前のような冷徹な孤独感はなく、自らの愛する部下たちを見守る「不器用な情愛」が宿っていた。

 

「……アル・ザヒド。イシュタル。バシュタール。……そして全翼たちよ。余は、この宇宙のすべてを余の管理下に置いた。もはやこの国に、不当な死も、理不尽な滅びも訪れることはない」

 

ゼノンが王権具『万劫の針』を、その絶対的な権能の象徴として大地に突き立てた。

 

「……余は、全能を捨てはせん。神であることを止めるつもりもない。……余が最強であり続け、この世界を『法』として支え続ける限り、貴公らが傷つくことも、消えることも二度とないからだ」

 

それは、究極の傲慢であり、究極の慈愛であった。 一人の人間として隠居するのではなく、絶対的な神として君臨し続け、その腕の中で民を、部下を、世界をまるごと守り抜くという決意。

 

「……ハッ! さすがは俺たちの王様だ。全能のまま、俺たちと遊び続けようってわけか。……贅沢な話じゃねぇか!」

 

辰(たつ)のバラムが、龍槍を担ぎ直して不敵に笑う。

 

「……なら、俺たちはその『最強の王』に相応しい、最強の翼でいなきゃあな!」

 

 

戦いは終わり、エテルナにはかつてない活気が戻っていた。 王が「全能」を以て世界を再構築したことで、街の建物はより堅牢に、食べ物はより豊かに、そして人々の魂はより健やかに進化した。 もはや「嘘の平和」ではない。王という「絶対的な柱」が支える、揺るぎない真実の楽園。

 

アイオン宮殿のテラス。 ゼノンは、かつて石像として座していたその場所に、今は一人の「生きた王」として座っていた。

 

「……王様。お待たせいたしました。……復活を記念した、特別な一杯です」

 

午(うま)のアル・ザヒドが、恭しく銀のトレイを差し出した。 そこには、王が愛してやまない「エテルナ・アッサム」の紅茶。 そして、その横には不釣り合いなほど無機質な、しかし王にとってはどんな宝石よりも価値のある「駄菓子」が置かれていた。

 

「……ほう。『わさびのり太郎』か。……気が利くな、アル・ザヒド」

 

「……何しろ、これの備蓄が切れると、王様のご機嫌が斜めになりますからね」

 

アル・ザヒドが冗談めかして言うと、周囲にいた翼たちから笑いが漏れた。

 

ゼノンは一口、紅茶を飲んだ。完璧な温度。完璧な香り。 そして、わさびのり太郎を一口かじる。

 

「…………ツーン……。あぁ、やはりこれだ。……全能の力を得ても、この刺激だけは予測ができん」

 

ゼノンが鼻を押さえながら僅かに瞳を細める。 その瞬間、テラスは温かな笑い声に包まれた。 絶対的な神でありながら、一杯のお茶と駄菓子に一喜一憂する主君。 そんな「人間らしい神」と共に過ごす時間こそが、二十八人の翼たちが命を懸けて守りたかった、真のレガリア(王権)であった。

 

 

日は高く昇り、黄金の光が都の隅々まで行き渡る。 街の広場では、王の復活を祝う大収穫祭の準備が始まり、子供たちが王宮を見上げて「王様ありがとう!」と元気に叫んでいる。

 

「……王よ。これから、この世界はどうなるのでしょうか?」

 

イシュタルが、王の隣に立ち、穏やかな海のような下界を見下ろして尋ねた。

 

「……どうもならん。……余がこの世界を『最適化』し続ける。……民は学び、翼は鍛え、余はそれを見守る。……ただ、これまでの『繰り返し』ではない。……余が因果律の天井を壊したことで、この宇宙には無限の可能性が生まれた。……明日の朝、どんな新しい発見があるか、余にも分からん」

 

ゼノンが立ち上がり、空に向かって手を広げた。

 

「……貴公らという不確定要素(エラー)がいる限り、この余の庭園は、決して退屈な場所にはならんよ」

 

二十八人の翼たちが、王の背中を追うように並び立つ。 彼らの魂は、王の巨大な星韻とリンクし、永遠の若さと不滅の力を手にしていた。 彼らはもはや、死を恐れる必要はない。 主君と共に、無限に続く時間を、どこまでも高く、どこまでも遠くへ飛んでいくだけだ。

 

 

「……さて。……そろそろ、街へ出かけようか」

 

ゼノンが漆黒のマントを翻す。

 

「……バラムが勝手に約束した『わさびのり太郎千枚配り』の公務、無視するわけにもいくまい」

 

「……えっ!? 王様、本当に行ってくれるのかよ!」

 

バラムが目を輝かせる。

 

「……余が一度口にしたことを、撤回したことがあるか? ……ただし、余の分の一枚は、貴公の給料から差し引いておくぞ」

 

「……へっ、そりゃあねぇぜ、王様!!」

 

賑やかな声を響かせながら、王と二十八人の翼たちは、光り輝く街へと降りていった。 エテルナ帝国の歴史は、ここで一つの完成を迎えた。 しかし、アル・ゼノンという名の、最高に不器用で、最高に全能な王の物語は、ここからが本番なのだ。

 

黄金の朝焼けの中、王権具『万劫の針』が、未来という名の真っ白なキャンバスに、新しい一秒を刻み込む。

 

最強の王と、二十八の星。 彼らの行く手に、絶望が訪れることは二度とない。 なぜなら、彼らの主君は、絶望を禁じた「全能の王」なのだから。

 

【完結:AION REAGALIA —黄金の戴冠—】

 

 

 

 

 

 

 

 

エピローグ:数千年後のティータイム

 

数千年の月日が流れた。 大陸の形は変わり、文明は星の海を越えるほどに発展した。 しかし、その中心にあるエテルナ帝国だけは、建国当時の美しさと活気をそのままに、宇宙の首都として輝き続けていた。

 

アイオン宮殿のテラス。 そこには、数千年前と全く変わらぬ姿で、茶を楽しむ一人の青年と、彼を囲む個性豊かな仲間たちの姿があった。

 

「……王様、また新しい銀河から変なお菓子が届きましたよ」

 

「……ほう。どれ……。……む、これは……ツーンとせぬな。不合格だ」

 

王は不敵に笑い、お気に入りの「いつもの駄菓子」を口にする。 彼の隣には、いつもと変わらぬ顔ぶれが、いつもと変わらぬ笑顔で集っていた。

 

物語は、永遠に続く日常の中へ。 そこには、神話よりも尊く、奇跡よりも温かな、終わりのない「今」があった。




アル・ゼノンと二十八人の翼たちの物語は、ここで一旦の「完成」を迎えました。 自らを宇宙の理(ロゴス)へと昇華させ、絶望さえも燃料に変えてみせた王の姿は、まさに神話を超えた実存の証明でした。

しかし、全能となった王にとって、一つの宇宙はあまりに狭すぎたのかもしれません。 エテルナに永遠の安寧をもたらし、部下たちに「明日」という名の自由を与えたゼノンは、今、その黄金の瞳を『世界の外側』へと向けています。

この広大な多次元宇宙には、未だ見たこともない理不尽や、神理さえも通用しない異質な法則、そして、王の救いを待つ「別の世界」が数知れず存在しています。

「――アル・ザヒドよ。この庭の管理は貴公らに任せる。余は少し、外の風を浴びてくるとしよう」

一杯の冷めない茶を飲み干し、王が次に向かうのは、魔法さえも届かない未知の異世界か、あるいは文明が滅び去った絶望の果てか。 最強の王アル・ゼノンが、その圧倒的なレガリア(王権)を携えて異世界の土を踏む時、そこにはまた新しい「蹂躙」と「救済」の物語が始まるに違いありません。

二十八人の翼のうち、数名を連れての気ままな異世界巡業。

彼らの旅は、決して終わりません。 なぜなら、アル・ゼノンが歩む場所こそが、新たな「黄金の歴史」の始まりとなるのですから。

【続編予告:AION REAGALIA —異界の法典(アナザー・コード)—】


「……ほう、これが『異世界』の理か。……悪くないが、少々余の趣味には合わんな。……よかろう、余の法で書き換えてやろう」

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