その結果、総数が8000字を越えてしまったことを懺悔します。
そして、今回はお食事パートなので物語の進展はありませんが、代わりに日常的な都市らしさを書いてみました!
「ようやく落ちついたか、本当に子供みたいに泣きじゃくってたな?」
「い、いいじゃないですか!それくらい怖かったんですから……」
どうも、ガチで食べられるんじゃないかと勘違いして発狂してた私です。怖くて少し泣いちゃったから、ずっと目を拭っていた袖がしっとりしてきました。いや、だってさ?夜になると誘拐事件がーって話を聞いた当日に「ここ23区の裏路地があるW社の巣だよ」って教えられたらさ、もしかして食材にするために攫ってるのかなって思っちゃうじゃん?
その後に裏路地に近い所に美味しい店あるよって言われたら警戒しちゃうのも仕方ないよね。だから私は悪くない、悪いのは紛らわしい事を言ったドンファンだよ。
そして現在、私はドンファンおすすめの美味しいらしい飲食店の前に来ているんですが、そこで私は身体をギュッと抱き込んでガクブル震え続けております。涙と一緒に腹の虫も引っ込んで、確かに感じていたはずの空腹さんもどこかに旅立ってしまいました。どうして急にそんなことになったかというと………
「……ほんとに大丈夫なんですかこのお店。いかにも人を解体してそうなんですけど」
「雰囲気は確かに怪しいが、入ってみれば普通だぞ。というか人を解体してそうって何だよ」
確かに美味しい匂いはする、店の前には手書きらしきメニューも置いてあるし、そこだけ見れば普通の飲食店。けれど、けれどね…… 店の雰囲気が余りにも恐ろし過ぎるんですよ。
例えるならホラー系のアニメや映画に出てくる猟奇的殺人者が出てくる家って感じで、明かりに照らされた壁がどす黒く変色してたり、苔とか蔦とか生え散らかしてたり、板を打ち付けて何かを塞いでるような所もあったり………
ドンファンさん、ここは本当に飲食店なんですか?今のところ心霊スポットかお化け屋敷と言った方が適切なくらいだよ?食べに行くというより食べられに行くって感じだよ?
連れてきてくれたドンファンには悪いけど、ちょっと危険が危ないのでいつでも逃げられるように身構えておきます。いのちだいじに、これ大事。
「飯屋の前で立ちっぱなしってのも変だし、いい加減入るぞ」
「う、うぅ、何も起こりませんように……!」
早く入るよう促されて恐る恐る店のドアに手をかける。きっとこの先には、それはもう残酷でホラー満点でスプラッタな光景が広がっているのだろう…… そんな予想と共に開け放ち―――
「………へぁ?」
「だから言っただろ、ここは大丈夫だって」
その予想はものの見事に裏切られました。
少し汚れているように見えるけどそれがかえって落ち着きのある雰囲気を醸し出している内装。暗いのは変わらないけど外と違って安心感を覚える暗さ。全体的にすごく大人って感じがして、外観と比較すると信じられないくらいマトモだった。
渋い色のテーブルとカウンターも良い味を出してて、さっきまでの警戒心はあっという間に霧散。奥の調理スペースからは美味しそうな香りが漂ってきてて、私の意識はそっちに釘付けになっていた。
「店の中でもそうやってるつもりか?客の邪魔になるぞ」
「えっ?あ、わ、わかってます!」
先に席へと向かっていたドンファンのもとに駆け寄って、その隣に座っ…………
「ごめんなさい、とどきません……」
「良く考えたら届くわけなかったな、持ち上げるからじっとしてろ」
「あ、持ち上げてくれるん…… ひゃっ!?」
後ろに回り込んだドンファンが私の脇腹をガシッと掴んで、そのまま椅子にストンっと座らせた。というか落とした。
あの、あのですね、ドンファンさん?私は一応成人済みなんですよ、こんなナリでも元は立派な大人のレディだったわけですよ。なのにさっきから担いだり掴んだり…… せめて一声かけてくれませんかね。おかげで叫んだり、変な声出したり、私の尊厳はもうボドボドだよ。ロリ化した時点で尊厳もクソも無いんだけども。
ほら見なよ、周りの客を。皆あんたの事を幼女にセクハラする変態男とみなして……
「「「………」」」ニコニコ
……何故、皆さん私に柔らかな微笑みを向けているので?それは今私に向けるべき視線ではないと思いますよ?皆さんはこの1級セクハラフィクサーに軽蔑の視線を送るべきなんですよ!私を辱しめた!こいつに!!
「やあドンファンさん、その子可愛いねぇ。もしかして隠し子かい?」
「バカなこと言うなよ、こいつは偶然知り合った近所のガキだ」
「ほお、確かにアンタとは似ても似つかないな!」
「「ハハハハッ!!」」
ここの店主らしき人が気さくな態度でドンファンに話しかけて、何かいきなりとんでもないことを口走った。
違います店主さん、私はコイツのガキじゃありません。そしてさりげなく私の頭をポンポンするなドンファン、体内の血液全部タバスコに入れ換えてやろうか。
というか周りの客たちもニッコニコでこっちを見るんじゃないよ、見世物じゃないんだぞ私は!
「うぅぅぅうぅ……」
「おっと、嬢ちゃんの機嫌を損ねちまった。悪い悪い……」
「良いんだよ、子供なんて上手いもん食わせればすぐ機嫌直すんだからな」
「わ、私はご飯なんかで簡単に釣られたりは……!」
「ほら、この自家製ハンバーグプレートなんてどうだ?ここの一番人気だぞ」
「し……ない、けど………」
くっ!こんな空腹の状態でそんな美味しそうな響きの料理を……!
悔しい、悔しいのに、それ以上に食欲が……!
「嬢ちゃん、遠慮しなくて良いぞ?どうせ金はコイツが払うんだから」
「じ、じゃあ、ハンバーグプレートで……」
うう、食欲が……人の3大欲求が憎い……
でも仕方ないじゃない、こんな状態で自家製ハンバーグなんて聞かされたら我慢できるわけないんだから。安売りしてたもやしと鶏肉より遥かに美味しいに決まってるものを目の前で見せつけられて、それでも耐えられるほど私の精神は屈強じゃないんだ。
「ハンバーグプレートだけで良いのか?どうせならもっと食えば良いだろう、育ち盛りの子供なら尚更」
「い、いえ、私はそんなに食べられませんから……」
「そうか、なら次はドンファンさんから注文を聞こうか。……と言っても、どうせいつものだろ?」
「ああ、いつもので頼む」
ほえー、
「えっと、何か?」
「ここの店主はな、23区出身なんだ」
「………えぇっ!?」
突然のトンデモ情報につい大きな声を上げてしまって、慌てて口をギュッと塞いだ。チラッと件の店主の方を見ると、真面目な顔をして目の前のフライパンに視線を注いでいる。
狂った部分しか知らないからっていうのもあるけど、とても23区出身の人物だとは思えない。でも、どうして急にそんなことを……?
「23区で店を出してるやつは大抵狂ってるんだが、あいつは普通の料理しか作らない珍しい料理人だったらしい。普通なのに珍しいっていうのも変な話だけどな」
「ま、まあ、確かに珍しいですよね。他の人は皆……」
「そうだ、あそこで普通の料理を出す店なんて存在しない。というか、そんなものは需要が無いんだ。どいつもこいつも頭のネジが外れてたから」
人を食べる事が普通とされている、狂気に満ちた23区。そこで店主さんは産まれ育ったみたいだけど、何で他と同じようにならなかったんだろ。
そうすることが普通だって子供の頃から見聞きしていたなら、店主さんも同じように人を調理しててもおかしくないと思うんだけど。
「なんで店主さんは、裏路地の人達と同じ事をしてないんですか?」
「単純な話だ、周りに流されず、自分だけの目標を持てるやつだったんだよ。人間を調理するのを拒絶して、巣に自分の店を持つことを夢見たんだ」
それから、ドンファンは店主さんの事を話しだした。裏路地で調理法を学びながら巣に移住するために知識を身につけて、必要な書類も用意して、数十もある手続きも終えたこと。
念願の巣に足を踏み入れて、そこで店を構える為に物件を探したけど手持ちのお金じゃ到底手に入らないものばかりだったこと。
そこで仕方なく、巣の端の方にある空き巣を格安で購入して自力でリフォーム、何とか店として機能させられるようにしたのがここであること。
仕入れ先も自分で探して、宣伝も積極的にやって、そうしてようやく客が訪れてくれるようになったことを……
それらを聞いて、最初あんなに疑ったり警戒していたことを申し訳なく感じて、私は店主さんにもう一度目を向けた。色々と聞かされてから改めて見る店主さんの姿は、とても力強くて、活き活きとしていた。
この世界は私が生きた世界よりもずっと残酷で無慈悲なのに、私には想像もできないような理不尽がきっと待ち受けていたはずなのに、それでも店主さんは真摯に料理と向き合っている。折れず、ねじれもせず、まっすぐに。
「凄く……強い人なんですね」
「ああ、料理でフィクサーになれたなら、きっと色を授かっていただろうな」
「それ、店主さんが聞いたらきっと喜びますよ」
「もう言ったよ、美味いものを食わせてくれた礼のつもりでな。そしたらアイツ、自分の過去を話してくれたんだよな」
「お二人とも、すっごく仲が良いんですね」
「まあな、偶然ここで飯を食べた日から寄れそうな時はいつもここで食ってたから、いつの間にかこうなってたよ」
そうして話していると、大きなプレートを持った店主さんがこっちに来て、美味しそうな匂いを立ち上らせる料理が私の目の前に置かれた。
グツグツと煮え立つソースのど真ん中に拳大のハンバーグがあって、その脇にスライスされた野菜が数種類。彩りが、香りが、その全てが私の脳を揺さぶってくる。見た瞬間に食欲を直接刺激されたような感覚に襲われて、胃がぐうぐうと大合唱、舌から唾液が大量に分泌され始めた。
「わ……わぁぁ………!」
「嬢ちゃん、フォークとナイフの使い方はわかるか?」
「は、はい!」
極上の餌を前にして、私の脳が今すぐ食らいつけと訴えかけてくる。わなわなと震える手でナイフを手に取ってハンバーグに刃を添え、動かないようフォークで押さえ込んでからナイフを埋め込むように切っていく。
断面からどくどくと肉汁が溢れだし、ソースの上に幾つもの水溜まりが作られる。それを見ただけでも胃が歓喜に震え、口がだらしなく開けっぱなしになってしまう。
それなら、このフォークに刺さっている肉を口に入れてしまえば、私はどうなってしまうのか……
「い、いただきます……… はむっ!」
覚悟を決めて、それを口に勢い良く頬張った。直後、肉の中に残っていた肉汁に舌を蹂躙され、更に肉そのものの香ばしさと旨味が口全体を埋めつくし、とどめに絶妙な甘さと塩辛さが調和したソースの味が味覚を破壊し尽くす勢いで激烈な美味さを叩きつけてきた。
思わず身体がぶるりと震えて、この衝撃の余韻が身体の上から下まで通っていくのを感じていると、私の隣に座っていたドンファンがフッと笑って……
「……な?美味いだろ」
「………はいっ!」
美味しすぎて喜んでるところを見られていたことに気付いて恥ずかしくなったけど、でもそれ以上に嬉しくて、私は自然と笑顔で答えていた。
一口食べる度に自然と笑顔になってしまって、いつしか恥じらいも感じなくなって、純粋に喜びと幸せを噛み締めるひとときが過ぎていく。
ずっとこうしていたい、いつまでもこの幸せを感じていたい、そう願いながら一口、また一口と食べ続けていると、いつの間にか私のプレートは空っぽになってしまっていた。
「あっ……もう終わっちゃった……」
「そんなに夢中になってくれたなんて、俺も嬉しいよ。ありがとな、俺の料理を食べてくれて」
「いえ、こちらこそ……!」
「こんなに喜んでるのを見ると、紹介して良かったって思えるな。ところで、俺のはまだか?」
「そう急かすなよ、こっちももうすぐ作り終えるから」
夢のようなひとときが過ぎ去って少しの寂しさを感じたけれど、私の身体と心は十分すぎるくらい満たされた。
だから、その事に感謝しなきゃって思って、私は大きく息を吸い込んで……
「ごちそうさまでした!」
力の限り大きな声で、ありがとうの気持ちを店主さんに伝えた。
「……どういたしまして」
調理中だから顔をこっちに向けてはくれなかったけど、その一言から店主さんも喜んでるって感じられて、また笑顔が浮かんだ。
「お前、ようやく子供らしい顔を見せたな」
「……ドンファンさんにも、感謝してますよ」
「おいおい、俺には笑ってくれないのか?」
「嫌です、昨日あんなことした人に私の笑顔はあげません!」
「それは………悪かったよ」
きっと、場の雰囲気でドンファンも気が緩んでいたんだろう。初めて見る砕けた表情を見て、私もつい―――
「………ふふっ」
「お?そう言いつつ笑ってくれたな」
「あっ、こ、今回だけですっ」
都市の苦痛だとか、この先の苦労だとか、そんなことを忘れた飾り気のない笑顔。
自然とそうなれる今、この瞬間こそ、きっと幸せと言えるんだろう。
妄想パッチワークをフル活用して、都市で懸命に暮らす人の姿を書けるか挑戦してみました。
悪い人を出すことも考えたんですが、リンバスのリウ協会イシュの人格ストーリーに出てきた優しいおじちゃん的な人物の方が良いと思ったのでこうなりました。
にっこりロリ血鬼ちゃん可愛いね