スカード・スワロウ・アンド・サンベリーナ・ドロイド 作:nallowship
◆カラテの高まりを感じる◆
モーターサイクルのエンジン音、それが複数……同じ音、前方から。無軌道学生とは違う、プロの傭兵か。単純な奇襲は通じないだろう。無傷で凌ぐのは非現実的……罠で削って正面から、か。
「なら、こっちは用済みだね」
「ま、待て! 取引をーー」
BLAM! BLAM!
慈悲はない。だいたいこちらは、ただの金目当てで襲われているのだから。
(その賞金も、本当はケイのためのものだし)
騙されている。イディオットな理由だ。
(指名手配の賞金だってそう。懲罰、抑止、学園の面子……私に価値がある訳じゃない)
横転した車両にブービートラップを仕掛けながら、迎撃の位置取りを考える。どうすれば相手が思いどおりに動くか。何をすれば嫌がるか。ーーそういう計算には慣れている。ミレニアムのお勉強と違って応用は効かないけれど。
迎撃し、妨害し、最後には無価値な囮だったと気付かせる。鎖のない猟犬? そんな上等なものじゃない。
私には、何もない。
【スカード・スワロウ・アンド・サンベリーナ・ドロイド】#6
「グワーッ!?」
黒いヘルメットが跳ね、ガードレールを越えて崖に落ちた。持ち主とそのバイクが後を追った。
「狙撃!?」
「上だ! 山のほうーー」
ーーZAP!
「グワーッ!」「グワーッ閃光弾!」
悶えるヘルメット団員に近付き、ハンドガンの接射で気絶させる。残す必要はない。落ちた1人がそのうち上がってくる。どちらに向かったかは崖下からでも分かるはずだ。
視線誘導してスタングレネードで無力化。ウカツな相手で助かった。傭兵たちとの交戦で消耗した体力と時間を節約する。
死角に止めていたバイクに跨がり、エンジンを大きく吹かして走り出す。確実に聞こえるように。
(着いてきて)
(この無価値な餌に食いついてくればいい)
(全部、全員、無駄足を踏ませてあげる)
ーー
ーーーー
「「「グワーッ!」」」
先陣がワイヤートラップにかかった。派手に転倒、切れたワイヤーは次の罠に繋がっている。
KABOOOM! KABOOOOM!
「グワーッ!」
「おい! しっかりーー何だ!?」
爆薬に意識を誘導、その間にワイヤーのもう一方から巻き取られたスモークが着火。気付いた時には手遅れだ。タタミ1枚先も見えなくなる。
「おい! みんなどこだ!?」BLAM!
「アイエエエ!敵襲?」BLAM! BLAM!
後のざわめきは意味をなさない。主格逆転、狙うのはミサキ1人、狙われる側は何人残ってるか把握できていない。視界をふさぎ、散開しようとする者を排除、フレンドリーファイアを誘発する。そして、
KABOOOM!
「「「グワーッ!」」」
炸裂、仲良く道連れだ。頭数だけの弱敵を効率的に片付けるためのトラップである。
弾薬を回収。水と食料も欲しかったが、ない。金には手を着けない。余計な恨みを買う上に、どうせ大した額ではないと踏んでいる。意識がハッキリしてる相手には念押しの銃弾。意識があって動けない1人を、見落としたふりをして残す。
(自分は囮。狙われ続ければ、余計な情報を与えなくて済む)
希望はいつも見えていて、頑張れば手が届くところにないといけない。ただ、それに手が届くことはない。そういうものだ。
ーー
ーーーー
まただ。
「「「ザッケンナコラー!」」」
並走するヤクザモービルの窓が開いて、変なヤクザが銃を向けた。
(漆塗りめいた黒い車体、でも汚れはほとんどない。あらかじめ分散待機させていたらしいけど、妙な感じだね。賞金で釣ってアウトローたちを使うくらいだから、複数の自治区に跨がる大規模な組織には思えないけど、違うのかな?)
ーーミサキの思考は加速する。だが重く鈍い身体がそれについて来ない。だからかもしれない。
KABOOOOOM!
「ンアーッ!」
「「「グワーッ!」」」
チャカ・ガンの銃弾より一瞬早く、ミサキの身体は思考の判断を待たず、自らバイクから振り落とされた。回避というには不恰好だった。同時にその身体は、古傷にすり込まれた手順の通り、ピンを抜いた手榴弾をヤクザモービルの窓に投げ込んでいた。
車は大破炎上。無人のバイクは奇妙にバランスを保ちながら十数メートル走り、横転した。
(また、あの重いガラクタを起こすのか……)
気が滅入る。爪が割れた指を引鉄にかけ、撃つ。
「ザッケンナコラー!」
「スッゾコラー!」
ヘッドショット失敗。ヤクザが撃ち返してくる。構わず射撃。ヤクザの戦闘能力は高いが、ミサキよりも重傷だった。なによりこのヤクザは……急所を撃てば死ぬのだ。
(ーーケイを撃ったこのヤクザたちはあの時、ケイの顔を確認していた。私も顔、というより外見情報を確認してから撃ってきた。やっぱり狙いはケイじゃない。いったい何だろう、探してるのは)
BLAM! BLAM! 戦闘終了。
気味の悪い体液を踏み越え、赤黒い足跡を残しながらバイクのところへ。
(……この道はもう進めない。ただの賞金稼ぎに、これを超えて追ってくる度胸はない。手前の分かれ道まで戻)
ーー
ーーーー
「あれ……?」
ミサキは細長い空を見ていた。
IRC-SNSの縦長動画のように切り取られた風景。一方はくすんだガードレール、一方は赤黒く濡れたアスファルトだ。足が進まない。前は壁……否、そこもアスファルトだった。うつ伏せに倒れていることに気付くのに数秒かかった。
時間経過は1分ほど。跳んでいた意識は戻ったが、身体の正面にかかる圧迫感以外の感覚が消え失せているようだ。
(ああ、そういえば)
鼓動が跳ね返り、胸を軋ませる。関節が熱を帯びていく錯覚と、血と体温がとめどなく流れ出ていく錯覚が、同時に纏わりついてくる。そして最初に戻った感覚は、鋭い痛みだ。
(私、ケイに逢うまで、体調崩して寝込んでたんだっけ……)
それでも鉛のように重い身体を動かそうとして、数歩進んで、倒れて……それを繰り返した。
ーー
ーーーー
それからミサキは、目的地がアウトロービーチだと分からないように道を選び、幾つかの分岐点を過ぎ、10組近くのアウトローを凌いだ。最初のバイクはとっくに大破して、何度か奪って乗り換えた。
不思議と襲ってくる相手の顔はよく見えた。大半は金銭欲、何人かは暴力とイサオシ。分かりやすい「普通の人」の顔だった。
次は良いことがある、と本気で思っていた。
返り討ちにされても、まだそう思ってるのだろう。
BLATATATATATATA!
BLATATATATATATA!
(……無駄)
BLAM!BLAM!BLAM!
(無駄なのに……)
BLATATATATATATAーー
KABOOOOM!
(意味なんてないのに……私には。無意味なことだけが……私の意味なのに)
BLAM!
BLAM!
BLAM!
ーーKRIK! ……KRIK.
(……終わりかな)
銃弾が切れた。
(リーダーやアズサなら何とかできるんだろうけど。私の身体でこれなら、よく保ったほうか……もう少し粘れると思ったんだけどな)
冷静に、正確に継戦能力を見積もったはずだった。それでも足りなかった。まだこんな身体に何かを期待していたのだろうか、自分は。干からびた泥人形のような、傷だらけのこの身体に。
(せめて……)
ポケットの携帯UNIXに手を伸ばす。モモトークの未送信メッセージに、ケイの事情と外見、居場所、目的地が書いてある。せめてこれを。
(サオリ姉さんへ……電波ないなら端末を……破壊……)
BLAM!
身体が力なく跳ねた。
クローンヤクザが近付いてくる。最悪だ。賞金稼ぎなら矯正局行きで済んだかもしれないのに。たぶん3体……視界が霞み、オバケじみた半透明の、数倍の部隊に見える。チャカ・ガンの銃口だけは不思議とハッキリ見える。照準は頭、胸、腹ーー
その後ろにもうひとつ、人影が見えた気がした。
BRATATATATATA!ーー
BLAM!ーー
BLAM!ーー
……
…………
ーーまったく、私に運がないというか腐れ縁というべきか。
身体が揺れている。
すぐ側に、誰かいる。
誰かの声……声はおぼろげで、聞き覚えがあるが思い出せない。ただ、言葉に刺があるが敵ではない。この感じは……
ーーまだその癖治ってないんですか、あなたは。少しはましになったかと期待したんですが。
「……サオリ姉さん?」
揺れが一瞬止まり、一度大きく揺れ、また元の揺れが始まる。顔のすぐ近くで吐息が聞こえる。
(……おんぶされてる?)
ーー貸し借りはなしです。どうやら私と間違えられたようなので、お互いさまということで。それでーー
声が遠くなる。いや、自分の意識が遠退いている。駄目だ、まだ……もう少しーー
「あなたはどこに行くのですか?」
ーー命令を全うするだけの猶予を。
「……アウトロービーチへ………ケイが……待ってる……」
ーー
ーーーー
喉への刺激に小さく咳き込んで、ミサキは短いまどろみから覚めた。どこか遠くでいくつかの銃声と爆発音が鳴った気がしたが、軽い耳鳴りとともにフェードアウトした。
体を起こす。ギリースーツめいて体に積まれていた枯れ落葉が散った。髪に絡んだ残りを払おうとして、褐色の堆積の端に、栄養ドリンクの新しい小瓶が転がっているのに気付いた。未開封。迷わず泥をはらって蓋をひねり、ひと息に飲み干す。
道路からは死角になっている茂みから、道路に戻る。……離れた場所に、生乾きの赤黒い液体と、傾いたヤクザモービル。ヤクザの姿はない。全て幻だったかのように静まり返っていた。だが現実だ。額の傷にいつの間にか絆創膏が貼られている。
ミサキは歩きだした。ジゴクの火に引き寄せられる一羽の蝶めいて、遠い水平線と繋がりかけた落日のほうへ。
ーー
ーーーー
「着い…た……」
砂防堤の上から、ミサキは無人の砂浜を眺めた。
アウトロービーチ。複数の自治区の境界が交差する一点に位置する海水浴場。管轄が曖昧なため各校の治安部隊やヴァルキューレ警察学校が手を出しにくいが、逆に言えば何かあっても救助は来ない。
色褪せた「遊泳禁止な」「自力救済」「沈むと死ぬ」の看板を横目に、砂浜への階段を降りる。まずは一段――そのつもりだった。ミサキは階段を踏み外し、1枚の枯れ葉のように落ちていった。
壊れた携帯UNIXが砂に刺さり、割れた液晶が数秒、グリッチノイズを映して沈黙する。微かに映った時刻は、ここに留まるようケイに指示した期限から既に5時間を経過していた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ーースリープ解除。
木と耐熱PVCの板で囲まれた、機能していないシャワールーム。屋台や海の家の大半はシーズンオフには撤去されるが、大がかりなものや水道管を引いているものは今も残っている。そのひとつの片隅で、ケイは息を殺してーーエネルギー節約のためパッシブセンサー以外の機能を止めて、バックパックを抱え座っていた。
そのセンサーが反応した。……否、そんな気がしただけだ。あるいは、彼女自身はその存在を知らない躯体のニンジャソウル感知機能が、何かを誤認したのかもしれない。
だが、ケイには確信があった。
彼女は必ずここに来る。指定された24時間が過ぎたとしても、きっと。
「……ミサキ?」
金属の内部フレームが静かに震える。少しよろめいて、周囲を窺いながら砂浜へと踏み出した。
星空の下には、砂と、水と、その濃淡が描くモノトーンの波が広がる。氷海で見上げたオーロラとは違う、美しく、しかし寂しい、色のない無限の世界だ。どこにもたどり着かない、虚空へと誘うような。
水平線の上にただひとつ、紅い星があった。
目を凝らすーーズーム、露光量調整。ヘイローの下、黒く細い影がぽつんと砂浜に立っていた。
「ミサキ! 着いたんですね、心配したんで……す……よ……?」
勝ち誇った顔で駆け寄ろうとしたケイの足が止まる。赤く光る恒星は寿命が短い、あるいは既に消滅している。そんな話がふとメモリ上に浮かんだ。
光が動いている。
生徒はヘイローを、はっきりとした形では視認できない。だが歩みにあわせて揺れるのは見える。向かう先はケイの元ではない。ーー暗く冷たい海へ。
ブーツに沿って白波が立ち、空のホルスターから泡が溢れた。そしてすぐ波間に沈んだ。
「何やってるんですかミサキ!? そっちは!」
(声が聴こえてない!?)
ケイは自分でも何だか分からないことを叫びながら、渚へと走った。爆発的な脚力を生み出す戦闘用ボディの駆動音が、この時ばかりは頼もしかった。腰まで海に浸かったミサキの背が近付く。……だが、届かない。
ケイは波打ち際で立ちすくみ、波に威嚇されて数歩下がった。
ーーこの躯体は泳げるのか?
見た目は生徒と変わらないが、内部機構やフレームは重い金属製である。砂に残る足跡は、ミサキのものよりずっと深い。この比重ではおそらく水に浮かない。陸に戻れないままエネルギーが尽きれば、その時は海の底で壊れることもできずに……
「ーーああっ!もう!」
ケイは喚いた。それで腹が据わった。
波打ち際からなるべく遠くへ、衣服を脱ぎ捨て、スニーカーを蹴飛ばした。砂に沈む素足に波が絡みつき、もつれさせる。何度も転びそうになる。今の自分たちを見る者、聞く者がいないか考える猶予はない。成算もない。ヤバレカバレだ。
ミサキが何をしているのか、何を思っているのか、まるで理解できない。ーー理解できないまま彼女は消えようとしている。
ふざけるな。
私はまだ何もしていない。ミサキにも、ミサキに守られてきた自分にも、何も出来ていない。
波を押しのけ、かいくぐる。足元の砂が崩れて頭まで海に沈む。もがく手が星空をかき乱し、海鳴りをつま弾き、そして空を掴んだ。
ーーその時、ケイはミサキの声を聞いた。親鳥に甘える小鳥のさえずりのような声だった。
「……これで全部、終わり……全部……意味なんて……ない」
ヘイローが消えた。
水を含んだ砂糖菓子のように、ミサキの身体は力を失い、海へと崩れ落ちた。残った白い泡とさざ波を、黒い波が塗りつぶした。
何事もなかったかのように、海は凪いだ。
『私を! 私まで! 死なせるつもりですか!?』
暗い水の中で、電子音声の叫びが鳴った。
銀色の飛沫とともに、気を失ったミサキの肩から上がタマ・リバーのラッコめいて水上に浮かび上がった。
水面に映る頭の上には、紅い格子模様の代わりに、暗い海の中に灯った赤い方形のヘイローが重なっている。光は幾度も深く沈み、もがく手足が起こす水流にあわせて歪みながら、それでも少しずつ浜へと向かっていった。
シャワールームの薄い仕切りと天井との隙間から、潮騒とともにこぼれる星明かりが、濡れた床を青白く照らしている。
動いているのはただ一つ。オモチシリコンの身体を晒した小柄なドロイドの姿。他には濡れた衣擦れ音と、軽い咀嚼音、そしてーー
「足りない……もう少し」
そう言いながらケイは、抱えあげた脚の爪先から慎重に、ずぶ濡れのダメージジーンズを下着ごと脱がせた。白く長い脚が支えを失い、大股開きに倒れかかるのを慌てて受け止め、揃えて降ろしてから、小袋から干からびかけた携行食を取り出し咀嚼する。
「…………」
カリカリと水気のない音が響く。
ケイの眼前、板敷きの床には毛布が敷かれ、殆ど生まれたままの姿のミサキが寝かされていた。蝋人形めいて生気のない、青白い裸体の上で、小さな無数の水滴が星のようにきらめき、しかし静止している。動くのはケイの身体から落ちた水だけだ。
ケイは膝立ちで、ミサキの腰をまたいだ。視界の端のエネルギバー残量が2割まで回復したことを確認。不十分だが、残りの食べ物と水はミサキの分だ。使えない。……彼女が目覚めれば、だが。
凝視するカメラアイの焦点が、標準的なバストの頂点から、乾いた唇へと移る。精巧な光学機器でも動きが見えない。呼吸が浅い。極めて危険な状態だ。
(これは医療行為……必要なことですから……)
ケイはそう自分に言い聞かせながら、裸の上体をミサキのそれに重ねた。
海水が素肌とシリコンの間に押し広げられ、熱伝導ペーストとなり躯体の熱を抜き取っていく。OSが反応し、提示された解決策の1つを選択、実行。寝返りをうつように自身ごとミサキの半身を起こして回復体位を取らせ、毛布の端を引き寄せて包む。バストに挟まれるケイの顔ーーその右目が切り替わり、瞳に『医療用』の漢字が重なった。
(医療機能……必要……恥ずかしいことじゃない……)
目を閉じ、強く口を結ぶケイ。ーーその手がふいに、つぅ、とミサキの背を撫でた。幼げな身体が突如、くねるように動きだし、平坦な胸を艶かしく押しつける。華奢な脚がミサキの太股を咥えこみ、激しく前後にグラインドする腰にあわせて互いにより深く絡みあう。背筋をなぞる指はしなやかに、腰のくぼみからさらに下へーー
ーーケイの意思ではない。機体に標準搭載された医療機能によるものだ。
(医療行為……医療ですから……)
『アーン、もっとしてください』
喉奥のスピーカーが、舌っ足らずな電子マイコ音声の喘ぎを奏でた。
(ーーいや絶対違いますよね!? どうしてこれが『医療機能』なんですか!? 製作者何考えてるんですか! 後で絶対にクレーム送りますから!)
怒りと羞恥を必死に堪える。だが”この”機能を起動する方法は他に分からなかった。それに手遅れだ、止め方が分からない。
「いいですかミサキ! 今目を醒ましたら殺しますからね! 本気ですからね!?」
ケイは顔を紅潮させ、言い訳じみたことを小声で呟く。そして、
キュイイイイーー
来た。
生を偽り悦びを騙るマイコ回路が異常加速し、オーバークロックの熱がオモチシリコンを通して胸から全身へ。ーーさらに背中が割れて排熱フィンが展開、コタツめいて毛布の中を満たしていく。
水滴がひとつ、ミサキの肌を滑り、ケイの頬に落ちた。
「……ミサキが目を醒まさなかったら、私も死にますからね」
蠱惑的に冷たい肌の上を這う躯体を、動くままに任せる。体温と鼓動の埋み火を求めるように、ケイはクズ・プディングめいて揺れる、柔らかく冷たいミサキのバストに頬擦りし、熱い息を吹きかけた。時折その肌へと唇をつけ、そっとついばむ。
(……っ)
素肌よりも少しだけ固い、ほんの僅かな突起がシリコンを擦ったのを、ケイは感じた。
ミサキの顔を見上げる。黙して語らぬその表情に安堵と申し訳なさ、そして落胆を覚え、それをごまかそうとしてケイはミサキの胸に強く顔を埋めた。
星は緩やかに空を回り、光を受けた白波のエスケープメントが時を刻む。自らを流れる電子の歯車、精確とは思えないシステム時刻のログに、やがて微かな鼓動が重なり、同期を始めた。マイコ回路にエスコートされたドロイドの躯体も、いつしか猥褻なダンスを踊り終えていた。
それでもケイは、ミサキを抱きしめ続けた。愛する人形にカラテを注ぎ、遂に命を与えカイデンせしめたジョルリ・ジツの極致、マリオ・ニンジャの故事めいて。あるいは慈愛に満ちた、ストラを纏う聖母子像のように。
(#7に続く)
グッドルッキングな生徒と生徒の顔が近い。このSSは青少年の何かに配慮しており猥褻は一切ない
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