前回の投稿からはや1ヶ月
先の展開やら文章の雰囲気やらを考えつつ牛歩で書き進めていたら、いつの間にかこんなに間が空いてしもうた……
さてはT社の陰謀か!(もっと頑張ります)
「妙に元気が無いな、クビでも言い渡されたか?」
「昨日あんな目にあった人に言う言葉がそれですか?はっ倒しますよ」
どうも、顔を合わせて15秒で無職を疑われた私です。はっ倒すどころかタコ殴りにしてやりたいけど絶望的にリーチが足りないし、反撃もらえば確実に殺されるから睨んで吠えるしかない情けなさに歯を噛み締めています。
生鮮食品コーナーで情けない姿晒してたら出くわしたこの男……ドンファンには以前にもノンデリ発言かまされた事があるけど、こいつの辞書にはデリカシーという言葉が存在しないんでしょうか。
別に優しい言葉を期待してたわけじゃなかったけどさ?まさか不躾100%のデッドボールぶん投げてくるとは思わないじゃん、しかも顔面直撃コース。失礼で私を殺す気かコイツは。
でもまあ、その方がドンファンらしいといいますか、絶妙に失礼なくらいが個人的には解釈一致で安心感がある。いい気持ちはしないけど「そうそうこれだよ」って感じがするというか、イメージしてた人物像通りで差し引き4mmくらいプラス方向に作用してる。
実際いまのでボロ雑巾だったメンタルが雀の涙ほど回復したからね、だいたい10ダメージ受けて12回復したくらい。ストレスとリラックス効果を両立できる唯一の存在だよこの人は。
……それはそれとしてムカつくけど。
「悪い悪い、でも思ったより平気そうで安心したよ。引きこもってるんじゃないかと思ってたくらいだし」
「本音を言うと今でも辛いですよ、休みたいし何もしたくないってくらいには」
「じゃあ何でここにいるんだ?そんなに辛いならじっとしてれば良いだろ」
「仕事があるのに家に籠れるわけないじゃないですか」
「……そんな状態なのになんで働く意思が残ってるんだよ」
何だ、その悲しい生き物を見る目は。仕方ないでしょうが社畜は極限状態で出勤するのがデフォルトなんだから。
社畜っていうのはね、回遊魚みたいなものなんだよ。泳ぎ続けないと死ぬ彼らと同様に、生存本能に労働が書き足されてるのが私たちの生態……ダークマターな社会規範に皆調教されちまってんだ。
例えおかしい事だと気付いても辞められない止まらない、望まざるワーカーホリック、人間社会が有る限り、負のかっぱえびせんは続くのさ。
「生きるためのお金が無いと終わりですからね、辛いだけなら血反吐と共に働きますよ。別に体が動かない訳じゃないですし、死ぬよりはこっちの方が幾分かマシです」
「そんなんじゃいつか過労死するだろ。生きるために働いて、それでくたばったら本末転倒じゃないか?」
「過労死した人の働き方がどういうものかは知ってますから、そうならないよう気を付けてるので安心してください」
「安心できる要素どこだよ。というか、どんな環境で働いてたらそんな考え方が身に付くんだ……?翼に所属してるやつでもそうなるのはごく一部だぞ」
わぁい、都市暮らしの1級さんにワークスタイルを暴露したらドン引きされちゃった!都市基準でもヤバイ判定ってどうなってんだ私の元職場。能動的に殺しに来ないだけじゃん、良いところ。
「そういえば今日の仕事はどうしたんだ?仕事をしに来たってことは休みじゃないんだろ?」
「実は、さっき店長に帰って休むようにと言われたんです。うっかり遅刻しちゃったから事情を説明したんですけど、何やかんやでこうなって……」
「それで帰る前に買い物してたってところか。なら今ここに来たのは正解だったってことだな」
「………ふぇ?」
そう言って私を見たままニッコリしたドンファン。正解ってなにが?何故私をじっと見つめる?不安になるからボカした言い方しないで欲しいんですが!
「えっと、ドンファンさんも買い物に来たんですよね?」
「今回はお前に用があってな。明日ここを出るからその前に挨拶でもしておこうと思ったんだよ」
へー、そうなのかぁ。それは大変そうだ……
「ここを出るって、依頼か何かで遠出しなきゃいけなくなったんですか?」
「いや、引っ越すんだよ。ここはもうダメそうだし」
へー、そうなの―――
………待て、今この人なんて言った?
「ダメそうって、どういう意味ですか…?」
「そのままの意味だ、この巣の治安が悪くなってるのは昨日の一件で察してるだろうけど、そろそろ本格的に事が起こりそうでな。巻き込まれる前に他の巣に移住することにしたんだ」
事が起こるって、それってまさか………!
「も、もももしかして、翼が折れるんですか!?」
「いや、まだそこまでは悪化してない。人員削減や料金の吊り上げやらで首の皮一枚で持ちこたえてるし…… とはいえこの調子じゃ折れるのも時間の問題だろうな」
「今朝、古着屋のおばあさんからも聞いたんです。ここはもう子供が出歩けるような場所じゃなくなったって。だから予想はしてましたけど……」
「W社の情勢が不安定になり始めてから周囲がキナ臭くはなってたんだが、また乗客が消えただの、新生W社の有力候補が台頭しただの、最近は情報が嵐みたいに飛び交ってて大荒れだ。何が起爆剤になるかもわからないし、巻き込まれる前に逃げ出そうってヤツは俺以外にもそれなりにいるみたいだな」
料金の吊り上げはW社ヒースの人格ストーリーで知ってたけど、人員削減までやってたんだ。まあ、やるかやらないかでいえばやるだろうとは思ってたけど、経営悪化したら人件費を減らすってのはよくあることだし。
そんなことよりも、また乗客が消えたってもしかしなくてもワープ特急殺人事件の事だよね?それが起きてるってことは今がリンバス6.5章以降なのは確定で、もしかしたらラ・マンチャランドも通過済みな可能性が………
私が知ってるのは8.5章までで、その時点ではW社が折れたという話は出てこなかった。だからまだ猶予は残されてるだろうけど、それも長くは続かないはず。少しはゆっくり備えられるかと思ってたけど、これじゃあそんな余裕は無いかもしれない。
「普通、裏路地のヤツが巣の中に入り込むってことはあり得ない。検問所には翼の職員が常駐してるし、そこを避けようにも壁やら何らかの設備やらで阻まれるからな。けど、今のW社の巣ではそれがほぼ機能していない」
「何でそんな事になってるんですか?巣は何よりも安全であるべきって言われてるのに……」
「確かにその通りだけど、それは翼が万全の状態である場合に限る。何度も不祥事が発覚してワープ列車の経営が破綻しかけてる現状、W社が取れる選択肢は切り捨てられるものを片っ端から切り捨てることだけだった。その結果どうなったかは見ての通り、巣と裏路地の境界の警備すらままならない惨状の出来上がりだ」
「ワープ列車の運行を続けるために検問所の人も減らしたから、それで簡単に入り込めるようになってたんですね。そのせいで、私みたいに色んな人が襲われて………」
「巣が崩れる要因や翼自体の性質にもよるけど、大抵はこんな風になる。裏路地と同じかそれ以下の地獄になるのはどこも一緒だな」
聞けば聞くほどにW社の立ち位置の危うさが浮き彫りになっていく、これはドンファンが移住を考えるのも納得だ。ここが沈む定めの泥舟なら、脱出できる猶予があるうちに出ていくのは当然のことだからね。
私だって同じだ、あんなブラック企業と心中なんてまっぴらごめんだし、出られるなら今すぐにでも出ていきたい。でも、今の私はここから出るための手段を何一つ持ち合わせていない。 移住のためのお金も、都市で生き抜くための知識だってまだまだ足りていない。
ドンファンのように1人でも生きていけるだけの力と知識、人脈、そのどれもが欠如している持たざる者……それが今の私。それでも出ようとするなら目の前にいるドンファンを頼るしかないけれど―――
「ドンファンさん、私も一緒に……」
「駄目だ、そこまでしてやる理由が俺には無いし、メリットも無いからな」
当然、断られるに決まってるよね。ダメ元で聞いてみただけだから良い返事を貰えるとは考えてなかったし別に良い、手っ取り早く出られるならそれが一番だけど、そう上手く行くわけがないって事はよく知ってるから。
でもせめて、有益な情報のひとつくらいは聞き出しておきたい。それが有るか無いかで生存確率が大幅に変わるから、今の私には一欠片程度でも価千金の価値がある。
結局はドンファンの無償の善意に縋るしかないわけだけど、果たして答えてくれるのか……
「わかりました、無理を言ってすみません」
「ここを出たくなる気持ちはわかるから、別に良い。現に俺もそうしてるわけだしな」
「……図々しいのは承知の上ですけど、一つだけ聞かせてください。私みたいな子供でもここから出る方法はあるんでしょうか」
「出る方法、か。自分で費用を稼いで……っていう答えを求めてる訳じゃないんだよな」
「………はい」
腕を組んで眉を寄せたドンファンが、深く吸った息を吐きながら長考している。
私のわがままに付き合わせたせいで困らせて、こうして時間を奪っていると思うと申し訳なくも思う。でも迷惑だと思われてでも生き残る手段を得ておきたい。
そんなことばかり考えている自分が、まるで酷く醜い利己的な人間のように思えてくる。私は最初からこうだったのか、それとも都市に来てからこうなったのか、考えるにつれて自分というものがだんだん分からなくなっていく。
ふつふつと湧き出るネガティブな感情に捕らわれていると、あの時のように、また思考が深い沼へと引きずり込まれていく感覚がした。
足に、手に、腰に、得体の知れないものが幾重にも絡み付いて、私を泥濘の中に押し込もうとしてくる。不思議と抵抗感は湧かなくて、そうしているうちに頭がぼうっとし始めて…………
「……、聞こえて………か?おい、どうした!しっかりしろ!!」
「……ぇっ!?あ、ご、ごめんなさい!」
意識が半ば沈みかけていたところで、ドンファンの声が聞こえてどうにか意識を引き戻すことができた。同時に全身を包んでいた感覚も消えて、一気に身体が軽くなる。
……昨日も同じようなことがあったけど、これはいったい何なんだろう。良くないものであることだけは確かなんだけど、原因も条件もさっぱりわからない。
「大丈夫なのか?さっきのお前、どう見ても普通じゃなかったぞ」
「だ、大丈夫ですよ!今のは多分……寝不足のせいだと思います」
「ただの寝不足であんなふうになるわけ無いだろ、話はここで止めにして、帰って休んだ方が良いんじゃないか?」
「心配してくれてありがとうございます、でも本当に大丈夫ですから」
「はぁ…… わかった。でも話の途中で倒れるのはやめてくれよ?俺がやったと疑われたら面倒なことになる」
怪訝な顔で私を見下ろしていたけど、これ以上は追求せずに私が聞けていなかったであろう話を最初からやり直してくれるみたい。
私の身に何かが起きたことは確実に気付いてるだろうけど、敢えてスルーしてくれたのは私の心情を察したからなのかな。だとしたら、昨日に続いて2度も借りを作ったことになる。
おばあさんも優しかったけど、ドンファンも何だかんだで優しくしてくれてる。2人には感謝してもしきれないなぁ……
「じゃ、最初から話すぞ。大前提として、別の巣に移住するには相当な額の金が要る。住居は規模にもよるが巣ならどこでも高額だし、家具や家電も買い換えなきゃいけない。そこに税金も加われば、お前じゃ到底払えない金額になるのは確実だ。時間さえかければこのスーパーで働いて稼ぐことも不可能じゃないが、現実的じゃないからおすすめはしない」
「こうして言葉で伝えられると、やっぱり厳しいですね……… 他に良い方法は無いんですか?」
「ある、ただし相応のリスクは伴う方法だ。短期間で大金を稼ぐってなると、どうしてもそういうやり方に頼らざるを得なくなるからな」
都市ではお金さえあれば大抵の物は手に入るし、大抵の事は解決できてしまう。だからこそ多くの人はお金を貪欲に求めているし、そういった人に向けたあらゆる方法も用意されている。
例えば自分の臓器や肉体の一部を売るとか、どこかでエンケファリンを見つけて売却するとか、手っ取り早い手段から命懸けのものまで多種多様にある、倫理観は無いけど。
ドンファンが言っているのは、そういう手段の中でも特にリスキーな
前の世界でもそうだったけど、こういうのには必ず裏がある。最初は安全でも続けるうちに取り返しのつかない事態に陥ったり、或いは嘘の内容で誘き寄せようとする罠だったり、とにかく危険なものしか転がってない。
ただ、上手くいけば大金を稼げるのは確かで、そのメリットだけを見るなら今の私にはピッタリの条件だ。
その代償として、社会的or物理的に普通の生活を送れなくなるだろうけどね。
「そういうのも魅力的ではありますけど、多分私にはできないと思います……」
「まあそうだろうな、危険な仕事っていうのはある程度強くなきゃこなせない。他にも自分の身体を売り払うってのがあるけど、子供の身体じゃあ脳以外を全部売り払ったとしても足りるとは思えないし」
最悪、片腕くらいなら売っても良いかなーって考えてたけど、全身でも足りないんだったら焼け石に水だなぁ……
ていうかこれ、本当に出られるの?今のところ希望の「き」すら見えてこないし、あらゆる方面で詰んでるとしか思えないんですけど。
「なんだか、絶望的って言葉は今の私の為にあるんじゃないかと思えてきました……」
「実際絶望的だし、間違っちゃいないかもな。でもまだ道はあるぞ」
ほ、ほんと……?本当にまだ進める道ある?ここから入れるのは保険じゃなくて棺桶ですって言われた方がまだ信憑性ありますよ?
「あのぅ、それって命に関わったりは……」
「時と場合による、でもお前ができる範囲に限定するなら………そんなに危険じゃないと思うぞ」
「それって、さっきまで話してた危険な仕事と何が違うんですか……?」
「危険なのは同じだけど、違う点が幾つかある。やろうと思えば若くても免許を取れるし、実入りが少ない代わりに安全な仕事もある。仕事は自分で探さなきゃいけないが、合間に副業をすることもできるから割と自由に動けるんだ」
………うん?
「勿論、始めたての底辺時代は苦しいけどな。楽か楽じゃないかで言えばかなり過酷だし、大成することもなく死ぬヤツは大勢いる。それなりに考えて動かないと立ち行かなくなるし、運も相当に絡んでくる。あらゆる情報に目を通して、何が金になるか、どれなら自分でもやれるかを判断できなきゃやっていけない」
何故だろう、何かは明言されてないのに思い当たるものが1つしか浮かんでこない。
「裏路地出身とか巣の出身とかは関係無く誰でもなれるし、強かろうが弱かろうが死ぬ時は平等で、賢かろうが馬鹿だろうが成り上がるか落ちぶれるかは運と実力次第。組織に属したって良いし、個人で細々やっていくのも自由だ」
あー、要するにこう言いたいんだね?
私に―――
「フィクサーになれって、そう言いたいんですか」
「その通りだ、良くわかったな?」
まだ早い、なにも準備できてない、声を大にしてそう叫んでやりたい。でもそれができるほどの余裕が残されてないって判明した以上、腹をくくるしかないのかもしれない。
この限りなく詰みに近い状況でも生きようと足掻きたいなら、例え無謀とわかっていても、その道をがむしゃらに突き進むしかないらしい。
「お前でもやれる可能性があって、努力次第じゃ纏まった金を稼げるんだ。
「天職っていうか、それしかないだけですよね、それ………」
前々からわかってはいたけどさ……
生きるには厳しすぎるよ、この世界
前回よりは話の流れをまとめられた……つもりですが、話を組み立てるのが以前より下手になった気がしてならない。
そんな個人的な悩みは置いておきまして、色々悩む最中に思い付いたものがありまして。
現在書いている物語とは繋がりのない、サクッと読める番外編みたいなものを書くのはどうだろうかと!
優先なのは勿論本編ですし、どの程度の数を書くのか、投稿頻度はどうするかは未定。
文字数は1000~2000くらいで、シリアス0の緩い日常を題材に書こうかな~と考えてるんですが、需要ありますか…?
アンケートを置いておきますので、興味があれば投票していただけると嬉しいです!
何もかもが無計画の番外編、アリかナシか
-
アリ
-
ナシ