かなりの難産でしたが、どうにか出荷はできました!
「んぇぅ……朝……起きなきゃ……」
やっほー、満腹+疲労感マックスだったおかげでベッドイン直後に気絶してた私だよ。毛布に潜り込んでからの記憶が微塵も残ってないから、相当追い込まれてたっていうか、本気で倒れる限界ギリギリだったっぽいです。そして目覚めた今も疲労度はほぼ変わってないぜ、いぇい。
でも実はこれ、初めての経験ってわけではないんだよね。4徹目の時にメイトなカロリー貪りながらぶっ続けで働いてたらこれと似た状態になったから、正確には2度目……もしかしたらそれ以上はあるかもしれないけど。
いやぁ、あの時は遂に死ぬかもと思ったよ、意識どころか身体の感覚も不明瞭なナニカになってたもん。
そんなワケで肉体的にも精神的にも終わってる時特有の圧迫感に現在進行形でやられてるわけですが、だからといって休みはしません。都市という歯車は私の体調やらメンタルやらを一切考慮せず回り続けるものだし、こんな事でいちいち足を止めてたら置いてかれるだけだからね。
ネバーギブアップ、死ななきゃセーフで頑張ろう。
「……そういえば、あの血だらけの服どうしたらいいんだろ」
まだ上手く回らない頭で色々考えていると、昨日の事件のせいで駄目になった服のことが思い浮かんだ。ふらふらしながら床に脱ぎ捨ててた服の様子を見にいくと、それなりに綺麗だった服は案の定とんでもなくバイオレンスなことになってました。
帰ってすぐに血を抜きとれば良かったんだろうけど、あの時は気持ち的に余裕が無かったし、結局そのままお布団に直行しちゃったからねぇ。そのせいでほら、もうガッサガサよ。
継ぎ目だらけとはいえ素材だけは良かったから触り心地滑らかな服だったのに、撫でる度に赤い粉がポロポロ落ちるわ舞い散るわ、何かもうスギ花粉(血鬼Ver.)みたいになってもうてます。
能力で血を除去すればマシにはなるだろうけど、これ見た後に着続けようとは流石に思えない。でもこれ以外に着る服作ってないし………
というかその場凌ぎ用の仮の服だったんだからいい加減別の服を用意しないといけない。だから服を買いに行くためにもこの酷いモノを復元して、古着屋のおばあさんの所に行かなきゃね。
「これ、こんなふうになってても動かせるものなのかな……」
固まった血でパリパリになった服を持ち上げてはみたけど、これを動かせるイメージが全く湧かない。シミだったら滲んだ液体として見られたけど、今回のコレは完全な固形、どうイメージして動かせば良いのかさっぱりわからんです。
氷みたいに溶かす?いや、血はそんな風にはならないし…… まず、固まった血を液体に戻すのってどうやるの……?
あ、そうだ。昨日の血でできた根っこは固まってるのに溶けてたじゃん。あれを参考にすれば良い感じのイメージが掴めるかも。
正直あまり思い出したくない事ではあるけど、今後都市で生きていくのならいつまでも忌避しているわけにはいかない。人の死に慣れ過ぎるのは良くないけど、直ぐ切り替えられるようにはなっておかなきゃね。
「んー……あの時はどうやって血を操作したんだっけ?手を前に突き出してたような気はするけど」
昨日の襲撃時の記憶はかなり朧気というか、私自身正気じゃなかったから覚えてない部分が大半。だから、何となくこうだったかな?っていう曖昧な感覚に従って色々試していく。
リンバス7章の神父が硬血を鞭みたいに動かしていたから、固形の状態から柔軟に動かすこともできるとは思うんだけど、ピクリとも動いてくれない。早くしないと仕事に間に合わないからさっさと終わらせたいんだけど………
……パキッ
「おっ、ちょっとだけ動いた!」
むんむん唸りながら念じてたら、カサカサの血が固い音と一緒に動いてくれた!ものすご~く微妙にしか動かなかったけど、何とか得られた取っ掛かりだし、この調子で服の血を全部―――
「あ゛……ぐッ……!?」
え、な、なに……?頭……急に熱く………
「い゛……いだ………ぁ゛ぁ゛ぁ゛ッ!!」
頭の奥が火傷したみたいに熱くなって、割れそうなくらいズキズキして、視界も滅茶苦茶に歪んで………
これ、普通の痛みじゃない。絶対に駄目なことが起きてる。でも、なにが?私、いまどうなってるの?なんでこんなに苦しく………
「あ゛……あが、ぁ………!」
目の前がぐちゃぐちゃで何も見えない、自分の声すら歪んで聞こえて、頭痛もどんどん激しくなってる。まるでわたしが歪んで、引きちぎられてるような感覚。このままじゃ、本当に…………
……………………
………………
…………
「ぐ、ぅ……… は、はぁ……はぁ………」
全身が冷や汗でびしょびしょで、心臓もすごく大きな音で鳴り続けてて苦しいけど、頭痛は耐えられる程度まで治まってくれた。焼けそうな熱は風邪と同じくらいになったし、呼吸が乱れてるけど息はできてる。
立っていられる余裕が無くなって床に倒れて、今は身体を動かす余裕すら残ってない。死にかけの虫みたいになってる、でも生きてはいる。だからまだ私は大丈夫……だと思う。
私の身に何が起きたのか、何が原因でこうなったのかは全然わからない。その理由を探したくはあるけど……多分、やらない方が良い気がする。また同じような事になったら今度こそ死に繋がりかねないし、これ以上この事に触れるのも、考えるのも止めておこう。
不安だから、気になるからと無闇に触れれば取り返しのつかない事態に巻き込まれるのは世の常だからね。ここが都市なら尚のこと、触れずに放っておくべきなんだろう。
「まだ、動くのは無理かな…… はぁ……朝からついてない」
今日の方針を定めて直ぐにアクシデントに見舞われるとは思わなかったけど、それでもやることは変わらない。服を綺麗にするのはもう諦めるとして、もう少し休めば動けるくらいにはなるだろうし、そしたら急いで服を買いに行こう。
「………みんな、私のこと凄い見てくる」
歩ける程度に回復したから汚い服を着て外に出たわけですが、当然の如く目立ちまくっている私ですおはようございます。
そりゃあまあ、血まみれの服を着た幼女が朝から街中を歩いてたら誰だって見るに決まってるよね。ホラー映画の撮影でもなきゃこんな格好しないもん。
「うわっ、何だあれ……」
「お母さん、あの子何であんなに汚れてるの?」
「……あんなの見ちゃいけません」
「服を買う金も無いのか、可哀想に」
おのれ、好き勝手言いおって……… 逃げも隠れもできないし、言い返しても惨めさが加速するだけだからどうにもできない………
ふぅーっ、ふーっ、落ち着くんだ私。周りからアレコレ言われて四面楚歌に追い込まれる事なんて今まで何度もあったじゃないか、理解不能な言い分で責められるよりずっとマシな状況じゃないか!
だから平気、この人たちは言って当然の事を言ってるだけなんだから。血だらけで外出してる子供を見たら前の私だって同じことを言ってたはずだし、仕方の無いことだと受け流そう。
でもちょっとだけ、ちょーっとだけ胸がチクチクするから一旦深呼吸して落ち着こうか。新鮮な朝の空気を取り込めば、自然と心も……
ドンッ!
「……チッ、急に立ち止まんなよ」
そうだよね、歩道のど真ん中で突っ立ってたら邪魔にしかならないよね、ごめんね……
…………早く、行こうか。
何故か前より長く過酷に感じた道のりを経て、やっと到着古着屋さん。
身体の方はだいぶ元気になってきたけど、メンタルがボロ雑巾になりつつあるよ、不思議だね。でもこれくらいじゃへこたれない、社畜メンタルは伊達ではないのだ。
よーし、早速おばあさんにご挨拶!良い服見つかりますように!
「おばあさん!おはようございます!」
「ん?あの時の…… って、どうしたんだいそれは!血だらけじゃないか!?」
「あ、これは…… えへへ」
私の格好を見るや否や、大慌てで私のところまで来てくれた。驚きながら怪我してないか然り気無く見ようとしてるの、優しさ満点でとても嬉しいね。傷だらけの私の心に暖かみ100%の善意が深く染み入ってくるよ。
……何か、初対面の時を思い出して泣きそうになってきた。また醜態を晒す前に無理矢理にでも本題を切り出さないと、今回もヨチヨチされてしまう気がする。
「おばあさん、今日は新しい服を買いにきたんです。今着てるものは……こんな風になっちゃったので」
「………そうかい、幾つか持ってくるからここで待っていなさい」
服がこうなった事について何も言わなかったのを『触れないで欲しい』って解釈したのか、おばあさんはちょっと長めの沈黙を挟んでから店の奥に消えていった。
問い詰められたら答え方に困るし、そうしてくれると有難いんだけど………なんと言うか、その、おばあさん人間として完璧すぎませんか?大変なことになってる私に対して何も聞かずスルーしてくれるとか、さっき私に色々言ってきた人たちと比較して善人が過ぎる。
都市に似つかわしくない聖人は作中でもたまにいたけど、そのなかでもおばあさんはトップクラスの善の心持ちだと思う。母親みたいな無条件の優しさというか、その人の困ってる事をどうにかしてあげなきゃって色々してくれる所に自然と安心感を覚えてしまう。
昨日今日と嫌なことが立て続けに起こったし、今くらいはこの善意に目一杯甘えちゃっても……良いよね?
「ほら、持ってきてやったよ。子供服は量が多いから、あんたが気に入るものも1つくらいはあるだろう」
「ありがとうございます!……本当に多いですね、大きい箱が溢れそうになってる」
おばあさんが持ってきた箱には子供服がぎっしり詰め込まれていて、ちょっとした山みたいになっていた。可愛いものから落ち着いた柄のものまで沢山あって、それを見てるとおもちゃ箱を前にした子供みたいに胸が高鳴ってくる。
これまでにも何度か感じた事だけど、この姿になってからの私は感情を表に出しやすくなったというか、欲求に素直な子供らしく自分の心に振り回されやすくなった気がする。前はこんなにも喜んだり悲しんだりする事は無かったんだけど、もしかして子供の身体を得たせいで私の意識がそっちに引っ張られてたりする?
今のところ困るようなことは無いんだけど、どうも不安になるなぁ…… ついさっき謎の異変で苦しめられたばっかりだから、これもその1つなんじゃないかと疑ってしまう。
「どうしたんだい、服持ったままぼーっとして」
「えっ、あ、その…… どうしてこんなに多いんだろうな~って」
「ああ、それは……… いや、あんたに聞かせるような話じゃないね。忘れとくれ」
え、なに?そんな話の切り方されたら逆に気になって仕方ないんですが。人の好奇心はね、一度刺激を受けたら何かにぶつかるまで止まれないモノなんですよ。
でも直ぐに聞きにいく勇気は持ってないので買い物終わってから聞こうと思います。ちょっとね、今は日和り気味ですので。
「わ、わかりました。じゃあ……えと………この白いワンピースはどれくらいの値段ですか?」
「そいつは200眼だ、それにするのかい?」
「結構立派な服ですけど、思ってたよりずっと安いんですね」
「……こいつらで金を貰う気になれなくてね」
あの、本当に何があったんですかこの服に。さっき言いかけてたのも若干不穏だったし、嫌な予感しかしないんだけど。
他の服も一通り見てみたけど、結局白のワンピースが一番気に入ったのでそれを購入することに。
購入後、試着室で着替えて帰ることを勧められたのでお言葉に甘えて早速衣装チェンジ。ふわふわな生地は実際に着てみると更に柔らかくて、羽のように軽くて着心地最高!良い買い物ができて上機嫌です。
ただ、最後までどこか寂しげな様子だったおばあさんの事が気になる。あの子供用の服に特別な思い出があるのかもしれないし、帰る前におばあさんに聞いてみようか。
「あの、この服の事なんですけど…… もしかして、おばあさんにとって大切なものなんですか?」
「聞かせるようなものじゃないって言ったんだけどね…… どうしても気になるなら話すけど、気分が悪くなっても知らないよ」
「大丈夫です、これからも着る服に関係した話なら知っておきたいので」
「わかった、なら話してあげるよ」
嫌になったらすぐに言ってくれと前置きをして、おばあさんは遠い場所を見るような目で虚空を見上げた。微かに目元が歪んでいたから、それはきっと良い記憶ではなかったんだろう。
「この辺りの治安が悪くなってるってのは、もう知ってるかい?」
「はい、ちょっと前に聞きました。そのせいでどのお店も早く閉めなきゃいけなくなったって」
「少し前から誘拐事件が起きるようになったせいなんだが、どうも裏路地の奴らが巣の中まで入り込んでるみたいでね。そいつらに襲われて、もう結構な人数が被害にあってるんだ」
「それも……知ってます。昨日襲われたばかりなので」
「なっ、何だって!?じゃあ、あの服の血は……」
レジの椅子に座っていたおばあさんが、椅子を倒すくらいの勢いで身を乗り出してきた。何か私の血だと誤解されてるっぽいから一旦落ち着いてもらって、その時に何があったのかを説明した。勿論、私が人を殺したことは伏せたままで………
「偶然出会ったフィクサーの人に助けてもらったから、私は無事に帰れたんです。ただ、その時に襲ってきた人たちの血を浴びちゃって……」
「なんだ、そういうことかい……… でもまあ、無事なんだったら良かった。次からは夜に出歩こうとするんじゃないよ」
「はい…… 気を付けます」
「じゃあ、話を戻すよ。元々裏路地では誘拐が多発してたんだけど、それは人を……いや、食材を確保するためだった。でもツヴァイが警備を強化したおかげでそれが難しくなったから、巣の中にまでやって来るようになったのさ。そして、襲われたやつの殆どは子供や若者だった」
「子供も……… それって、まさか」
子供も襲われた、その言葉に嫌な予感がした私が問いかけると、おばあさんは暗い顔のままゆっくり頷いた。
「若い人間の肉はあっちで需要が高いから狙われやすいんだ。特に子供は攫いやすいし反撃もしてこない、奴らにとっては格好の獲物ってことさ」
「じゃあ、この服を着てた子供は……」
「そうだ、あんたが今着てるそれを含めて、この店にある子供用の服の殆どが持ち主を失ってる。それを着ていたやつは、もういないからね」
その言葉につられるように視線を下に向けると、そこには汚れひとつ無い純白が私の動きに合わせてヒラヒラと揺れていた。それはつまり、目立つ汚れがつく間もなく持ち主を失ったという証拠だ。
この服を子供に買い与えた親の思いが、誰にも着られなくなった服を売りに来た親の悲しみが、今もまだ宿っているような………そんな感覚がして、本当にこれを着ていてもいいのかという心苦しさを覚えた。
羽衣のように軽かったはずのワンピースが、今は鉛のように重く感じる。
「そう……なんですね」
「そんなに申し訳なさそうな顔をするんじゃないよ。服は着てくれる人がいてこそ輝けるんだ、あんたが買ってくれなかったら、この先もずっと孤独なままだっただろうからね」
レジから出て私の肩をポンと叩いたおばあさんは、そう言ってくしゃくしゃな笑顔を向けてくれた。おかげでスッと心が軽くなって、私も自然と笑みを浮かべられた。
「子供がそんな顔をしてちゃダメだ、元気に笑ってないとね」
「……はいっ!」
私が気を持ち直したのを見ておばあさんはレジの椅子に戻って、優しさを孕んだ真っ直ぐな瞳で私を見下ろした。
「いいかい?ここはもう子供が安心して出歩けるような場所じゃないんだ、例え夜じゃなくても外に出るなら気を付けないといけないよ」
「わかりました、いつ怪しい人と出会っても良いように身構えておきます。どれだけ危険なのかは身をもって知りましたから……」
「分かってるなら良い、それからもう1つ………」
この服の持ち主に対する憐憫、それが滲み出た痛々しい表情を一瞬だけ見せたけど、直ぐにそれを引っ込めて……
「
子の門出に立ち会う母親のように、店から離れていく私を見送ってくれた。
迷走している最中、ドンファンに続く新ゲストは誰にしようかと考えていたんですが、良い候補が思い浮かばない…!
最初のドンファンが優良物件すぎて、これに並ぶくらいの好条件の人が見つからないんですよね。
血鬼ちゃん1人じゃ詰むと思うし、早めに決めておきたいけども、誰にするべきか非常に悩ましい……